“富貴(ふうき)” の例文
私は心から思うた、功名もいらない、富貴(ふうき)も用はない、けれどもただ一度この脂垢のしみた駅夫の服を脱いで学校へ通うてみたい……
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
時としては目下の富貴(ふうき)に安んじて安楽(あんらく)豪奢(ごうしゃ)余念(よねん)なき折柄(おりから)、また時としては旧時の惨状(さんじょう)を懐(おも)うて慙愧(ざんき)の念を催(もよ)おし、一喜一憂一哀一楽
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「私たち兄妹が、微賤(びせん)の身から今日の富貴(ふうき)となったのも、そのはじめは十常侍たちの内官の推薦があったからではありませんか」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしこういう風に祝賀または饗応をするのは都会およびその付近の地方だけで、辺鄙(へんぴ)の土地では富貴(ふうき)の者でなければしない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
遠くの騒ぎ唄、富貴(ふうき)の羨望(せんぼう)、生存の快楽、境遇の絶望、機会と運命、誘惑、殺人。波瀾(はらん)の上にも脚色の波瀾を極めて、遂に演劇の一幕(ひとまく)が終る。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
富貴(ふうき)名誉(めいよ)、道徳より来たるものは、山林中の花の如く、おのずから是れ舒徐(じょじょ)繁衍(はんえん)、功業より来たるものは盆榼中(ぼんこうちゅう)の花の如く、便(たちま)ち遷徙(せんし)廃興(はいこう)あり。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
〔譯〕今日の貧賤(ひんせん)に素行(そかう)する能はずば、乃ち他日の富貴(ふうき)に、必ず驕泰(けうたい)ならん。今日の富貴(ふうき)に素行(そかう)する能はずんば、乃ち他日の患難(くわんなん)に、必ず狼狽(らうばい)せん。
我(が)は愛を八(や)つ裂(ざき)にする。面当(つらあて)はいくらもある。貧乏は恋を乾干(ひぼし)にする。富貴(ふうき)は恋を贅沢(ぜいたく)にする。功名は恋を犠牲にする。我は未練な恋を踏みつける。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幸(さいはひ)にもネープルス市(し)中(ちゆう)で「富貴(ふうき)なる日本人(につぽんじん)。」と盛名(せいめい)隆々(りう/\)たる濱島武文(はまじまたけぶみ)の特別(とくべつ)なる盡力(じんりよく)があつたので、吾等(われら)は遂(つひ)に此(この)最上(さいじやう)の船室(キヤビン)を占領(せんりやう)する事(こと)になつた。
作「だから金は何処(どこ)から出るか知んねえ、富貴(ふうき)天にあり牡丹餅(ぼたもち)棚にありと神道者(しんどうしゃ)が云う通りだ、おいサア行くべえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
富貴(ふうき)には寄(よ)る親類顏(しんるゐがほ)幾代先(いくだいさ)きの誰樣(たれさま)に何(なに)の縁故(えんこ)ありとかなしとか猫(ねこ)の子(こ)の貰(もら)ひ主(ぬし)までが實家(さと)あしらひのえせ追從(つゐしよう)
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これに臨みて詔を草すれば、富貴(ふうき)我を遅(ま)つこと久し、これに臨みて命(めい)を拒まば、刀鋸(とうきょ)我に加わらんこと疾(と)し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「五十年前(ぜん)に秋山図を見たのは、荒れ果てた張氏の家でしたが、今日(きょう)はまたこういう富貴(ふうき)のお宅に、再びこの図とめぐり合いました。まことに意外な因縁です」
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「よしや富貴(ふうき)になりたもう日はありとも、われをば見棄(みす)てたまわじ。わが病は母の宣(のたも)うごとくならずとも」
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何がさて南蛮キリシタン国は広大富貴(ふうき)の国なれば、投薬の報謝、門徒の布施は一せつ受けぬ。却(かえ)つて宗門に帰依(きえ)する者には、毎日一人あて米一升(しょう)、銀八分をば加配する。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
(五八)子(し)曰(いは)く、『道(みち)同(おな)じからざれば相爲(あひた)めに謀(はか)らず』と。亦(また)各〻(おのおの)其志(そのこころざし)に從(したが)ふ也(なり)。故(ゆゑ)に(又 )曰(いは)く(五九)『富貴(ふうき)如(も)し求(もと)む可(べ)くんば、執鞭(しつべん)の士(し)と雖(いへど)も吾(われ)亦(ま)た之(これ)を爲(な)さん。 ...
もし春琴が今少し如才(じょさい)なく人に謙(へりくだ)ることを知っていたなら大いにその名が顕(あら)われたであろうに富貴(ふうき)に育って生計の苦難を解せず気随気儘(きずいきまま)に振舞(ふるま)ったために世間から敬遠され
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
其の弁舌の秀でたる、大いに公衆の尊敬を蒙り、啻に非常の名誉と非常の金銀を得るに止らず、或は爵位をも博し得て富貴(ふうき)両(ふたつなが)ら人に超え、社会(しゃかい)上流(じょうりゅう)の紳士に数えらるゝや必せり
松の操美人の生埋:01 序 (新字新仮名) / 宇田川文海(著)
遊樓(おやまや)にして時めく人を取込む紳士か左らずば長官の御手の付し引物(ひけもの)を頂く屬官とならん名節を汚(けが)し面目を泥にし只其類の小人(せうじん)に富貴(ふうき)を羨まるゝに止まるべし清唳(せいるゐ)孤潔此の鶴公の名を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
なにしろこの地方は土地が豊(ゆた)かで、住民(じゅうみん)も従(したが)って富貴(ふうき)であったから、わたしたちの興行(こうぎょう)の度数もしぜん多くなり、例(れい)のカピのおぼんの中へもなかなかたくさんのお金が投げこまれた。
往古(いにしへ)に富める人は、四〇天の時をはかり、地の利を察(あきら)めて、おのづからなる富貴(ふうき)を得るなり。四一呂望(りよぼう)、斉(せい)に封(ほう)ぜられて民に産業(なりはひ)を教ふれば、海方(うなべ)の人利に走りて四二ここに来朝(きむか)ふ。
あちこちから起こる物音が一つになって、なんだかそれが大都会のすさまじい叫びのように思われる。ここに罪悪もあれば事業もある。功名もあれば富貴(ふうき)もある。飢餓(きが)もあれば絶望もある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その二人の安否を問返す陵のよそよそしい言葉におっかぶせるようにして立政がふたたび言った。少卿よ、帰ってくれ。富貴(ふうき)などは言うに足りぬではないか。どうか何もいわずに帰ってくれ。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼は貴人の奥方の微賤(びせん)より出(い)でし例(ためし)寡(すくな)からざるを見たり。又は富人の醜き妻を厭(いと)ひて、美き妾(めかけ)に親むを見たり。才だにあらば男立身は思のままなる如く、女は色をもて富貴(ふうき)を得べしと信じたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
益(ます)且(かつ)夫(それ)富貴(ふうき)は衆(しう)の怨(うらみ)なりと此言や宜(むべ)なるかな享保の頃(ころ)麹町二丁目に加賀屋(かがや)四郎右衞門とて間口(まぐち)十八間餘(けんよ)番頭(ばんとう)手代(てだい)丁稚(でつち)五十餘人其外下女下男二十人夫婦に子供(こども)都合(つがふ)七十人餘の暮(くら)しにして地面四五ヶ所を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
遠くの騒(さわ)ぎ唄(うた)、富貴(ふうき)の羨望(せんばう)、生存の快楽、境遇(きやうぐう)の絶望、機会と運命、誘惑、殺人。波瀾(はらん)の上にも脚色(きやくしよく)の波瀾(はらん)を極(きは)めて、遂(つひ)に演劇の一幕(ひとまく)が終る。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
わが同胞(どうほう)はだいたいにおいて貧乏(びんぼう)であるから、富貴(ふうき)の誘惑(ゆうわく)なるものを知らない。貧乏人(びんぼうにん)が金持を批評することは、とかく見当が違うことが多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
無知無徳の下等社会はともかくも、上流の富貴(ふうき)または学者と称する部分においても、言うに忍びざるもの多し。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
旧(ふる)き代の富貴(ふうき)、栄耀(えよう)の日ごとに毀(こぼ)たれ焼かれて参るのを見るにつけ、一掬(いっきく)哀惜の涙を禁(とど)めえぬそのひまには、おのずからこの無慚(むざん)な乱れを統(す)べる底の力が見きわめたい
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
地に空に春風のわたるほどは物みな燃え立って富貴(ふうき)に色づくを、ひそかなる黄を、一本(ひともと)の細き末にいただいて、住むまじき世に肩身狭く憚(はば)かりの呼吸(いき)を吹くようである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
権力なりあるいは富貴(ふうき)の力なりを慕うのは大抵婦人の常であるから、大方同行の親兄弟がこの坊さんは非常に学問があり徳があるというようなことをたびたび言って聞かせたので
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
いって入(いら)っしゃいまし……とうとう出掛けたが、是は君、えゝどうも、富貴(ふうき)天に有りと云うが、不思議な訳で、君は以前お役柄(やくがら)で、元が元だから金を持って来ても是程に貧乏と知らんから
お峰が主は白金(しろかね)の臺町(だいまち)に貸長屋の百軒も持ちて、あがり物ばかりに常綺羅(じやうきら)美々しく、我れ一度お峰への用事ありて門まで行きしが、千兩にては出來まじき土藏の普請、羨やましき富貴(ふうき)と見たりし
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
士(し)たる者は富貴(ふうき)一二五消息(せうそく)の事ともに論ずべからず。只信義をもて重しとす。伯氏(あに)宗右衛門一旦(ひとたび)の約(ちかひ)をおもんじ、むなしき魂(たま)の百里を来るに一二六報(むくい)すとて、一二七日夜を逐(お)うてここにくだりしなり。
も添へてやりたし嗚呼此の脊に負はるゝ子跡(あと)より歩む娘今より十年の後はいかになりて在るや二十年の後は何となるべきや人生れて貧賤なればとて生涯それにて果(はつ)るにあらず𢌞(まは)り合せさへよくば富貴(ふうき)の者となりて雨に戀しきみのゝ國に昔し苦みし事を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
銀座界隈には何という事なく凡(すべ)ての新しいものと古いものとがある。一国の首都がその権勢と富貴(ふうき)とに自(おのず)から蒐集(しゅうしゅう)する凡ての物は、皆ここに陳列せられてある。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ゆえに富貴(ふうき)必ずしも不正ならず、子夏が「富貴(ふうき)天(てん)に在り」と言ったのは、意味の取りようによって富貴必ずしも悪(あく)と言えず、むしろ天(てん)の賜物(たまもの)という意に取れる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
旧(ふる)き代の富貴(ふうき)、栄耀(えよう)の日ごとに毀(こぼ)たれ焼かれて参るのを見るにつけ、一掬(いっきく)哀惜の涙を禁(とど)めえぬそのひまには、おのづからこの無慚(むざん)な乱れを統(す)べる底の力が見きはめたい
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
富貴(ふうき)を愛するものは必ずこの色を好む。栄誉を冀(こいねが)うものは必ずこの色を撰(えら)む。盛名を致すものは必ずこの色を飾る。磁石(じしゃく)の鉄を吸うごとく、この色はすべての黒き頭を吸う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その茶を買うことの出来ん者は富貴(ふうき)な人の飲み滓(かす)を貰(もら)って、其滓(それ)を煎(せん)じて飲むです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
偶(たまた)ま以(もっ)て一旧臣の為(た)めに富貴を得せしむるの方便(ほうべん)となりたる姿(すがた)にては、たといその富貴(ふうき)は自(みず)から求めずして天外より授(さず)けられたるにもせよ、三河武士(みかわぶし)の末流たる徳川一類の身として考うれば
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
お峯(みね)が主(しゆう)は白金(しろかね)の臺町(だいまち)に貸長屋(かしながや)の百軒(けん)も持(も)ちて、あがり物(もの)ばかりに常(じやう)綺羅(きら)美々(びゝ)しく、我(わ)れ一度(ど)お峯(みね)への用事(ようじ)ありて門(かど)まで行(ゆ)きしが、千兩(りやう)にては出來(でき)まじき土藏(どざう)の普請(ふしん)、羨(うら)やましき富貴(ふうき)と見(み)たりし
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「したともさ。それから現にしつつあるともさ。それが君の余裕に祟(たた)られている所以(ゆえん)だね。僕の最も痛快に感ずるところだね。貧賤(ひんせん)が富貴(ふうき)に向って復讐(ふくしゅう)をやってる因果応報(いんがおうほう)の理だね」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
榎本氏が主戦論をとりて脱走(だっそう)し、遂(つい)に力尽(つ)きて降(くだ)りたるまでは、幕臣(ばくしん)の本分(ほんぶん)に背(そむ)かず、忠勇の功名美(び)なりといえども、降参(こうさん)放免(ほうめん)の後(のち)に更に青雲の志を発して新政府の朝(ちょう)に富貴(ふうき)を求め得たるは
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
上(かみ)このようななされ方ゆえ、したがっては公家(くげ)武家の末々までひたすらに驕侈(きょうし)にふけり、天下は破れば破れよ、世間は滅びば滅びよ、人はともあれ我身さえ富貴(ふうき)ならば、他より一段栄耀(えよう)に振舞わんと
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
寝屋(ねや)の屏風太鼓張(たいこばり)の襖(ふすま)なぞ破れたるを、妻と二人して今までは互に秘置(ひめお)きける古き文(ふみ)反古(ほご)取出(とりいだ)して読返しながら張りつくろふ楽しみもまた大厦高楼(たいかこうろう)を家とする富貴(ふうき)の人の窺知(うかがいし)るべからざる所なるべし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
上(かみ)このやうななされ方ゆゑ、したがつては公家(くげ)武家の末々までひたすらに驕侈(きょうし)にふけり、天下は破れば破れよ、世間は滅びば滅びよ、人はともあれ我身さへ富貴(ふうき)ならば、他より一段栄耀(えよう)に振舞はんと
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
しかるに先刻図(はか)らずも鼻子の訪問を受けて、余所(よそ)ながらその談話を拝聴し、その令嬢の艶美(えんび)を想像し、またその富貴(ふうき)、権勢を思い浮べて見ると、猫ながら安閑として椽側(えんがわ)に寝転んでいられなくなった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)