)” の例文
「さうだ、まつたすね。わるくすると、明日あしたあめだぜ‥‥」と、わたしざまこたへた。河野かうのねむさうなやみなかにチラリとひかつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
うすもころがしてました。おもちにするおこめ裏口うらぐちかまどしましたから、そこへも手傳てつだひのおばあさんがたのしいきました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
仄かなカンテラの灯に映る男らの手足が、黒ん坊の影絵のやうに黙々として動いてゐるのである。せつぽくて口が利けないのらしい。
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
総子 ああ暑い、何てすんでしょうね今日は。(袂で煽ぎながら)夜になってもまるで風がないんだもの。息がつまりそうだわ。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
山蛭やまひるやヤブ蚊の責めや、また、一種の青葉れが、よろい固めの五体をやりきれなくして、仲時はつい眠りもえなかった。そして
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おつぎは浴衣ゆかたをとつて襦袢じゆばんひとつにつて、ざるみづつていた糯米もちごめかまどはじめた。勘次かんじはだかうすきねあらうて檐端のきばゑた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「こいつあ降りません。ただすばかりですよ」と、老人は顔をしかめたが、やがて又笑い出した。「これじゃあ金儲けも出来ませんね」
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
然し都会の中には、何かしら賑やかな雑踏の方へと、渦巻き濁ったれ臭い方へと、人を引き寄せる誘いがある。それが都会の蠱惑である。
悪夢 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この無良心、無恥な、唯物功利道徳の世界は到る処に探偵趣味のスパークが生む、新しい芸術のオゾン臭が、生々しくれ返っている筈だ。
探偵小説の真使命 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
元豊は湯気にされて苦悶しながら大声を出して出ようとした。小翠は出さないばかりかやぐを持って来てそのうえからかけた。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
ところへものし、そして發酵はつこうさせるやうな日光が照付てりつけるのであるから、地はむれて、むツと息のまるやうな温氣うんき惡臭あくしうとを放散ほうさんする。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
私は春が來るごとに、少女達の魂が、宵々ごとの夢にどんなふうにされてゆくだらうかと、ましくなつて少女達の顏を眺めることがある。
(旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
それをなぜ、からすが、そういったかというのに、からすは、いつかあきすえに、どこからかしたいもひろってきて、あなってめておいた。
風と木 からすときつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
なかでもおほきさうなのが、つちれるところに、たかかまへたはらを、ひとかせて、があ/\があ/\とふとく。……
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うですあつたかいうちに」と主人しゆじんつたので、宗助そうすけはじめてこの饅頭まんぢゆうしてもないあたらしさにいた。めづらしさうに黄色きいろかはながめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
雲黒く気重く、身され心ふさがれ、迷想しきり蝟集ゐしふし来る、これ奇なり、怪なり、然れども人間遂にこれを免かること難し。
青苔あをごけの美しくした、雨落のところに据ゑた、まがい物ながら大きい鞍馬石くらまいしの根に、ポカリと小さい穴があいてゐるのです。
彼はふなばたに身をもたせて、日にされた松脂まつやににおいを胸一ぱいに吸いこみながら、長い間独木舟まるきぶねを風の吹きやるのに任せていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あつい或る夜のこと、発明王金博士きんはかせは、そでのながい白服に、大きなヘルメットをかぶって、飾窓かざりまどをのぞきこんでいた。
「おお、仙波さん、どうもひどい目にあうもんで……命にかかわるかも知れないが、これじゃ、むこうがやってくる前にれて死んでしまいます」
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
夏の日にされたりし草木の、雨に湿うるおひたるかをり車の中に吹入るを、かつしたる人の水飲むやうに、二人は吸ひたり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ねえ、貴方はいまのいとわしい臭いはご存知ないでしょう。けっして、あの頃の貴方には、いまみたいなれきった樹皮の匂いはいたしませんでした。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
或る悩ましく花のれるような夕方、姉弟が来て筒井に告げた。それはこの一とまわりのあいだ、毎日のようにやしきをうかがう男がいるとのことだった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その旅も、今夜でおしまいだというので、腕の立つわかい連中の大一座、ガヤガヤワイワイと、伊賀の山猿の吐く酒気で、室内は、むっとれている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お庄は叔父を見に行く風をしてれるような病室を出て行った。そして廊下の突当りにある医員の控え室に入った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
馬より下りて斬らんと見れば虎でなくて苔した石だった、その時石に立てた矢が石竹という草となったとある。
この地下茎ちかけいせば食用にするにるとのこと、また地方によりこれから澱粉でんぷんってしょくしているところがある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
はしらにも、ふるこけあつしてり、それがちりひとつなき、あくまできよらかな環境かんきょうとしっくりってりますので、じつなんともいえぬ落付おちつきがありました。
御墓の石にまだす苔とてもなき今の日に、早や退沒の悲しみに遇はんとは申すも中々に愚なり。御靈前に香華かうげ手向たむくるもの明日よりは有りや無しや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「ああいいな。どんなにいいか知れねえ。……土の匂いがにおって来る。……枯草のれるような匂いもする」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
全体御飯はお米を煮るものかすものかと申すのに煮るよりもむしろ蒸す方の心持で炊かなければなりません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
館内は、土間どまも二階も三階も、ぎっしりと客が詰まって居るらしく、し暑い人いきれで濛々もう/\と煙って居た。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その夜は気温が高く、梅雨どきらしくしていたが、ときどきひんやりした微風が吹いて来た。おそらくそんな気象状況がそういう現象を見せるのであろう。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その中に足尾方面の山だけが、その鑛毒にされて焦枯やけがれた林木の見るも情ない骨立こつりつした姿を見せてゐる。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
貝のままのはまぐりを鉄板の前にのせて、ご飯しのアルミのふたをすっぽりとかぶせながら、そう言う「惚太郎」の細君の声には、たしかに軽い憤りがこめられていた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
頭の上へおっかぶさるように藁束がうずたかく積み重ねられてあった。すかすかするような、それでいて馬鹿に甘ったるい乾藁のれる匂いがいつもむんむん籠っていた。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
こけの深くした墓、それは歴史上にも聞えたこの土地の昔の城主なにがしの遺骸を埋めたところで、戦国時代にあつては、この城主は、この近隣数郡の地を攻略して
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
たとえば一つのかめかもした酒、一つのこしきした強飯こわめし、一つのうすもちや一畠のうり大根だいこんを、分けて双方そうほうの腹中に入れることは、そこに眼に見えぬ力の連鎖を作るという
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ふと身体じゅうを内部から軽くすような熱感がきざしてきた。この熱感はいつでも清逸に自分の肉体が病菌によってむしばまれていきつつあるということを思い知らせた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
柿の木蔭こかげは涼しい風が吹いて居る。青苔あおごけした柿の幹から花をつけた雪の下が長くぶら下って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
吐く息が、そのまま固まりになってすぐ次の息に吸い込まれるような、胸の悪いし暑さであった。嘔吐物おうとぶつの臭気と、癌腫がんしゅらしい分泌物ぶんぴぶつとの臭気は相変らず鼻をいた。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
此の頃にはかに其の影を見せぬは、必定函根はこねの湯気す所か、大磯おほいそ濤音なみおとゆるあたり何某殿なにがしどのと不景気知らずの冬籠ふゆごもり、ねたましの御全盛やと思ひの外、に驚かるゝものは人心
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
これなら特等室だ、しッ返えしの二十九日も退屈なく過ごせると思った。然し皆はそのために「特等室」と云っているのではなかった。始め、俺にはワケが分らなかった。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
さうだ、この日の自分は明らかに校長閣下の一言によつて、極樂へ行く途中から、正確なるべき時間迄が娑婆の時計と一時間も相違のある此のあつき地獄におとされたのである。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのしつく空気の中で、笑婦の群れが、赤く割られた石榴ざくろの実のように詰っていた。彼はテーブルの間を黙々として歩いてみた。押しせて来た女が、彼の肩からぶら下った。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
スマトラのドラゴイア人の中で病人が出来ると、その部落の魔法使いを呼んで来て、その病気が治るか治らないかをうらなわせる。もし不治と云えばその病人の口をして殺してしまう。
マルコポロから (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
洋服を着た若い男が二人、妙な器械を持って来て、水蒸気で家中をした。お陰で、虫の掃除は出来たが、その代り、大事な本が一緒に蒸されて、みんなべとべとになってしまった。
芝、麻布 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
わたしがまだ毛のふとんにくるまってあったまろうとほねっているとき、親方はジョリクールをまるくして、まるできにして食べるかと思うほど火の上でくるくる回したので
地上には季節の名残りが山々のひだに深い雪をとどめて、身を切るような北国の海風が、終日陰気に吹きまくっていようと云うに、五百尺の地底は、激しい地熱で暑さにせ返っていた。
坑鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「早く風を入れないと、おれたちはみんなれてしまう。お前の損になるよ。」
山男の四月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)