たな)” の例文
たとえば人形の首が脱け落ちたり風船玉のようなものが思いがけなく破裂したり、たなのものが落ちて来たりした時のがその例である。
笑い (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ピアノのたなひじをかけ、手にひたいを置いて彼は、年少の客気と惑乱との調子で自作の注釈をしてるクリストフを、ながめてやっていた。
かごうへに、たなたけやゝたかければ、打仰うちあふぐやうにした、まゆやさしさ。びんはひた/\と、羽織はおりえりきながら、かたうなじほそかつた。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこは平田門人仲間に知らないもののない染め物屋伊勢久いせきゅうの店のある麩屋町ふやまちに近い。正香自身が仮寓かぐうするころもたなへもそう遠くない。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
板壁にはたなが作りつけられ、小さい仏壇と、六七冊の本が並んでい、本の片方を硝子張りの人形箱がブックエンドのように押えていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あひるさんは大変おしやれでしたから、自分の足の恰好かつかうのことはたなへあげて、きりぎりすさんのこしらへてきた靴を一目見ていひました。
あひるさん の くつ (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
余は昨年四月十日近衛師団司令部と共に海城丸に乗り込み宇品うじなを出発したり。部屋は下等室のたなの上にて兵卒と同じさまにもてなされぬ。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子テーブルにすわった人のところへ行っておじぎをしました。その人はしばらくたなをさがしてから
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「旦那が大きな声で、あかりを持って来いって言うから、たなの上の手燭へ灯を移して、大急ぎで飛んで行っただよ、何を聞くもんか」
顔馴染かほなじみの道具屋をのぞいて見る。正面の紅木こうぼくたなの上に虫明むしあけらしい徳利とくりが一本。あの徳利の口などは妙に猥褻わいせつに出来上つてゐる。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
四季いずれの時も、鯛を釣るにはそのたなつまり魚の遊泳層を心得ておかねばならない。小鯛は、普通底から半ぴろ乃至一尋くらいが棚である。
鯛釣り素人咄 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
韻塞いんふたぎをされるはずになっていたから、詩集のしかるべきものを選んでここのたなへ積んでおくことなどをお命じになったあとで
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
たなの上から、うすぺらな赤い石鹸を取りろして、水のなかにちょっとひたしたと思ったら、それなり余の顔をまんべんなく一応撫で廻わした。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
全身の左半分に麻痺まひが来ていることが分った。———時間を知っておこうと思って、たなの上の置時計に眼をった。午前一時三分であった。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まづしい店前みせさきにはおほがめかふわに剥製はくせい不恰好ぶかっかううをかはつるして、周圍まはりたなには空箱からばこ緑色りょくしょくつちつぼおよ膀胱ばうくわうびた種子たね使つかのこりの結繩ゆはへなは
両側には引出しやらたなやらがたくさん附いていて、身のまわりのもの一切をそれにしまい込んでも、まだ余分の引出しが残っているくらいだ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かぼちゃも、きゅうりも、いねも昔の三等寝台しんだいのように、何段もかさなったたなの上にうえられていた。みんなよく育っていた。
三十年後の東京 (新字新仮名) / 海野十三(著)
余は室内しつないには大小種々のたなの有りし事をしんずる者なり。入り口の他にも數個すうこまど有りしなるべければ、室内しつない充分じうぶんあかるかりしならん。(續出)
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
毎月の十五日に神に詣で、または先祖のおたなを拝むということは、村でならば今でもこれを続けている家が幾らも見られる。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
中央ちうあう青竹あをだけ線香立せんかうたてくひのやうにてられて、石碑せきひまへにはひとつづゝ青竹あをだけのやうなちひさなたなつくられた。卯平うへい墓薙はかなぎむれくははつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
たなの隅にカタのついた汚れた猿又やふんどしが、しめっぽく、すえたにおいをしてまるめられていた。学生はそれを野糞のように踏みつけることがあった。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
靴紐くつひもや靴墨、刷毛はけが店頭の前通りにならび、たなに製品がぱらりと飾ってあったが、父親はまだ繃帯ほうたいも取れず、土間の仕事場で靴の底をつけていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かなたに黒くたなびいて見えるのは彼らの街であった。その間の高低起伏はうすぼんやりとよどんで、そして左右にただよっているようであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ぎがてにあいちやんは、たなひとつから一かめ取下とりおろしました、それには『橙糖菓オレンジたうくわ』と貼紙はりがみしてありましたが、からだつたのでおほいに失望しつばうしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
彼は人間豹にも劣らぬすばやさで、垂直の梯子をけのぼると、天井の細いたなをヒョイヒョイと伝いながら、みるみる恩田の方へ近づいていった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あるひはかの掘揚ほりあげ(雪をすてゝ山をなす所)の上に雪を以て四方しかくなるだうを作りたて、雪にて物をおくべきたなをもつくり
滞京中には、服部治郎左衛門に連れられて、洛中を見てあるき、東西のいちたなでは、弟たちへの土産に、独楽こまを買った。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石黄色の胡粉ごふんで塗られた壁は、所々大きく剥落はくらくしていた。奥の方に黒塗りの木の暖炉が一つあって、狭いたながついていた。中には火が燃えていた。
あたし、も少しでおつこちさうでしたわ、たなみたいなんですもの。あの、先生——あなたのお名前何んて仰しやるの?
借金と気がついて急に悄気しょげた時期もあります。わが借金はたなにあげ、ひとの少々の貸金をはたって歩いた時もあります。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この場合においても彼は、ソーッと、自分のたなから、状袋を出して、その中に五十銭玉が一つ光っていることを見ると、非常な誘惑を菓子箱に感じた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
だんだん夏が来て、その店の前のたなの下には縁台が置かれて、夕顔の花が薄暮はくぼの中にはっきりときわだって見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
或る日、その出来上がった鼠をば、昼食を終ったわずかの休みの暇に、ひそかに店頭のたなに乗せてながめていました。
何所迄どこまで恰当こうとうこしらへかたはら戸棚とだなけるとたなつてあつて、ズーツと口分くちわけいたして世辞せじの機械が並んでる。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
アジという魚はたなといって、中層に泳いでいるものだが、その日のかげんで地底から一ヒロ上で食うときもあるし、二ヒロ、三ヒロ上で食うこともある。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
西洋から持って来た書物が多いので、本箱なんぞでは間に合わなくなって、この一間だけ壁にことごとたなを取り附けさせて、それへ一ぱい書物を詰め込んだ。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それから犯罪者が牢獄のたなの上で苦しみながら眠るように眠ったが、あまりに疲れ切っていたので、かえって起きている時分よりも余計に苦痛を感じた。
たとえ四おりおりのはなが、たなうえけてあっても、すこしも新鮮しんせんかんじをあたえず、そのいろがあせてえた。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
私は家へかへつて来た。家の小路の両側りやうがは桃色もゝいろはなで埋まつてゐた。このたなびくはなの中に病人びやうにんがゐようとは、何と新鮮しんせんな美しさではないか。と私はつぶやいた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
父は弟子でしたちに手伝わせて、細工場の方にたなのようなものを作っていた。それはもう半ば出来かかっていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
一秒間いちびようかん二三回にさんかい繰返くりかへされるほどの急激きゆうげきなものであつたならば、木造家屋もくぞうかおく土藏どぞう土壁つちかべおとし、器物きぶつたなうへから轉落てんらくせしめるくらゐのことはありべきである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ニールスは、テーブルの上によじのぼり、そこからカーテンにつかまって、窓の上のたなにとびうつりました。
女房にょうぼうや、」と靴屋くつやった。「みせって、一ばんうえたなに、赤靴あかぐつが一そくあるから、あれをってな。」
開かれざる書筺しょきょうと洋籍のたなは片すみに排斥せられて、正面の床の間には父が遺愛の備前兼光びぜんかねみつの一刀を飾り、士官帽と両眼鏡と違い棚に、短剣は床柱にかかりぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
しかしそれにも係わらず事務長は言いわけ一ついわず、いっこう平気なもので、きれいな飾り紙のついた金口きんぐち煙草の小箱を手を延ばしてたなから取り上げながら
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ものの二ちょうばかりもすすんだところひめ御修行ごしゅぎょう場所ばしょで、床一面ゆかいちめんなにやらふわっとした、やわらかい敷物しきものきつめられてり、そして正面しょうめんたなたいにできた凹所くぼみ神床かんどこ
囚人たちは、みんな、壁ぎはにつけてあるたなの上に一人づゝ寝るのですが、ふと見ると、さういふ或一つのたなの下から、土のかたまりがころころところがり出ました。
ざんげ (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
机の抽匣ひきだしから古びた鵬翼ほうよくの袋を取出し、それからたなの上のラジオにスイッチを入れるのだった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
すると、海賊の首領がすわつてたうしろの方のたなの上に、金の猫がのせてあるのが、につきました。
金の猫の鬼 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
そのひまにトーマスは、ずるずるとひきずられて、おくの部屋へやから調理場ちょうりばへひきずりこまれていった。たなからフライパンやなべが、けたたましい音をたててころがり落ちた。