主人しゅじん)” の例文
「よく、ご主人しゅじんのいいつけをまもって、辛棒しんぼうするのだよ。」と、おかあさんは、いざゆくというときに、なみだをふいて、いいきかせました。
子供はばかでなかった (新字新仮名) / 小川未明(著)
むかし、大和国やまとのくに貧乏びんぼう若者わかものがありました。一人ひとりぼっちで、ふたおやつま子供こどももない上に、使つかってくれる主人しゅじんもまだありませんでした。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
朝霧あさぎりがうすらいでくる。庭のえんじゅからかすかに日光がもれる。主人しゅじんきたばこをくゆらしながら、障子しょうじをあけはなして庭をながめている。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ぼんの十六日のつぎの夜なので剣舞の太鼓たいこでもたたいたじいさんらなのかそれともさっきのこのうちの主人しゅじんなのかどっちともわからなかった。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一方、おかみさんは、主人しゅじんにむかっては、きっぱりと強がりを言ったものの、内心ないしんはやはり、きゃくのことが気になってしかたがなかった。
左少将さしょうしょうさまにはいつもながら、ますますご健勝けんしょうのていにはいせられまして、かげながら主人しゅじん家康いえやす祝着しゅうちゃくにぞんじあげておりまする」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下宿げしゅく主人しゅじんにきいてみても、前の家をたれがりているのか知りませんでした。なにしろ、にんげんの姿すがたをみたことがないというのです。
職人しょくにんはロバをひっぱっていきました。宿屋の主人しゅじんが職人の手からロバをとって、つなごうとしますと、わかい職人はいいました。
バルタ 最前さいぜんこの水松いちゐかげ居眠ゐねむってゐますうちに、ゆめうつゝに、主人しゅじんとさるひととがたゝかうて、主人しゅじん其人そのひとをばころしたとました。
しかし、そんなことをしようものなら、主人しゅじんやおかみさんに、しかられるだけならまだしも、こっぴどい目にあわされるにきまっています。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
道修町どしょうまちのくすりにくまがとどいて、そのくすり主人しゅじんが、適塾てきじゅく書生しょせいさんに、かいぼうをしてみせてもらいたいと、たのんできました。
主人しゅじんのためにはいのちをすてて主人の危険きけんすくう犬がよくありますが、しろ公もまたそういう忠実ちゅうじつな犬にちがいありません。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
しかしてふたたび白の独天下になった。可愛かあいがられて、大食して、弱虫の白はます/\弱く、どんの性質はいよ/\鈍になった。よく寝惚ねぼけて主人しゅじんに吠えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
室内せきとして声無し。窓の外に死のヴァイオリンをたんじつつ過ぎ行くを見る。その跡にきて主人の母き、娘き、それに引添いて主人しゅじんに似たる影く。
うまはこのまんま、えるやうににたいとおもひました。んで、そして何處どこかで、びつくりして自分じぶんいてわびる無情むじやう主人しゅじんがみてやりたいとおもひました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
こんな善良ぜんりょう人間にんげんでございますから、こちらの世界せかいうつっててからもいたって大平無事たいへいぶじ丁度ちょうど現世げんせでまめまめしく主人しゅじんつかえたように、こちらでは後生大事ごしょうだいじ神様かみさまつか
そののち、母の死際しにぎわに着てゐた小袖が証拠になつて、不思議にも隣のいえ主人あるじがその盗人ぬすびとであることが判つたので、かれは自分の主人しゅじん助太刀すけだちをかりて、母のかたきを討つた。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
かれ容貌ようぼうはぎすぎすして、どこか百姓染ひゃくしょうじみて、頤鬚あごひげから、べッそりしたかみ、ぎごちない不態ぶざま恰好かっこうは、まるで大食たいしょくの、呑抜のみぬけの、頑固がんこ街道端かいどうばた料理屋りょうりやなんどの主人しゅじんのようで
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
主人しゅじんは、支那しな福州ふくしゅう大商賈おおあきんどで、客は、其も、和蘭陀オランダ富豪父子かねもちおやこと、此の島の酋長しゅうちょうなんですがね、こゝでね、みんながね、たゞひとツ、其だけにいて繰返して話して居たのは、——此のね
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「もう、半月はんつきもたちゃ、すいかだってめずらしくはない。いまならってもれるだろう。」と、主人しゅじんは、つけくわえていいました。
初夏の不思議 (新字新仮名) / 小川未明(著)
大悟徹底だいごてっていと花前とはゆうとのである。花前は大悟徹底だいごてっていかたちであってこころではなかった。主人しゅじんはようやく結論けつろんをえたのであった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
木の上にんでいた大蛇おろちが、夜中よなかに、りょうしをのもうとおもって出てたのを、かしこいぬつけて、主人しゅじんこしてたすけようとしたのです。
忠義な犬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
家来は、ひとに気づかれないように、親船おやぶねからそっと小舟こぶねをおろすと、すぐさまそれにのりこんで、主人しゅじんのあとをってこいでいきました。
みせ主人しゅじんがすすめたオランダ英語えいごとの会話かいわほんなど、二、三さつをうと、諭吉ゆきちは、おもいあしをひきずって、江戸えどへかえってきました。
ただ主人しゅじん足利尊氏あしかがたかうじの不心得からやむなくそうなったものだろうが、主に仕えては死を惜しまぬは、また武門の臣節しんせつでもある。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
領主 その書面しょめんようわ。これへ。……して、夜番よばん呼起よびおこしたはく侍童こわらはとやらは何處どこる?……こりや、其方そち主人しゅじん此處このところへはなにしにわせたぞ?
主人しゅじんは、あたりを見まわしたが、もちろん、店さきでまだたまご熱心ねっしんに見くらべている客よりほかに、だれもいなかった。
ただひとりその中に町はずれの本屋ほんや主人しゅじんましたが山男の無暗むやみにしかつめらしいのを見て思わずにやりとしました。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
このうちではねこ主人しゅじんようにふるまい、牝鶏めんどり主人しゅじんよう威張いばっています。そしてなにかというと
帰って見ると、郵便箱には郵便物の外、色々な名刺や鉛筆書きが入れてあったり、主人しゅじん穿きふるした薩摩下駄を物数寄ものずきにまだ真新まあたらしいのに穿きかえてく人なぞもあった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
別荘の番人がとりあえず私を奥へ案内して、「あなたが御出おいでの事はすで主人しゅじんの方から沙汰がございました、つきましてはの通りの田舎でございますが、悠々ゆるゆる御逗留なすって下さいまし」
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
少し、きずが大きすぎるからと思って、はねのけると、要吉ようきちは、すぐ主人しゅじんにしかられました。それではこのくらいならいいだろう、ひとつおまけにいれといてやれと、おさらにのせると
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
汽船きせんがこのしまきました。そのふねには、一人ひとり大金持おおがねもちがっていましたが、上陸じょうりくすると、庭園ていえん主人しゅじんのところにやってきました。
花咲く島の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「それはあいにくでございました。主人しゅじんはものいみでございまして、今晩こんばん一晩ひとばんつまでは、どなたにもおいになりません。」
羅生門 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
上ではみんなが下男をっていましたが、いつまでたっても下男はもどってきません。そこで、主人しゅじんがおくさんにむかって
花前はいろも動きはしない。もとより一ごんものをいうのでない。主人しゅじん細君さいくんとはなんらの交渉こうしょうもないふうで、つぎの黒白まだらの牛にかかった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
くすり主人しゅじんも、これにはこまったとみえて、ひらあやまりにあやまり、さけを五しょうに、にわとりとさかななどをおれいとしてだしました。
すっかり不安になった黒馬旅館くろうまりょかん主人しゅじんホールは、馬にひとむちあてると、いちもくさんに家へむかって走った。
熊蔵としては、庭手にわて白壁門しらかべもんのほうの状況じょうきょう主人しゅじんげるつもりで、ここへきたのであったが、出合であいがしらに老臣ろうしんからそうかれて見ると、なにを話しているもなく
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
バルタ 其通そのとほりにござります。あそこに主人しゅじんられまする、御坊ごばう可憐いとしうおもはせらるゝ。
其犬がぶらりと遊びに来た。而して主人しゅじんに愛想をするかの様にずうと白の傍に寄った。あまりに近く寄られては白は眼を円くし、据頸すえくびで、はなはだ固くなって居た。牝犬はやがて往きかけた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「それは王子さま。私どもの大事だいじのご主人しゅじんさま。私どもは空をながめて歌っただけでございます。そらをながめておりますと、きりがあめにかわるかどうかよくわかったのでございます」
わが江戸の話は文政ぶんせい末期の秋のよいの出来事である。四谷の大木戸おおきど手前に三河屋といふ小さい両替店りょうがえみせがあつて、主人しゅじん新兵衛しんべえ夫婦と、せがれの善吉、小僧の市蔵、下女のお松の五人暮らしであつた。
赤膏薬 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
せがれは、たび奉公ほうこうにやられて、女房にょうぼうは、主人しゅじん留守るすうちでいろいろな仕事しごとをしたり、手内職てないしょく封筒ふうとうったりしていたのでした。
お化けとまちがえた話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこで、主人しゅじんは、ああいうならずものは、もうこれからは、けっしてとめてはやらないぞ、と、かたく心に思ったのでした。
やがて主人しゅじんばれて出てきたしっぺい太郎たろうますと、小牛こうしほどもあるいぬで、みるからするどそうなきばをしていました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
勝頼かつよりすでにほろび、甲斐かい領土りょうど主人しゅじん家康いえやす治下ちかとあいなっております」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああそうですか。一寸ちょっとちなさい。主人しゅじんに聞いてあげましょう。」
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あたらしいにも、なんにも、もうすこしまえまで、かごのなかで、ぴんぴんはねていたのです。」と、おんなは、主人しゅじんかお見上みあげてこたえました。
女の魚売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたくしがここにもってまいりましたものなどは、主人しゅじんふねにおいてありますものにくらべますと、まったくとるにたらないものばかりでございます。