茶碗ちやわん)” の例文
そして小さな細かい気泡きほうが、茶碗ちやわんの表面に浮びあがり、やがて周囲のへりに寄り集つた。その時私はまた一つの角砂糖を壺から出した。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
茶碗ちやわんに茶をんで出すと、茶を飲む前にその茶碗を見る。これは日本人には家常茶飯かじやうさはんに見る事だが、西洋人は滅多めつたにやらぬらしい。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私共わたしども今日こんにち生活せいかつから茶碗ちやわんつぼなどをなくしてしまつたならば、どれだけ不便ふべんなことであるかは、十分じゆうぶん想像そう/″\出來できるのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
見れば、自分の爲に新しい茶碗ちやわんかくはしまでが用意されてあツた。周三は一しゆあつたか情趣じやうしゆを感じて、何といふ意味も無くうれしかつた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
みそはぎそばには茶碗ちやわんへ一ぱいみづまれた。夕方ゆふがたちかつてから三にん雨戸あまどしめて、のない提灯ちやうちんつて田圃たんぼえて墓地ぼちつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
若い丁稚でつちが、店使ひにしては贅澤過ぎる赤繪あかゑ茶碗ちやわんに、これも店使ひらしくない煎茶せんちやをくんで、そつとお靜の傍にすゝめました。
あげよと云ければ和吉わきちは番茶を茶碗ちやわんみイザと計りに進めけり發時そのとき主個あるじは此方に向ひ御用のすぢは如何なる品と問へば元益茶碗ちやわん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
井戸ゐどのふちに茶碗ちやわんゆゑ、けんのんなるべし。(かしや、かなざもの、しんたてまつる云々うんぬん)これは北海道ほくかいだう僻地へきち俚謠りえうなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
水煙みづけむりてました——ねえさんは三月兎ぐわつうさぎ友達ともだちとが何時いつになつてもきない麺麭ぱん分配ぶんぱいしたときに、茶碗ちやわんるのを
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
常並つねなみの人のうむには唾液つばしるを用ふれども、ちゞみの紵績をうみには茶碗ちやわんやうの物に水をたくはひてこれをもちふ。事毎ことごとてあらひ座をきよめてこれをなすなり。
はるやうやく一段落いちだんらくいた」とかたつてゐた。そこへきよ坂井さかゐからの口上こうじやういだので、御米およねをつとかほ微笑びせうした。宗助そうすけ茶碗ちやわんいて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其の時はまだ午後の一時頃でしたが、愚助は少うしおなかがすいてゐましたので、早速大きなお茶碗ちやわんに山盛り三杯食べました。それを見て、お父様は
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
うもこの煎茶せんちやの器械からお茶碗ちやわんからお茶托ちやたくまで結構尽けつこうづくめ、中々なか/\お店やなにかでういふものを使ふお店は無い事で、うもお菓子までへられて恐入おそれいります
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
兄は礼助のいで出した茶の最後のしたたりを、紫色した唇で切ると、茶碗ちやわんを逆に取つてながめながら
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
女は二つの茶碗ちやわんを置並ぶれば、玉の如き真白の粉末は封をひらきて、男の手よりその内にわかたれぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
酒屋の番頭が、笑ひながら茶碗ちやわんに一ぱいお酒を持つて来てくれると、松さんは、「や、済みません、済みません。」と頭をいて、茶碗に吸ひつくやうに口をあてがひ、うまさうに一息に飲んだ。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
飲料のみもの茶碗ちやわんには小さき羽虫の死骸しがい浮び
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「さあ、おまんま出來できたぞ」勘次かんじかまから茶碗ちやわんめしうつす。さうして自分じぶん農具のうぐつておつぎへたせてそれからさつさとすのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
茶碗ちやわん三葉みつば生煮なまにえらしいから、そつと片寄かたよせて、山葵わさびきもののやうに可恐おそろしがるのだから、われながらおがさめる。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さう言ひ乍ら、大澤傳右衞門は娘を呼んで汚ない茶碗ちやわんに茶をくんで出すのです。娘は十七八、非凡の美しさですが、茶道具の汚なさも非凡です。
宗助そうすけしたいて茶碗ちやわんいだちやんだだけであつた。なんこたへていゝか、適當てきたう言葉ことば見出みいださなかつたからである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
寄せ何か祕々ひそ/\さゝやきければ二人はハツと驚きしが三次はしばし小首をかたむ茶碗ちやわんの酒をぐつと呑干のみほし先生皆迄のたまふな我々が身にかゝる事委細承知と早乘が答へに長庵力を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それからこのちやうらうのお茶碗ちやわん——これ先達せんだつてもちよいと拝見はいけんをいたしましたが此四品このよしなでおいくらでげす。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
第一だいいち證人しようにん帽子屋ばうしやでした。かれ片手かたて茶碗ちやわん片手かたて牛酪麺麭バターパンかけつてはいつてました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
座敷にはくるしめる遊佐と沈着おちつきたる貫一と相対して、莨盆たばこぼんの火の消えんとすれど呼ばず、彼のかたはら茶托ちやたくの上に伏せたる茶碗ちやわんは、かつて肺病患者と知らでいだせしを恐れて除物のけものにしたりしをば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
茶碗ちやわんはしもてたたきてありき
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
勘次かんじもおつぎもみそはぎちひさな花束はなたばさき茶碗ちやわんみづひたしてみづをはらりといもつた茄子なすかけけた。勘次かんじ雨戸あまどを一ぱいけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
運命うんめいだなあ」とつて、茶碗ちやわんちやうまさうにんだ。御米およねはこれでも納得なつとく出來できなかつたとえて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
くら意地いぢつてるな、鑑定めきゝむとこれからお茶を立てるんで御広間おひろまかまかゝつてる、おめえにも二三教へた事もつたが、何時いつむやうにして茶碗ちやわんなぞはわかりません
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
たゞし人目ひとめがある。大道だいだう持出もちだして、一杯いつぱいでもあるまいから、土間どまはひつて、かまちうづたかくづれつんだ壁土かべつちなかに、あれをよ、きのこえたやうなびんから、逃腰にげごしで、茶碗ちやわんあふつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はづし元の如くかべにかけ圍爐裡ゐろりほとりには茶碗ちやわん又はさかなを少々取並とりならおき死したるお三婆がからだ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
月兎ぐわつうさぎ時計とけいつて物思ものおもはしげにそれをながめました、それからかれはそれを茶碗ちやわんなかひたしてまたそれをてゐました、しかかれ自分じぶん最初さいしよつた『それは上等じやうとう牛酪バターでした』と言葉ことばよりほかなに
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
一度いちど蕉園せうゑんさんがんでた、おまじなひ横町よこちやうはひらうとする、ちひさな道具屋だうぐやみせに、火鉢ひばち塗箱ぬりばこ茶碗ちやわん花活はないけぼん鬱金うこんきれうへふる茶碗ちやわんはしらにふツさりとしろ拂子ほつすなどのかゝつたなか
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おにごつこのときおにぎめのうたに、……(あてこに、こてこに、いけのふち茶碗ちやわんいて、あぶないことぢやつた。)おな民謠集みんえうしふに、のいけに(いけ)のててあり。あの土地とちにてふいけは井戸ゐどなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)