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潜
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ひそ
ふりがな文庫
“
潜
(
ひそ
)” の例文
旧字:
潛
平次は八五郎を突飛ばすやうに、あわてて
物蔭
(
ものかげ
)
に身を
潜
(
ひそ
)
めました。裏口が靜かに開いて、眞つ黒なものが、そろりと外へ出たのです。
銭形平次捕物控:091 笑い茸
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
「実はそこに、自分を
裸体
(
はだか
)
にさせない気持が
潜
(
ひそ
)
んでいるからさ。見たまえ、夢中になって踊っている人間は皆ムキ出しの人間だ——」
鳴門秘帖:06 鳴門の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
一層
(
いつそ
)
此方
(
こつち
)
から進んで、直接に
三千代
(
みちよ
)
を喜ばしてやる方が遥かに愉快だといふ取捨の念丈は殆んど理窟を離れて、
頭
(
あたま
)
の
中
(
なか
)
に
潜
(
ひそ
)
んでゐた。
それから
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
呼吸
(
いき
)
を詰めて、うむと
堪
(
こら
)
えて
凍着
(
こごえつ
)
くが、
古家
(
ふるいえ
)
の
煤
(
すす
)
にむせると、時々
遣切
(
やりき
)
れなくなって、
潜
(
ひそ
)
めた
嚔
(
くしゃめ
)
、ハッと
噴出
(
ふきだ
)
しそうで不気味な真夜中。
霰ふる
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
悉達多は
車匿
(
しやのく
)
に
馬轡
(
ばひ
)
を執らしめ、
潜
(
ひそ
)
かに王城を後ろにした。が、彼の思弁癖は
屡
(
しばしば
)
彼をメランコリアに沈ましめたと云ふことである。
侏儒の言葉
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
▼ もっと見る
ひょっとすると、この船中にこっそりと
潜
(
ひそ
)
んでいて、船客を
嚇
(
おど
)
かしておいて何かの物品を盗もうとする奴がいないとも限りません。
世界怪談名作集:13 上床
(新字新仮名)
/
フランシス・マリオン・クラウフォード
(著)
なお見るとそこから十数間はなれた、
満天星
(
どうだん
)
の木の蔭の暗い所にも、同じ姿をした二人の人間が、館の方を睨みながら
潜
(
ひそ
)
んでいた。
あさひの鎧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
襖の蔭から飛出した白いものは、云うまでもなく
麻睡薬
(
ますいやく
)
をしませた布で、そこにもう一人の悪党が
潜
(
ひそ
)
んでいて、彼の不意をうった訳だ。
恐怖王
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
この
深夜
(
しんや
)
、一体何ごとが起ったというのであろう。ジュリアを
責
(
せ
)
める男は
誰人
(
だれ
)
? そして地底に現われた吸血鬼は、そも何処に
潜
(
ひそ
)
める?
恐怖の口笛
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
彼の胸底には、武将としての野心の外に、そう云うものとは甚だ縁の遠い、甘い、やさしい、綿々たる恋情が
潜
(
ひそ
)
んでいたであろう。
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
其処
(
そこ
)
に北太平洋が
潜
(
ひそ
)
んで居るのである。多くの頭が窓から出て眺める。汽車は
尾花
(
おばな
)
の白く光る山腹を、波状を
描
(
か
)
いて蛇の様にのたくる。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
其処
(
そこ
)
で生徒に訊いて見ると、田辺先生は時々しか出席簿を付けないと言つた。甲田は
潜
(
ひそ
)
かに喜んだ。校長も矢張遣るなと思つた。
葉書
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
この亡夫と云ふ言葉に、この寢室の祕密が——この寢室の堂々としてゐながら、打ち棄てゝ
顧
(
かへりみ
)
られないと云ふ魔力が——
潜
(
ひそ
)
んでゐるのだ。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
もう
空
(
そら
)
の
何處
(
どこ
)
にか
其
(
そ
)
の
勢
(
いきほ
)
ひを
潜
(
ひそ
)
めて
躊躇
(
ちうちよ
)
して
居
(
ゐ
)
る
筈
(
はず
)
の
春
(
はる
)
に
先立
(
さきだ
)
つて一
度
(
ど
)
に
取返
(
とりかへ
)
さうとするものゝ
如
(
ごと
)
く
騷
(
さわ
)
いで/\
又
(
また
)
騷
(
さわ
)
ぐのである。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
言うに言われぬ
甘美
(
かんび
)
なもの、いわば女性的なもの……に対する、半ば無意識な、はじらいがちの予感が、
潜
(
ひそ
)
んでいたのだった。
はつ恋
(新字新仮名)
/
イワン・ツルゲーネフ
(著)
「毒風肌を切る」
葱嶺
(
パミール
)
をこえるに当って、玄奘は「竜王の
潜
(
ひそ
)
む大竜池」のほとりを通っている。それは、
紺碧
(
こんぺき
)
の「無限の
深淵
(
しんえん
)
」なのである。
『西遊記』の夢
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
みんなは、
息
(
いき
)
を
潜
(
ひそ
)
めて
黙
(
だま
)
って、その
音
(
おと
)
に
耳
(
みみ
)
を
傾
(
かたむ
)
けたのです。すると、ひづめの
音
(
おと
)
は、だんだんあちらに
遠
(
とお
)
ざかっていきました。
赤い姫と黒い皇子
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
細い管のなかに
潜
(
ひそ
)
んでいて、滅多にその姿を見せないが、その狐がいろいろのことを教えてくれるので、狐使いは占いのようなことをやる。
半七捕物帳:58 菊人形の昔
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
その無視しているところにその本性を看破される原因が存在し、その馬鹿にしているところに馬鹿にされる原因が
潜
(
ひそ
)
んでいるのであります。
鼻の表現
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
前にはこの
得体
(
えたい
)
の知れぬものが
潜
(
ひそ
)
んでいる。そこで直ちに私は自分の知らぬ危険よりはむしろ自分の知っている危険の方を取ることにした。
宝島:02 宝島
(新字新仮名)
/
ロバート・ルイス・スティーブンソン
(著)
山鳴り谷答えて、いずくにか
潜
(
ひそ
)
んでいる
悪魔
(
あくま
)
でも唱い返したように、「我は官軍我敵は」という歌の声は、笛吹川の水音にも
紛
(
まぎ
)
れずに聞えた。
雁坂越
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
これは母の言う
処
(
ところ
)
に
由
(
よっ
)
て迷信を
圧
(
おさ
)
え神経を静める方法もあろうかと思ったからです。すると母は
暫
(
しばら
)
く考えて
居
(
い
)
ましたが、
吐息
(
といき
)
をして声を
潜
(
ひそ
)
め
運命論者
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
その何の奇もない文面の裏に
潜
(
ひそ
)
めてある幾つかの特長を拾ってすら、ここに想像も及ばぬ一個の淫獣の全貌を組み立ててくるのがわかります。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
絞
(
しぼ
)
り掛け/\て
試
(
こゝろ
)
みしに何れも血は流れて骨に入ず
斯
(
かゝ
)
る所へ
挑灯
(
ちやうちん
)
の
光
(
ひかり
)
見
(
み
)
えしかば人目に掛り疑ひを受ては如何と
早々
(
さう/\
)
木立
(
こだち
)
の
中
(
なか
)
へ身をぞ
潜
(
ひそ
)
めける
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
○問題とされてゐる句は、少陵の野老声を呑んで哭す、春日
潜
(
ひそ
)
かに行く曲江の曲といふ句で始まる七言古詩の結句である。
放翁鑑賞:07 その七 ――放翁詩話三十章――
(新字旧仮名)
/
河上肇
(著)
最初、船頭を
賺
(
すか
)
して、夜中
潜
(
ひそ
)
かに黒船に乗り込もうとしたけれども、いざその場合になると、船頭
連
(
れん
)
は皆しりごみした。
船医の立場
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
秘めかくした恋を
見咎
(
みとが
)
められて、
身縁
(
みよ
)
りのこの家に、追放された当座の身を
潜
(
ひそ
)
めているあの道弥とお登代の二人だった。
老中の眼鏡
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
それらのものに
潜
(
ひそ
)
む美が認識されるまでに、今日までの長い月日がかかった。私たちは
強
(
あなが
)
ちそれを
咎
(
とが
)
めることは出来ぬ。
民芸四十年
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
何か原因のまだ
捉
(
とら
)
えられぬものが有るのではないか。小さなことのようだが
手掛
(
てがか
)
りはこんなところに
潜
(
ひそ
)
んでいると思う。
こども風土記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
愛というものは、そんなに痛快なものではないのでございます。どちらかと申せば、緩慢な、
歯痒
(
はがゆ
)
いところに慈悲が
潜
(
ひそ
)
んでいることもございます。
大菩薩峠:26 めいろの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
ミルトンの
詩
(
し
)
を
高
(
たか
)
らかに
吟
(
ぎん
)
じた
処
(
ところ
)
で
饑渇
(
きかつ
)
は
中
(
なか
)
々に
医
(
い
)
しがたくカントの
哲学
(
てつがく
)
に
思
(
おもひ
)
を
潜
(
ひそ
)
めたとて
厳冬
(
げんとう
)
単衣
(
たんい
)
終
(
つひ
)
に
凌
(
しの
)
ぎがたし。
為文学者経
(新字旧仮名)
/
内田魯庵
、
三文字屋金平
(著)
これはまた極端に、凡そ売色という一切の行動には何ともいえない悲壮の神秘が
潜
(
ひそ
)
んでいると断言しているのである。
妾宅
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
金五郎の顔に、口にふくんだ水を吹きつけたマンは、パイプのかげに
潜
(
ひそ
)
んだので、金五郎の眼には、とまらなかった。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
切害
(
せつがい
)
致し候者は春部梅三郎と若江とこれ/\にて目下鴻ノ巣の宿屋に
潜
(
ひそ
)
み
居
(
お
)
る
由
(
よし
)
確かに聞込み候間早々
彼
(
か
)
の者を
討果
(
うちはた
)
され候えば親の
仇
(
あだ
)
を討たれ候
廉
(
かど
)
を
菊模様皿山奇談
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
其晩
(
そのばん
)
は
湿
(
しめ
)
やかな
春雨
(
はるさめ
)
が
降
(
ふ
)
つてゐた。
近所隣
(
きんじよとなり
)
は
闃
(
ひつそ
)
として、
樋
(
ひ
)
を
洩
(
も
)
れる
細
(
ほそ
)
い
雨滴
(
あまだれ
)
の
音
(
おと
)
ばかりがメロヂカルに
聞
(
きこ
)
える。が、
部屋
(
へや
)
には
可恐
(
おそろ
)
しい
影
(
かげ
)
が
潜
(
ひそ
)
んでゐた。
背負揚
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
いたるところに泥沼や
堰返
(
せきがえ
)
しの
淀
(
よど
)
が隠れていて、地理を知るモスタアとダグラスには絶好の
潜
(
ひそ
)
み場所を与えている。
チャアリイは何処にいる
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
ちよつと
潜
(
ひそ
)
かに
上洛
(
じょうらく
)
されたやうな
噂
(
うわさ
)
もありましたので、それを種に人をお担ぎになつたのでございませう。鶴姫様の御
悲歎
(
ひたん
)
は申すまでもございません。
雪の宿り
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
悦
(
よろこ
)
びに声を
潜
(
ひそ
)
めた彼の顔は、
髯
(
ひげ
)
の中で彼女の衣の射る絹の光を受けて薄紅に
栄
(
は
)
えていた。部屋の中で訶和郎の死体が反絵の腕を
辷
(
すべ
)
って倒れる音がした。
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
それで一たんは静まつたやうではあつたが、その中にはかへつて不気味な
気配
(
けはい
)
が
潜
(
ひそ
)
まつてゐた。黒くかたまつた人達はその場を去らうとはしなかつた。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
それを蔽うてあふれるものもある、ね、気を附けて、袴野はその言葉にいつわりなぞ
潜
(
ひそ
)
むものではないと思った。
舌を噛み切った女:またはすて姫
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
此家
(
こヽ
)
にも
學校
(
がくかう
)
にも
腦病
(
なうびやう
)
の
療養
(
れうやう
)
に
歸國
(
きこく
)
といひ
立
(
た
)
て、
立
(
たち
)
いでしまヽ
一月
(
ひとつき
)
ばかりを
何處
(
いづく
)
に
潜
(
ひそ
)
みしか、
戀
(
こひ
)
の
奴
(
やつこ
)
のさても
可笑
(
をか
)
しや、
香山家
(
かやまけ
)
の
庭男
(
にはをとこ
)
に
住
(
す
)
み
込
(
こ
)
みしとは。
暁月夜
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
その石も、樹も、皆、水の威力に牽引されているようで、
濶々
(
ひろびろ
)
とした河原に、一筋水が走っている。この水のみが、活物の緑を
潜
(
ひそ
)
めているかと思われる。
白峰山脈縦断記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
第一には可憐な菫の花の咲きつづく野を聯想すべきであり、また其処に恋人などの関係があるにしても、それは奥に
潜
(
ひそ
)
める方が鑑賞の常道のようである。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
夜業
(
やげう
)
の筆を
擱
(
さしお
)
き、
枝折戸
(
しをりど
)
開
(
あ
)
けて、十五六
歩
(
ぽ
)
邸内
(
ていない
)
を行けば、栗の
大木
(
たいぼく
)
真黒
(
まつくろ
)
に茂る
辺
(
ほとり
)
に
出
(
い
)
でぬ。
其
(
その
)
蔭
(
かげ
)
に
潜
(
ひそ
)
める井戸あり。
涼気
(
れうき
)
水
(
みづ
)
の如く
闇中
(
あんちう
)
に
浮動
(
ふどう
)
す。
虫声
(
ちうせい
)
※々
(
じゞ
)
。
良夜
(新字旧仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
暗灰色の夕空、濃い
闇
(
やみ
)
につつまれてゆく野ッ原——、何もかも窒息させられてしまい、この
凄惨
(
せいさん
)
な景色のどこに「春」が
潜
(
ひそ
)
んでいるなどと考えられようか⁈
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
『瀬川君、大層陽気ぢやないか。』と敬之進は声を
潜
(
ひそ
)
めて、『や、
大一座
(
おほいちざ
)
だ。一体
今宵
(
こんや
)
は何があるんだらう。』
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
しかるにその
甥
(
おい
)
なる
田崎某
(
たざきぼう
)
妾に向かいて、ある遊廓に
潜
(
ひそ
)
めるよし告げければ、妾先ず行きて磯山の在否を問いしに、
待合
(
まちあい
)
の
女将
(
おかみ
)
出
(
い
)
で来りて、あらずと弁ず。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
前掲の孔子の語において内に
潜
(
ひそ
)
めて表現せられているものが、ここでは表面に露出せられたというだけである。
孔子
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
櫻木海軍大佐
(
さくらぎかいぐんたいさ
)
は
今
(
いま
)
や
此
(
この
)
島
(
たう
)
中
(
ちゆう
)
に
身
(
み
)
を
潜
(
ひそ
)
めて
兼
(
かね
)
て
企
(
くわだ
)
つるといふ、
軍事上
(
ぐんじじやう
)
の
大發明
(
だいはつめい
)
に
着手
(
ちやくしゆ
)
して
居
(
を
)
るのではあるまいか。
讀者
(
どくしや
)
諸君
(
しよくん
)
も
恐
(
おそ
)
らく
此邊
(
このへん
)
の
想像
(
さうぞう
)
は
付
(
つ
)
くだらう。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
しかし、満面に微笑の輝いているその容貌の表情には、完全なる美にはいつでもつきもののあの
憂鬱
(
ゆううつ
)
の微かな影が(不可解の変則だが!)やはり
潜
(
ひそ
)
んでいた。
しめしあわせ
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
潜
常用漢字
中学
部首:⽔
15画
“潜”を含む語句
潜然
潜戸
潜門
潜伏
潜水夫
水潜
掻潜
潜々
潜行
潜入
先潜
潜込
潜望鏡
潜航艇
胎内潜
狆潜
潜抜
沈潜
犬潜
潜在
...