派手はで)” の例文
女車も一部分はあとへ残し、一部分は先へやりなどしてあったのであるが、なおそれでも族類の多い派手はでな地方長官の一門と見えた。
源氏物語:16 関屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
これらの粘土細工ねんどざいくは、おどろいたかおつきをして、きゅうに、その仕事場しごとばへはいってきた派手はで着物きものたお人形にんぎょうつめているようすでした。
風の寒い世の中へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
洋服を着て派手はで舞台ぶたいに立つことと嫁を貰う資格とを無理に結びつけて誰かがこの白痴の少年の心に深々と染み込ませたものらしい。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さてその帯が出来上つて見ると、それは註文ぬしのお上さんには勿論、若い呉服屋の主人にも派手はで過ぎると思はずにはゐられぬものだつた。
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
清潔好きれいずきかれには派手はで手拭てぬぐひ模樣もやう當時たうじほこりひとつであつた。かれはもう自分じぶんこゝろいぢめてやるやうな心持こゝろもち目欲めぼしいもの漸次だん/\質入しちいれした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
風俗ふうぞく派手はででない、をんなこのみ濃厚のうこうではない、かみかざりあかいものはすくなく、みなこゝろするともなく、風土ふうどふくしてるのであらう。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
比較的小作料の低廉な此辺の大地主は、地所を荷厄介にやっかいにして居る。また大きな地主でちと派手はでにやって居る者に借金が無い者はほとんどない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
派手はで格子縞こうしじまのスカートに、燃えるような緑色のセーターを着ていた。小柄で、すんなりしていて、三十歳にしては三つ四つも若く見えた。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ひと生血いきちをしぼりたるむくひか、五十にもらで急病きうびやう腦充血のうじうけつ、一あさ此世このよぜいをさめて、よしや葬儀さうぎ造花つくりばな派手はで美事みごとおくりはするとも
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けんにて住居ぢうきよなし此近邊このきんぺん大身代おほしんだいなり主は入聟いりむこにてしやう三郎と云今年ことし六十さいつまは此家のむすめにて名をおつねび四十さいなれども生得しやうとく派手はでなる事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
以前飯田橋舞踏場いいだばしホールでダンサーをしていたと言う美しい比露子ひろこ夫人とたった二人で充分な財産にひたりながら、相当に派手はでな生活を営んでいた。
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
今それをアニリン染料せんりょうの紫にくらぶれば、地色じいろ派手はででないから、玄人くろうとが見ればっているが、素人しろうとの前では損をするわけだ。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
この女の着ている派手はでな紫色の錦紗縮緬きんしゃちりめん被布ひふや着物と一緒に、化粧をらしたこの女の容色を引っ立てて、妖艶を極めた風情を示している。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
尋常の場合では小袖こそですその先にさえ出る事を許されない、長い襦袢じゅばん派手はでな色が、惜気おしげもなく津田の眼をはなやかに照した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二十歳はたちといふにしては、ひどく若く見えるのは、小柄なのと、身扮の派手はでなのと、それに一生懸命さの興奮のせゐでせう。
今、あとに残ったものは何がある。切り回しよく見かけを派手はでにしている割合に、不足がちな三人の姉妹の衣類諸道具が少しばかりあるだけだ。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこを出て、地下鉄の方へ行きかけると、派手はでな恰好をした二人の女優が、ふと足をとめて、何か小声で話し出した。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
派手はでなふうをするやうになり、奴の腕つぷしの強いのを自慢にし、奴も仁侠の氣を帶び、鎌髭かまひげ撥鬢はちびんの風俗で供先へ立つたので、その颯爽たる氣風が
凡愚姐御考 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
勝山髷かつやままげ裲襠しかけというような派手はでなことをしなかった、素人風しろうとふう地味じみ扮装いでたちでいたから、女によっては、それのうつりが非常によく、白ゆもじの年増としま
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
派手はでとは葉が外へ出るのである。「葉出」の義である。地味じみとは根が地を味わうのである。「地の味」の義である。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
その派手はで大仕掛おおじかけには、僕はすっかりせられてしまって、ため息があとからあとへと出てくるばかりだった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
袖子そでこさんは可哀かわいそうです。いまのうちにあか派手はでなものでもせなかったら、いつせるときがあるんです。」
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たずね方が唐突なので、お通もお杉婆も、ただ小次郎の派手はで派手しいすがたへ眼をみはっていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左膳、女物の派手はで長襦袢ながじゅばんからのぞいている、痩せっこけた胡坐あぐらの毛脛を、ガリガリ掻いて
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
十二時頃になるとキキイを除いた三人の女は、派手はで身装みなりをして大きな帽の蔭に白粉おしろいを濃くいた顔を面紗ヹエルに包み、見違へるやうな美しい女になつて各自めい/\何処どこへか散歩に出てく。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
臣願わくは少をもって衆を撃たんといった陵の言葉を、派手はで好きな武帝は大いによろこんで、その願いをれた。李陵は西、張掖ちょうえきに戻って部下の兵をろくするとすぐに北へ向けて進発した。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
あはな聲を出して、やゝもすればおくれてしまひさうなお光は、高く着物を端折はしをり、絽縮緬ろちりめん長襦袢ながじゆばん派手はで友染模樣いうぜんもやうあざやかに現はして、小池に負けぬやうに、土埃つちぼこりを蹴立てつゝ歩き出した。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
岡山で私の趣味に照らして最も美しいと思う花簪はなかんざしを妹に土産みやげに買って帰ってやったら、あの質素な女学校ではこんな派手はでなものはされませぬと言っていたがそれでも嬉しそうな顔はした。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
大貫の妻だといふ、ひよろひよろと背の高い、生際はえぎはの薄い、出齒の女も見た。別れてゐる夫に逢ひに來る爲めか、夏の盛りだといふのに、眞白に白粉を塗り、着物の好みなども派手はでだつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
東京から札幌へ行き、そこで小さな新聞社の記者のようなことをしたり、時には詩なども作ったりしていた彼等の服装や生活は、ひどく派手はでなものとして村の百姓達の反感を買ったのだった。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「葉の色が少し派手はですぎたでしょうか」
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
派手はでなるそろひ肩ぬぎて
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
母の未亡人が生まれのよい見識のある女で、わが娘を現代に勢力のある派手はでな家の娘たちにひけをとらせないよき保護者たりえた。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あわれなかれは、ひそかに、ケーエイチの、わか映画女優えいがじょゆう写真しゃしんくらべたり、また、派手はで洋服姿ようふくすがたをした人気作曲家にんきさっきょくか写真しゃしんなどをげて
しいたげられた天才 (新字新仮名) / 小川未明(著)
オペラバツグをげて、飛模樣とびもやう派手はで小袖こそでに、むらさき羽織はおりた、十八九のわかをんなが、引續ひきつゞいて、だまつてわきこしける。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その癖くびのまわりには、白と黒と格子縞こうしじま派手はでなハンケチをまきつけて、むちかと思うような、寒竹かんちくの長い杖をちょいとわきの下へはさんでいる。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
殺された與三郎に掛り合ひある者で、男でも女でも構はない、派手はでな紙入を持つて居るものはないか、氣をつけてくれ。
粕谷で其子を中学二年までやった家は此家ここばかりと云う程万事派手はでであった故人が名残なごりは、斯様こんな事にまであらわれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
赤だの青だの黄だの、いろいろのしま綺麗きれいに通っている派手はで伊達巻だてまきを、むしろずるずるに巻きつけたままであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
直線から成る割菱わりびし模様が曲線化して花菱模様に変ずるとき、模様は「派手はで」にはなるが「いき」は跡形あとかたもなくなる。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
花は花下かかに緑色の下位子房かいしぼうがあり、はば広いがく三片がれて、花を美しく派手はでやかに見せており、狭い花弁かべん三片が直立し、アヤメの花と同じ様子ようすをしている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
おたけさんが我慢がしきれなくなったらしく、きゅうに口もとに派手はでな模様の袖口を持っていった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
派手はでで門戸を張って、家族の生活までが、都風に化されていたが、小野寺家は、京の町中にありながら、殆ど、郷土いなかの風をそのまま、一儒者じゅしゃの住居ぐらいな小門とまがきの中に
な夜なカフェ廻りをやったり、ダンス場へかよったり、そうでないのはひまさえあればスポーツの話ばかりしていると云った派手はでで勇敢で現実的な人々が大部分であったから
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
派手はでなるはあけぼの振袖ふりそで緋無垢ひむくかさねて、かたなるははなまついろ、いつてもかぬは黒出くろでたちに鼈甲べつかうのさしもの今樣いまやうならばゑりあひだきんぐさりのちらつくべきなりし
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そらからはあたゝかい日光につくわうまねいてつちからはなががずん/\とさしげてはさらながくさしげるので派手はではなむぎ小麥こむぎにも沒却ぼつきやくされることなくひろめるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
派手はで地味ぢみに歐風を學んでゐたが、急風潮だつた歐風の、鹿鳴館時代の反動もあつて、漢詩をやつたり、煎茶が流行はやつたりして、道具類も支那式のものが客間に多く竝べられてゐるし
日本橋あたり (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
しかし、二人になってみると、もう大向うを喜ばせるような派手はでな芸がしていられなくなったものか、無茶苦茶に裸虫を突き落すように見せて、不意に屋根のうしろへ隠れてしまいました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いづれも派手はでと濃厚とを極めた奇抜なおほ模様で我国の桃山式を聯想れんさうせしめる物ばかりである。それ等の図案のもとそれ等を応用した織物や刺繍が併せて陳列されて居るのは効果を鮮明にして居て好い。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
まるで阿修羅あしゅらみたいなおやじは、塩をむんずと掴むと、力士が土俵に塩を派手はでにまくみたいに、土がむき出しの工場の地面に、大半の塩をばらまいて、手に残ったほんの僅かの塩を口に放りこんだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)