)” の例文
私共の村から夏の夕食後に一寸九段下あたりまで縁日をやかしに往って帰る位何の造作ぞうさもなくなったのは、もう余程以前の事です。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そしてガラスだまのような、ややかにひかでじっとそれをていましたが、やがて舌打したうちをして、いまいましそうにいいました。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ばかなことをいうな。私は何度も聴診したが、心臓の鼓動なんて一度も聞えなかった。それに、ほら、こんなにえ切っている……」
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一時ひとしきり騒々さう/″\しかつたのが、寂寞ひつそりばつたりして平時いつもより余計よけいさびしくける……さあ、一分いつぷん一秒いちびやうえ、ほねきざまれるおもひ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ほつと吐息をして眼をつぶる、剃刀が頬辺ほつぺたやりと辷る……怪しい罪悪の秘密と淫蕩な官能の記憶とが犇々と俺の胸を掻き毮る……
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
例のその日はたびめぐりて今日しもきたりぬ。晴れたりし空は午後より曇りてすこし吹出ふきいでたる風のいと寒く、ただならずゆる日なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
熱も少しあるらしく、いやりとした風がえりもとや首すぢにあたるごとにぞくぞくする。それに風のかげんで厠臭ししうがひどくて堪へられぬ。
赤蛙 (新字旧仮名) / 島木健作(著)
潜𤍠せんねつといふのは物體ぶつたい融解ゆうかいしたり、また蒸發じようはつするときにようする𤍠量ねつりようです。そんなわけで森林しんりん附近ふきん空氣くうきはいつもえてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
勘次かんじうす蒲團ふとんへくるまつてうちからえてたあしあたゝまらなかつた。うと/\と熟睡じゆくすゐすることも出來できないで輾轉ごろ/\してながやうやあかした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それだのにおなゆきいたゞいたこゝのひさしは、彼女かのぢよにそのつたこゝろあたゝめられて、いましげもなくあいしづくしたゝらしてゐるのだ。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
と、すぐそばでやかすようなわらごえきこえた。あくたれでとおっているドゥチコフのいやな声だ。シューラはおもいがけなさにぴくっとなった。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
氷嚢こほりぶくろ生憎あいにくかつたので、きよあさとほ金盥かなだらひ手拭てぬぐひけてつてた。きよあたまやしてゐるうち、宗助そうすけ矢張やは精一杯せいいつぱいかたおさえてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私たちは、出かける時にもえてゐたが、教會へ行き着くと、一層冷たくなつてゐた。朝の禮拜の間、私たちは殆んど感覺を失ふのであつた。
伝平は父親の眼をぬすむようにして、他家よその飼い馬の、飼料を採って来てやったり、河へその脚をやしに曳いて行ってやったりするのであった。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「けちなことァおいてくんねえ。はばかンながら、あしたあさまで持越もちこしたら、はらっちまうだろうッてくれえ、今夜こんや財布さいふうなってるんだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
この時我身いかばかりえわが心いかばかりくじけしや、讀者よ問ふ勿れ、ことば及ばざるがゆゑに我これをしるさじ 二二—二四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ハアプ弾きの持つて居る美は丁度ちやうど今夜の空のやうなえとしたものであるなどと批判して思つたりなどもして居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
家康は、本丸のンやりした一室に、大きな火桶と脇息きょうそくをわきに置き、例の猫背を、よけいに丸く着ぶくれて、黙然と、明け方から、坐り通した。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きもやしてそこそこに片寄り、群衆の中に立まじりて、玄関に入り来る人々を眺むるに、何れも/\先づ子爵夫人に会釈して然る後主人に会釈す。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
餉台ちゃぶだいは奥の間へ持って行かれたし、母が先生のそばへつききりなので彼は台所の畳の上で独人ひとりあてがわれたやっこい方の御飯をよそって食べ始めた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
三重子は畢竟ひっきょう不良少女である。が、彼の恋愛は全然え切っていないのかも知れない。さもなければ彼はとうの昔に博物館の外を歩いていたのであろう。
早春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「手前にも、出来ますよ。何うも、めっきり冷とうなりあがって、京は冷えるってが、本当に、ぞくぞく冷えやがる。ざんなんて、ここから出たのだろう」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
吹荒ふきすさぶ風、いやりとした、しめっぽい雲、焼けつくような太陽、といったようなものが、交代でハーキュリーズを苦しめるのだから、たまりません! 彼は
風が遠くで鳴り、おかの草もしずかにそよぎ、ジョバンニのあせでぬれたシャツもつめたくやされました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
米国に近づくにつれて緯度はだんだん下がって行ったので、寒気も薄らいでいたけれども、なんといっても秋立った空気は朝ごとにえと引きしまっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この黒塀のそば小溝こみぞに添うて、とぼとぼと赤羽橋の方へやって来た、眼の前には芝山内さんないの森が高く黒い影を現しておる、うしろの方から吹いて来る汐風しおかぜやつくので
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
午睡の時間を照らす太陽が、屋根のあなすかして、その光線の一端をえびえした蔭の中に浸している。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
為めに頭をやさんとするもかなしいかな水なきを如何せん、鹽原君ぶる所の劔をきて其顔面にて、以て多少之をひやすをたり、朝にいたりてすこしく快方にむかひ来る。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
旅裝束たびしようぞくをとほして、さむさがこたへるとおもつてゐたが、なるほどやついたはずだ。あのむかうにえる、るこまのくらといふまへの乘鞍のりくら高山たかやまに、ゆきつもつてゐる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
あきれた野郎だ。小半日空を眺めて欠伸あくびをしていりゃ、猫の子だって退屈になるよ。庭へ降りて来て手伝いな。跣足はだしになると、土がやりとして、とんだいい心持だぜ」
「滅法えやがる——いらっしゃいませ。外は冷えますな。——坊やは、と、(三畳間をのぞいて)寝ているな。——ちょっくら風呂へ行って暖まってきやしょうかな」
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
博士は、足音をしのばせて台所におりてゆくと、えたカツレツとパンを手にしてもどってきた。
わたしはそれを思い切って聞けなかった。頭から足のつま先までわたしはやあせをかいていた。わたしはこのありさまでまる一晩ひとばんかれた。にわとりが夜明けを知らせた。
物思ものおもがほ若者わかものえりのあたりいやりとしてハツと振拂ふりはらへば半面はんめん瓦斯燈がすとうひかり蒼白あをじろ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ね、こちらの方がんやりしてていゝから。」と、青木さんはお座敷からお言ひになる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
与平治よへいじ茶屋附近虫取撫子なでしこの盛りを過ぎて開花するところより、一里茶屋に至るまで、焦砂せうさにほはすに花を以てし、夜来の宿熱をやすに刀の如きすゝきを以てす、すゞめおどろく茱萸ぐみ
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
「あっ!」と叫びを上げたのは、父の額が水のように、冷々ひやひやえていたからである。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
エヒミチはいまなほの六號室がうしつと、ベローワのいへなんかはりもいとおもふてゐたが、奈何云どういふものか、手足てあしえて、ふるへてイワン、デミトリチがいまにもきて自分じぶん姿すがた
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
お嫁に行けるような、ひとりまえのからだになった時、女は一ばん美しいと志賀直哉の随筆に在ったが、それを読んだとき、志賀氏もずいぶん思い切ったことを言うとやりとした。
美少女 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ゆき子はやりとした。旅空で寝つく事は、いまのゆき子には耐へられないのだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
『そりやあたしかにさうだが……。』と、わたしはえかゝつた紅茶を一口飲んだ。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
急に覚醒した人がおぼえるように、胸には動悸が打って鳩尾みぞおちのところがやりとする。これだけの心理の衝動を、身近にいる老刀自は感づいていないように見える。かれは妙だなと思う。
仕事がしまいになると、新吉はいそいで仕事場をかたづけ、大いそぎでやめしをかっこみはじめました。と、毎晩まいばんつきのわるいあかぼうが、いつものとおりぎゃんぎゃんき出しました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
それ程己は、お嬢様のやかし文句を、真面目に受け取って居たのである。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なほおこたらず供養きようやうす。露いかばかりそでにふかかりけん。日はりしほどに、山深き夜のさま三二ただならね、石のゆか木の葉のふすまいと寒く、しんほねえて、三三物とはなしにすざまじきここちせらる。
と云われて源次郎頬がやりとしたに不図ふと目をさまし、と見れば飯島が元結はじけてちらし髪で、眼は血走り、顔色は土気色つちけいろになり、血のしたたる手槍をピタリッと付け立っている有様を見るより
冬(フユ)は「ゆ」に通じ「ひょう」に通じ χιών(雪)にも通じる。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
人間のやゝかさは、恋愛の末期にだけ現れるんぢやありませんね。
運を主義にまかす男 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
粗末なベンチが二列に並んだ正面に、低い壇があり、そのうしろが引扉ひきどで仕切られている。寒い朝で、堅い木のベンチに掛けていると、しんしんと腰からえがあがってきて、チリ毛に鳥肌が立った。
春雪 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
えして来ました。お入りくださいまし、閉めましょう」
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)