みにく)” の例文
すなわち花はまこと美麗びれいで、つ趣味にんだ生殖器であって、動物のみにくい生殖器とは雲泥うんでいの差があり、とてもくらべものにはならない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
この不自由ふじゆうな、みにくい、矛盾むじゅん焦燥しょうそう欠乏けつぼう腹立はらだたしさの、現実げんじつ生活せいかつから、解放かいほうされるは、そのときであるようながしたのです。
希望 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ちょっと皮肉ひにくなところがありますが、やさしい微笑びしょうをたたえた皮肉で、世の中の不正やみにくさに、それとなくするど鋒先ほこさきを向けています。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
眼の細い、鼻の大きい、顎の張つた、充分實直らしい男ですが、そのかはり若さも覇氣はきも消耗し盡した、どちらかと言へばみにくい男です。
ふと、わずかな金をそこに見たすが目の片方は、涙をためたまぶたの引っつれを、常よりもみにくいものにして、幾たびも、しばたたいた。
彼今のみにくきに應じて昔美しくしかもその造主つくりぬしにむかひて眉を上げし事あらば一切の禍ひ彼よりいづるも故なきにあらず 三四—三六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
古木こぼくやうみにくうでのばして、鐵車てつしやおり引握ひきつかみ、力任ちからまかせにくるま引倒ひきたほさんとするのである。猛犬稻妻まうけんいなづま猛然まうぜんとしてそのいた。
腕のつけ根に起き上り小法師こぼしの喰いついた形、みにくい女の顔の形……見なれきったそれらの奇怪な形を清逸は順々に眺めはじめた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
良人の父親とみにくいちぎりを結ぶにいたっては、けものにもひとしいと云う事は、いくら無智むちな女でも知っているはずであるのに……。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
次郎左衛門は芝居や講談で伝えられているようなみにくいあばたづらの持ち主ではなかった。三十一の男盛りで身のたけは五尺六、七寸もあろう。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれここにその姉は、いとみにくきに因りて、見かしこみて、返し送りたまひて、ただそのおとはな佐久夜さくや賣毘を留めて、一宿ひとよみとあたはしつ。
そこには、高島田に、振袖美々びびしく着飾った、我娘照子が、見も知らぬみにくい若者と並んで写っているではないか。明かに結婚の記念写真だ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
きつね今日きょうまでかくしていた自分じぶんみにくい、ほんとうの姿すがた子供こどもられたことを、ぬほどはずかしくも、かなしくもおもいました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
意味は「もし私が仏になる時、私の国の人たちの形や色が同じでなく、みよき者とみにくき者とがあるなら、私は仏にはなりませぬ」
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
子を造るまいと思ってきたのに——自然にはかなわないなあ!——ちょうど一年前「うごめくもの」という題でおせいとのみにくいがみ合いを書いたが
死児を産む (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
子供の群の前後には、赤い腹を白い灰のような土の中に横たえたみにくい小動物の死骸が、いくつもいくつもころがっている。
三浦右衛門の最後 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
業病のためにふた目とは見られぬみにくい顔になっているので、頭巾をかぶったまま、こうしてお大師様におすがりしている。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
世間は自分の前におもしろい楽しい舞台をひろげていると思うこともあれば、汚ないみにくい近づくべからざる現象を示していると思うこともある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
物音はただ白薔薇しろばらむらがるはちの声が聞えるばかりです。白は平和な公園の空気に、しばらくはみにくい黒犬になった日ごろの悲しさも忘れていました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あなたのぬすみ見た横顔は、苦悩くのう疲労ひろうのあとが、ありありとしていて、いかにもみにくく、ぼくは眼をふさぎたい想いでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
おれの血管を毒薬で満たしたのも、おまえの仕業しわざだ。おまえはおれを自分と同じような、憎むべき厭うべき死人同然なみにくい人間にしてしまったのだ。
さながら白鳥が、ぬまの草むらから飛び立ったように、その面影もまた、それを取巻いているさまざまなみにくい物陰から、離れ去ったもののようだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
われ毛虫けむしたりし時、みにくかりき。吾、てふとなりてへばひとうつくしとむ。人の美しと云ふ吾は、そのかみの醜かりし毛虫ぞや。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
俺は鏡の中のみにくく歪んだ自分の顔を睨んだ。ひどく破廉恥はれんちなことがしてみたいという砂馬に俺は賛成して、破廉恥なことをするためにここへ来たのだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
浮世うきよかゞみといふもののなくば、かほよきもみにくきもらで、ぶんやすんじたるおもひ、九しやくけん楊貴妃ようきひ小町こまちくして、美色びしよくまへだれがけ奧床おくゆかしうてぎぬべし
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
鏡台の方ににじりよって、鏡でのぞいてみたが……口を開いて指を一本くわえてる自分の顔が、ひどくみにくかった。
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
夫人はようように夜の帽子をかぶって、寝衣ねまきを着たが、こうした服装みなりのほうが年相応によく似合うので、彼女はそんなにいやらしくも、みにくくもなくなった。
自分というものを一瞬も忘れることが出来ないでいる! 愛を求める自分の心に嫌悪を感じはじめている! 自己をいつわる自分の姿のみにくさにおびえて
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
黄いろいような、赤味のついているような岩質で、黒ずんだみにくい深海魚とは、およそ反対の感じのものだった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
成経 あなたは悪とたたかって難にあったわれわれをいたずらにみにく復讐心ふくしゅうしんを満たそうとして失敗したあわれむべき破産者におとしてしまおうとするのか。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
酒の廻りしためおもて紅色くれないさしたるが、一体みにくからぬ上年齢としばえ葉桜はざくらにおい無くなりしというまでならねば、女振り十段も先刻さきより上りて婀娜あだッぽいいい年増としまなり。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
つまり「みにくい」部類にはいるやうなものを何時のまにか好きになつてゐて、それが「美しい」のだと思ひこんでゐる人が、これまたなかなか少くないのである。
『美しい話』まへがき (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
その娘は非常にみにくくて青いはな汁をグスグスいはせてゐるが、××樣があたしをくどくのなんのと書いたかみを捨ておいて、いつもあたしを困らせてゐるのだつた。
お灸 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
しそれがおほきくなつたら』と獨語ひとりごとつて、『隨分ずゐぶんみにく子供こどもになるでせう、けど、何方どつちかとへば大人おとなしいぶたよ』つてあいちやんは、ぶたにでもなりさうな
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
セセラ笑ってみたところで、私自身も母も、私自身の無能とカラ元気とをかえってみにくく感ずるばかりだ。
地球儀 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
細い曲がった一本の小枝、と言うよりはむしろ小枝に似たある不格好な細長い物体の上に、一人の——まるで形式を無視した、みにくい盲人が斜めに身を支えている。
はだけた寝巻ねまきからのぞいている胸も手術の跡がみにくくぼみ、女の胸ではなかった。ふと眼をらすと、寺田はもう上向けた注射器の底をして、液をき上げていた。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
どら焼なる物は、銀座の大通りに売って居る屋台の駄菓子だがしの事だが、己のみにく容貌ようぼうのどら焼に似て居ると云うので、お嬢様がお附けになった仇名あだななのである。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
えらび突出しの仕着しきせより茶屋々々の暖簾のれんに至る迄も花々敷吉原中大評判おほひやうばんゆゑ突出つきだしの日より晝夜ちうやきやくたえる間なく如何なる老人みにくき男にても麁末そまつに扱はざれば人々皆さき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして『西洋の国々と同じく、ここにもやはりみにくい生存競争があり、常々不義や奸計かんけいが行われている』
彼女かのぢよいままでのくゐは、ともすればわけたてかくれて、正面まとも非難ひなんふせいでゐたのをつた。彼女かのぢよいま自分じぶん假面かめん引剥ひきはぎ、そのみにくさにおどろかなければならなかつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
そしてまもなく、およいだり、くぐったり出来できようみずあたりにましたが、そのみにく顔容かおかたちのために相変あいからず、ほか者達ものたちから邪魔じゃまにされ、はねつけられてしまいました。
あなみにくさかしらをすとさけまぬ人をよくればさるにかもる(よく見ば猿にかも似む) (同・三四四)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
みにくい両手をながめながら、そこから一時の戯号をおもいつくなどというのも、いかにも秋成らしい。
雨月物語:04 解説 (新字新仮名) / 鵜月洋(著)
人間社会のみにくさも、いやしさも、人間の弱さも、悪さも、不完全さも、野心も、感情も、本能も、世界の現実情勢も、国民生活の実情も計算に入れてかからねばならぬ。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
矢張やはおんなは、あまりみにくいのもこまりますが、またあまりうつくしいのもどうかとかんがえられるのでございます。
みにくい両手をながめながら、そこから一時の戯号をおもいつくなどというのも、いかにも秋成らしい。
そして、そういう人も年が三十にかかればどうしても化粧の手を借りなければいくらかみにくくなる。
女性の不平とよろこび (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
溝川にちた鯉の、あの浅ましさを見ますにつけ、死んだ身体からだみにくさは、こうなるものと存じましても、やっぱり毒を飲むか、身を投げるか、自殺を覚悟していました。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なぜなら彼は、独得の流儀で、この世に多くの際立ったことを仕遂げたい欲望と、仕遂げる力とを、心の中に感じたからである。——これがみにくい、なさけないことだった。