たづ)” の例文
もとの蔦屋つたや旅館りよくわん)のおよねさんをたづねようとふ……る/\つもゆきなかに、淡雪あはゆきえるやうな、あだなのぞみがあつたのです。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二三日うちに大磯問題の返事を聞き旁々かた/″\、青木家をたづねて見ようと思ふ。一体わたしがあまり行く事は、なるべく遠慮してゐるのだが。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
けれども、三千代みちよが又たづねてると云ふ目前の予期が、すでに気分の平調をおかしてゐるので、思索も読書も殆んど手にかなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それは何でも其家屋の抵当に入つてから後の事だ相だが、ある日かれは金を借ようと思つて、上塩山かみしほやま上尾あげを貞七の家をたづねた事があつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
與力の笹野新三郎をたづねて訊くと、石原の利助は堂守殺しの下手人として、徳藏稻荷の隣に住んで居る、やくざ者の仙吉を擧げたといふ話。
Y中学の卒業生で、このほど陸軍大学を首席で卒業し、恩賜の軍刀を拝領した少佐が、帰省のついでに一日母校の漢文の旧師をたづねて来た。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
朝早く彼をたづねようと思つたが、宿はどこも一杯で、それに一人旅だと聞いて素気なく断わられたので、為方しかたなしいきなり訪ねることにした。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
桃林和尚たうりんをしやうはそのはなしいてつてりましたから、いづれきつねがまたなに惡戯いたづらをするためにおてらたづねてたにちがひないと、すぐかんづきました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ロザマンド・オリヴァは、約束を違へず、私をたづねて呉れた。彼女は、大抵毎朝日課の乘馬の序に、學校にやつて來た。
いつたいどんな用事でおれの住ひをたづねたいなどと、わざ/\追ひかけて来ていふのだらう、と私はへんな気がした。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
すると一日あるひ一人ひとり老叟らうそう何所どこからともなくたづねて來て祕藏ひざうの石を見せてれろといふ、イヤその石は最早もう他人たにんられてしまつてひさしい以前から無いと謝絶ことわつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それがたまたたづねて来たいたづらな酒飲みの友達が、彼等の知らぬ間に亀の子を庭の草なかに放してなくなしてしまつた。彼は云ひやうのない憂鬱いううつな溜息を感じた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
從者ずさはやがて門に立ちよりて、『瀧口入道殿の庵室は茲に非ずや。遙々はる/″\たづね來りし主從二人、こゝ開け給へ』と呼ばはれば、内よりともしびげて出來いできたりたる一個の僧
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
バルバラは、わしが牧師館を出た夜にたづねて来たのと同じ銅色あかがねいろの顔の男が、次の朝、戸をしめた輿にのせてわしを連れて来て、それから直ぐに行つてしまつたと云ふ事を聞いた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
『三月兎ぐわつうさぎんでゐる。何方どつちでもおまへきなはうたづねて御覽ごらん何方どつちみん狂人きちがひだから』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「それから、私が今日奥さんのところへおたづねしたつていふことは、平河さんのおかみさんにも黙つてて下さいよ。それが伝はつて青木さんの耳へ這入りでもすると困りますから。」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
前年ぜんねんすゑわたしたづねて来たのが、神田かんだ南乗物町みなみのりものちやう吉岡書籍店よしをかしよじやくてん主人しゆじん理学士りがくし吉岡哲太郎よしをかてつたらうくんです、わたし文壇ぶんだんに立つにいては、前後ぜんご三人さんにん紹介者せうかいしやわづらはしたので、の第一が吉岡君よしをかくん
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこへ、午後になつて、小学校の教師が学校の帰りだと云つてたづねて来た。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
井戸ゐどほどにふかくもければ、教會けうくわい入口程いりぐちほどにはひろくもない、が十ぶんぢゃ、やくにはつ。明日あすたづねてくれい、すればはかなかから御挨拶ごあいさつぢゃ。乃公おれの一しゃうも、誓文せいもん總仕舞そうじまひんでしまうた。
男優A 僕の友人が一人桜田本郷町にゐるんですが、まだたづねたことはありません。なんでも、やはり、これくらゐの第二世がゐる筈です。さう云へば……失礼ですが……お宅の御主人は……。
職業(教訓劇) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
夫人に語らば定めて喜ぶことならん。されどいかなればはや我們われらたづねんとはせざりし。カステラマレに來てより既に八日になりぬ。われ。君達のこゝにいますべしとは、すこしも思ひ掛けざりき。
かく土方どかた菱沼ひしぬまたくたづねて、そのたといふ土器どきると、完全くわんぜんなる徳利形とくりがたの、立派りつぱなる彌生式やよひしきである。それにまたカワラケの燈明皿とうみやうざら燈心とうしんために一くろげたる)と、高抔たかつきの一とである。
静子清子の外には友も無い身の、(富江とは同僚乍ら余り親くしなかつた。)小川家にも一週に一度は必ずたづねる習慣ならはしであつたのに、信吾が帰つてからは、何といふ事なしに訪ねようとしなかつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
午後ひるすぎから亀井戸かめゐど龍眼寺りゆうがんじ書院しよゐん俳諧はいかい運座うんざがあるといふので、蘿月らげつはその日の午前にたづねて来た長吉ちやうきち茶漬ちやづけをすましたのち小梅こうめ住居すまひから押上おしあげ堀割ほりわり柳島やなぎしまはうへと連れだつて話しながら歩いた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「明け方、早く、あたりがかすんでゐる内に彼をたづねて見よう。」
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
かめの上の山もたづねじ船の中に老いせぬ名をばここに残さん
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
もうたづねて来る気色けしきもない寂しさ。
緑の種子 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
本郷の通り迄たが惓怠アンニユイの感は依然としてもとの通りである。何処どこをどうあるいても物足りない。と云つて、ひとうちたづねる気はもうない。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わたしあをくなつた——(るならたづねる。)を——(るならさがす。)——巖谷氏いはやしのわけのわからなかつたのは無理むりはない。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
竹村たけむらにはおもひがけないことであつたが、しかし彼女かのぢよあねとかあにとかいふ近親きんしんひとがあるなら、そのたれかゞかれたづねてくるのに不思議ふしぎはないはずであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
曾老人をたづねて来る人間のなか/\雑多なのに、僕はだん/\興味を持つやうになつた。本屋、書画屋、北京大学学生、新聞記者、将校、画家、俳優、笛吹き、金石家。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
平次は其處を宜い加減に切り上げて、金助町の浪宅——お茂世の父の大瀧清左衞門をたづねました。
太郎たらう次郎じらうは一とうさんにいて、三郎さぶらう木曾きそ小父をぢさんのうちたづねたことがりましたらう。あの小父をぢさんのうちまへから、木曽川きそがはながれるところをましたらう。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
世話人はなほいろ/\なことを婆さんから聞いた。誰もたづねてくるものはないか。郵便は来ないか。又誰かたづねて和尚は行きはしないか。——その答はすべて No ! であつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
身震みぶるひするやうな恐怖に續いて、激しいかなしみの戰慄が全身を走つた。そして、一つの願ひが生れた——私は、ヘレンにはなければならない。そこで、私は彼女の寢かされてゐる室をたづねた。
で出来るだけ遠い田舎ゐなかの親類先をたづね廻つて日を過ごした。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
のりの師をたづぬる道をしるべにて思はぬ山にふみまどふかな
源氏物語:56 夢の浮橋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
美禰子は此夏自分の親戚が入院してゐた時近付ちかづきになつた看護婦をたづねればたづねるのだが、これは必要でも何でもないのださうだ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
をしかな。すぐにもあとをたづねないで……晩方ばんがた散歩さんぽときは、見附みつけにも、おほりにも、たゞきりみづうへに、それかともおもかげが、たゞふたつ、つ。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
柏木の寅吉とらきちといふ、顏の賣れた中年者の御用聞が、神田の平次の家をたづねて來のは、それから二十日餘りの後——正月の松が取れたばかりの、ある日の晝近い時分でした。
午後三時といふ約束のとほりに、エルアフイ夫人は四つになる娘をつれて、モンソウ公園の裏手にある、聖心会附属の療養院をたづねた。十八世紀のメゾン風の、趣味のいゝ建物である。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
それが又自分がたづねると、いつも笑ひながら丁寧に会釈ゑしやくるのが常であつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
太郎たらうよ、次郎じらうよ、お前達まへたちおほきくなつたらとうさんの田舍ゐなかたづねてください。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ふと私は牧師をたづねたとき、その牧師館での老女中の返辭を思ひ出した。
彼女かのぢよあねだといふひとが、突然とつぜん竹村たけむらたづねてた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
わが宿は花もてはやす人もなし何にか春のたづねきつらん
源氏物語:42 まぼろし (新字新仮名) / 紫式部(著)
宗助そうすけ安井やすゐ此所こゝに二三たづねた縁故えんこで、かれ所謂いはゆる不味まづさいこしらえるぬしつてゐた。細君さいくんはうでも宗助そうすけかほおぼえてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
翌日よくじつ鴨川かもがはとか、千倉ちくらとか、停車場前ていしやぢやうまへのカフエーへ退身たいしん、いや、榮轉えいてんしたさうである。むし痛快つうくわいである。東京とうきやううちなら、郡部ぐんぶでも、わたしたづねてつて、まうとおもふ。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
不意にたづねると、幸ひ主人の直助も、妹のお辰も顏を揃へて居りました。直助は三十を越した、愛嬌のある好い男、少しばかり上方訛かみがたなまりがあるのも、上手な商賣人らしい印象を與へます。
そして村長のうちたづねた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)