つと)” の例文
すこしも乗客じょうきゃくわずらわさんようにつとめているおれか、それともこんなに一人ひとり大騒おおさわぎをしていた、たれにも休息きゅうそくもさせぬこの利己主義男りこしゅぎおとこか?』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それであなたはわたしたちにつとめてくれることになるし、わたしたちはわたしたちで、あなたがたのお役に立つこともありましょう
私たちの為すべきつとめは、ただ歴史を繰り返すことではありません。まして歴史にそむいたり歴史を粗末に扱ったりすることではありません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
むかし、襄陽じょうようの名士、みなご辺の名を口にいう。ご辺はもとより道を知る人、また天命の何たるかも知り、時の人のつとめも所存あるはずだ。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そんな事があるものですか、親分。怪しい奴や怪しい事を、江戸中にないやうにするのが、親分のつとめぢやありませんか」
「念をおすには及ばないよ。嘘は泥棒のはじめという。世の中から、その泥棒をなくするのが、このおじちゃんのつとめなのだ。わかるかな?」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そうして人の前では何も云えないで、わたくしにばかり代理をつとめさせて、ほんとうに困りますじゃア有りませんか、ようお嬢様
実際、人前に出られるからだではないとは思うが、実枝にそういわれれば母親としてのつとめとも思い、また運動会は見ていればおもしろくもあった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
荘田しょうだの恨みの原因が、直也の罵倒ばとうであることも云わなければならない。直也の父が、不倫ふりんな求婚のいやしい使者をつとめたことも云わなければならない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
人のうちへ案内も乞わずにつかつか這入はいり込むところは迷惑のようだが、人のうちへ這入った以上は書生同様取次をつとめるからはなはだ便利である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし僕はつとめに從つて、最初の目的を堅くやり通します——萬事を神の御榮みさかえの爲めにするのです。主は長い間堪へ忍び給うた、僕もその通りにするのです。
かれもとのすべてが不自由ふじいうだらけな生活せいくわつかへつてたとはいふものゝおとろへた身體からだ自分じぶんから毎夜まいよいぢめるやうてゝ奉公ほうこうつとめをして當時たうじくらべて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
およぜいつとめ、ところけいするところかざり・しかうしてにくところ(八五)めつするをるにり。かれみづか其計そのけいとせば、すなは其失そのしつもつこれ(八六)きはむるかれ。
宿場の空虚な場庭ばにわへ一人の農婦がけつけた。彼女はこの朝早く、街につとめている息子から危篤の電報を受けとった。それから露に湿しめった三里の山路やまみちを馳け続けた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
お前はお前の妻に言った、「この世で、お前のつとめは、子供を一人こしらえることだ」。そしてまた、言った、「一人ぐらい子供があったって、無いと同じことだ」
次は報酬にあたいするだけのつとめする人、いくらづいたことがあっても、それ以上のことを為さず、また気づかずに馬車馬ばしゃうま的に自分の命ぜられたこと以上には出来ぬ人。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かういふあぢはひは、祖先そせん以來いらいあたへられてゐる大事だいじなものだから、それをうしなはないようにするのが、われ/\のつとめといふよりも、われ/\のよろこびとかんじなくてはなりません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
しかして芭蕉の如きもなほ不可能的の景色をとって俳句と為さんとつとむるに似たり。あに無理なる注文ならずや。いはんや松島の如きははなはだ天然の美において欠くる所多きをや。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それおごりをもて治めたる世は、往古いにしへより久しきを見ず。人の守るべきは倹約なれども、一五二過ぐるものは卑吝ひりんつる。されば倹約と卑吝のさかひよくわきまへてつとむべき物にこそ。
なんつてもをんなですものくちはやいにつておつときのことなどははなしておかせくださるわけにはきますまい、げんいまでもかくしていらつしやることおびたゞしくあります、それは承知しようち
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
自分はしばらく牛をひかえて後から来る人たちの様子を窺うた。それでも同情を持って来てくれた人たちであるから、案じたほどでなく、続いて来る様子に自分も安心して先頭をつとめた。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ユリの花はいちじるしい虫媒花ちゅうばいかで、主として蝶々ちょうちょうが花を目当めあてに頻々ひんぴんと訪問する常得意じょうとくいである。それで美麗びれい花色かしょくが虫を呼ぶ看板かんばんとなっており、その花香かこうもまた虫をさそう一つの手引てびきをつとめている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
これといってやるべきつとめもなく、これといって持つべき責任もない。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
謙作はうっとりとなっている眼をつとめてけた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「だがぼくらは人間のつとめをおこたった」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
イワン、デミトリチ、グロモフは三十三さいで、かれ此室このしつでの身分みぶんいもの、元來もと裁判所さいばんしよ警吏けいりまた縣廳けんちやう書記しよきをもつとめたので。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「わたしたちはいよいよ仕事にかからなければならない。あしたはいちの立つ日だから、おまえは初舞台はつぶたいつとめなければならない」
そうしてその一幕の中で、自分のつとめなければならない役割がもしあるとすれば、おだやかな顔をした運命に、軽く翻弄ほんろうされる役割よりほかにあるまいと考えた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たゞ彼等かれらすべてはわらつてなはふべきよるつとめをすて公然こうぜんしよ集合しふがふする機會きくわい見出みいだすことをもとめてる。集合しふがふすることがたゞち彼等かれら娯樂ごらくあたへるからである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まして、良いなりをした乞食は、當然さうだ。たしかに私が乞うたのは仕事をである。けれども、私に仕事を世話してくれるのは、それは一體誰のつとめなのだらう。
よろしくここは人心をなだめ、いくたびなりと尊氏の存意をただして、事を政治による解決へ見いだしてゆく工夫こそ、われら朝臣のつとめと申すべきではなかろうか
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここおい韓非かんぴ、((韓王ノ))くにをさむるに、その法制はふせい修明しうめいし・(四七)いきほひつてもつその臣下しんかぎよし・くにましへいつようして・もつひともとけんにんずるをつとめず
提灯ちょうちんも別にるまい、廻りさえすればいのだ、わしは新役だからこれがつとめで、貴様達は私に連れられる身の上だ、ことに一人や二人狼藉者が出ても取って押えるだけの力はある
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この物音で、みなの者は、彼が遠いところから帰って来たのだな、もうつとめをすませたのだなと思う! 背中の真中まんなかくすぐったいような気持で、彼は、みんなを安心させにとんで行く。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
五二百姓おたからつとめてたなつものを出し、工匠等たくみらつとめてこれを助け、商賈あきびとつとめてこれかよはし、おのれおのれが五三なりをさめ家を富まして、みおやを祭り子孫のちはかる外、人たるもの何をかさん。ことわざにもいへり。
おそらく教師を一つの職業とみなして、他の職業に比較したら、彼らほど俸給低き、彼らほど思想の高きものはなかろう。僕が彼らをかく賞賛するのは、彼らが報酬ほうしゅう以上のつとめをなすからである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
本店みせつとめて荷作りをしたり、物を持ってお顧客とくい様へお使いをしたり、番頭さんに睨まれたり、丁稚でっちに綽名を付けられたり、お三どんに意地悪くあたられることは、どうにも私の嗜好このみに合わない。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その間に大いに勉強して身を修め、徳を積み、みがき、人のためにくし、国のためにつとめ、ないしはまた自分のために楽しみ、善人として一生を幸福に送ることは人間として大いに意義がある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
イワン、デミトリチ、グロモフは三十三さいで、かれはこのしつでの身分みぶんのいいもの、元来もと裁判所さいばんしょ警吏けいり、また県庁けんちょう書記しょきをもつとめたので。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わたしがしんがりをつとめていた。わたしたちの行列は親方の指図どおり適当てきとうな間をへだてて進んだので、かなり人目に立つ行列になった。
坊主が石壁を向いてしゃがんでいるとうしろから、小坊主がしきりに肩をたたいている。これは師弟の関係上三介さんすけの代理をつとめるのであろう。本当の三介もいる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の被後見者ひこうけんしやを教へて、彼から俸給を貰ふこと、お前が自分のつとめを行ふ限り、彼のそば近くで受けることの出來る、そんな鄭重な、親切な待遇を感謝するより以外ほか
それでもかれ我慢がまん出來できるだけつとめた。出代でがはり季節きせつときかれはまたしきりにまどうたが、どうも其處そこつてしまふのがしい心持こゝろもちもするし、逡巡しりごみして居据ゐすわりになつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もし、平太が悪うござりましたら、どんなにでも、あやまります。母上、小さい弟どもが、かわいそうです。平太も、以後はお心に添うようにつとめまする。どうか、思いとまってください
一二八ときを得たらん人の、倹約を守りつひえをはぶきてよくつとめんには、おのづから家富み人服すべし。我は仏家の前業ぜんごふもしらず、儒門の天命にもかかはらず、一二九異なるさかひにあそぶなりといふ。
すこしも乘客じようきやくわづらはさんやうにつとめてゐるおれか、れとも這麼こんな一人ひとり大騷おほさわぎをしてゐた、たれにも休息きうそくせぬ利己主義男りこしゆぎをとこか?』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「じゃあぼくで代わりはつとまりませんか」とかれが代わりの子どもをどこにももとめかねて、ぼんやりうちに帰って来たとき、わたしは言った。
「ところで君は何の役割でした」と主人が聞く。「わたくしは船頭」「へー、君が船頭」君にして船頭がつとまるものなら僕にも見番くらいはやれると云ったような語気をらす。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
秋山孟慶あきやまもうけいとか、丸山可澄まるやまかちょうなどは、管理部として、その下につとめていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勿論もちろんあま正直しょうじきにはつとめなかったが、年金ねんきんなどうものは、たとい、正直しょうじきであろうが、かろうが、すべつとめたものけべきである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)