)” の例文
さてはや、念佛ねんぶつ題目だいもく大聲おほごゑ鯨波ときこゑげてうなつてたが、やがてそれくやうによわつてしまふ。取亂とりみださぬもの一人ひとりもない。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
にまし、あつくなると、はえやが、だんだんおおてきました。はえは遠慮えんりょなく、おじいさんのはげたあたまうえにとまりました。
夏とおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
省三は気がくと手でほおや首筋にとまったを叩いた。そして、思いだしてなまりのようになった頭をほぐそうとしたがほぐれなかった。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
黄昏たそがれは、誰も知るとおり、曲者くせものである。物みなが煙のように輪郭りんかくを波打たせ、が飛んでも、かみなりが近づくほどにざわめき立つのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ようやく老境に入りかけたせいか近来は夏がなかなか苦しい、殊に暑さとに攻められて著作をするというようなことは気がれてたまらない
夏の夜の透明な空気は青みわたって、月の光が燐のようにすべての光るものの上に宿っていた。の群がわんわんうなって二人に襲いかかった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ぷうんとは、やつとげるにはげたが、もうせま蚊帳かやなかがおそろしくつて、おそろしくつてたまらなくなりました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
東風こち すみれ ちょう あぶ 蜂 孑孑ぼうふら 蝸牛かたつむり 水馬みずすまし 豉虫まいまいむし 蜘子くものこ のみ  撫子なでしこ 扇 燈籠とうろう 草花 火鉢 炬燵こたつ 足袋たび 冬のはえ 埋火うずみび
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
が顔へぶつかってくるような露地ろじだった。案のじょうそこへ入ると、薄ぐらい明りのさす門口かどぐちで、養父ちちの声がしていた。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「気楽も、気楽でないも、世の中は気の持ちよう一つでどうでもなります。のみの国がいやになったって、の国へ引越ひっこしちゃ、なんにもなりません」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かんをなすには屎壺しゅびんの形したる陶器とうきにいれて炉の灰にうずむ。夕餉ゆうげ果てて後、寐牀のしろうやうやしく求むるを幾許ぞと問えば一人一銭五厘という。なし。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夏の夜に自分の身に酒をそそぎてに食われ親に近づく蚊を防ぐより、その酒の代をもって紙帳を買うこそ智者ならずや。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
の声のする暗い隅の方へとかく逡巡しりごみばかりして、いつもの元気もなく出渋るやつを、無理無体に外へ引出しました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ええ、ええ、『本所ほんじょうに蚊がなくなれば大晦日おおみそか』と云うが、ここのはやぶなんだからなかなか本所どころじゃあない。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
んでもでも十数年の後には徒手にて出来る工風くふうなれども、政府にてはまだ農業は鄙事ひじなりとでも思わるるにや
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
「これは、あかい血、これは、くろい血。」ころされた、一匹、一匹、はらのふとい死骸を、枕頭の「晩年」の表紙の上にならべて、家人が、うたう。
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
日のくれに平潟の宿に帰った。湯はぬるく、便所はむさく、魚はあたらしいが料理がまずくてなまぐさく、水を飲もうとすれば潟臭かたくさく、加之しかもおびただしい真黒まっくろにたかる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ぴきが一すねにとまっても、いたさもかゆさもかんじないほど徳太郎とくたろうは、野犬やけんのようにすわっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いぶし火鉢ひばち取分とりわけて三じやくゑん持出もちいだし、ひろあつめのすぎかぶせてふう/\と吹立ふきたつれば、ふす/\とけふりたちのぼりて軒塲のきばにのがれるこゑすさまじゝ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
表通りは俺の心のように、乾きに乾いているのに、その路地はじめじめしていて、ヤブの巣みたいなみぞに渡した板も腐りかけて、足もとがあぶなっかしい。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「おゝかいい」とぴしやりたゝいた。かれうたつれ各自めいめいさらうたつた。みなはし茶碗ちやわんたゝいて拍子ひやうしあはせた。さういふさわぎにつてからさけらなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
がぶん、ぶん、とんで来て刺しました。おもての「ミゼラビリ」は夢のなかでも泣きつづけていました。
夫婦はともしびつけんともせず薄暗き中に団扇うちわもてやりつつかたれり、教師を見て、珍らしやとゆずりつ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「日比谷まで……今夜、音楽があるんだ」と言い放ったが、白い華奢きゃしゃな足を動かしてを追うている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「いい。うまく落ちた。」こどものねずみはまるでのような小さな声でセロの底で返事しました。
セロ弾きのゴーシュ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
南京虫ナンキンむしのみに攻められながら、野羊やぎの乳を飲み、アラビア人のコックの料理を食って、一八七二年の十二月十二日から翌年三月中旬にわたる単調な船住いをつづけた。
レーリー卿(Lord Rayleigh) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
白絹のように白い月の光には、恋に狂うの群が舞踊していた。池の面にはかすかな閃光せんこうが浮び、ぴたぴたとを立てて、上下うえしたに浮き沈みした。だが今でも分らないんだ。
泥棒が吃驚びっくりして、ライフルをぶっぱなしても、人造人間は、鋼製の皮膚を持っているから、それこそ弾丸があたっても、が喰いついたほどにも感じないことであろう。
人造物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「博物もの」の中には「かえるの話」とか「の一生」とか「春の呼声よびごえ」とかいう風なものがある。
科学映画の一考察 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「では、教えましょう。」と、魔女まじょはいいましたが、もう息もきれぎれで、声はのようです。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
を防ぐ為に頭から汚い風呂敷の様なものを被って、やっぱり躄車の中にじっとしていたのだ。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夏の夜の縁先、危い縁臺を持ち出して、を叩き乍ら、八五郎は斯んなことを言ふのです。
早出のを食はうとぬるい水にもんどり打つ池の真鯉まごい——なやましくろうたけき六月の夕だ。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ジヤジヤまたは口焼くちやき、ひるまむしの口焼きという式などは、まるでその虫のおらぬ節分の晩、もしくは小正月の宵に行うので、炉の火にかやの葉などをくべて唱えごとをする。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
の鳴くばかりのほそきこゑして、一五二物とも聞えぬやうに、まれまれとなふるを聞けば
それから夜遅く戻ってきて、にさされないよう、頭からむしろをかぶって寝ました。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
さうで御座いますよ、——何ののとかどばつたことは申しますがネ、もう/\女の言ふなり次第なものです、考へて見ると世の中に、男ほど意気地いくぢの無いものは御座いませんのねエ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
平素深く仏教に帰依きえして、仏前の勤め怠ることなく、暇さえあれば御寺に参詣さんけいして説教を聴聞し、殺生戒をたもちて、のみまでも殺さぬほどの信者でありしゆえ、近所近辺にては
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
微細のあしのごとき文字をもって、巻き紙のように横に、左右両方から水火の秘文を一行おきに書きうずめ、これを中裂し、一片を一刀に、めいめい中心の上へしかと捲きしめて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
跡には友次郎只一人思ひまはせば廻す程お花の事が心にかゝねむらんと爲れども心さえ其上夜の更るに隨ひて漸次には多くなり右左より群付むれつくにぞ斯ては勿々なか/\眠られずと起上りて圍爐裏に柴を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
客座にどっしりと構えて鷹揚おうようにまださほどは居ぬ吾家うちからげた大きな団扇うちわゆるはらいながら、せまらぬ気味合きみあいで眼のまわりにしわたたえつつも、何か話すところは実に堂々として
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
我越後の雪蛆せつじよはちひさき事ごとし。此虫は二しゆあり、一ツははねありて飛行とびあるき、一ツははねあれどもおさめ蚑行はひありく。共に足六ツあり、色ははへうすく(一は黒し)其る所は市中原野しちゆうげんやにおなじ。
神様、どうぞこの女を生ママ返らせて下さい。あなたのお力を信じてゐます。雨に打たれ、にくわれ、私は毎晩、あなたのお力をひろめるために尽しました。神様! 今こそ私に報ひて下さい。
こほろぎの死 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
お春さんも森川の加勢をして、乃公の事をしょうこりもない悪戯小僧だと言った。お島まで、お母さんが留守だもんだから、向う組になりやがった。そして何でもでも乃公が悪いのにしてしまった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
何の事はない役人連中、を突っついてやぶを出した形になった。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「やぶが夜出て来て、チクチク刺すのよ」
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ばしらのくづるゝかたや路地ろじの口
荷風翁の発句 (旧字旧仮名) / 伊庭心猿(著)
こゑぶんぶん。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
なんにもならないで、ばたりとちからなく墓石はかいしからりて、うでこまぬき、差俯向さしうつむいて、ぢつとしてつてると、しつきりなしにたかる。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、たちまちそれらの叫喚きょうかんも、また煙の中のみたいな将士の人影も、火つむじの底に没して火屑ひくずと共に吹き散らされる。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)