ねこ)” の例文
まことに子供というものは、黙って遊ばせておけば何を持出すやらわけのわからん、油断もすきもない、ぬすっとねこのようなものだ。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
いつでもねこ可愛かわいがりに愛されていて、身体こそ、六尺、十九貫もありましたが、ベビイ・フェイスの、だ、ほんとに子供でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
何げなくお民はその庭の見える廊下のところへ出てながめると人気ひとけのないのをよいことにして近所のねこがそこに入り込んで来ている。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『ナニ、そんなことつても駄目だめだ』とねこひました、『自分達じぶんたちだつてみんうしてたつて狂人きちがひなんだ。わたし狂人きちがひ。おまへ狂人きちがひ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ある日小ぐまさんがみちばたであそんでゐますと、おねこさんが通りがゝりました。お猫さんは、ふところから 赤いものをとりだして
みんなは「さんせいだ。」というようなかおをしましたが、さてだれ一人ひとりすすんでねこかっていこうというものはありませんでした。
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しかしこの大きな蛾をはたき落とすにはうちのねこでは間に合わない。高射砲など常識で考えても到底頼みになりそうもない品物である。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「だからぼく、さういつたんだ、いゝえ、あの、先生せんせい、さうではないの。ひとも、ねこも、いぬも、それからくまみんなおんなじ動物けだものだつて。」
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そうして、これも頭の禿げた人に特有の、れいのねこみたいな陰性の気むずかしさを持っている人のようである。ちょっと、こわい。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ヘルンはまたねこが特別に好きであった。松江に居た時も焼津に居た時も、道に捨猫さえ見れば拾って帰り、幾疋いくひきでもって育てた。
人間わざではない。別に足場とてもない漆喰しっくいの円柱だ。それを彼は一匹のねこのすばやさで、みるみる天井へと姿を消してしまった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もっとこまったことには、天井はねずみの牧場となり、ねこをたびたび征伐せいばつにつかわさぬかぎり、鼠算ねずみざんといってたちまち繁殖してしまう。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
火の中に尾はふたまたなる稀有けうの大ねこきばをならしはなをふきくわんを目がけてとらんとす。人々これを見て棺をすて、こけつまろびつにげまどふ。
今ジャヴェルが一種傲然ごうぜんたる信任を彼に置いているとしても、それはおのれのつめの長さだけの自由をねずみに与えるねこの信任であるし
きんねこの鬼」は、やがてへやもどつてきました。見ると、コノオレの子供がゐません。見まはしてみると、金の猫がありません。
金の猫の鬼 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
むまつのなく鹿しかたてがみなくいぬにやんいてじやれずねこはワンとえてまもらず、しかれどもおのづかむまなり鹿しかなりいぬなりねこなるをさまたけず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
日本にほん麻雀マアジヤン近頃ちかごろ少々せう/\ねこ杓子しやくしものかんじになつてしまつたが、わづか四五ねんほどのあひだにこれほど隆盛りうせい勝負事しようぶごとはあるまいし
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
彼女はまだ若かった父や母にねこの子のように育てられて来た。銀子の素直で素朴そぼくな親への愛情は、均平にもうらやましいほどだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
三郎さぶろうとなりに、おばあさんがんでいました。そのおばあさんは、一ぴきのねこっていました。そのねこは、よく三郎さぶろううちあそびにきました。
少年の日の悲哀 (新字新仮名) / 小川未明(著)
原稿げんかうく、もちよくふではこぶので夢中むちうになつた、その夢中むちうましたこゑねこである、あら座蒲團ざぶとんすはつて、すましてゐる。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
小僧はぼんやりして、知らんがの、と云った。気の利かぬ田舎いなかものだ。ねこの額ほどな町内のくせに、中学校のありかも知らぬやつがあるものか。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おれたちは何だってこんなに泥棒ねこ扱いに、いじめられるんだろうなあ」と、藤原がため息と一緒に吐き出すようにいった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
と、いままでの元気はどこへやら、ホールはしかられたねこのようにいくじなくちぢまって、しばらくたってから、やっとこさで
この「倫敦消息」は後年の『吾輩わがはいねこである』をどことなく彷彿ほうふつせしめるところのものがある。試みにその一節を載せて見る。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
窮鼠きゅうそねこを噛むということも一応思ってみる必要がある。ちょっと暗闇にひとみが馴れてこないうちは迂濶うかつに飛びかかれぬ気もした。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名人めいじんとか上手じょうずとか評判ひょうばんされているだけに、坊主ぼうずぶ十七八の弟子でしほかは、ねこぴきもいない、たった二人ふたりくらしであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ねこのやうな耳をもち、ぼやぼやした灰いろの髪をした雪婆んごは、西の山脈の、ちぢれたぎらぎらの雲を越えて、遠くへでかけてゐたのです。
水仙月の四日 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ねこを可愛がることと、球をくことと、盆栽ぼんさいをいじくることと、安カフェエの女をからかいに行くことぐらいより、何の仕事も思い付かない。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ねこ死人しにんえてわたるとけるといつてねこ防禦ばうぎよであつた。せてけばねこわたらないとしんぜられてるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
眼は変わりやすくて、灰色であり琥珀こはく色であり、緑や金など各種の反映を帯びることができ、あたかもねこの眼のようだった。
支那しな産のねこの小さくかわいいのを、少し大きな猫があとから追って来て、にわかに御簾みすの下から出ようとする時、猫の勢いにおそれて横へ寄り
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
こういう意味において表裏の差を生ずるはもちろん望ましからぬことで、いわゆるおおかみひつじの皮をかぶるがごときもの、俗にいうねこかぶるのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
気持きもちがいいだって! まあおまえさんでもちがったのかい、たれよりもかしこいここのねこさんにでも、女御主人おんなごしゅじんにでもいてごらんよ、みずなかおよいだり
「勘太郎が鬼退治をするとよ、ねずみねこりに行くよりひどいや。阿呆あほもあのくらいになると面白おもしろいな。」と言った。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
と、船長ノルマンは、憎々にくにくしげにいいはなって、竹見の襟髪をもったまま、ねこでもあつかうようにふりまわした。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
尤も眼をいて見せたら子供はこはがる、こぶしを振廻したらねこに逃げる、雖然魂のある大人おとなに向ツては何等の利目きめが無い。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「この頃はお友達の詩人の藤村ふじむら女史に来て貰って、バロック時代の服飾ふくしょくの研究を始めた」とか「日本のバロック時代の天才彫刻家左甚五郎じんごろう作のねむねこを ...
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わたくしは星野ニャン子ともうします 地球のねこをんなの子であります 仕事はわるねずみべたり 追つたりいたします
なんてまあ、いいだらう」と、それをだい一につけたねこうらやましさうに、まづめました。いぬきつね野鼠のねづみも、みな
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「贄釜の中へ贄を入れろ——ッ、……贄持って来オ——ッ、犬、狐、まみねこ、兎、贄のハダカを持って来オ——ッ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そしてグルッと身体を廻すと、ねこがするように塀をもがいて上るような恰好をした。犬がその後から喰らいつた。
人を殺す犬 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
助なあこが通っても知らぬ顔だし、彼を見たにしても、その眼にはなんの表情もあらわれない、犬かねこでも見るような、まったく無縁な眼つきであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
富貴ふうきには親類顏しんるゐがほ幾代先いくだいさきの誰樣たれさまなに縁故えんこありとかなしとかねこもらぬしまでが實家さとあしらひのえせ追從つゐしよう
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さかなのはらわたをぶちまけたようなものが、うす暗い中で、泣いているわ。手をやると、それがぴくりと動いた。毛のないところを見れば、ねこでもあるまい。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幸坊は、かはいさうになつて、餌をまいてやると、そこへ、いきなり、まつ黒なねこが一ぴきとび出してきます。
幸坊の猫と鶏 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
理髪所とこやの隣に万屋よろずやあり、万屋の隣に農家あり、農家の前にはむしろ敷きてわらべねこと仲よく遊べる、茅屋くさやの軒先には羽虫はむしの群れ輪をなして飛ぶが夕日に映りたる
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
——ここの細君は美佐子を「ミーちゃん」と妹のように、(あるいは愛するねこに向ってのように)呼んでいた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
彼はねこが庭に出るとしかってった。猫は庭で過ってちょうとか、とかげなぞ趁うと、土の上につめあとをのこした。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
それから省作はろくろく繩もなわず、芋を食ったりねこをおい回したり、用もないに家のまわりを回って見たりして、わずかに心のもしゃくしゃを紛らかした。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
まるで、ねこでももらいうける交渉のような、こともなげな切り出し方だが、ふとい声が、ふるえていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)