溺るるものおぼるるもの
一或る図書館員の話 掘割の橋のたもとで、いつも自動車を乗り捨てた。 眼の届く限り真直な疏水堀で、両岸に道が通じ、所々に橋があって、黒ずんだ木の欄干が水の上に重り合って見える。右側は大きな陰欝な工場、左側は小さな粗末な軒並……。その軒並の彼方 …