今歳ことし)” の例文
左様さよう御在ございます。身体からだは病後ですけれども、今歳ことしの春大層たいそう御厄介になりましたその時の事はモウ覚えませぬ。元の通り丈夫になりました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
つまはおみつつて、今歳ことし二十になる。なにかとふものゝ、綺緻きりやうまづ不足ふそくのないはうで、からだ発育はついく申分まをしぶんなく、どうや四釣合つりあひほとん理想りさうちかい。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
弥勒野、才塚野さいづかの、君の採集にはさぞめづらしき花を加へたまひしならん。秋海棠しゅうかいどう今歳ことしは花少なく、朝顔もかはり種なく、さびしく暮らし居り候
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
『いや、もう屋外そとは寒いの寒くないのツて、手も何もかじかんで了ふ——今夜のやうに酷烈きびしいことは今歳ことしになつて始めてだ。どうだ、君、是通りだ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
今歳ことしはいかなれば、かくいつまでもたけのひくきなど言ひてしを、夏のすゑつかたきはめて暑かりしにただ一日ひとひふつか、三日みつかとも数へずして驚くばかりになりぬ。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ところ今歳ことしの五月です、僕は何時いつもよりか二時間も早く事務所を退ひいて家へ帰りますと、そのは曇って居たので家の中は薄暗いうちにも母のへやことに暗いのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
アメリカのペンシルヴアニヤ州のクリヤフイルド市にヘンズレエといふ今歳ことしとつて十九になる妙齢としごろの娘がある。
政宗こそかえって今歳ことし天正の十八年四月の六日に米沢城に於て危うく毒を飼わりょうとしたのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今歳ことしの正月、長者が宇賀の老爺おじいれて、国司こくしたちに往って四五日逗留とうりゅうしている留守に、むすめは修験者の神秘におかされていたが、そのころになってその反動が起っておりました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
皇帝の誕生日は今歳ことしは東京ではかうして祝されたのである。
露都雑記 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
いかなれば今歳ことしの盛夏のかがやきのうちにありて
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
をかしかるべき空蝉うつせみのとものにして今歳ことし十九ねんてんのなせる麗質れいしつ、をしや埋木うもれぎはるまたぬに、青柳あをやぎいとのみきゝても姿すがたしのばるゝやさしの人品ひとがら
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
人の紹介で逢つて見たことも有るし、今歳ことしになつて二三度手紙の往復とりやりもしたので、幾分いくらか互ひの心情こゝろもちは通じた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
京都に今歳ことし八十幾つかになる老人としよりで、指頭画しとうぐわの達者な爺さんがある。古い支那画しなゑなどを指頭ゆびさき臨摹うつすが、なか/\上手だ。夏目漱石氏が先年京都に遊びに来てからは
かう言つたが、丁度ちやうど其時今歳ことし十一になるおととの方がふちの方に駈けてりて行くを見付けて
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
と云うのは私が若い時からこまったと云うことを一言いちごんでも云うたことがない、誠に家事多端で金の入用が多くて困るとか、今歳ことしは斯う云う不時な事があって困却致すとか云うような事を
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今歳ことし水無月みなづきのなどかくは美しき。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
あねいもと數多かずおほ同胞はらからをこしてかたぬひげのをさなだちより、いで若紫わかむらさきゆくすゑはとするこヽろ人々ひと/″\おほかりしが、むなしく二八のはるもすぎて今歳ことし廿はたちのいたづらぶし
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今歳ことしもまた暮れ行く。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
今歳ことしのなつの避暑へきしよには伊香保いかほかんか磯部いそべにせんか、ひとおほからんはわびしかるべし、うしながら引入ひきいれる中川なかゞはのやどり手近てぢかくして心安こゝろやすところなからずやと
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
引つづいて商ひもなる道理、ああ今半月の今歳ことしが過れば新年はるき事も来たるべし、何事も辛棒々々、三之助も辛棒してくれ、お峯も辛棒してくれとて涙を納めぬ。
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
れのみ一人ひとりあしびきやま甲斐かひみねのしらくもあとをすことりとは是非ぜひもなけれど、今歳ことしこのたびみやこをはなれて八王子わうじあしをむけることこれまでにおぼえなきらさなり。
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
我れのみ一人あしびきの山の甲斐かひみねのしら雲あとを消すことさりとは是非もなけれど、今歳ことしこの度みやこを離れて八王子に足をむける事これまでに覚えなきらさなり。
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今歳ことし今日けふ十二ぐわつの十五にち世間せけんおしつまりてひと往來ゆきかひ大路おほぢにいそがはしく、お出人でいり町人てうにん歳暮せいぼ持參ぢさんするものお勝手かつて賑々にぎ/\しく、いそぎたるいゑにはもちつきのおとさへきこゆるに
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しゆう大事だいじつとめてれ、病氣やまひながくはるまじ、すこしよくば張弓はりゆみひきつゞいてあきなひもなる道理だうり、あゝ今半月いまはんつき今歳ことしすぎれば新年はることたるべし、何事なにごと辛棒しんぼう/\
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おもへばなんさくらはるしりがほ今歳ことしけるつらにくさよまたしても堀切ほりきりの菖蒲しやうぶだよりくるま
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
には芭蕉ばせをのいとたかやかにびて、垣根かきねうへやがて五尺ごしやくもこえつべし、今歳ことしはいかなればくいつまでもたけのひくきなどひてしをなつすゑつかたきはめてあつかりしにたゞ一日ひとひふつか
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今歳ことしきてお客樣きやくさま數多かずおほく、午後ごゞよりとの招待状せうたいじよう一つもむなしうりしはくて、ぐるほどのにぎはひは坐敷ざしきあふれて茶室ちやしつすみのがるゝもあり、二かい手摺てすりに洋服ようふくのお輕女郎かるじよろう
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さるほどに今歳ことしむなしくはるくれてころもほすてふ白妙しろたへいろさく垣根かきねはな、こゝにも一玉川たまがはがと、遣水やりみづながほそところかげをうつして、ぜかなくてもすゞしきなつ夕暮ゆふぐれ、いとあがりの散歩そゞろあるき
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ぶら/″\あるきにたちならしたるところなれば、今歳ことしこのたびとりわけてめづらしきさまにもあらぬを、いまこんはるはとてもたちかへりふむべきにあらずとおもふに、こ〻のぼとけさまにも中々なか/\名殘なごりをしまれて
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まへとゝさんまごいもんさむとお國元くにもとあらはしたまふもみなこのをりかくげいなり、されば派手者はでしやおくさま此日このひれにして、新調しんちようの三まい今歳ことし流行りうかうらしめたまふ、ふゆなれど陽春ようしゆんぐわつのおもかげ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)