こと)” の例文
それぞれにことなる光をつつむわれらの宝玉よ。うたがいもなく、すべての嬰児みどりごが宝玉である。母性の上に与えられた大いなる祝福よ。
最も楽しい事業 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
八重山宮古の島々はひとり歌謡のきわだっているばかりでなく、極南界にあってその言語音韻も純古にして北の島嶼とうしょとは趣をことにする。
すなわち前にいえるごとく、父母の大病に一日の長命を祈るものにことならず。かくありてこそ瘠我慢の主義も全きものというべけれ。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
このは、まちは、いつもとことなって、いろいろの夜店よみせが、大門だいもん付近ふきんから、大通おおどおりにかけて、両側りょうがわにところせまいまでならんでいました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この時、他の一方の橋のたもとから、また一組の相合傘が現われました。その相合傘は、こちらの相合傘とはだいぶ趣をことにしています。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この時市の忍齒おしはの王相率あともひて、淡海にいでまして、その野に到りまししかば、おのもおのもことに假宮を作りて、宿りましき。
これはそういう血みどろなところをもって読者をねらうスリラー小説、もしくはグロ探偵小説とは立場をことにしているのであるから……
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
貝塚の中よりは用に堪えざる土噐の破片出で、又折れ碎けたる石噐出づ。獸類じうるい遺骨いこつ四肢ししところことにし二枚貝は百中の九十九迄はなれたり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
彼も孔子こうしならって、述べて作らぬ方針をとったが、しかし、孔子のそれとはたぶんに内容をことにした述而不作のべてつくらずである、司馬遷にとって
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
かのうしはびぞんといふうしで、今日こんにちうしとはそのかたちことなつてゐますけれども、鹿しかうまかたちはなんとよく本物ほんもののようでありませんか。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
我が国はいくらかそれとは事情をことにしていますが、それでも今では学位をもっている女性の方方がかなりに見られるようになりました。
キュリー夫人 (新字新仮名) / 石原純(著)
歴史をことにし生活を異にしていたのであるから、人種は同じであっても、別の民族を形成していたといった方がむしろ妥当なほどである。
同月どうげつ二十八にちには、幻翁げんおう玄子げんしとの三にん出掛でかけた。今日けふ馬籠方まごめがた街道かいだうひだりまがつた小徑こみち左手ひだりてで、地主ぢぬしことなるのである。
勿論もちろん都会生活が田園のそれと同一でなく、夫婦共稼ぎの事情をことにしているから、我輩はすべてに対してこれを可なりとするのではない。
夫婦共稼ぎと女子の学問 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
ただ心持色が白くなったのと、年のせいか顔にどこか愛嬌あいきょうがついたのが自分の予期と少しことなるだけで、他は昔のままのS禅師であった。
初秋の一日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「上品」や「派手」が存在様態として成立する公共圏は、「いき」や「渋味」が存在様態として成立する公共圏とは性質をことにしている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
しかるにこうの政党とおつの政党とはその主義をことにするために仲が悪い、仲が悪くとも国家のためなら争闘も止むを得ざるところであるが
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
多少立場をことにした、部落の青年の言葉をかりると、「信仰みたいなものだ、高橋さんじゃなければなおらないと、信じこんでいるんだよ」
泰西たいせい文学は古今の別なく全く西洋的にして二千年来の因習を負へるわが現在の生活感情に関係なき事あたかも鵬程ほうてい九万里の遠きにことならず。
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
とまれ、からめ手軍の足利勢は、大手の軍勢とはやや方角をことにして、北野から洛外ざかいの山添いを、丹波口のほうへゆるぎ出していた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何処どこかかなり深いところで、その情趣をことにしている所以ゆえんは、その幻想が支那大陸のあやしいまでに広大な自然と融合しているからであろう。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「本当だよ。雪、こら、おい、何をグズ/\している? とやる。雪子さん、あゝしたら如何いかがでしょうの組とはいささか選をことにする積りだよ」
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まことに人を懼るるとば、彼の人を懼るる所以ゆゑんと、我より彼の人を懼るる所以とす者とは、あるひややおもむきことにせざらんや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ばけものがくにによりそれ/″\ことなるのは、各國かくこく民族みんぞく先天性せんてんせいにもよるが、また土地とち地理的關係ちりてきくわんけいによること非常ひぜうだいである。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
戊戌つちのえいぬ即ち天保九年の)夏に至りては愈々そのことなるを覚えしかども尚悟らず、こは眼鏡めがねの曇りたる故ならめとあやまり思ひて
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
人畜にんちくの道ことにして。その欲を得遂げざれども。耳に妙法のたときをきゝて。…………おなじ流に身をなげて。共に彼岸かのきしに到れかし。
しん少主せうしゆとき婦人ふじんあり。容色ようしよく艷麗えんれい一代いちだいしかしておびしたむなしくりやうあしともにもゝよりなし。常人じやうじんことなるなかりき。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
余にしてこれと彼とを分別するの力なきならば余は誰によりて身を処せんや、見よ彼ら余の不遜を責むるものも相互あいたがいに説をことにするにあらずや
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
当市の監獄には、大阪のそれとことなりて、女囚中無学無識の者多く、女監取締りの如きも大概は看守の寡婦かふなどが糊口ここうの勤めとなせるなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
我国の寒行かんぎやうは、ことはこれにてその行ははなはだこと也、我国の寒中は所として雪ならざるはなく、寒気かんきのはげしき事はまへにいへるがごとし。
ただその相殊あいことなる所は、古今ときことにして、生の相及ばざるのみである。いや。そうではない。今一つ大きい差別しゃべつがある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
淑女よ、汝いと大いにしていと強し、是故に恩惠めぐみを求めて汝に就かざる者あらば、これが願ひは翼なくして飛ばんと思ふにことならじ 一三—一五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
されば奧方おくがた町子まちこおのづから寵愛てうあいひらつて、あなが良人おつとあなどるとなけれども、しうとしうとめおはしましてよろ窮屈きうくつかたくるしきよめ御寮ごりようことなり
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一一〇 ゴンゲサマというは、神楽舞かぐらまいの組ごとに一つずつ備われる木彫きぼりの像にして、獅子頭ししがしらとよく似て少しくことなれり。甚だ御利生ごりしょうのあるものなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
青山、上野、ふだつじ、品川と一晩のうちに全然方角をことにして現われおる。そのため、ことのほか警戒がめんどうじゃ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
但し、話の本文とは少し行き方をことにしていて、むしろ父兄の理解を助けるために添えられたものともいえるので、訳文の調子も少し変えておきました。
... 眞面目まじめ事實じゝつ流行りうかう小説せうせつとはすこおもむきことにしますから』と兒玉こだま微笑びせうらして『小説せうせつ面白おもしろ御座ございます。けれども事實じゝつさら面白おもしろ御座ございます。』
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
元来が斯様かういふ土地なので、源平時分でも徳川時分でも変りは無いから、平安朝時代でもことなつては居ないらしい。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
底になにが沈澱していることだろう?——すると、色彩と系統をまったくことにした一有機体に、私はいま直面している探検意識を感ぜずにはいられない。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
つまり彼らの滑稽こっけいという観念は我々の滑稽という観念と全然標準をことにしているのでしょう。僕はある時医者のチャックと産児制限の話をしていました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
其表紙の絵をば著者と書房とから頼まれて作つたのであるから、其包を開くときにまたことやうの楽みがあつた。
本の装釘 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
しかもその騒がしい虫の声を市中の虫売りの家台やたいのうちに聴く場合には、まったくその趣をことにするのである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
黄葉もみじを内容としているが書持の歌い方がややおもむきことにし、夜なかに川瀬に黄葉の流れてゆく写象を心に浮べて、「今夜こよひもか浮びゆくらむ」と詠歎している。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
もくしてわかることはその性格においてドラマチックのふしのなきことで、この点が同じ米国人でありながら、ルーズヴェルトとは大いに性格をことにしている。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ララはこれにことにて、まことにおん身の爲めの守護神なるべし。おん身の靈の天上に在らん時、先づ來りて相見んものはララならずして誰ぞやと宣給ひぬ。
北海道ほくかいだう移住後いぢゆうご冬時とうじ服裝ふくさうは、内地ないちりしときほとんどことならず。しかして當地たうち寒氣かんき左程さほどかんぜざるのみならず、凍傷とうしやうとう一度いちどをかされたることあらず。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
し一歩をあやまらんか深谷中に滑落こつらくせんのみ、其危険きけんふべからず、あだかも四足獣の住所にことらずと云ふべし。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
いつもとはことなり、その修行場しゅぎょうば裏山うらやまから、おくおくおくへとどこまでも険阻けんそ山路やまみちりました。
孤陰、独陽の別ありて孤陰は独陽に配し、独陽は孤陰に合し、もって雑質を生ず。すなわち尋常の薬品なり。しかれども陰陽原質の多寡によりてその名をことにす。
化学改革の大略 (新字新仮名) / 清水卯三郎(著)
落語家らくごか見識けんしきからすると、『新玉あらたまの』は本統ほんたう發句ほつくだが、『たまの』は無茶むちやだとして、それで聽衆ちやうしうわらはせようとするんだが、おれところこれことなりだ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)