有難ありがた)” の例文
山茶花さざんかりんと咲いている。静かだ。太平洋でいま戦争がはじまっているのに、と不思議な気がした。日本の国の有難ありがたさが身にしみた。
十二月八日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
誠に有難ありがたい事で、わたくしもホツといきいて、それから二の一ばん汽車きしや京都きやうと御随行ごずゐかうをいたして木屋町きやちやう吉富楼よしとみろうといふうちまゐりました
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
わたしことへば御自分ごじぶんものにして言葉ことばてさせてくださる御思召おぼしめし有難ありがたうれしいおそろしい、あまりの勿躰もつたいなさになみだがこぼれる
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
得たことはしであった佐助が彼女の機嫌を取ってくれるのは有難ありがたいけれども何事もご無理ごもっともで通す所から次第に娘を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それから解剖してれが心臓で是れが肺、是れがかんと説明してやった所が、「誠に有難ありがたい」と云て薬種屋も医者もふっと帰って仕舞しまった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
中には失礼なものがあって、「あ、海蔵寺伯爵の御馳走もいいが、あの講釈が無ければなお有難ありがたいが」などと申す者もあります。
狸のおばあさんは、大変有難ありがたがって厚く御礼を言いながら、三日のうちによいことをして来ると約束して、森の中にはいってしまいました。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
本當ほんたう有難ありがたいわね。やうやくのことはるになつて」とつて、れ/″\しいまゆつた。宗助そうすけえんながびたつめりながら
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いしくもまをされた。……のこらずつけやきのおあつらへは有難ありがたい、とおもふと、はうのふちをあかくしながら、あんこばかりはちつくすぐつたい。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
カピ妻 はい、まうしましたなれど、有難ありがたうはござりますが、のぞまぬとうてゐます。阿呆あはうめははか嫁入よめいりしたがようござります!
とおりおききしたいことをおききしてから、お暇乞いとまごいをいたしますと『また是非ぜひうぞちかうちに……。』という有難ありがたいお言葉ことばたまわりました。
云るゝとは思へども一かう其意を得ざれば夫は有難ありがたう御座りますが今ははや相果あひはてました親父が再び生ますと申す道理が御座いませうかと云つゝ涙を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
たいがいの者がそれほどには感じないんだ、そういうからだはごく稀にしかないし、そう生んでくれた親を有難ありがたいと思わなければいけないんだ。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私共わたしどもとほくにはうからまゐるものですから、なか/\言葉ことばおぼえられません、でも、あなたがたが親切しんせつにしてくださるのを、なにより有難ありがたおもひます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
大原は今の一言が何より有難ありがたし「僕の志を受けて下さるとはかたじけない。僕は半襟を差上げるのが目的でありません、僕の志を知って戴きたいのです」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ああら有難ありがたし、これも腹式呼吸のおかげ、強健術実行の賜物たまものぞと、勇気日頃に百倍し、半身裸体に雨を浴びてぞ突進する。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
こは端唄はうたなどに入りたるため多少艶体えんたいに近き感を生じ、俗人は有難ありがたがれどこれ即ちこの句の俗なる所以ゆえんなり。其角の句としては斬新を以て賞すべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
有難ありがたう、てると却々なか/\面白おもしろ舞踏ぶたうだわ』とつてあいちやんは、やうやくそれがんだのをうれしくおもひました、『わたし奇妙きめう胡粉ごふんうた大好だいすきよ!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
さて死なぬ(不生不滅)と申すは、近く申さば釈迦、孔子と申すお方は、今日まで生きてござるゆえ、人が尊みもすれば、有難ありがたがりも、おそれもする。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
ひとこころこころって、いよいよ調子ちょうしづいたのであろう。茶代ちゃだいいらずのそのうえにどさくさまぎれの有難ありがたさは、たとえ指先ゆびさきへでもさわればさわどくかんがえての悪戯いたずらか。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
姫はさほど有難ありがたいとも思わぬ様子でしたが、それでもいやとは言わず、船の中へ隠れました。そして言いました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
実際、正直なところを言えば、悟空は、どう考えてもあまり有難ありがた朋輩ほうばいとは言えない。人の気持に思いりがなく、ただもう頭からガミガミ怒鳴り付ける。
円本は勿論、改造文庫、岩波文庫、春陽堂文庫のたぐい、二十銭か三十銭で自分の読みたい本が自由に読まれるというのは、どう考えても有難ありがたいことである。
読書雑感 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
其身そのみが世の名利みやうりかゝはらねばなり、此日このひるものみなうれしく、人のわざ有難ありがたおもひしは、朝の心の快濶くわいくわつなりしうつりか、その飛々とび/\ひとり隅田すみだ春光しゆんくわう今日けふあたらし。
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
かの女は有難ありがたいやうな尊いやうな悲しいやうな涙のあふれてみなぎつて来るのを感じた。上さんはしばし立尽した。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「じゃ木村さんは発明家になろうというんだわね。発明家ってどんなえらい人かと思っていたら、木村さんのような人でもやれるような事なら、有難ありがたくもないね」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二十五日、朝、基督キリスト教会堂に行きて説教をきく。仏教もこの教も人の口より聞けば有難ありがたからずと思いぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
中には迷信的に坊さんを有難ありがたがっている家もあったが、物をやって、却って村の者からにくまれるようでは馬鹿らしいと言って、坊さんが来ても知らぬふりをしていた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
そのまた中を合乗で乗切る心無し有難ありがたの君が代に、その日活計ぐらしの土地の者が摺附木マッチはこを張りながら、往来の花観る人をのみながめて遂にまことの花を観ずにしまうかと
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
いずれも日本国の天神地祇の御裔みすえなりという有難ありがたさを言わず説かずに悟らしむるの道なり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
有難ありがたう、こりやどうも。菫を摘んどつて忘れて来てしまうた。ま、上にあがりなさい。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
お礼心にぜになどを出しても与八は有難ありがたがらない、米の飯を食わせれば限りなくよろこぶ、それにさけの切身でもつけてやろうものなら一かたげに三升ぐらいはペロリとたいらげてしまいます。
その時は実に有難ありがたかった。まあそれを二杯ばかり喰いました。余り一遍に喰ってもまた身体を害するであろうと思いましたからそれ位にして後は牛乳を少しばかり貰って飲んだです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
信心な人たちの強いまぼろしでは単なる鉤ある小枝でも、なお有難ありがたい神の姿に見ることができたので、それを祭をする人の口の前に持ってくることが大切な条件ではなかったかと思う。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ぼくっともなくてまった有難ありがたことだった。いぬさえみつかないんだからねえ。」
世にも有難ありがたくて感涙かんるいむせべるその日、はからざりき土倉氏より招状の来らんとは。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
母は給わって邸を出され、もし産まれた子が男子ならば、すぐに名のって出るがよし、姫であったらそのまま育て、自分の娘にするがよいと、有難ありがたい仰せに涙を流し生まれ故郷の諏訪へ帰り
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
有難ありがたや柳がさんらんと光るわ、そつと根に腰ろいてさてそつと行こかの
真珠抄 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
台所に杯盤はいばんの音、戸口に見送りの人声、はや出立いでたたんと吸物の前にすわれば床の間の三宝さんぽう枳殻からたち飾りし親の情先ず有難ありがたく、この枳殻誤って足にかけたれば取りかえてよと云う人の情もうれし。盃一順。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「どうも有難ありがたう、おじやうさん。いつかおれいはいたします」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
ほんとうに有難ありがたいものですよ、みちっていうものは。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
有難ありがたう、もう、すつかりよろしいのよ。」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
有難ありがたう。何しろ十三年目だからね。」
(火薬船とは、こいつは有難ありがたい!)
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「はい有難ありがた御座ございます」
夜汽車 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
わたしは有難ありがたがってるよ
あゝら有難ありがた我身わがみさふらふ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
ハツ/\うも御親切ごしんせつ有難ありがたぞんじます、何卒どうか貴方あなたたくかへつてくださいまし。金「かへらんでもいからおあがりな、わつしの見てめえで。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
わざわざこんな遠方へやって来て、僕たちからも、また、兄さんたちからも、そんなに有難ありがたがられないと来ちゃ、さんざんだ。
故郷 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そのあいだには随分ずいぶんくことも、またわらうこともありましたが、ただ有難ありがたいことに、以前いぜん良人おっとったときのような、あの現世げんせらしい、へん気持きもちだけは