さまた)” の例文
腕も拔群ですが、何よりの特色はその輕捷けいせふな身體で、もう一つの特色は、さまたげる者は殺さずんばまない、鬼畜の如き殘虐ざんぎやく性でした。
ふでの進みをさまたげたことであらう? この時ばかりはいろいろな病苦に慣らされた私も自分の病弱を恨み悲しまずにはゐられなかつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
阿閉淡路守は斬られ、一子孫五郎は湖畔から船でのがれようとしたところを、里の者にさまたげられた上、なぶり殺しにされてしまった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さまたげんと何國いづくの者やら相分あひわからざる醫師を遣し世に有りしとも覺えざるテレメンテーナといふ藥の事を吹聽ふいちやうし結納までも取かはせし婚姻を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
成経 父は宗盛をひどくにくんでいました。法皇ほうおうは父にその位を与えたいと思っていられるのに、あの清盛きよもりがそれをさまたげましたから。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
左へ曲るも右へ曲るも畢竟ひっきょう、月の引力を受けていたのだ。故意か偶然か、宇宙艇はついに火星へ飛ぶべき進路をさまたげられてしまった。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼女の仕事をさまたげることをおそれて、其処そこに彼女をひとり残したまま、その渓流に沿うた小径をぶらぶら上流の方へと歩いて行った。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
また写実や投射法を無視した構図に対しても、そのおのずからな感情に導かれて、それらが少しも観照をさまたげないことに注目されました。
欧羅巴ヨーロッパの通商をさまたげ、かつその平穏へいおんみだせし希臘ギリシア国の戦争をたいらげんがため、耶蘇教の諸大国、魯西亜ロシア国とともにこれを和解、鎮定ちんていせり。
……しかし何だか打ち解けるのをさまたげるものがあるような気がして、頭のなかで動いていながらも口にして言い出すことは出来なかった。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
むまつのなく鹿しかたてがみなくいぬにやんいてじやれずねこはワンとえてまもらず、しかれどもおのづかむまなり鹿しかなりいぬなりねこなるをさまたけず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
これをさまたげようとするものはわざわいなるかな。矢は遂になんじの身に立とう。たとえ仏の使いなりとも、神通第一の修行者なりとも用捨はない。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
卯平うへいはおつぎのするまゝまかせてすこくちうごかすやうであつたが、またごつときつける疾風しつぷうさまたげられた。おつぎはとなりには騷擾さうぜういた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
暁方あけがたまで読んだところが、あしたの事業にさまたげがあるというので、その本をば机の上にほうはなしにしてとこについて自分は寝入ってしまった。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
さまたげてもって死を送らんとすることを恐る。死者知るなしと言わんとすれば、まさに不孝の子その親をててほうむらざらんとすることを恐る。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ついに決断して青森行きの船出づるに投じ、突然とつぜん此地を後になしぬ。わかれげなばさまたげ多からむをおもんぱかり、ただわずかに一書を友人にのこせるのみ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大空の神のお子がおくだりになろうとするのに、そのお通り道をさまたげているおまえは何者かと、しっかりめただして来い
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
あるいはこの犬飼が妻の逃げ去るのをさまたげるために、その羽衣を畠の土の中に、埋めておいたという話も天草にはある。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
書生は政治を談ずるのはいけないとなっているが、これは法律命令の範囲でなるべくそのさまたげを除いてみたいと思う。
政治趣味の涵養 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
(あの頃のわたしの心には、悪霊がいていたのだよ。自分の子のような小次郎に恋して、妹の恋をさまたげたなんて、いったい何んということだろう)
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この国には山にも森にも、あるいは家々の並んだ町にも、何か不思議な力がひそんで居ります。そうしてそれが冥々めいめいうちに、私の使命をさまたげて居ります。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は渾身こんしんの力でそれをさまたげましたけれど、瀕死ひんしの彼の首は非常に強いゼンマイ仕掛けでもあるかの様に、じりじりと私の方へ捲じ向いて来るのでした。
喞筒はようやくここまで馬を動かしたが、二三間先きの曲り角にさまたげられて、どうする事もできずに、焔を見物している。焔は鼻の先から燃え上がる。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
君は平生へいぜい何でも実用主義を唱えて風流は国の害だとか美文は教育のさまたげだとかしきりに我が党を攻撃されるが、この卓上に花を飾ってあるのは何の訳だね。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
わざはひの甚しからぬも、商工わたらひさまたげ物を破りて、垣の隣のそしりをふせぎがたく、害の大なるにおよびては、家を失ひ、国をほろぼして、天が下に笑を伝ふ。
どんなものにも、したいことをさまたげられるのが、一世一代の誇りを傷つけられるかのように思い込んで、いのち懸けになるのが、雲助、がえんの根性だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
かくごとくして國債こくさい巨額きよがくえることは、やがては日本にほん産業資金さんげふしきん壓迫あつぱくして、將來しやうらい我國産業わがくにさんげふ發達はつたつさまたげる。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
しかれども夏季に配合して夏の霞を詠じ、秋季に配合して秋の雲峰を詠ずるの類はもとよりさまたぐる所あらず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかし、よるになると森林しんりんは、枝葉えだは土地とちをおほつてゐますから、その地面じめん空氣くうきと、𤍠ねつ放散ほうさんするのをさまたげるので、そこの空氣くうきかたすくないことになります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
佐助は五六人の手代や丁稚共と立つと頭がつかえるような低いせまい部屋へ寝るので彼等かれらねむりをさまたげぬことを条件として内証にしておいてくれるように頼んだ。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
供前ともまえさまたぐるのみならず、提灯を打落うちおとし、印物しるしものもやしましたから、憎い奴、手打にしようと思ったが、となりづからの中間ちゅうげんを切るでもないと我慢をしているうちに
なが沈默ちんもくぐにわづかこれだけの言葉ことばでした、それも時々とき/″\グリフォンの『御尤ごもつとも!』と間投詞かんとうしや、えず海龜うみがめくるしさうな歔欷すゝりなきとにさまたげられてえ/″\に。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そして相手の連中の行くところへいっしょに行って下さい。そして、立っていろというところに立っていて人などが出て来てさまたげなどする場合はよく防いで下さい。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
第三十一条 本章ニ掲ケタル条規じょうき戦時せんじ又ハ国家事変じへんノ場合ニおいテ天皇大権たいけんノ施行ヲさまたクルコトナシ
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
大陸たいりくは、たとへばあめうみうかんでゐるふねである。これが浮動ふどうさまたげゐるのは深海床しんかいしようからばされた章魚たこである。そしてこの章魚たこ大陸たいりく船縁ふなべりつかんでゐるのである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
チベット人はいつも嘘をいたり仰々ぎょうぎょうしい事を言うのが癖で、もし途中でこのお方は法王の侍従医だなんて、仰々しい事を言われるとかえってさまたげになるだろうと思い
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これ我が天職なり、これ我々がまさにむべき道なりとの確信のもとに働ける人、すなわち意志の強き人は世にはびこり、ために何人なんぴとかの進路をさまたげ、人から邪魔視じゃましされる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かくて當日このひは、二十ちかすゝんでれたので、よる鐵車てつしやをばいち大樹だいじゆ下蔭したかげとゞめて、終夜しうや篝火かゞりびき、二人ふたりづゝ交代こうたいねむつもりであつたが、いかさけ猛獸まうじうこゑさまたげられて
いよいよ出立しゅったつの日妾に向かい、内地にては常に郷里のために目的をさまたげられ、万事に失敗して御身おんみにまで非常の心痛をかけたりしが、今回のこうによりて、いささかそをつぐない得べし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
これがまた彼の心を他へそゝのかして、幾分いくぶん其の製作をさまたげてゐる。無論むろん藝術家が製作に熱中してゐる場合に、些としたひつかゝり氣懸きがゝりがあつても他から想像さう/″\されぬ位の打撃だげきとなる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
幸ひに可忌いまわしい坊主の影は、公園の一ぼくそうをもさまたげず。又……人の往来ゆきかふさへほとんどない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
他人の来たりてわが権義を害するを欲せざれば、われもまた他人の権義をさまたぐべからず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あやしい運命にさまたげられゝば妨げられる程、余計に丑松の胸はあふれるやうに感ぜられた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ただ農作のうさくさまたぐるのみにして、米の収穫しゅうかく如何いかんは貿易上に関係なしといえども、東北地方は我国の養蚕地ようさんちにして、もしもその地方が戦争のためにらされて生糸の輸出ゆしゅつ断絶だんぜつする時は
茂兵衛 おさまたげして相済みません。取手へ参って、判らぬまでも捜して見ましょう。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
……吾人ごじん結束せんとするや、彼等直ちにこれをさまたぐ、これを破る。我国社会運動の遅々ちちとして進まざる、すなわち此の無政府党あるに依る。実に彼等は社会主義の仇敵きゅうてきなり、人類の仇敵なり。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
パリス おゝ、かりそめにも勤行ごんぎゃうのおさまたげをしてはならぬ!……ヂュリエットどの、木曜日もくえうびにはあさはやうおむかへきませうぜ。それまでは、おさらば。このきよ接吻キッス保有しまっておいてくだされ。
自分は何故なぜあの時あのような心にもない意見をして長吉の望みをさまたげたのかと後悔の念にめられた。蘿月はもう一度思うともなく、女に迷って親の家を追出された若い時分の事を回想した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「お差支へのやうでございましたから、おさまたげしたくないと存じまして。」
僕達のは相思の間柄でも浮世の義理にさまたげられた一例だ。しお互に理智が発達していなかったら、心中騒ぎを仕出来しでかすところだったろう。僕の家と隣とは親父同志余り仲が好くなかったんだ。
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)