絶間たえま)” の例文
角海老かどゑび時計とけいひゞききもそゞろあわれのつたへるやうにれば、四絶間たえまなき日暮里につぽりひかりもれがひとけぶりかとうらかなしく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
月は、森の樹々のたゆたう波の上に絶間たえまなく黄ろい焔を散らす青金の火の円のすがたして、しずかに昇った。星がひとつひとつ現われた。
(新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
細君のうなる声が絶間たえまなく静かな夜のへやを不安にき乱した。五分経つか経たないうちに、彼女は「もう生れます」と夫に宣告した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小夜衣さよぎぬと改めしか是も突出つきだし其日より評判もつともよかりければ日夜の客絶間たえまなく全盛ぜんせい一方ならざりけり茲に神田三河町にしち兩替渡世を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
……やどかりも、うようよいる。が、真夏などは暫時しばらくの汐の絶間たえまにも乾き果てる、壁のようにかたまり着いて、稲妻いなずま亀裂ひびはいる。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其企てが又、今の樣に何の障害さわりなしに行はれる事が無いので、私の若い精神は絶間たえまもなく勇んで、朝から晩まで戰場に居る心地がして居た。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
たちま山岳さんがく鳴動めいどうし、黒烟こくゑん朦朧もうろう立昇たちのぼる、その黒烟こくゑん絶間たえまながめると、猛狒ゴリラ三頭さんとうとも微塵みじんになつてくだんだ、獅子しゝ大半たいはん打斃うちたをれた、途端とたん水兵すいへい
が、緑雨のスッキリした骨と皮の身体からだつき、ギロリとした眼つき、絶間たえまない唇辺くちもとの薄笑い、すべてが警句に調和していた。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
花火の筒は絶間たえまもなく音を立てて、尺余の紙玉が中空に炸裂し、五色に染めた紙の雪が、さんさんと降りしきっていた。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
絶間たえまなく鳴りひびく蓄音機の音も、どうかすると掻消かきけされるほどさわがしい人の声やら皿の音に加えて、煙草のけむりちりほこりに、唯さえ頭の痛くなる時分
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
堤の北は藻隠もがくれにふなの住む川で、堤の南は一面の田、紫雲英が花毛氈はなもうせんを敷き、其の絶間たえま〻〻たえまには水銹みずさび茜色あかねいろ水蓋みずぶたをして居た。行く程に馬上の士官が来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
何か品をいいますと、後に立っている小僧さんが、元気な声で、「はーい、はーい」といいながら、走って蔵から持ち出して来ます。客の絶間たえまもありません。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そして絶間たえまなしに空想から妄想の中をさまよっている。……かと思うと、夢のうちにでも見るような、とりとまりのない、美くしい色彩のある感情にあこがれている。
北国の人 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
どす黒い雲の絶間たえまをぬうて、底気味のわるいうなりを立てながら、ぐんぐんやって来る真っ黒な姿。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
絶間たえまのない悲しみ、そして、折々私のジエィンを今一度見たいと願ふ狂氣きちがひのやうな氣持、それを誰が知つてゐよう? 本當に、私はあの人のよみがへつて來るのを切望した
三十年以来シナ市場は絶間たえまない英米競争の場所だった。一八四二年の五港開放以後、世界経済中に占めるシナ市場の位置——対支貿易の量——は、ことに重要性を帯びてきた。
鳴神なるかみのおとの絶間たえまには、おそろしき天気におくれたりとも見えぬ「ナハチガル」鳥の、玲瓏れいろうたる声振りたててしばなけるは、淋しき路をひとりゆく人の、ことさらに歌うたふたぐいにや。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
このごろ議員候補者や、その運動者がぴし/\引張ひつぱられてゐるが、みんな有罪の判決を受けてゐる所を見ると、可憎あひにくと腹の減つた、うちでは夫婦喧嘩めをとけんくわ絶間たえまが無い裁判官が多いと見える。
その玉のような白い花は、御釈迦様の御足おみあしのまわりに、ゆらゆらうてなを動かして、そのまん中にある金色のずいからは、何とも云えないい匂が、絶間たえまなくあたりへあふれて居ります。
蜘蛛の糸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
きもを失ったような、厳粛なような、からっぽのような、それでいて、絶えずはらはらして、絶間たえまなくお便所へ行っては、よしやろう、勉強しようと、武者ぶるいして部屋へ帰って
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
こういっていると、果して何処どこからか青い動物が遅々のそのそと這い出して来る。彼は悠然として滝の下にうずくまる。そうして、楓の葉を通して絶間たえまなしに降り注ぐ人工の雨に浴している。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一日二晩絶間たえまなく感心しつめて天晴あっぱれ菩薩ぼさつと信仰して居る御前様おまえさまを、縛ることは赤旃檀しゃくせんだん飴細工あめざいくの刀でほりをするよりまだ難し、一昨日おとといの晩忘れて行かれたそれ/\その櫛を見ても合点がてんなされ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
道々みち/\も一ぷん絶間たえまもなくしやべつゞけて、カフカズ、ポーランドを旅行りよかうしたことなどをはなす。さうして大聲おほごゑ剥出むきだし、夢中むちゆうになつてドクトルのかほへはふツ/\といき吐掛ふつかける、耳許みゝもと高笑たかわらひする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
夜の十時頃散歩に出て見ると、雲のながれ急にして絶間たえま々々には星が見える。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
影みせぬ百鳥もゝとり羽掻はねがき絶間たえまなく、けぬればその歌をきかむ……
カンタタ (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
往来の絶間たえまを見すまして、橋桁の下の闇へ這い込むと
常にかつ近み、かつ遠み、絶間たえまなく落つるをきく
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
いとけなきわれらがゆめに絶間たえまなくふりつもる雪。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
一、 の花の絶間たえまたたかんやみかど 去来
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
浮き沈むにおの波紋の絶間たえまなく
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
縦横じゆうわう絶間たえま無くせちがふ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
絶間たえまなく甃石しきいししはぶけり
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
めぐらし段々だん/\きけば丁山小夜衣の兩人共に追々おひ/\全盛ぜんせいに成て朝夕あしたゆふべに通ひ來る客も絶間たえまなく吉原にても今は一二と呼るゝとのうはさを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大佐たいさきた! 大佐たいさきたる! 櫻木大佐さくらぎたいさ電光艇でんくわうていきたる※。』とさけひゞき砲聲ほうせい絶間たえま全艦ぜんかんわたると、軍艦ぐんかん」の士官しくわん水兵すいへい一時いちじ動搖どよめき。
つたとざす古き窓よりるる梭の音の、絶間たえまなき振子しんしの如く、日を刻むに急なる様なれど、その音はあの世の音なり。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この風と共に寒さは日にまし強くなって閉切しめきった家の戸や障子しょうじ絶間たえまなくがたりがたりと悲しげに動き出した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それを云うのは、非常に恥しい丈けでなく、ムカムカと吐き気を催す程いやなのだが、僕は十歳を越した時分から、絶間たえまなく母親の為に責めさいなまれた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
母がまだ存生ぞんじょうの時だった。……一夏あるなつ、日の暮方から凄じい雷雨があった……電光いなびかり絶間たえまなく、雨は車軸を流して、荒金あらがねつちの車は、とどろきながら奈落の底に沈むと思う。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、眉山の家庭には気の毒な面倒臭い葛藤かっとう絶間たえまなかったそうで、何時いつでも晴れやかな顔をして駄洒落だじゃれをいってる内面には人の知らない苦労が絶えなかったそうだ。
港の中には汽船ふね二艘にはい、四つ五つの火影ほかげがキラリ/\と水に散る。何処ともない波の音が、絶間たえまもない単調の波動を伝へて、働きの鈍り出した渠の頭に聞えて来た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
格子の前の長さ一丈余もある賽銭箱さいせんばこへ、絶間たえまもなくばらばら落ちるお賽銭は雨の降るようです。赤い大提灯おおぢょうちんの差渡し六、七尺、丈は一丈余もあるのが下っています。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
池の中に咲いているはすの花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色きんいろずいからは、何とも云えないにおいが、絶間たえまなくあたりへあふれて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。
蜘蛛の糸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
四谷街道に接しているせいか、馬力ばりきの車が絶間たえまなく通って、さなきだに霜融しもどけみちをいよいよこわして行くのも此頃このごろです。子供が竹馬に乗って歩くのも此頃です。火の番銭の詐欺さぎ流行はやるのも此頃です。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
道々みちみちも一ぷん絶間たえまもなくしゃべつづけて、カフカズ、ポーランドを旅行りょこうしたことなどをはなす。そうして大声おおごえ剥出むきだし、夢中むちゅうになってドクトルのかおへはふッはふッといき吐掛ふっかける、耳許みみもと高笑たかわらいする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
到底とてもこれに相續そうぞく石油藏せきゆぐられるやうなもの身代しんだいけふりとりてのこ我等われらなにとせん、あとの兄弟けうだい不憫ふびん母親はゝおやちゝ讒言ざんげん絶間たえまなく、さりとて此放蕩子これ養子やうしにと申うくひと此世このよにはあるまじ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
世はようやく春めきて青空を渡る風長閑のどかに、樹々きぎこずえ雪の衣脱ぎ捨て、家々の垂氷たるひいつの間にかせ、軒伝うしずく絶間たえまなく白い者まばらに消えて、南向みなみむきわら屋根は去年こぞの顔を今年初めてあらわせば、かすおい
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
見よ、絶間たえま無きかの相圖あひづそらそびやぐあの松林……
カンタタ (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
常にかつ近み、かつ遠み、絶間たえまなく落つるをきく
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
神経しんけい衰弱つかれにぞ絶間たえまなく電車過ぎゆき
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
雨滴あまだれ絶間たえまうて、白い爪が幾度かこまの上を飛ぶと見えて、こまやかなる調べは、太き糸のと細き音をり合せて、代る代るに乱れ打つように思われる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)