うしな)” の例文
おのれも一三六いとほしき妻をうしなひて侍れば、おなじ悲しみをも一三七問ひかはしまゐらせんとて、一三八して詣で侍りぬといふ。
しかるに海幸うみさちを守る蛭子社を数町乃至ないし一、二里も陸地内に合併されては、事あるごとに祈願し得ず、兵卒が将校をうしないしごとく歎きおり
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
辞世の歌の「限りあれば吹かねど花は散るものを心短き春の山風」の一章は誰しも感歎かんたんするが実に幽婉ゆうえん雅麗で、時やたすけず、天われうしな
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「出ばなに、指揮者をうしなった敵の松田隊は、その一部は北のふもとへ、残る一部は友岡附近にある友隊と合したようにござりまする」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その通夜つやの席で、一軒置いた隣りの紙屑屋の女房がこんなことを云い出した。この女房は四、五日まえに七つになる男の児をうしなったのであった。
欠点は自覚することによって改善されるが、美点は自覚することによってそこなわれうしなわれるせいではないかと思われる。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
むかし我先人が文明を買ひしあたひは国をうしなふ程に高直なりき」と白皙はくせき人種に駆使せられながら我子孫のツブヤカんことを。
この中学通学中、命をうしないかけた事が二度ある。一度は、河合という友人の家へ行った時、ピストルを河合が放った。
死までを語る (新字新仮名) / 直木三十五(著)
その上肋膜ろくまくを病んで以来しばしば病臥びようがを余儀なくされ、後年郷里の家君をうしなひ、つづいて実家の破産にひんするにあひ、心痛苦慮は一通りでなかつた。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
なんとなれば万邦・万人、みなよだれを流し、きばを磨し、みなその呑噬どんぜいの機会をまつをもって少しく我に乗ずべき隙あらばたちまちその国体をうしなうに至らん。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
うしないまだも無りしが其後をつとを持ず姑につかへて孝行を盡くしけるに元より其いへまづしければあさをうみはたを織て朝夕姑女しうとめ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼はこのほがらかな響を聞いて、はっとさとったそうです。そうして一撃いちげき所知しょちうしなうと云って喜んだといいます。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伯牛はくぎゅうやまいあり、子これを問い、まどより其の手を執りて曰く、之をうしなわん、命なるかな、斯の人にして斯の疾あるや、斯の人にして斯の疾あるやと。——雍也篇——
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
けよ、とあるので、附添と、愛吉は、山を崩すがごとく、氷嚢を取り棄てた。医学士は疾病しっぺいの他に、情の炎の人の身を焼きうしなうことのあるを知ったであろう。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其子そのこいはく、「きづかずんばまさたうらんとす」と。その鄰人りんじんちちまたふ。くれにしてはたしておほい其財そのざいうしなふ。其家そのいへはなは(一〇一)として、鄰人りんじんちちうたがへり。
この一郎の暗澹とした前途をHさんは「一撃に所知をうしなう」香厳の精神転換、或は脱皮をうらやむ一郎の心理に一筋の光明を托して、一篇の終りとしているのである。
漱石の「行人」について (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
エドガーは三歳の時父母をうしなったので、ジョン・アランというヴァージニアの煙草商に養われた。
ポウの本質 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
多分神原の事ではござらんかと拙者考えます、お屋敷の内に斯様な悪人があって御舎弟紋之丞様をうしない、妾腹めかけばらの菊之助様を世に出そうというたくみと知っては棄置すておかれん事
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たとヘバ児ヲ喪ヒしょううしなフガ如ク、痴心イマダ婉惜えんせきヲ免レズ。一夜灯前旧製ヲ追憶シ、漫然コレヲ録シテ三十余首ヲ得タリ。爾後じご十数日ノ間相続イテコレヲ得ル者マタ一百余首。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わたくしどもはべつ平生へいぜいあつ仏教ぶっきょう信者しんじゃというのでもなかったのでございますが、可愛かわい小供こどもうしなった悲歎ひたんのあまり、阿弥陀様あみださまにおすがりして、あのはや極楽浄土ごくらくじょうどけるようにと
しかも今、有知の神はうしなわれ、無知の形のみここにあらば、すなわち神はもと形にあらず、形はもと神にあらずして、また強いて一のごとくならしむことを得べからざるなり、云云うんぬん
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
よりて以て盟ひてのたまはく、若しちかひたがはば、たちまちに朕が身をうしなはむ。皇后の盟ひたまふことた天皇の如し。丙戌ひのえいぬ車駕すめらみこと宮にかへり給ふ。己丑つちのとうし、六皇子共に天皇を大殿おほとのの前に拝みたまふ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
新聞雑誌の文芸記者の中には稀に保雄が永年の苦闘に同情して雑誌の廃刊ををしんだ記事を掲げた人もあつたが、大抵は冷笑的口調で、保雄の雑誌は五年ぜんに既に生命をうしなつて居たのだ
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
肉と酒とをそなえて祭ればよし、さもなければ命をうしなうことにもなるので、土地の人びとは大いにおそれ、争ってかの玄妙観へかけつけて、何とかそれを祓いしずめてくれるように嘆願すると
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
齢すでに七十になんなんとして、最近までこの国最高の政務を司り、夫人をうしなってからは愛娘まなむすめ一人の成育を楽しみに孤高な一生を送ってきた老政治家が、今そのの内のたまを失った悲しみは
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
病身の上に、女房に死なれて一人の娘をうしなつた與三郎はいかにもみじめです。
かくて貧き父をうしなひし孤児みなしごは富める後見うしろみを得て鴫沢の家に引取られぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その間に鶴見は父をうしない、その翌年には結婚していた。
李逵りきは腹が立った。腹立ちッぽくなっていた。老母をうしない、五体に虎の生血を浴び、妙に、虚脱と空腹の中間にあったのだろう。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此の中で生長した将門は不幸にして父の良将をうしなつた。将門が何歳の時であつたか不明だが、弟達の多いところを見ると、けだし十何歳であつたらしい。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
この悲惨な出来事があって以来、大雪のふる夜には、妖麗な白い女の姿が吹雪の中へまぼろしのように現われて、それに出逢うものは命をうしなうのである。
雪女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一八一四年頃牧師コインビャーがふと買い入れた書籍の表紙をかの書の古紙で作りあるを見出し、解きもどして見ると損じうしなわれた頁も少なくなかったが
ここおいこれ追撃つゐげきして、つひうしなところ封内ほうない(三〇)故境こきやうりて、へいいてかへる。いまくにいたらず、(三一)兵旅へいりよき、約束やくそくき、誓盟せいめいしてしかのちいふれり。
これらの記事がもし半分でも事実とすると、東京市の公共機関の内部には、ゆるみきりにゆるんでしまって、そうして生命をうしなって腐れてしまった部分がいくらかはあると見える。
初冬の日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
こゝ備前國びぜんのくに岡山御城主高三十一萬五千二百石松平伊豫守殿いよのかみどの藩中はんちう松田喜内まつだきないと云ふ者あり代々岡山に住居ぢうきよせしが當時の喜内は壯年さうねんなるに兩親をうしなひ未だ妻をもめとらず獨の妹お花と云るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
芸術精進と家庭生活との板ばさみとなるような月日もようやく多くなり、其上肋膜ろくまくを病んで以来しばしば病臥びょうがを余儀なくされ、後年郷里の家君をうしない、つづいて実家の破産にひんするにあい
智恵子の半生 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
かんばしきにくらまされて、つりの糸にかかり身をうしなふ事なかれといひて、去りて見えずなりぬ。不思議のあまりにおのが身をかへり見れば、いつのまにうろこ金光きんくわうを備へてひとつの鯉魚りぎよしぬ。
不憫ふびんと思つて下さるかしらと、淺墓な心持でやつたことでございます。何んといふ馬鹿な私だつたでせう。その爲に荒物屋夫婦にも歎きをかけ、若黨の三次は命をうしなひました。私はもう、私はもう
実子をもうしなわんといたした無慈悲の女、天道いかでこれを罰せずに置きましょう長二郎の孝心厚きに感じ、天が導いて実父の仇を打たしたものに違いないという理解に、家齊公も感服いたされまして
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
諸王、諸臣、及び天下の百姓、ことごと長老おきなは愛児を失ふがごとく、塩酢之昧あぢはひ口に在れどもめず、少幼者わかきめる父母かぞうしなふが如くて、いさつる声、行路みちに満てり、すなは耕夫たがやすものすきを止め、舂女つきめきおとせず。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
はやくに父をうしない、母の手に育てられた毛受兄弟の親思いはそれによるまでもなく、藩内でもみな人の知るところであった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二十年来この窟に隠れ棲んで、殆ど人間との交際をっていた母子おやこ二人は、さながら車の両輪の如き関係であった。今やその母をうしなって、彼は殆ど片輪かたわになってしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
初め燕王えんおうの師のづるや、道衍どうえんいわく、師はいて必ずたん、たゞ両日をついやすのみと。東昌とうしょうよりかえるに及びて、王多く精鋭を失い、張玉ちょうぎょくうしなうをもって、意やや休まんことを欲す。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かつて書三篋をうしなう。詔して問うにく知る者なし。ただ安世これを識り、〔以下欠文〕
しかれども(一一五)はやうれひけいせらるるにすくふ※あたはず。呉起ごき武矦ぶこうくに形勢けいせいの・とくかざるをもつてす。しかれどもこれおこなふや、(一一六)刻暴こくばう少恩せうおんもつ其躯そのみうしなふ。かなしいかな
見返りしに人影もなく丁度ちやうど往來も途絶とだえしかばその邊にて殺さんと思へども此奴きやつ勿々なか/\の曲者なれば容易たやすくうしなひ難しれども幸ひ今宵はやみにてくらさはくらしいかにも遣過やりすごしてと思ひ故意わざと腰を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
十日ばかりさきに一〇七かなしきつまうしなひたるが、一〇八世に残りてたのみなく侍れば、ここに詣づることをこそ一〇九やりにものし侍るなれ。御許おもとにも一一〇さこそましますなるべし。女いふ。
もってもととすという。いま玄徳は国をうしなったが、その本はなお我にありといえる。——民と共に死ぬなら死ぬばかりである
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、諸人しょにんの説はういうことに一致した。虎ヶ窟に棲める𤢖の眷族けんぞくは、其数そのかずはたして幾人であるか判らぬが、さきの日の市郎の為にの女性の一人いちにんうしなったのは事実である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
利獲のみ念じ過ぎて神林をうしなえば、これ田地に大有害の虫菑ちゅうさいを招致する所以ゆえんなるを思わず、非義饕餮とうてつの神職より口先ばかりの陳腐な説教を無理に聞かせて、その聴衆がこれを聞かぬうちから
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)