かをり)” の例文
かぜつめたさわやかに、町一面まちいちめんきしいた眞蒼まつさを銀杏いてふが、そよ/\とのへりをやさしくそよがせつゝ、ぷんと、あきかをりてる。……
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
珍奇な香水を盛つてある、細工の手の籠んだ小瓶は、皆自然に栓が抜けて、希臘グレシア美人の霊魂を弔ふ為めに、世に稀なかをりを立てた。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
争ひ得ずしてつひに貴婦人の手をわづらはせし彼の心は、あふるるばかり感謝の情を起して、次いではこの優しさを桜の花のかをりあらんやうにも覚ゆるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かしこに薔薇あり、こはそのなかにて神のことば肉となり給へるもの、かしこに諸〻の百合あり、こはそのかをりにて人に善道よきみちをとらしめしもの。 七三—七五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
花卉くわきかをり、幽かなる樂聲、暗き燈火ともしびやはらかなる長椅は我を夢の世界にいざなひ去らんとす。に夢の世界ならでは、この人に邂逅すべくもあらぬ心地ぞする。
山百合のマルタゴン、なん百となく頭をげて、強いかをりを放つ怪物くわいぶつ淺藍色うすあゐいろ多頭たとう大蛇おろち
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
外國の詩集にてのみ知るリラのかをりをなつかしく思ひ、鳥の囀りと云へば梅の木に鳴く鶯よりも、南歐の五月のに聞くと云はるゝ駒鳥にあこがるゝと申され候お言葉は、小生に取りて如何に意味深く
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
からびし黄ぐさのかをり、そのかみも仄めき蒸しぬ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うち絶えつ、またも響くやはらかかをりのうちから
北原白秋氏の肖像 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
煙草盆たばこぼんかうかをりのみして、にいまだ人影ひとかげなきとき瀧君たきくん光景くわうけいは、眞田さなだ六文錢ろくもんせん伏勢ふせぜいごとく、諸葛亮しよかつりやう八門遁甲はちもんとんかふそなへる。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自然はかしこをいろどれるのみならず、また千のかをりをもて一の奇しきわけ難きにほひを作れり 七九—八一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
氷の如く冷徹ひえわたりたる手をわりなくふところに差入れらるるに驚き、咄嗟あなやと見向かんとすれば、後よりしかかかへられたれど、夫の常にたしなめる香水のかをりは隠るべくもあらず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
墓場の薔薇ばらの花、屍體したいから出た若いいのち、墓場の薔薇ばらの花、おまへはいかにも可愛かはいらしい、薄紅うすあかい、さうして美しい爛壞らんゑかをり神神かうがうしく、まるで生きてゐるやうだ、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ふと見れば、鍋の湯けぶり照り白らむかをりのなかに
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
雨夜あまよたちばなそれにはないが、よわい、ほつそりした、はなか、空燻そらだきか、なにやらかをりが、たよりなげに屋根やねたゞようて、うやらひと女性によしやうらしい。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あゝ永遠とこしへの喜びの不斷の花よ、汝等は己がすべてのかをりをたゞ一と我に思はしむ 二二—二四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
こまやかに生茂おひしげれる庭の木々の軽々ほのかなる燥気いきれと、近きあたりに有りと有る花のかをりとを打雑うちまぜたる夏の初の大気は、はなはゆるく動きて、その間に旁午ぼうごする玄鳥つばくらの声ほがらかに、幾度いくたびか返してはつひに往きける跡の垣穂かきほ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
夏のかをりなつかし、かげ黒きみづうみうへ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
青き魔薬まやくかをりしてりつつゆけば
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
港口みなとぐちんでえるのをました……あつとおもふとゆめめたが、月明つきあかりにしも薄煙うすけぶりがあるばかり、ふねなかに、たふとかうかをりのこつたと。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夏のかをりなつかし、かげ黒きみづうみの上
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
とほければ木犀もくせいかをりたか横町よこちやうなり。これより白山はくさんうらでて、天外君てんぐわいくん竹垣たけがきまへいたるまでは我々われ/\これ間道かんだうとなへて、よるいぬゆる難處なんしよなり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かをりはたかき
さかほがひ (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
二人分ににんぶん二枚にまいを、一齊いつしよにスツとひらくと、岩膚いははだあめ玉清水たましみづしたゝごとく、溪河たにがはひゞきにけむりあらつて、さけかをりぷんつた。づからこれをおくられた小山内夫人をさないふじんそでふ。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またはかりごとなかるべからず、これたゞ初音はつねとりて、お香々かう/\茶漬ちやづるのならばことりよう。白粉おしろいかをりをほんのりさして、絽縮緬ろちりめん秋草あきぐさながめよう。無地むぢ納戸なんどほたるよう。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けてながめうとおもはなを、つとのまゝへやかせていて、待搆まちかまへたつくなひのかれなんぢや! つんぼの、をうしの、明盲人あきめくらの、鮫膚さめはだこしたぬ、針線はりがねのやうな縮毛ちゞれつけ人膚ひとはだ留木とめきかをりかはりに
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
兩方りやうはうあひだには、そでむすんでまとひつくやうに、ほんのりとならぬかをりたゞよふ。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いまかんがへると、それが矢張やつぱり、あの先刻さつきだつたかもれません。おなかをりかぜのやうに吹亂ふきみだれたはななかへ、ゆき姿すがた素直まつすぐつた。が、なめらかなむねちゝしたに、ほしなるがごと一雫ひとしづく鮮紅からくれなゐ
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
山路やまみちから、あとけてたらしいあらしが、たもとをひら/\とあふつて、さつ炉傍ろばた吹込ふきこむと、ともしび下伏したぶせくらつて、なかあかるえる。これがくわつと、かべならんだ提灯ちやうちんはこうつる、と温泉いでゆかをりぷんとした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なんともへない、あまい、なまめいたかをりが、ぷんかをつた。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たなつた麝香猫じやかうねこつよかをりぷんとする……
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)