もん)” の例文
思想とか哲学めいたところは十如是にょぜもんというところただ一個所だけであって、それも、文字で数えれば、たった三十四字のものだ。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼と我れとの相違は、いわば十露盤そろばんけたが違っているだけで、喜助のありがたがる二百もんに相当する貯蓄だに、こっちはないのである。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
御経おんきょうもんは手写しても、もとより意趣は、よくわからなかった。だが、処々には、かつがつ気持ちの汲みとれる所があったのであろう。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
よし真裸まっぱだかになるほど、職業から放れて無一もんになっていてもいい、葉子の乗って帰って来た船に木村も乗って一緒に帰って来たら
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
久「うよ、おらがやったっけ、何かおれえ……然うさ通常たゞの文をやっても、これ面白くねえから、何かづくもんでやりてえもんだなア」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
漱石氏はそれに対して明治三十二年四月発行の『ホトトギス』第二巻第七号に「英国の文人と新聞雑誌」という表題で一もんを送ってくれた。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
それから、なるみ絞りの鳴海なるみ。一里十二丁、三十一もんの駄賃でまっしぐらにみやへ——大洲観音たいすかんのん真福寺しんぷくじを、はるかに駕籠の中から拝みつつ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「なにがたけえものか。ときによったら、やすいくらいのもんだ。——だがきょうはたところ、一しゅはおろか、財布さいふそこにゃ十もんもなさそうだの」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
四十もんにてかひ炮烙はうろくにて是をいり金紙きんがみに包み鄭重たいそうらしくしておつねに密とわたしければお常はよろこ金子きんすを玄柳につかはしおくま倶々とも/″\あつく禮を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其の癖喋りながら銘々相応に達者な神経を働かせて、対手の懐を読んで見たが、念入りに揃いも揃ってもんなしらしかった。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そんなことが出来たのは増賀ぞうが寂心じゃくしんの頃までで、現代には止観もんを読めるようなえらい坊主は、一人だっていやしないよ。
予言 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それをたら、じぶんが盗人ぬすびとであることをついわすれてしまって、このなべ、二十もんでなおしましょう、とそこのおかみさんにいってしまったのです。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「こゝのは貧乏䰗びんぼうくじだよ。大将からは二そくもんのように叱り飛ばされる。他の連中からは余計ものゝように思われる。ツク/″\厭になってしまう」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
是れは例の雑物売払うりはらいのとき道具屋がを付けて丼二つ三分さんぶんと云うその三分とは中津の藩札はんさつぜににすれば十八もんのことだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
というので、気のはやい連中れんじゅうが十七もん松明たいまつをふりたて、そのばんのうちからドンドンドンドン御岳みたけの山へかかってゆく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「朝鮮大虎」「大入り大入り」「大人おとなもん小児半文」と書いた札を背にしてしきりに客を呼んでいる男が一方にいる。
人類文化の宣伝事業じゃ。何も参考、話の種だよ。サアサ寄ったり、聞いたり見たり……外道——ア——エ——もん
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
素焼きのお狐に泥絵具を塗って、一つが十二もん、あれは懐中ふところへ忍ばせておくと、願い事がかなうとか言って、手弄てなぐさみをする手合がよく持っていますが——
それできょうも朝五銭、午後ひるに六銭だけようやくかせいで、その六銭を今めし屋でつかってしまった。五銭は昼めしになっているから一もんも残らない。
窮死 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
もう三もんがたようでな? なりゃ一週間しうかんがたもやっしゃれ、明日あすばんとなるとらるゝことではない、あのわかがおまへかさぬとゑてぢゃ。
山男、西根山にしねやまにて紫紺のり、夕景ゆうけいいたりて、ひそかに御城下ごじょうか盛岡もりおか)へ立ちそうろううえ材木町ざいもくちょう生薬商人きぐすりしょうにん近江屋源八おうみやげんぱち一俵いっぴょう二十五もんにて売りそうろう
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
でね、すこつたかぶをみんな其方そのはうまはことにしたもんだから、いまぢや本當ほんたうに一もんなし同然どうぜん仕儀しぎでゐるんですよ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
襤褸買は安物買やすものがいぜに失ひをいふ。その意一もん惜しみの百損に同じといへども、これ畢竟ひっきょうその結果を見ての推論なるべし。人誰か完全を望まざるものあらん。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
保雄も会の方から会員の謝礼を毎げつ合せて拾五円から弐拾円位貰はぬでは無いが、会の雑誌の費用に出して仕舞しまふから一もん半銭自分の身に附くのでは無かつた。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
杻陽ちゅうようの山、獣あり、その状馬のごとくして白首、そのもん虎のごとくして赤尾、その音うたうがごとし、その名鹿蜀ろくしょくという〉と出で、その図すこぶる花驢に類す。
いつたい君はなんだい! コンマ以下の人間に過ぎないぢやないか。第一、もんなしの素寒貧ときてゐる。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
權三 あのときに手前は一粒十六もんといひさうな涙をこぼして、おい/\泣きやあがつたのを忘れたか。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
股引ももひきすそから二、三寸はみ出させて、牛肉のすき焼きをたべるのだから残念ながらいきとかつうとかという方面からいえば、三もんの価値もないのであるが、といって
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
だから、千五百語ぽつきりで書き上げた人は、どんな立派な短篇小説を書いたつて、びたもんも貰へない。
なかもぺこぺこにっていましたが、なにか買って食べるお金なんか一もんも持っていなかったのです。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
「まるきりお役人に誠意のないものなら、一もんだってお手当てなぞの下がるもんじゃありません。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
成程なるほど、今おせいを離別すれば、もんなしの書生っぽに相違ない彼女の相手と共に、たちまち其日そのひにも困る身の上になることは知れていたけれど、その憐みもさることながら
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところが、あなたは藤田さんを殺したから、もはや一もんもあなたの手に入らなくなりました
自殺か他殺か (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
脚絆きやはんきれまゝあさあしくゝけた。れも木綿もめんつた頭陀袋づだぶくろくびからけさせて三かは渡錢わたしせんだといふ六もんぜにれてやつた。かみあさむすんで白櫛しろぐししてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
『だから総計そうけい八十六えんもうしているのです。それわたしは一もん所有っちゃおらんので。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
かざもんはこれを参酌しろのと、あらゆるものを老石工に向って押しつけてしまいました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
英語に valueヴァリュー という字がある。近ごろの経済学者はこれを価値かちと訳し、これに lessレッスくわうればあたいなきもの、二そくもんあたいもない、つまらぬものという意になる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「おいのりはわたしの仕事しごとだ」と僧正そうじょうはほほえんでこたえました。「一もんもお金をもらわないでも、あなたの宿やどまで行って、そのこわれかけた人形のために、おいのりをしてあげましょう」
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
昭和せうわ年度ねんど豫算よさん編成へんせいたつては八千五百萬圓まんゑん國債こくさいが一ぱん會計くわいけい豫定よていされてつたのを一さいめることにして、一ぱん會計くわいけいには國債こくさいは一もん計上けいじやうしない豫算よさんつくつたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
ぜにかね! 銭は一両と銀貨が四貫、跡に銅貨で十五もんばかし持つとりますだよ。」
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
このとき公方くぼう様より下された御喜捨はなんとただの百貫もんと申すではございませんか。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
「おめえはいつも五もんがとこ知ったかぶりをするぜ」と万吉がまぜ返した、「たとえその場にいたところで、うずめられた気持なんてものは当人のほかにわかりっこありゃあしねえや」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
元日にも聟入むこいりの時に仕立てた麻袴あさばかまを五十年このかた着用して礼廻れいまわりに歩き、夏にはふんどし一つの姿で浴衣ゆかたを大事そうに首に巻いて近所へもらい風呂ぶろに出かけ、初生はつなり茄子なす一つは二もん
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
『あたしこんな薔薇はいやです!』とメアリゴウルドは叫んで、それを三もんの値打もないもののように投げ棄てました。『ちっとも匂いはないし、固い花弁が鼻を刺して痛いんだもの!』
一昨年をとゝしの春は大音寺前に一もんぐわし売りて、親せき近よらず、故旧音なふ物なく、来る客とては悪処のかすに舌つゞみ打つ人々成りし、およそ此世のしもざまとてかゝるが如きは多からじ
一葉の日記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
身を離れて根まで見えすき、ひたいぎはわざとならず自然に生えとまり、首筋たちのびて、おくれなしの後髪、手の指はたよわく、長みあつてつめ薄く、足は八もんの定め、親指つて裏すきて
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私は一度でもこの家のしきゐを跨ぎ、この家の人々と顏を合せたからには、この廣い世界では、もう決して追ひ出されたり迂路うろついたり、もんなしになつたりしなくていゝやうな感じがしたのだ。
もんは一紙に欠け、ぎょうすなわち十四、うべし、簡にして要、約にして深し」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
それで長屋建ながやだてで、俗にいう尺二けん店賃たなちんが、よく覚えてはいないが、五百か六百……(九十六もんが百、文久銭一つが四文、四文が二十四で九十六文、これが百である。これを九六百くろくびゃくという)
またヲハイの女王額上に菊章をもんする類〈和蘭オランダ人ム、イ、ハンオーヘン氏著述、千八百五十五年鏤行、地上人民風俗通四百六十四葉の図にず〉、皇国学者をしてこれを論ぜしめば必ず云わん
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)