駈出かけだ)” の例文
(我慢なさい。こんな事をしていちゃ、生命いのちにも障りましょう。血の池でも針の山でも構わず駈出かけだして行って支度してむかえに来ます。)
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お銀ちゃん栗栖君を何と思ってるんだい。あれはなかなか偉いんだよ。小説を書かせたって、このごろの駈出かけだしの作家跣足はだしだぜ。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
大急ぎで駈出かけだして行く広岡理学士の姿が見えた。学士は風呂敷包から古い杖まで忘れずに持って、上田行の汽車に乗りおくれまいとした。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
赤い襦袢じゅばんの上に紫繻子むらさきじゅすの幅広いえりをつけた座敷着の遊女が、かぶ手拭てぬぐいに顔をかくして、前かがまりに花道はなみちから駈出かけだしたのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と云いながら日和ひより下駄を穿いたなりで駈出かけだし、突然いきなり喧嘩の中へ飛込みますると云うお話に相成りますのでございますが、一寸ちょっと一服致します。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
御調べ願ひ夫の惡名あくみやうすゝぐべし忠兵衞殿には何處迄も證據しようこと成て下されとすぐにも駈出かけだすお光が氣色此有樣に忠兵衞は如何いかゞなことを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さはあれ、呂昇はよき師をとり、それに一心不乱の勤勉と、天性の美音とが、いつまでも駈出かけだしの旅烏たびがらすにしておかなかった。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
何しろ社交上の礼儀も何もわきまえない駈出かけだしの書生ッぽで、ドンナ名士でも突然訪問して面会出来るものと思い、また訪問者には面会するのが当然で
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その胸のあたりを、一突ひとつき強くくと、女はキャッと一声いっせい叫ぶと、そのまま何処どことも知らず駈出かけだして姿が見えなくなった。
月夜峠 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
其処そこに車があって馬が付て居れば乗物だと云うことはわかりそうなものだが、一見したばかりでは一寸ちょいかんがえが付かぬ。所で戸を開けて這入ると馬が駈出かけだす。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ある夜半、急に顔色を変えて寝床から起上ると、何か訳の分らぬことを叫びつつそのまま下にとび下りて、やみの中へ駈出かけだした。彼は二度ともどって来なかった。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この騒ぎを見てたちまち五六人駈け付けた。材木置場からも職人が駈出かけだして来た。大勢寄ってかくも二人を引きおこしたが、うもならぬのはお葉の手であった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ちまたの取沙汰に比較されている忌々いまいましさもある。また地方出の駈出かけだし剣客がというさげすみも頭へ先に入っている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
靴屋くつやはこれをくと、襯衣シャツのまんまで、戸外そと駈出かけだして、うえかざして、家根やねうえながめました。
船長おやじを探すらしく巨大なバナナを抱えて船長室を駈出かけだして行く青服の少年こども船長おやじは手招きして呼び上げた。俺が買って来た西蔵チベット紅茶の箱を、鼻の先に突付つきつけて命令した。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
畜生ちくしょう! け! さッさとけ!』とかれ玄関げんかんまで駈出かけだして、泣声なきごえげて怒鳴どなる。『畜生ちくしょう!』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それから先は、後方うしろをも振向ふりむかず、一散走いつさんばしりに夢中で駈出かけだしたが、その横町を出ると、すぐ其処そこ金剛寺坂こんごうじざかという坂なので、私はもう一生懸命にその坂を中途まで下りて来ると
青銅鬼 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
留吉は、十一番地のところまでまるで夢中で駈出かけだしました。やれやれとそこで立どまると、あとから今田いまだ家と襟を染めぬいた法被をきた男が、留吉の帽子を持って立っていました。
都の眼 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
晴衣はれぎ亘長ゆきたけを気にしてのお勢のじれこみがお政の肝癪かんしゃくと成て、廻りの髪結の来ようの遅いのがお鍋の落度となり、究竟はては万古の茶瓶きゅうすが生れも付かぬ欠口いぐちになるやら、架棚たな擂鉢すりばち独手ひとりで駈出かけだすやら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
磯吉の食事めしが済むとお源はざるを持て駈出かけだして出たが、やがて量炭はかりずみを買て来て、火を起しながら今日お徳と木戸のことで言いあったこと、旦那が木戸を見て言った言葉などをべらべら喋舌しゃべって聞かしたが
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
が、主従しゅうじゅうともに一驚いっきょうきっしたのは、其の首のない胴躯どうむくろが、一煽ひとあおり鞍にあおるとひとしく、青牛せいぎゅうあしはやく成つてさっ駈出かけだした事である。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たちまち向うに見える雷門の新橋しんばしと書いた大提灯おおぢょうちんの下から、大勢の人がわいわいいって駈出かけだして来るのみか女の泣声までを聞付けた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大事な貝割葉かいわればの方へ行った。雨に打たれる朝顔ばちの方へ行った。説教そこそこにして、彼は夕立の中を朝顔棚の方へ駈出かけだした。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
老人は溝板どぶいたをドタドタと駈出かけだした。鍋がガチャンとぶつかった音がした。台所からも御新造さんが怒鳴りだした。生徒たちもワーッと声をあげた。
威嚇いかくことばと誘惑の手からのがれて、絶望と憤怒に男をいらだたせながら、もとの道へ駈出かけだすまでに、お島は可也かなり悶踠もがき争った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
びっこだと思った乞食こじきが雨が降って来ると下駄を持って駈出かけだしやす、世間にはいくらもある手だから、これも矢張やっぱり其の伝でしょう、お止しなせえ/\
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
供の者も大勢ついて居る様子、問わずと知れた攘夷の一類と推察して気味が悪い、終夜ろくに寝もせず、夜の明ける前に早々宿屋を駈出かけだしてコソ/\逃げたことがある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
奥からは母のおよしも女中のおかんも駈出かけだして来て、水をのませて、落着かせて、さて、その仔細しさいを問ひたださうとしたが、おせきは胸の動悸どうきがなか/\しずまらないらしく
畜生ちくしやう! け! さツさとけ!』とかれ玄關迄げんくわんまで駈出かけだして、泣聲なきごゑげて怒鳴どなる。『畜生ちくしやう!』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
見れば扇子一本おちてあり藤兵衞手に取あげ能々よく/\見るに鐵扇てつせんにて親骨に杉田すぎた三五郎と彫付ほりつけ有りし故掃部大いにいかり然らば是は幸手さつての三五郎が所業しわざちがひし今西の方へ駈出かけだしてゆく人影ひとかげ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
どうだかね、わし内方うちかたへ参ったはちいとのだし、雨に駈出かけだしても来さっしゃらねえもんだで、まだ帰らっしゃらねえでごぜえましょう。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤い襦袢じゆばんの上に紫繻子むらさきじゆすの幅広いえりをつけた座敷着ざしきぎの遊女が、かぶ手拭てぬぐひに顔をかくして、まへかゞまりに花道はなみちから駈出かけだしたのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
お鶴はすべってころんだ。お延は駈出かけだして行った。お俊も笑いながら、妹の着物に附いた泥を落してやりに行った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
加之しかも二つ、うす暗い奥から此方こっちを覗いていたが、やがて入口の方へちょこちょこ駈出かけだして来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おれ今でこそ車を引いてるが、元は大久保政五郎おおくぼまさごろうの親類で、駈出かけだしの賭博打ばくちうちだが、漆原うるしはら嘉十かじゅうと云った長脇差ながわきざしよ、ところが御維新ごいっしんになってから賭博打を取捕とっつかめえては打切ぶっきられ
居れば危ないから脊戸口せどぐちから駈出かけだして、東京まで逃げて来た、と云うのは両人ともモウちゃんと首をられる中に数えられて居たその次第を、誰か告げてれる者があって
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あのひと足先あしさきへお風呂ふろつたすきて、足袋跣足たびはだし飛出とびだしたんださうでございますの。それで駈出かけだして、くるまでステーションまでて、わたくしのところへげこんでまゐりました。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
松さんは大急ぎで俥をひいて駈出かけだした。
りたけとほはなれて、むかがはをおとほんなさい。なんならあらかじ用心ようじんで、ちやううして人通ひとゞほりはなし——かまはず駈出かけだしたらいでせう……
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何となく胸騒ぎがして何処へという当もなく一生懸命に駈出かけだし初めると、忽ち目の前に大きな橋が現われた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と裏の「叔母さん」は沈着おちついた、深切な調子で、生徒に物を言い含めるように言った。お房は洗濯した単衣ひとえものに着更えさせて貰って、やがて復たぷいと駈出かけだして行った。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
其次そのつぎつた時に、はらが立ちましたからギーツとおもてを開けて、廊下らうかをバタ/″\駈出かけだして、突然いきなり書斎しよさいひらをガチリバタリとけて先生のそばまできました、先生はおどろいて先
西洋の丁稚 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
口入屋の暖簾のれんをくぐろうかと考えて、その前を往ったり来たりしたが、そこに田舎の駈出かけだしらしい女の無智な表情をした顔だの、みすぼらしい蝙蝠こうもりや包みやレーザの畳のついた下駄などが目につくと
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
男は突放つきはなして又駈出かけだそうとした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もう可恐おそろしく成りまして、夢中で駈出かけだしましたものですから、御前様ごぜんさまに、つい——あの、そして……御前様は、何時いつ御旅行さきから。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と云いながら真青まっさおになって夢中で逃出にげだし、白翁堂勇齋のところこうと思って駈出かけだしました。
二階へ上ってから手早く鏡台や何かの引出しをあけて手紙や請取書うけとりしょなどの有無を調べ、押入おしいれからトランクと行李こうり手提革包てさげかばんを引ずり出した後、外へ駈出かけだし、円タクを二台呼んで来て
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おさえに制えたようなものが家の内の空気を支配していた。子供等の顔までも何となく岸本には改まって見えた。繁は父の帰宅を知らせるために、学校の方に居る泉太のもと駈出かけだして行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
雖然けれども心覺こゝろおぼえで足許あしもと覺束おぼつかなさに、さむければとて、三尺さんじやく前結まへむすびにたゞくばかりにしたればとて、ばた/\駈出かけだすなんどおもひもらない。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
穏坊をんばう畜生ちくしやう此方こつち這入はいつやアがるときかねえぞ、無闇むやみ這入へいりやアがるとオンボウいて押付おつつけるぞ。と悪体あくたいをつきながら穏坊をんばうそでした掻潜かいくゞつてスーツと駈出かけだしてきました。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)