ながれ)” の例文
ですから何日いつかの何時頃、此処ここで見たから、もう一度見たいといっても、そうはかぬ。川のながれは同じでも、今のは前刻さっきの水ではない。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やはり上代じょうだいからぎ出して、順次に根気よく人文発展のながれを下って来ないと、この突如たる勃興ぼっこうの真髄が納得なっとく出来ないという意味から
以上河流かりうと運河の外なほ東京の水の美に関しては処々しよ/\の下水が落合つて次第に川の如きながれをなす溝川みぞかはの光景をたづねて見なければならない。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
また平に出た、南又のながれが置き残した段階の一である。大きな作畑小屋が河に臨んで立っている、岩屋の大小屋というのだそうだ。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
水門のながれには、ところどころもの凄い渦巻が巻いていて、艦をその中へ乗り入れると、さしもの本多鋼鉄で出来ている大艦『最上』も
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
吾妻川あがつまがわながれも冬の中頃ゆえ水はれて居りますが、名に負う急流、岩に当って打落す水音高くごう/\と物凄き有様でございます。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蜘蛛には、このながれの早い川を泳ぎわたることなんか、とてもできやしない。といって、蝶やとんぼのように飛ぶこともできない。
智恵の一太郎 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
つよい小浜兵曹長は、はげしい空気のながれにもひるまず、たったったっと綱にぶらさがって、青江三空曹のそばに近づきました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
白く谷川がさらさらとながれている。その辺は一面に小石や、砂利で、森然しんとして山に生い茂った木立が四境あたりを深くとざしている。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その堤は毎日通う小学校の続きになるので、名高い大橋に対して小橋という、学校の傍の石橋のしもになって、細いながれが土手下を通っています。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そういう時はあらゆる人の胸を流れる愛のながれが、己の胸にも流れて来て、胸が広うなったような心持がしたものだ。今はそんな心持は夢にもせぬ。
あたかも太古から尽未来際じんみらいざいまで大きな河のながれが流れ通しているように雨は降り通していて、自分の生涯のうちの或日に雨が降っているのではなくて
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
参木はその人のながれの上に棚曳たなびいたうす霧の晴れていくのを見ていると、秋蘭と別れる時の近づいたのを感じた。彼は秋蘭の部屋の緞帳どんちょうを揺すった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
文化の初め頃、山麓某村の農民二人、川芎せんきゅうといふ薬草を採りに、此山西北の谿たにに入って還ることなり難く、ながれうた大木の虚洞うつろに夜を過すとて
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
陰陽術ノながれヲ伝ウル者、真言秘密ノ行者、修験者よげんじゃ、祈祷師、代人、巫女みこ、ソノ他、何々教、何々様ト称スル神仏類似ノモノニ奉仕スル輩ノ中ニハ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
林が尽きて月が見えたかとおもうと、また急にながれの面が光り出した。向うが開けて、平野のようになっている。月光の涯は煙っているようでもある。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
毛氈まうせん老樹らうじゆもとにしきたばこくゆらせつゝ眺望みわたせば、引舟は浪にさかのぼりてうごかざるが如く、くだる舟はながれしたがふてとぶたり。行雁かうがん字をならべ帰樵きせう画をひらく。
れど瀧口、口にくはへし松が枝の小搖こゆるぎも見せず。見事みごと振鈴しんれいの響に耳をまして、含識がんしきながれ、さすがに濁らず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ながれの女は朝鮮に流れ渡つて後、更に何處いづこはてに漂泊して其果敢はかない生涯を送つて居るやら、それとも既に此世を辭してむしろ靜肅なる死の國におもむいたことやら
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
二十三日、いえのあるじにともなわれて、牛の牢という渓間たにまにゆく。げにこのながれにはうおまずというもことわりなり。水のるる所、砂石しゃせき皆赤く、こけなどは少しも生ぜず。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
仕掛ながれの末には杜若かきつばたなど咲き躑躅つゝぢ盛りなりわづかの處なれど風景よし笠翁りつをうの詩に山民習得ならひえて一身ものうかん茅龕ばうがんに臥しうみて松にかへつ辛勤しんきんとつ澗水かんすゐおくる曉夜を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
けだし、学校の教育をして順にせしむること、ながれにしたがいて水を治むるが如くせんとはこのいいなり。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
其処では無造作に髪を束ねた若い上さんが、四角の箱の中から、鋸屑の一杯についた氷塊こほりを出して、それをながれで洗つて、鉋でかいて、雪にして、そして客に勧めた。
百日紅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
後なる男を引揚ぐると共に、己は身を躍らしてざんぶと逆捲く水に飛入り様、ながれ行く仙太のうなじに両手を搦みて、二人は濁に濁れる千丈の浪の底の底へと沈行しずみゆきけり。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
思ひ出し給はば夫にてこゝろざしの程は知て居るなり夫に只今たゞいま質屋しちやよりながれ催促さいそくに來りしを聞れ斯樣の事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さうして街の水路から樋をくぐつて來るかのちひさいながれは隱居屋の涼み臺の下を流れ、泉水に分れ注ぎ、酒桶を洗ひ眞白な米を流す水となり、同じ屋敷内の瀦水に落ち
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
重蔵もそぞろに三十年ぜんの夢を辿って、谷川のながれに映る自己おのれの白髪頭を撫でた。それに付けてもお杉はうしたろう。生きては俺を恨んでいるだろう、死んでは俺を呪っているだろう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、繰り返し繰り返し歌ひながら、水のながれにつれて川下の方へ流れてゆきました。
少女と海鬼灯 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
兎角とかくしておよそ時間じかんばかりは、くるはし沙魚ふかのためにかれて、いつしかうしほながれをもだつし、沙魚ふか領海りようかいからはすでに十四五海里かいりへだたつたとおもころ流石さすが猛惡まうあくなるうをつひ疲勞つかたをれて
次の年には父は誰のとも決めずにながれを鮎の上る燈籠を西瓜で彫つてくれました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
誰が何時来ておがむのか。西行さいぎょうならばたしかに歌よむであろ。歌も句もなく原を過ぎて、がけの下、小さなながれ沿うてまた一つ小屋がある。これが斗満最奥さいおく人家じんかで、駅逓えきていから此処ここまで二里。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「どうせ金で買われて行くながれの身なんですもの唄いますわ、唄いましょう!」
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
そしてこの要求は世界大となりて遂に満たさるべきものである。高等動物の眼の如きはすこぶる精妙なるものであるが、生物進化のながれさかのぼってみればその初現は一黒点、一核子たるに過ぎない。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
焼野やけの雉子きぎすよるの鶴、錆田さびたの雀は子をかばう。いわんや、鯨は魚の長。愛情の深さはまたなかなか。……さて、皆々さま、これなるは、つき鯨のより鯨のながれ鯨のとそんな有りふれた鯨ではござりませぬ。
つなおろして岩角を攀登はんとし、千辛万苦つゐに井戸沢山脈の頂上てうじやういたる、頂上に一小窪あり、涓滴けんてきの水あつまりてながれをなす、衆はじめて蘇生そせいの想をなし、めしかしぐを得たり、はからざりき雲霧漸次にきた
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
現代思想の大河だいがに波を揚げる一脈のながれに外ならないと思ふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
一段また一段と落ちて来て、千のながれになり
一段又一段と落ちて来て、千のながれになり
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
たゆみなく、音なく移るながれには
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ながれよ、あはき 嬌羞けうしう
ながれればさかしまに
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
吃驚びっくりさせられる事があるんです。——いつかも修善寺の温泉宿ゆやどで、あすこに廊下の橋がかりに川水を引入れたながれの瀬があるでしょう。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、とうとう黒潮のながれに乗ったり、貿易風に吹かれたりして、マーシャル諸島のはずれにある、小さい無人島へたどりついた。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
王子おうじ宇治うじ柴舟しばぶねのしばし目を流すべき島山しまやまもなく護国寺ごこくじ吉野よしのに似て一目ひとめ千本の雪のあけぼの思ひやらるゝにやここながれなくて口惜くちおし。
西の方の低い谷間の空は、山の吐くらしい息が薄白く淀んで、其底には早月川のながれが一条の銀蛇となって、北に走っているのが仄に見られる。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
かれところによると、清水谷しみづだにから辨慶橋べんけいばしつうじる泥溝どぶやうほそながれなかに、春先はるさきになると無數むすうかへるうまれるのださうである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
此の藤木川のながれが、当今静岡県と神奈川県の境界さかいになって居ります。千歳川のしも五所ごしょ明神という古いやしろがあります。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
毛氈まうせん老樹らうじゆもとにしきたばこくゆらせつゝ眺望みわたせば、引舟は浪にさかのぼりてうごかざるが如く、くだる舟はながれしたがふてとぶたり。行雁かうがん字をならべ帰樵きせう画をひらく。
さてなにがしぼくしたが我家わがやをさしてかへみちすがらさき雲飛うんぴが石をひろつた川とおなじながれかゝつて居るはしまで來ると、ぼくすこかたやすめるつもりで石を欄干らんかんにもたせてほつ一息ひといき
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
勇吉ゆうきちは、そのあとからついていきました。しばらくすると、きゅうにながれれがおとをたてている谷川たにがわのほとりにました。バスのまどからしたえたのは、このかわだったのです。
雲のわくころ (新字新仮名) / 小川未明(著)