あく)” の例文
何故行ったか判らないが、少し狂気染きちがいじみた女だから、何だか夢のようにふらふら出掛けたらしいよ。で、あくる日茫然ぼんやり帰って来たんだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あくる日爺はその事を村の者に話した。するとおれも今晩は見届てやると村の若者は爺の家に集って、寝ずにその頃となるのを待っていた。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
十月中旬には珍らしいといわれるほど夜の間に雪が四、五寸も積って、あくる一日は吹雪に暮れ、それがれると絶好の登山日和となった。
尾瀬雑談 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
さて其の年も暮れ、あくれば嬢様は十七歳にお成りあそばしました。こゝにかねて飯島様へお出入でいりのお医者に山本志丈やまもとしじょうと申す者がございます。
津田のあくあさ眼をましたのはいつもよりずっと遅かった。家のなかはもう一片付ひとかたづきかたづいた後のようにひっそりかんとしていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あくる朝。昨日の雨にひきかえて、すっきりと晴れあがった空を見ながら、洋館のベランダで敦夫と千代子が話していた。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さゝるゝな立派な出世致すべしかくてこそ予にたい忠義ちうぎなるぞと申聞られ一人々々ひとり/\盃盞さかづきを下され夫より夜のあくるをまちける此時越前守の奧方おくがたには奧御用人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私は先日の取りかへしをする積りで心うれしく、イソ/\して居るところへ私の従妹いとこ二人からその言伝ことつてがあつて、あくる日の午過ひるすぎに遊びにくるといふことでした。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
あくる年の一月、謝肉祭の頃なりき、家財衣類なども売尽して、日々のけぶりも立てかぬるやうになりしかば、貧しき子供の群に入りてわれも菫花すみれ売ることを覚えつ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ところがあくる日になつて姉の様子が急に変つてゐるんで、木場は初て其門違かどちがひを知つたんださうですが、もうどうする事もできず、結婚と云ふ事になつたのです。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
市場いちばとてちゞみの市あるは、まへにいへる堀の内十日町小千谷をぢや塩沢しほざはの四ヶ所也。初市はついち里言りげんにすだれあきといふ。雪がこひのすだれあくをいふ也、四月のはじめにあり
あくれば天明元年、春水本国広島藩のまねきに応じて藩学の教授となれり。其婦と長子とを携へて竹原に帰り父を省し、更に厳島いつくしまの祠に詣づ、襄は襁褓むつきの中に龕前がんぜんに拝せり。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
始めは清河せいか崔氏さいしむすめと一しょになりました。うつくしいつつましやかな女だったような気がします。そうしてあくる年、進士しんしの試験に及第して、渭南いなんになりました。
黄粱夢 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
家康が濃州のうしゅう金山かなやまの城主森忠政もりただまさを信州川中島に転封てんぽうしたおり、その天守閣と楼櫓やぐらとを時の犬山城主石川光吉に与えた、それをあくる年の五月に木曾川をくだしてこの犬山に運び
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
あくる日起きた時には、大根もごぼうも、昨日きのふの事はすつかり忘れてしまつて、いまだに思ひ出さないで、ごぼうは元のまゝの茶色で、毛だらけの顔をして 平気で暮してゐます。
ゴボウ君と大根君 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
あくあしたの食後、貫一はづこの狭き畑下戸はたおり隅々すみずみまで一遍ひとわたり見周みめぐりて、ぼその状況を知るとともに、清琴楼の家格いへがらを考へなどして、かはらに出づれば、浅瀬にかかれる板橋の風情ふぜい面白く
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
代紙よがみ江戸絵えどゑをお土産みやげにもらつて、あくむらへかへつてきました。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
書生しよせい千葉ちばさむかるべきをおぼしやり、物縫ものぬひのなかといふに命令いひつけて、おほせければそむくによしく、すこしはなげやりの氣味きみにてりし、飛白かすり綿入わたい羽織はをりときの仕立したてさせ、あくたまふに
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その賊のためにのこらず金子きんすを奪われて、あくる日の宿料もない始末。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのあくる朝、新聞紙は写真入で百合子女史の洋行ばなしを伝へた。
雪ふりのあくる日ぬくし藪椿 之道
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
そのあくる日、小林藤十郎殿は本所の名主のうち出役しゅつやくいたし、また其の頃八丁堀にて捕者とりての名人と聞えたる手先二人ににんは業平橋の料理屋にまいりました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
商家の小僧が短夜みじかよ恨めしげに店の大戸がらがらとあくれば、寝衣ねまき姿すがたなまめきてしどけなき若き娘が今朝の早起を誇顔ほこりがお
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あく役所やくしよると、みんなから病氣びやうきはどうだとかれた。なかにはすこせたやうですねとふものもあつた。宗助そうすけにはそれ無意識むいしき冷評れいひやう意味いみきこえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あくる日、いろいろな男共が、このの前に集って口を極めてこのおくらのことを悪者などといってののしった。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あくる朝まだ暗い中に三人とも起きた。綿入れの人は例の如く飯盒を提げて米を研ぎに行く、洋服の人が蝋燭をともして周りを紙で囲いながら後に跟いてお伴する。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
あざむとり仕合しあはせよしと微笑合ほゝゑみあひこれかうしてあゝしてとおごる事而已のみ談合かたらひけりさて其年そのとしくれあくれば享保きやうほ九年春も三月となりしに江戸中えどぢう大火たいくわに付此白子屋も諸侯方しよこうがたはじ多分たぶんよう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あくる日の朝、食事の後で龍介は自動車で子爵を訪ねた。子爵もちょうど食事を終ったところだったが、龍介を迎えると、急いで書斎へ導いて、卓子テーブルの上を指示した。
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あくる日表の格子戸をのぞいて、下駄箱げたばこの上に載せた万年青おもとの鉢が後向うしろむきにしてあれば、これは誰もいないという合図なので、大びらに這入はいるが、そうでない時はそっと通り過ぎてしまう。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼はゆるされざるとらはれにもおなじかる思を悩みて、元日のあくるよりいとど懊悩おうのうの遣る方無かりけるも、年の始といふにすべきやまひならねば、起きゐるままに本意ならぬよそほひも、色を好める夫に勧められて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
打切したる岸にはかりに小屋をつくりて、漁師れふしども昼夜ちうやこゝにありて夜もずして鮏のかゝるをまつ也。七月より此わざをなしはじめて十二月かんあくまで、一連いちれんのものかはる/\此小屋にありて鮏をとる。
すると、そのあくる朝また裁判所へび出された。
父や母に自分の未来を打ち明けたあくる朝、便所から風呂場へ通う縁側えんがわで、自分はこの嫂にぱたりと出会った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あくる二十七日は天候さえ良好ならば、午前三時頃に小屋をお立ちになって、一日に槍穂高間を御縦走なさる御予定であったが、早暁より風も強く雲も低く垂れて
あくる日は、外は白くなっていた。空は不安に、雲が乱れていて、もはや雪の来る始めの日であることが分った。昼時分、やはり何処からともなく僧は村に入って来た。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
嫁入仕度よめいりじたくの都合などもあろうからすぐに引取っても差支さしつかえないと答えた。彼女はあくの午後に去った。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
施して勇進いさみすゝんで御役宅やくたくへ歸り早速さつそく公用人二人を呼出よびいだし次右衞門に言付いひつけけるは其方是より芝八山へ參りあくこく越前役宅へ天一坊參候樣申聞べし必ずさとられるなと心付られ又三五郎を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と慾というものはおそろしいもので、あくる日は日の暮れるのを待っていました。
せがれが一人、娘が一人あったが、忰の方は出征すると間もなく戦死し、娘はそれより以前に結婚して下ノ関に在る良人おっとの家に行ってしまったので、その後戦争が終ったあくる年の秋、老妻に死なれた時
老人 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
突如! あくる朝から龍介の大活躍がはじまった。
幽霊屋敷の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
三四郎は其日から四日よつかとこを離れなかつた。五日いつか目に怖々こわ/″\ながら湯にはいつて、鏡を見た。亡者の相がある。思ひ切つて床屋とこやつた。そのあくは日曜である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あくる年の春、うす紫の藤の花が咲く時分に、ついにこの憐むべき女は狂わしの身となって、人をうらみ世をいきどおって、遂にこの池の中に身を沈めて、妖霊ようれいに化したのである。
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いずれ近所の人の児であろうと、あくる朝方々ほうぼうへ問い合わして見たが、このしゅくでは小児こどもられた者は一人ひとりも無い。隣村にも無い。つま何処どこから持って来たのだか判らずにしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
岩磐は裸足で歩けない程熱いから、そこを付け込んで、汗に汚れた物を皆洗って岩の上に拡げて置く。あくる朝になって見ると果してのしをかけたように乾いていた。実に贅沢な野営であった。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
あくまたおなやうあめつた。夫婦ふうふまたおなやうおなことかへした。そのあくもまだれなかつた。三日目みつかめあさになつて、宗助そうすけまゆちゞめて舌打したうちをした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
下では何時いつ頃婆さんが眠るものか、……それとも夜中よじゅうああやって、やはり坐り通してあかすのかも知れないが、あくる朝起きて下へ降りて見る頃には、きっといつもの様子で
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私は毎朝払い落すと、午頃ひるごろには大きな網が再び元のように張られている。夕方に再び払い落すと、あくる朝にはまたもや大きく張られている。私が根よく払い落すと、彼も根よく網を張る。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二百十日にひゃくとおかあくる日に神戸を立ったのだから、多少の波風は無論おいでなさるんだろうと思ってちゃんと覚悟をきめていたところが、天気が存外呑気のんきにできたもので
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あくる日も雨だ。私の空想はもはや疲れた。朝から、青桐に来て烏が止っている。茫然ぼんやりと窓にもたれて、張り付けたような空を見ていると、烏が、時々頭を傾げて何物かに瞳をこらしている。
抜髪 (新字新仮名) / 小川未明(著)
忠一はその夜、安行の霊前に通夜した。あくる日はくもって寒かった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)