よし)” の例文
友人、芹川進君を紹介します、先生の御指南を得たいよしにて云々うんぬんという大まかな文章である。具体的な事柄ことがらには一つも触れていない。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
火に行く先をふさがれて、ぜひなくかごを休めていると、そこへそちと、もう一人、よしありげな女子おなごとが、気を失って引きずられてきた
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのかたわらに馬立てたる白髪のおきな角扣紐つのボタンどめにせし緑の猟人服かりゅうどふくに、うすきかちいろの帽をいただけるのみなれど、何となくよしありげに見ゆ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その男は仕合しあわせにも大した怪我けがもせず、瀑布ばくふを下ることが出来たけれど、その一刹那せつなに、頭髪がすっかり白くなってしまったよしである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
寺男も、この冬の晩遅くそんな女が、私に会いに来たのだから、余程、不思議に思って、急いで私の居間に来て、そのよしを告げた。
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
であるが、しかしこの語はすぐ前にある孔子の語、「徳孤ならず、必ずとなりあり」を反駁はんばくした形になっている。何かよしありげである。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「われにこそつらさは君が見すれども人にすみつく顔のけしきよ」とんだ故事があって、源氏の言葉はそれにもとづくよししるしてある。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お冬さんの眼の色いよいよけわしくなる。これにて一切の秘密判明。紳士は磯貝満彦といいて、東京の某実業家の息子なるよし。——
慈悲心鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この隠し子の存在にはお梶さまも相当煩悶したよしであるが、自分の結婚前ということが、ともかく納得なっとく手蔓てづるではあったらしい。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しかるに彼ら閣臣のやから事前じぜんにその企をきざすによしなからしむるほどの遠見と憂国の誠もなく、事後に局面を急転せしむる機智親切もなく
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
自分だけでこの秘密を胸に畳み込んでしまって、もうこの上よしない恐怖に人を陥れることは止めにしようと決心したのであった。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
我之を聞きて答へて曰ふ、汝わがうちまもりゐたりし事のよしに心をとめしならんには、わがなほ止まるを許し給ひしなるべし 一三—一五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
くゞりしとか申程にいやしく見えしよしすれば貴公樣あなたさまなどは御なりは見惡ふいらせられても泥中でいちう蓮華はちすとやらで御人品は自然おのづからかはらと玉程に違ふを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
友人にも同じくそのよしをいって無理やりに、その晩はうちへ帰って来たというが、青楼せいろうなどでは、往々にして、こういうはなしを聞くようである。
一つ枕 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
一種確定せる特別な民族たることを誇るによしなく、かえってよく他の長所を吸収する包容力あることを自慢せると同じである。
民族優勢説の危険 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
天下騒然た文を語る者なし、然るに君が家の蘭学事始は我輩学者社会の宝書なり、今これを失ふては後世子孫我洋学の歴史を知るによしなく
蘭学事始再版序 (新字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
それは鍛冶屋の隣りのおよし寡婦やもめが家、月三圓でその代り粟八分の飯で忍耐がまんしろと言ふ。口に似合はぬ親切な爺だと、松太郎は心に感謝した。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
妹のお絹によく似た細面ほそおもて、化粧崩れを直すよしもありませんが、生れ乍らの美しさは、どんなきたな作りをしても、おほふ由もなかつたのでせう。
今詳に之を知るによしなしと雖も、蛤貝の殼の内に魚鱗の充實じうじつしたるを發見はつけんする事有れば貝殼を以て魚鱗をのぞく事の有りしはたしかなるべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
これを如何ともするによしなく、ただ空しく、遠方から淪落りんらくの痴漢の暗き行末を、あわれみの眼もて見送るより外に、せんすべがないのである。
然るに昨夕さくせきのこと富岡老人近頃病床とこにあるよしを聞いたから見舞に出かけた、もし機会おりが可かったら貴所の一条を持出す積りで。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
柳浪広津りゅうろうひろつ先生は三十を越えてのちはじめて小説を書きしよし聞きたる事あり。夏目漱石なつめそうせき先生は帝国大学教授を辞して小説家となりし事人の知る所なり。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
床几しやうぎしたたはらけるに、いぬ一匹いつぴき其日そのひあさよりゆるもののよしやつしよくづきましたとて、老年としより餘念よねんもなげなり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼等の背後に、恐ろしい悪魔が、爛々らんらんたる眼を輝かせ、鋭い牙を剥いていようとは、古い言葉だが、神ならぬ身の、それと知るよしもなかった。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
如何いか南北朝なんぼくちょうの戦乱が、我邦わがくにの武備機関を膨脹せしめ、しこうしてその余勇は、漏らすによしなく、いて支那シナ辺海をみだしたるよ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
大原家の混雑は知るによしなし、中川家にては大原の去りたる後広海子爵が他人のおらぬを好機しおとして主人を対手あいてに結婚問題の研究を始めたり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
たゞのさ/\立廻りあるくばかり也。もつとも悪きことはせず。至つて正直なるよしなり。此処ここにては山女は見ず。又其沙汰さたも無し
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
三八さんぱちといへる百姓は一人ひとりの母につかへて、至孝ならぶものなかりける。或年あるとし霜月しもつき下旬の頃、母たけのこしよくたきよしのぞみける。
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
○正誤 前々号墨汁一滴にある人に聞けるまま雑誌『明星』廃刊のよし記したるに、廃刊にあらず、只今印刷中なり、と与謝野よさの氏より通知ありたり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
黄昏たそがれの白きもやのなかに、せまり来る暮色をはじき返すほどの目覚めざましききぬよしある女に相違ない。中野君はぴたりと留まった。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
栄二はふきげんな、怒ってでもいるような口ぶりで、自分が去年から幾たびか帳場のぜにをぬすみ、それを主婦のおよしにみつかったのだ、と告白した。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
コンクリー卜三階建で、建設費は百万ドル(日本金にして三億六千万円)のよしである。もう土台は完全にできていた。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
これ等は其の真偽を正すによしないが、印度の僧侶は今もなほかかることを行ひ、現に信ずべき記録に載せられてある。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
湖水のほとりのその庵に暫く足をとどめて静養するよしべ、それから筆を極めて湖水の眺望のいい事をいておる。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
もう一人の中年の女の人は、やはり一空さまをあがめて、洗耳房に出入りして子供たちの世話をしている、およしさんという近所のおかみさんだった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そしてたしかに請取つたよしを言つたが、印度人は何か待心まちごころでゐるらしく、両手を胸の上にんだまゝ、卓子テーブルの前にはだかつて一向帰らうとしなかつた。
切害せつがい致し候者は春部梅三郎と若江とこれ/\にて目下鴻ノ巣の宿屋にひそよし確かに聞込み候間早々の者を討果うちはたされ候えば親のあだを討たれ候かど
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
伊太利イタリーのさる繁華はんくわなるみなと宏大りつぱ商會しやうくわいてゝ、もつぱ貿易事業ぼうえきじげふゆだねてよし、おぼろながらにつたくのみ。
ぜんぜん死因を知るによしないものもあり、遺書をのこす場合にも、元来遺書なるものには非常な修飾や誇張や隠蔽いんぺいが行われているのが通例であるから
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
藤原秀郷、いつはりて門客に列すきのよしを称し、彼の陣に入るの処、将門喜悦の余り、くしけづるところの髪ををはらず、即ち烏帽子に引入れて之にえつす。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
お峯はその翌日も必ずきたるべきをおそれて夫の在宅を請ひけるが、果して来にけり。又試にをんないだして不在のよしを言はしめしに、こたびはぢきに立去らで
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「あれがおよしの色男だ」とその女の名を言つて、うちの人が私にある時計屋の職人をゆびさして見せたことが有つた。私は初めて「色男」といふ言葉を覚えた。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
例の『五戦記』では、この騎馬武者を誰とも知らず越後の荒川伊豆守なるべしと取沙汰したが、それを「政虎聞キ候テ可討留うちとどむべき物ヲ残リ多シト皆ニもうしよし
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
うすらぐべきよしもなくて、をうみ梅實うめおつおともそゞろさびしき幾日いくひ、をぐらきまどのあけくれに、をちかへりなく山時鳥やまほとゝぎすの、からくれなゐにはふりでねど
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「無礼をするな、拙者は御徒町おかちまちの島田虎之助じゃ、はたいならば時を告げてきたれ、恨みがあらばそのよしを言え」
ケリッヒ夫人は心を動かされた。社交界の人々にありがちな誇張した賛辞で、感動したよしを述べた。それでも彼女は、不真面目ふまじめに言ってるのではなかった。
のちあるしよ感冐かんばう豫防よばうするに冷水浴れいすゐよく非常ひじやう利益りえきあるよしふたゝ冷水浴れいすゐよくおこなひ、春夏しゆんかこう繼續けいぞくするをしも、寒冷かんれいころとなりては何時いつとなくおこたるにいた
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
街道の並木の松さすがに昔の名残を止むれども道脇の茶店いたずらにあれて鳥毛挟箱とりげはさみばこの行列見るによしなく
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
われはかくよしなき妄想を懷きてしばしあたりを忘れ居たるに、ふと心づきて畫工の方を見やれば、あないぶかし、畫工は大息つきて一つところを馳せめぐりたり。
あまりげんさんとよしさんがとしてばかりいると、「よし、おれがひとつやってせてやろかい。」といってたくなるのでしたが、それをがまんしていました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)