智慧ちゑ)” の例文
夏目なつめ先生はペン皿の代りに煎茶せんちや茶箕ちやみを使つてゐられた。僕は早速さつそくその智慧ちゑを学んで、僕の家に伝はつた紫檀したんの茶箕をペン皿にした。
身のまはり (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
恰ど智慧ちゑの足りない將軍が勝に乗じて敵を長追ながおひするようなものでつい深入ふかいりする。そして思も掛けぬ酷目みじめな目に逢はされる事もあツた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
おもむき京山きやうざんの(蜘蛛くも絲卷いとまき)にえる。……諸葛武侯しよかつぶこう淮陰侯わいいんこうにあらざるものの、流言りうげん智慧ちゑは、いつものくらゐのところらしい。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
智慧ちゑと手段とを戦はして勝つたところにあるのではない。かう考へると、「恐ろしい群」の人達のことが、再びかれの胸に迫つて来た。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
くはしく言ふと、お糸は恐ろしく智慧ちゑのまはる女で、お此と金次郎を亡きものにするために、先づ一國者で考への足りない寅藏を迷はせた。
『おろかものの愚老ぐらうろく智慧ちゑはせませんが、どういふでござりませうか。』と、玄竹げんちくはまた但馬守たじまのかみ氣色けしきうかゞつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
思ひ付お兼にむかひ扨々其方の智慧ちゑの程感心かんしんせり其はたらきにては女房にしても末頼母敷もしく思ふなり夫について爰に一ツの相談あり夫婦の中に隱しへだて
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
で、わたくしかたしんじてゐます。來世らいせいいとたならば、其時そのときおほいなる人間にんげん智慧ちゑなるものが、早晩さうばんれを發明はつめいしませう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
蓮太郎——大日向——それから仙太、斯う聯想した時は、猜疑うたがひ恐怖おそれとで戦慄ふるへるやうになつた。あゝ、意地の悪い智慧ちゑはいつでも後から出て来る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
乳母 ま、名譽事めいよごとといの! わしばかりがちゝげたのでかったなら、その智慧ちゑちゝからはひったともひませうずに。
と訊くと、独身哲学者はもじや/\した頭の毛に掌面てのひら衝込つゝこんで、智慧ちゑを駆り出しでもするやうに其辺そこらを掻き廻した。
おくらばかなしきことのんはまへなりかせて心配しんぱいさするもければたのむはひとちからのみをとこ智慧ちゑにはかんがへもなからずやとおもひたてばこゝろ矢竹やたけ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかしいくら信号をしても 火星に智慧ちゑのある生物いきものがゐなければ われ々の信号を受取うけとることができない
将門が新皇と立てられるのをいさめて、帝王の業は智慧ちゑ力量の致すべきでは無い、蒼天さうてんもしみせずんば智力また何をかさん、と云つたとある。至言である。好人である。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
智慧ちゑのある者はそれを知つてゐた。知つてゐてそれを秘してゐた。衰運の幕府に最後の打撃をくらはせるには、これに責むるに不可能の攘夷を以てするにくはないからであつた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
木琴や積木や智慧ちゑや、それから地球儀や、環投わなげ遊びの道具などもありました。
仔猫の裁判 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
「青」は昔から人間だけの持つ靜かな、ふかい心の智慧ちゑの色だとしてあります。
虹猫は智慧ちゑのある猫ですから、かう聞かれると、すぐいゝ考へがうかびました。
虹猫と木精 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
友達の手前は養子に行つたのだと言ひつくらはうと咄嗟とつさ智慧ちゑをめぐらした。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
不良少年のゐる、仲通りの家具屋へ入り込んで、何か悪い智慧ちゑをつけられたことがあつたので、そこへ雛子を見にやつたが、ゐなかつた。其処らを探してみたが、チビの姿は見えなかつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
僕がそばに居ると智慧ちゑを付けて邪魔をると思ふものだから、遠くへ連出して無理往生に納得させるはかりごとだなと考着くと、さあ心配で心配で僕は昨夜ゆふべ夜一夜よつぴてはしない、そんな事は万々ばんばん有るまいけれど
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「はい。わたしはつくづく自分じぶん智慧ちゑいことをりました」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
過ぎし世の智慧ちゑといふもの何のえきかある
不可能 (旧字旧仮名) / エミール・ヴェルハーレン(著)
智慧ちゑ相者さうじやは我を見て今日けふかたらく
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
金色こんじきに閃めくはその智慧ちゑ
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
われさま/″\の智慧ちゑを飲み
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
智慧ちゑとその深き慈悲じひとを
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
おのづから智慧ちゑちからそなはつて、おもてに、隱形おんぎやう陰體いんたい魔法まはふ使つかつて、人目ひとめにかくれしのびつゝ、何處いづこへかとほつてくかともおもはれた。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いく丁斑魚めだかでも滿足まんぞくられんなら、哲學てつがくずにはられんでせう。いやしく智慧ちゑある、教育けういくある、自尊じそんある、自由じいうあいする、すなはかみざうたる人間にんげんが。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ロミオ はて、ぐるしいはぢ駄洒落だじゃるとは足下おぬしのこと。それ、もう、うすっぺらな智慧ちゑそこえるわ!
『でせう——それそこが瀬川君です。今日こんにちまで人の目をくらまして来た位の智慧ちゑが有るんですもの、余程狡猾かうくわつの人間で無ければの真似は出来やしません。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と祝儀をやつて返したが、つくづく一人になつて考へりや、宿場女郎にでも振られやしめえし、何時までも床につかかつて、腕組みをしてゐるのも智慧ちゑが無え。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
現にかれなどはそれを真向まつかう振翳ふりかざしてこれまでの人生を渡つて来た。智慧ちゑを戦はして勝たんことを欲した。自己の欲するまゝにあらゆるものを得んことを欲した。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
も久八と附て夫婦の寵愛ちようあいあさからず養育しけるに一日々々と智慧ちゑつくしたが他所よその兒にまさりて利發りはつなるによりすゑ頼母敷たのもしき小兒せうになりといつくしみける中月立年暮て早くも七歳の春を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今日では何處の湯治場でも賣つてゐるやうな箱根細工の貯金箱で、火打箱の半分ほどしかありませんが、何處に仕掛けがあるのか、八五郎の智慧ちゑでは手に及びません。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
今度は良兼もをかしな智慧ちゑを出して、将門の父良将祖父高望王の像を陣頭に持出して、さあが放せるなら放して見よ、鉾先ほこさきが向けらるゝなら向けて見よと、取つてかゝつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
煙草は厭なものだが、それでも煙草喫ひには金持の知らない智慧ちゑが出る事がある。
玄竹げんちく今夜こんやつて其方そち相談さうだんしたいことがある。怜悧りこう其方そち智慧ちゑりたいのぢや。…まあ一さんかたむけよ。さかづきらせよう。』とつて、但馬守たじまのかみつてゐたさかづきした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
けれども此樣こんな氣候にも耐えてゐなければならんといふ人間は意久地無いくぢなしだ。要するに人間といふやつは、雨をふせぐ傘をこしらへる智慧ちゑはあるが、雨を降らさぬやうにするだけの力がないんだ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
磯村の要求がいつも裏切られた。勿論それは彼女だけの智慧ちゑではなかつた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
なんだ 智慧ちゑがないなあ 君は足だつて使へるぢやないかあ
この猫はなか/\智慧ちゑがあつたのです。
虹猫の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
悲願ひぐわんの手もて智慧ちゑの日の影にひもどく
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
横浜はまの子が智慧ちゑのはやさよ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
春秋はるあきはな紅葉もみぢつゐにしてかんざし造物つくりものならねど當座たうざ交際つきあひ姿すがたこそはやさしげなれ智慧ちゑ宏大くわうだいくは此人このひとすがりてばやとこれも稚氣をさなげさりながら姿すがたれぬはひとこゝろわらひものにされなばそれもはづかしなにとせんとおもふほど兄弟きやうだいあるひとうらやましくなりてお兄樣あにいさまはおやさしいとかおまへさまうらやましとくち
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わかいものがかへると、はなしをして、畜生ちくしやう智慧ちゑわらはずが、あにはからんや、ベソをいた。もち一切ひときれもなかつたのである。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかこゝろ苦痛くつうにてかれかほいんせられた緻密ちみつ徴候ちようこうは、一けんして智慧ちゑありさうな、教育けういくありさうなふうおもはしめた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
示して十をさとるの敏才びんさいあれば師匠ししやうの感應院もすゑ頼母たのもしく思ひわけて大事に教へやしなひけるされば寶澤は十一歳の頃は他人の十六七歳程の智慧ちゑありて手習は勿論もちろん素讀そどくにも達し何を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「おれよりももつと手力たぢからを養へ。おれよりももつと智慧ちゑを磨け。おれよりももつと、……」
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大日向は約束をたがへずやつて来たので、薄暗いうちに下高井をつたといふ。上れと言はれても上りもせず、たゞあががまちのところへ腰掛けたまゝで、弁護士から法律上の智慧ちゑを借りた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)