はか)” の例文
その不安に絶えずおびやかされている矢さきへ、はからずも今夜のような怪しい女に襲われて、お徳はいよいよその魂をおののかせた。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
平次はその意味をはかり兼ねて立ち停つたのです。一應の調べが濟んで、和泉屋の皆吉と一緒に、これから歸らうとして居る時でした。
「何かにつけて、この調子だから、定石じょうせきで行くと手が狂う。およそ、何がはかり難いというて、うつけ者の出来心ほど怖いものはない」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『少將は心弱き者、一朝事あらん時、妻子の愛にかされて未練の最後に一門の恥をさらさんもはかられず、時頼、たのむは其方一人』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
さうして初めて途方とはうにくれ、困惑した。初めて身邊をあちこちぐる/\と見まはして、周圍はたゞはかり知られぬ深い淵だと思つた。
じいさんがはからず大福運を得たすぐあとに、きっともう一度悪い爺さんがうらやんで真似そこなって、ひどい失敗をする段が伴なっている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
有王 (俊寛を支えあわれみにえざるごとく)お気をたしかに! 栄枯盛衰えいこせいすいは人間の力にはかりがたき天のさだめでございます。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
この例はあたるかどうか知らぬけれども、われわれの理想なるものは、分量ではかるものでなく、品質で測るものではなかろうか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
湯からあがつて、二人ふたりが、いたに据ゑてある器械のうへつて、身長たけはかつて見た。広田先生は五尺六寸ある。三四郎は四寸五分しかない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わがはいはこれについて一げんべんじてきたい。年紀ねんき時間じかんはか基準きじゆん問題もんだいである。これは國號こくがう姓名せいめいなどの固有名こゆうめい問題もんだいとは全然ぜん/″\意味いみちがふ。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
四つの首がならんでいる前へ来ると、黙って手を曳いていた乳母が笠のひさしの下からあたりを見廻して、人通りのとだえた隙をはかりながら合図をした。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この無仏世界の衆生しゅじょう罪障つみをごらんになる大菩薩の御涙というものは、どのくらいのものかはかり知れたものでない。
「なるほど」「もっともだ」「微少のボロンをはかり、微少のエネルギーを出すことに苦心するとは皮肉な現象だ」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
またこれが運行は他の運行によりてはかられじ、されど他の運行は皆これによりてはからる、猶十のそのなかばと五一とによりて測らるゝ如し 一一五—一一七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ことにブラックプウルのアリス・バアナム殺しの時の浴槽をはかってみると、薤形らっきょうがたになっているその狭いほうの端が径十一インチ、広い方は十九インチある。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
頭より尾までの長さは六間半と一尺二寸。胴のまわりは二十六尺六寸、重さははかって千五百貫。これをたとえに引きますなら、天王寺の釣鐘の三つ分にあたる。
大正五年五月中浣、妻とともに葛飾は真間の手児奈廟堂の片ほとり、亀井坊といふに、仮の宿やどりを求む。人生の命運定めがたく、因縁の数寄予めまたはかりがたし。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
し其をしてばうに至らしめば、則ち其の神明はかられざること、おもふに當に何如たるべきぞや。凡そ孔子を學ぶ者は、宜しく孔子の志を以て志と爲すべし。
そして日々にち/\飯米はんまいはかつて勝手へ出す時、紙袋かみぶくろに取り分け、味噌みそしほかうものなどを添へて、五郎兵衛が手づから持ち運んだ。それを親子炭火すみび自炊じすゐするのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ヂュリ かぎりをあらためてげうために。とはいへ、それも、畢竟ひっきゃうは、こひしいからのこと、げたいとおもこゝろうみこひしいとおもこゝろうみの、そのそこはかられぬ。
何うでも宜い問題だけれど物好きに道程みちのりはかりながら歩いたら、確に七町はあった。それでも中老は
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
身受する力も望みもなくなって唯いつまでも大金のかかった女を人の家に隠匿かくまって置いたなら、わが身のみかは恩義ある師匠にまでいかなる難儀を掛けるもはかられぬ。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
試みにはかつて見ようと、検温器を出させて見ると、それは度々の遠い引越しのために折れて居た。
さらにそのモー一つおくには、天照大御神様あまてらすおおみかみさまがおひかえになってられますが、それは高天原たかまがはら……つまり宇宙うちゅう主宰神しゅさいしんおわしまして、とてもわたくしどもからはかることのできない
身みずから剣心をこころとする刃怪左膳だけに、かれは相手をはかり知ることもまた早かった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
二人の天の寵兒がはかり難き全智の天に謝する衷心の祈祷は、實に此の外に無いのであらう。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それだから仕事しごと予定よてい肥料ひりょうの入れようも見当がつかないのだ。ぼくはもう少しならったらうちの田をみんな一まいずつはかって帳面ちょうめんじておく。そして肥料だのすっかり考えてやる。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その場の胸中の憤懣ふんまんに、日頃のつつしみを忘れ、軽はずみに事をいそいで、大事をあやまろうとした雪之丞、はからず邂逅した孤軒老師から、新しく智恵をつけられ、翌日、翌々日
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
もし霜月としなば已に落葉の時候も過ぎたるからに、たとひ落葉せし処も吹き散らしき除けたるかもはかるべからず。さありては松の木ばかりの禅寺といふ意を現はすに足らざるなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
此池このいけの深さいくばくともはかられぬ心地こゝちなりて、月はそのそこのそこのいと深くに住むらん物のやうに思はれぬ、久しうありてあふぎ見るに空なる月と水のかげといづれをまことのかたちとも思はれず
月の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ここにまた二個の憂うべき事併発し来りたり、他にあらず、電池の破壊と、風力計の破損のために、爾来じらい風力をはかあたわざるに至りし事、及びさい浮腫病ふしゅびょうこれなり、しこうしてこのやまい
岩穴に入りておわる、衆初めて其伏流ふくりうなるをり之をとす、山霊はだして尚一行をあざむくの意乎、将又たはむれに利根水源の深奥はかるべからざるをよさふの意乎、此日の午後尾瀬がはらいたるの途中
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
あなつくるに當つては、或は長さ幾歩いくほはば幾歩とあゆみ試み、或はなわ尋數ひろすうはかりて地上にめぐらし、堀る可き塲所ばしよの大さを定め、とがりたるぼうを以て地を穿うがち、かごむしろの類に土を受け
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
何故なにゆえとは知るよしもなけれど、ただこの監獄のさまいかめしう、おそろしきに心おびえて、かつはこれよりの苦をしのび出でしにやあらんなど、大方おおかたはかりて、心ひそかに同情の涙をたたえしに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
彼が家のはなれの物置兼客間の天井てんじょうには、ぬけがらからはかって六尺以上の青大将が居る。其家が隣村にあった頃からの蛇で、家を引移ひきうつすと何時の間にか大将も引越して、吾家貌わがいえがおに住んで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ジョヴァンニは、深い心を持たずして——今それをはかってみたのではないが——敏速な想像力と、南部地方の熱烈な気性とを持っていた。この性質はいつでも熱病のごとくにたかまるのである。
奧のつめなる室には、少年紳士等打寄りて撞球戲たまつきをなせり。婦人も幾人いくたりか立ちまじりたるに、紳士中には上衣を脱ぎたるあり。われは初め此社會の風儀のかくまで亂れたるをば想ひはからざりしなり。
かような根本こんぽん相違そういがあるうへに、器械きかい大抵たいてい地面ぢめん其物そのもの震動しんどう觀測かんそくするようになつてゐるのに、體驗たいけんもつはかつてゐるのは家屋かおく振動しんどうであることがおほい、もし其家屋そのかおく丈夫じようぶ木造もくぞう平家ひらやであるならば
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
美佐子は玲子のがわから深い憤りを抱いていて、私をもそうした悪戯をする人間のひとりと見て、お前は浅草へなにしに来たのかと詰問したにちがいない、そう私はその時の美佐子の心を推しはかった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
わたし此後このゝちあるひ光子みつこ離縁りえんするかもはかられぬ。次第しだいつては、光子みつこ父母ちゝはゝに、此事このこと告白こくはくせぬともかぎらぬ。が、告白こくはくしたところで、離縁りえんをしたところで、光子みつこたいする嫉妬しつとほのほは、つひすことが出来できぬ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
将来なほ如何なる惨状を呈するに至るやもはかり知るべからず。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そして静かに前途をはかるとしたらよかろう。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
美奈子は、母の真意をはかりかねた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
はかがたし、夫婦われらつみ
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
何をもたらすと はかるなかれ
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
ちよつと、はかつてくれ。
平次は頃合をはかつて足を止めると、たもとを探つて取出した得意の青錢、右手はさつと擧ります。朧をつて飛ぶ投げ錢、二枚、五枚、七枚。
そうして、今やこの北国にさまよって来て、今夜の月に吹き楽しむその音色を、はからずも矢柄喜兵衛に聴き付けられたのであった。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ところが、人間の心態は、そんな尺度だけでは、はかがたいものであることを、やがては知ったが、この時まだ、かれも気づかなかった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
故に人をはかるについて、目方めかたをもってそれがし何貫なんがんときめることは出来る。たけをもってして某は何じゃくずんと定むることも出来る。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)