ふる)” の例文
庭の桔梗ききょうの紫うごき、雁来紅けいとうの葉の紅そよぎ、撫子なでしこの淡紅なびき、向日葵ひまわりの黄うなずき、夏萩の臙脂えんじ乱れ、蝉の声、虫のも風につれてふるえた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おもふと、あはが、ゆきふるはすしろはだたゞれるやうで。……そのは、ぎよつとして、突伏つきふすばかりに火尖ひさきめるがごと吹消ふきけした。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ばかばかしい。はやんでせろ。いくらでもおまえがたのわりはまれてくるわ。」と、みきからだふるわしておこったのであります。
葉と幹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
乃公はふるえる足を踏みしめて、椅子から立ち上った。そして二人の方を見ないようにして、静かに奥の、大鏡の方へ歩いていった。
不思議なる空間断層 (新字新仮名) / 海野十三(著)
兄はすぐ威丈高ゐたけだかに母へ食つてかかりました。母もかうなれば承知しません。低い声をふるはせながら、さんざん兄と云ひ合ひました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
三千人以上もあれに立て籠っているそうで……何にしても土地の役人や旅の者でも、ふるい怖れて、あの麓へ近づく者はありません。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芭蕉の心がいたんだものは、大宇宙の中に生存して孤独に弱々しくふるえながら、あしのように生活している人間の果敢はかなさと悲しさだった。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
薄き眉ビリと動くと共に、葉巻シガーの灰ふるひ落としたる侯爵「山木、其の同胞新聞と云ふのは、篠田何とか云ふ奴の書きるのぢやないか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ゆき子は、おせいに対する嫉妬しつとで、からだふるへて来る。石のやうに動かない男の心理が、ゆき子にかあつと反射して来て苦しかつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
それを見たら、人間ならたちまちふるえあがって逃げ出すのであろうが、犬は逃げるどころか、かえってますます勢いはげしくいどみかかった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かたむけて見返みかへるともなく見返みかへ途端とたんうつるは何物なにもの蓬頭亂面ほうとうらんめん青年せいねん車夫しやふなりおたか夜風よかぜにしみてかぶる/\とふるへて立止たちどまりつゝ此雪このゆきにては
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
が寺僧は、そういう冒漬ぼうとくをあえてすれば仏罰立ちどころに至って大地ふるい寺塔崩壊するだろうと言って、なかなかきかなかった。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
〔譯〕雲煙うんえんむことを得ざるにあつまる。風雨ふううは已むことを得ざるにる。雷霆らいていは已むことを得ざるにふるふ。こゝに以て至誠しせい作用さようる可し。
大阪梅田停車場ステーションに着きけるに、出迎えの人々実に狂するばかり、我々同志の無事出獄を祝して万歳の声天地もふるうばかりなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ふるはしアノ白々しら/″\しいといふとき長庵は顏色がんしよくかへて五十兩には何事ぞや拙者はさらおぼえなき大金を拙者に渡したなどとは途方とはうなき事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
伏目になったおぬいさんの前髪のあたりが小刻みにふるえるのを見たけれども、そして気の毒さのあまり何か言い足そうとも思ってみたけれども
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そが出立ちし處なるアンタンドロとシモエンタ、またかのエットレのやすらふところを再び見、後、身をふるはして禍ひをトロメオに與へ 六七—六九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
青くなってふるえたのを見て「やっぱりそれも夢だったよ」と仰って、さびしそうにニッコリなすった事がありましたッけ。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
貧窮人のみ勢ひを得て道路に立ちて威をふるひしは実に未曾有の珍事なりけり……さる程に貧民の暴動かくの如くなれば
その時与吉の鼻の穴がふるえるように動いた。厚いくちびるが右の方にゆがんだ。そうして、食いかいた柿の一片いっぺんをぺっと吐いた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いまぢあ、すこしれやしたがね、此處こゝへはじめて南洋なんやうからたときあ、まだ殘暑ざんしよころだつたがそれでも、毎日々々まいにち/\/\、ぶるぶるふるえてゐましただよ
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
過るころ天地あめつちも砕けぬばかりのおどろ/\しき音して地ふるふに、枕上まくらがみ燈火ともしび倒れやせむと心許なく、臥したるままにやをら手を伸べつつ押さへぬ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
羽を微妙にふるわせたり、脚を擦合すりあわせたり、目玉をくるくる動かしているのを、新吉はおときにも見せて面白がった。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
それで心が慰まった。高校生にあこがれて簡単にものにされる女たちを内心さげすんでいたが、しかし最後の三日目もやはり自信のなさで体がふるえていた。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
ジナイーダは、ぴくりと体をふるわしたが、無言のままちらと父を見ると、その腕をゆっくりくちびるへ当てがって、一筋真っ赤になった鞭のあとに接吻せっぷんした。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
只富貴をもて論ぜば、信玄しんげんがごとく智謀はかりごとももが百あたらずといふ事なくて、一三九一生の威を三国にふるふのみ。しかも名将の聞えは世こぞりてしやうずる所なり。
傘をふりまわしたり、ゴム引マントをたたきつけたり、——とにかく昇降口は彼らの叫喚にふるえるのであった。子供たちはそうすることがなぜか嬉しいのだ。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
つまりそのとし日本につぽん外國がいこく輸出ゆしゆつした總額そうがく一億一千七百萬圓いちおくいつせんしちひやくまんえんよりもまだはるかおほくの金額きんがくだつたので、人々ひと/″\はみんな洪水こうずい大慘害だいさんがいにはふるあがつたものです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
ヒマラヤでは、この前年、即ち一昨年にも、アッサム州の密林ジャングルの中に、体長九十呎、身丈みのたけ二十呎の怪獣が出現して、住民をふるえ上らせたという話がある。
言いながら藤吉はその前へがたがたふるえている伝二郎を押しやった。顔色もかえずに男は伝二郎を抱き停めた。
牧之ぼくしおもへらく、鎮守府将軍ちんじゆふしやうぐん平の惟茂これもち四代の后胤かういん奥山おくやま太郎の孫じやうの鬼九郎資国すけくに嫡男ちやくなん城の太郎資長すけながの代まで越後高田のほとり鳥坂とりさか山に城をかまへ一国にふるひしが
ぼくはてっきり、あなたからだと信じこみ、胸おどらせ、封を切る手も、ふるわせ、読み下して行くと、なんだ、がっかりしました。と言っては悪いでしょう。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
私の下僕はもうびくびくふるえて居る。で、まあどうなる事かと非常に心配して居る様子であったですけれども、下僕に対してそんな話をして居るひまもない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
(私はいまもそのじゅうを記念として大事にしている)両眼りょうがんにくしみといかりに青くえ、私をにらんで底うなりを発したとき、私の乗馬はふるえてあとずさりした。
とうさんはその時分じぶんはまだ幼少ちひさくてなんにもりませんでしたが、そのきつねのついたといふ生徒せいとくちからあわし、顏色かほいろあをざめ、ぶる/″\ふるへてしまひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
とりみだしていやあがる——おれほどの男の前で、ぬけぬけと、心の秘密をのろけるまで、魂をぶち込んでいやあがる——雪之丞が、ふるえ上るのも無理はねえ——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ふるえてはかまの間へ手を入れ、松蔭大藏は歯噛はがみをなして居りましたが、最早詮方せんかたがないと諦め、平伏して
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「きょうは大層たいそうおそかったではないか、どうしてからだをふるわせているのか、犬にでも会ったのか。」
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
私は、ブルブルふるえ始めた。とても立っていられなくなった。私は後ろの壁にもたれてしまった。そして坐りたくてならないのをいて、ガタガタ震える足で突っ張った。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
すると、力の強い、大男のみことですから、力いっぱいずしんずしんと乱暴らんぼうにお歩きになると、山も川もめりめりとゆるぎだし、世界じゅうがみしみしとふるい動きました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
さう言ひながらも、あの冷靜そのもののやうなお夏が、恐怖やら緊張やらにふるへてゐるのでした。
と、いています。それは、一目ひとめるだけでさむさにふるあがってしまいそうな様子ようすでした。はいるものみんな、なにもかも、子家鴨こあひるにとってはかなしいおもいをすばかりです。
まづ丹田たんでんに落つけ、ふるふ足を踏しめ、づか/\と青木子の面前にすゝみ出でゝ怪しき目礼すれば、大臣は眼鏡の上よりぢろりと一べつ、むつとしたる顔付にて答礼したまふ。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
僕は好んでプルタークの『英雄列伝』を読む、読んでいるあいだに古代の英雄豪傑の勇気凛然りんぜんたること、いわゆる強いことに何もかも忘れてふるい上がるごとく感ずることがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
大地ふるうてビークン丘とビーチェン崖と打ち合い、英国バス市丸潰れとなる由を、天使が一老婆に告げたという評判で、市民不安の念に駆られ、外来の客陸続ここを引き揚げたが
「彼れ地をふるいてその所を離れしめ給えばその柱ゆるぐ」は大地震をえがきし語である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
抛物線のふるいつきたい美しさを、鼠の荒縞かけた雲の上に、うっとりと眺め入っていたが、日が暮れぬうちと思って、下宮川の谷へ下り始めた、その尾根は痩せ馬の背のように細くて
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
冷水でも浴びせられたように、ふるえ上がった平太郎は、思わず伝七を拝んだ。
御行 (空を見上げ、歯の根も合わぬふるえ声)ああ、こ、これは大変な天気になって来た! あ、あなた方も、さ、早く!……なにをそう呑気のんきに抱き合ったりなぞ、しているのです! こ
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
お聞きになりました時には、真っ蒼になってふるえておいででございました
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)