かえ)” の例文
こうしたひとたちのあつまるところは、いつもわらごえのたえるときがなければ、口笛くちぶえや、ジャズのひびきなどで、えくりかえっています。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
達二たつじは早く、おじいさんの所へもどろうとしていそいで引っかえしました。けれどもどうも、それは前に来た所とはちがっていたようでした。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
細君さいくんから手移てうつしにしつけられて、糟谷かすやはしょうことなしに笑って、しょうことなしに芳輔よしすけいた。それですぐまた細君さいくんかえした。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
けれどもこう真面目まじめに出られて見ると、もうかえす勇気もなかった。その上彼のいわゆる潰瘍とはどんなものか全く知らなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひっきりなし、川のみずはくるくるまわるようなはやさで、うずをまいて、ふくれがり、ものすごいおとててわきかえっていました。
鬼六 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
王子は石を一つひろって、それを力まかせにげてみました。石ははるか下の方のくもきこまれたまま、なんのひびきもかえしませんでした。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
てき姿すがたは、ぜんぜん見えないのだ。どうやってトーマスをかれの手からうばいかえして助けてやればいいのか、さっぱりわからなかった。
ところが彼はおどりあがって、皆がたのみに来るまでは、もう二度と寄合へ出て口なんかきいてやらないぞ、と負けずにどなりかえしました。
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
最後さいごったのはたしか四五月頃しごがつごろでしたか、新橋演舞場しんばしえんぶじょう廊下ろうかたれうしろからぼくぶのでふりかえっててもしばらたれだかわからなかった。
夏目先生と滝田さん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あるいているお尋ねもんが、いちいち、ねちねち、色恋にしろ、かえしちゃいられるもんけえ、飽いたら、別れるまでのことよ
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だれにいうともない独言ひとりごとながら、吉原よしわらへのともまで見事みごとにはねられた、版下彫はんしたぼりまつろうは、止度とめどなくはらそこえくりかえっているのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
かえし教えている。しかして人生の戦争においては、太く短く世を渡るを望む者あるも、望み通りになるやならぬや誰も保証出来ぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
老人は呼吸いきを止めた。かれはすっかり知った。人々はかれが党類を作って、組んで手帳をかえしたものとかれをなじるのであった。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
今日こんにちからかえってかんがえると、このうみ修行場しゅぎょうばわたくしめに神界しんかいとくもうけてくだすったおさらいの場所ばしょともいうべきものなのでございました。
行田印刷所と書いたインキに汚れた大きい招牌かんばんがかかっていて、旧式な手刷りが一台、例の大きなハネをかえし繰り返し動いているのが見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
うまけるのに手間てまれるとかとりきんで、上句あげくには、いつだまれとか、れこれうな、とかと真赤まっかになってさわぎかえす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
姪は初めの間かえって鼻を鳴らしていた。彼はそれをもかまわずだんだん力をめて抱きすくめてゆくと泣き出した。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
わたしにはわかりません、毎日毎日血腥ちなまぐさい事件を扱って居ると、かえって頭脳あたまが混乱してしまって、その間から公式も哲学も見出す気にはならないのです」
悪魔の顔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
心づいて有り合わせた団扇うちわを取り背中の方からあおいでやるとそれで納得なっとくしたようであったが少しでもあおぎ方が気が抜けるとすぐ「暑い」をかえした。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「それは相手が手ごわいから、準備のためにそうとう日がかかるんだろう。君たちがでかけていってもだめさ。相手が強すぎるからね。かえちになるよ」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かく「かえすッたって、どうもたゞは返されません、私も路銀を遣い、こうやって態々わざ/\尋ねて来たんですものを」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何よりも、りきかえること、大声おおごえを立てることがきらいです。どんなことでも、静かに話せばわかり、また、静かにはなわなければ面白おもしろくないという主義しゅぎなのです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
ゴットフリートはびっくりし、感動かんどうして、「なんだ、何だ?」とくりかえしながら、おなじように彼をきしめた。——それからかれ立上たちあがり、子供こどもの手をとっていった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
武士が差料さしりょうを摺りかえられたことは話にならぬ、さすがの田中がその当座、悄気しょげかえっていたという。
が、結局噛みつくような眼でむくかえされるだけで、彼女は幾度か引き下らねばならなかったのだ。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
シューラはいそいでポケットの中から、この年頃としごろの男の子につきものになっている他愛たあいのない品々しなじなを、すっかり出して見せた——それから両方りょうほうのポケットもひっくりかえした。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
はつ子供こどもは、袖子そでこまえで、こんな言葉ことばをかわしていた。子供こどもからびかけられるたびに、おはつは「まあ、可愛かわいい」という様子ようすをして、おなじことを何度なんど何度なんどかえした。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そしてあのかえった細弁の真紅の巻き花が、物の見事に出現した。驚いたのは島人で、夢ではなかろうかといぶかった。この海中の一小島がまさに楽園の観を呈したのである。
氏が坐禅ざぜん公案こうあんが通らなくて師に強く言われて家へ帰って来た時の顔など、いまにも泣き出しそう小児こどもの様に悄気しょげかえったものです。以上不備ふびながら課せられた紙数をようやく埋めました。
また一時近くなるほどに、温習に往きたる日にはかえによぎりて、余とともに店を立ち出づるこの常ならず軽き、掌上しょうじょうの舞をもなしえつべき少女を、怪しみ見送る人もありしなるべし。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ものすごいさけび声が列車の騒音そうおんにもまぎれずに、ひびきわたった。ガタピシとひっかかって、戸はうごこうともしない。自分はふりかえりざま、また、気ちがいのようにランプをふりまわした。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
「それではあんまり苦しゅうございましょう」かんきみは、そういう最後の言葉をもほんの常談として受け取るだけの余裕もないほど、しょかえって、そのままずうっと縁の方まですさって往かれた。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
胸に真新まあたらしい在郷軍人徽章きしょうをつるして、澄ましかえって歩いて来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かえがえすも勝氏のためにしまざるを得ざるなり。
と、意地悪いじわる家鴨あひるかえすのでした。
さけびを営庭えいてい一ぱいにかえせ!
これは靜歌しずうたうたかえしです。
「昔の身分にかえれるのだ」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
子供こどもは、かえりながら、母親ははおやれられてゆきました。そして、その姿すがたは、だんだんあちらに、人影ひとかげかくれてえなくなりました。
雪の上のおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼女に云わせれば、こうして早く帰るのも、あんなに遅くなった昨日きのうの結果を、今度はかえさせたくないという主意からであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おじいさんはいままで一人ひとりぼっちで、さびしくってたまらなかったところですから、こえくとやっとかえったようながしました。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ぼくらは、とった魚を、石で囲んで、小さな生洲いけすをこしらえて、生きかえっても、もうげて行かないようにして、また石取いしとりをはじめた。
さいかち淵 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それから、おどれといえばおどるし、すわれといえばすわるし、人形はいうとおりにうごまわるのです。甚兵衛はあきかえってしまいました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
折角せっかく御親切ごしんせつでおますが、いったんおかえししょうと、ってさんじましたこのおび、また拝借はいしゃくさせていただくとしましても、今夜こんやはおかえもうします
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「ですがお目付めつけさま、いくら働けといったところで、こんな鉱気かなけのないくそ山を、かえしたところでしようがありますまい」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みませぬみませぬ、どうぞどうぞおゆるしくださいませ……』何回なんかいわたくしはそれをかえしてなみだむせんだことでしょう!
糟谷かすやはがらにないおじょうずをいったり、自分ながらひやあせのでるような、軽薄けいはくなものいいをしたりして、なにぶんたのむを数十ぺんくりかえしてした。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
走り出るとかえって白墨を高く頭の上へ投げてつぶした。そしてまたぶらぶら五、六歩あるくと走り出した。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
といい、世渡りの秘訣は人に譲るにあることをかえしてあるが、実にその通り。自分の権利を最大限度に要求することははなはだ卑劣におちい所以ゆえんと思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
何うも気に成るから振りかえて見ると、其の若い者がバタ/\/\と下手しもての欄干の側へ参り、又片足を踏掛ふんがけて飛び込もうとする様子ゆえ、驚いて引返ひっかえして抱き留め
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)