餘所よそ)” の例文
新字:余所
餘所よそをんな大抵たいてい綺麗きれいあかおびめて、ぐるりとからげた衣物きものすそおびむすしたれて只管ひたすら後姿うしろすがたにするのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
殘しおき力に思ふ妻に別れし事なれば餘所よそ見目みるめ可哀いぢらしく哀れと云ふも餘りあり斯くてあるべき事ならねばそれ相應さうおう野邊のべの送りを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『戀塚とは餘所よそながらゆかしき思ひす、らぬまへの我も戀塚のあるじなかばなりし事あれば』。言ひつゝ瀧口は呵々から/\と打笑へば、老婆は打消うちけ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
教師けうしそのあとで、嬰兒あかご夜泣よなきをしてへられないといふことでぢき餘所よそした。幾度いくど住人すみてかはつて、今度こんどのはひさしくんでるさうである。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そうだとすれば、仕合わせに暮していた姉たちはなぜ妹たちの困るのを餘所よそに見ながら構い着けなかったのであろう。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何だつて君等はまアさうまで餘所よそ行きの顏をしなければならないのだ。君等に一體何の眞實があるといふのだ。
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
奧まつた所には別席を設けて、表向の出座ではないが、城代が取調の模樣を餘所よそながら見に來てゐる。縁側には取調を命ぜられた與力が、書役を隨へて著座する。
最後の一句 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
されど母上はしば/\我に向ひて、そなたのためならば、彼につきあひおくとのたまひき。餘所よその人の此世にありて求むるものをば、かの人かたみの底にをさめて持ちたり。
安井やすゐ餘所よそながらたいといふ好奇心かうきしんは、はじめから左程さほどつよくなかつただけに、乘換のりかへ間際まぎはになつて、まつたおさえつけられてしまつた。かれさむまちおほくのひとごとあるいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
……あゝ、こりゃあんまり厚顏あつかましかった。おれうてゐるのではい。大空中おほぞらぢゅういっうつくしい二箇ふたつほしが、なにようがあって餘所よそくとて、其間そのあひだかはってひかってくれとひめたのんだのぢゃな。
はなしたふむつゆのあしたならぶるつばさ胡蝶こてふうらやましく用事ようじにかこつけて折々をり/\とひおとづれに餘所よそながらはなおもてわがものながらゆるされぬ一重垣ひとへがきにしみ/″\とはもの言交いひかはすひまもなく兎角とかくうらめしき月日つきひなり隙行ひまゆこまかたちもあらば手綱たづな
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
出せといふに又一人も同じく侍士さふらひに向ひおう然樣さうだ殘らず渡したとてそんはあるまいコウ侍士さふらひ大方おほかた此女は餘所よそ箱入娘はこいりむすめそゝのかし云合せて親の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
自分は何処か、彼女からは見えない所に身を隠して、餘所よそながら彼女のその涙を見、その声を聞いて餘生を送る。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
りながら、君主との無禮なめなるにはさふらへども、ひめ殿との夫人ふじんとならせたまふまへに、餘所よそをつとさふらふぞや。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
餘所よそ一寸ちよつとたびおほきな菅笠すげがさがぐるりとうごく。菅笠すげがさけるのみではなくをんなためには風情ふぜいあるかざりである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
夕旦ゆふべあしたの鐘の聲も餘所よそならぬ哀れに響く今日けふは、過ぎし春秋はるあき今更いまさら心なきに驚かれ、鳥の聲、蟲のにも心なにとなう動きて、我にもあらでなさけの外に行末もなし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
同時どうじ安井やすゐはそのんなに變化へんくわしたらうとおもふと、餘所よそから一目ひとめかれ樣子やうすながめたくもあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
夏は人々暑さを避けんとて餘所よそうつり給へば、われ獨り留まりて大廈の中にあり。涼しき風吹きむれば人々歸り給ふ。かく我は漸く又此境遇に安んずることゝなりぬ。
かゝらではもどらるゝことかはさるにても此病人このびやうにんのうへにこの生計くらしみぎひだりもおひとつにりかゝるよしさまが御心配ごしんぱいさぞなるべし尋常つねなみならば御兩親ごりやうしん見取みと看護かんごもすべき餘所よそ見聞みきくるしさよとかへなみだむねみてさしのぞかんとする二枚戸にまいど
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見て餘所よそながらなる辭別いとまごひ愁然しうぜんとして居たる折早くも二かうかね耳元みゝもとちかく聞ゆるにぞ時刻じこく來りと立上りおとせぬ樣に上草履うはざうりを足に穿うがつて我家を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかし滋幹は、自分のたねちがいの弟に当る中納言敦忠あつたゞに対しては、餘所よそながら深い親愛の情を寄せていた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ふところのさむしい勘次かんじはさうしてがひけるのを卯平うへいにはかへつ餘所よそ/\しくされるやうなかんじをあたへた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
横笛今は稍〻やゝ浮世に慣れて、風にも露にも、餘所よそならぬ思ひ忍ばれ、墨染のゆふべの空に只〻一人、わたる雁の行衞ゆるまで見送りて、思はず太息といきく事も多かりけり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
餘所よそくらべると閑靜かんせいはる支度したくも、御米およねからへば、ねん一度いちどいそがしさにはちがひなかつたので、あるひ何時いつどほり準備じゆんびさへいて、つねよりも簡單かんたんとし覺悟かくごをした宗助そうすけ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
樣子やうすが、餘所よそから歸宅かへつて、あつさのあまり、二階にかいげてすゞむらしい……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
アプルツチイよりも、大澤たいたくよりも、おほよそ近きほとりの民悉くつどひ來て、おの/\古風を存じたる打扮いでたちしたれば、その入り亂れたるを見るときは、餘所よその國にはあるまじき奇觀なるべし。
なんでも同じ村の餘所よその家へ子守りに雇われていて、めったとひとりで遊びに出るようなことはなかったのに、その日に限って、赤ん坊の寝ている間に出て行って
紀伊国狐憑漆掻語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
心細こゝろぼそことには、鹽尻しほじりでも、一人ひとりおなしつ乘込のりこまなかつた。……宿しゆくは、八重垣姫やへがきひめと、隨筆ずゐひつで、餘所よそながら、未見みけん知己ちき初對面しよたいめん從姉妹いとこと、伯父をぢさんぐらゐにおもつてたのに。………
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼はわずかに、大勢の談話の中に交って彼女の語る声を聞き、またその頬にあのほゝえみの浮かぶのを餘所よそながら眺めては、それをせめてもの慰めにして日を送った。
餘所よそで……經驗けいけんのある、近所きんじよ産婆さんばさんが注意ちういをされた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
青木主膳も、味方の苦戦を餘所よそに見つゝ若君のそばにばかり附き添ってもいられないので、寄手の攻撃の急な時には、一方の要害を引きけて防禦ぼうぎょの加勢をしなければならなかった。
わざ途中とちう餘所よそいて、虎杖村いたどりむら憧憬あこがく。……
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
公は往年夫人のねやへ通いつゞけた夜な/\、餘所よそながら此の奇態きたいな顔を隙見すきみさせてもらっては快感に浸っていたので、今日が始めてなのではないが、当人はそれを知る筈がないから
(おまへ澁太しぶといの……餘所よそにます。)
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
着物は不断着は覚えていないが、餘所よそ行きの時は鼠地の細かい小紋をしば/\着た。
陰翳礼讃 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「おひいさまとわたくしとが此処を通り合わせましたのも何かの縁、せめて遺骸なきがらを拝ませて貰って、餘所よそながら供養をして上げとう存じますが、それもかなわぬのが口惜しゅうござります」
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お母さまはもう餘所よそのお家の人なのですと、そのつど乳人めのとに戒められた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)