長持ながもち)” の例文
道満どうまん晴明せいめい右左みぎひだりわかれてせきにつきますと、やがて役人やくにんが四五にんかかって、おもそうに大きな長持ながもちかついでて、そこへすえました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
坂になった馬籠の町は金のあおいの紋のついた挾箱はさみばこ、長い日傘ひがさ、鉄砲、箪笥たんす長持ながもち、その他の諸道具で時ならぬ光景を呈した。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は、ともすると、暗い長持ながもちの底を覗きこんで、亡くなったお祖父さん、そのまたお祖父さんというふうに、遠い昔のことなど考えてみた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
土蔵をあけてはいると、なにが入っているのか長持ながもちひつや箱がぎっしり並んでいた。和助はおけいを用箪笥の前へ呼んで
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
高知の県庁から長持ながもちに三つ英書を借りてきたのである。地理・天文・物理・文典・辞書等があった。そして高知から英学の先生が二人雇われてきた。
おそしとまたれける頃は享保きやうほ十一丙午年ひのえうまどし四月十一日天一坊は供揃ともぞろひして御城代の屋敷やしきおもむく其行列そのぎやうれつには先に白木しらき長持ながもちさを萌黄純子もえぎどんす葵御紋付あふひごもんつき油箪ゆたん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
中には箪笥たんす長持ながもち葛籠つづらの類があった。また祖父が集めた書画骨董の類があった。戸口のわきに二階に通ずる階段があった。二階は父の稽古場であった。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
此時同勢のうち長持ながもち宰領さいりやうをして来た大工作兵衛がゐたが、首領の詞を伝達せられた時、自分だけはどこまでも大塩父子ふしの供がしたいと云つて居残ゐのこつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
たとえば大きなひつ長持ながもちるい、なかにはいった物をかたむけたり曲げたりしてはならぬ場合、ことに清浄せいじょうをたもって雑人ぞうにんの身に近づけたくない品物などは
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
海老之丞えびのじょうこたえました。これは昨日きのうまで錠前屋じょうまえやで、家々いえいえくら長持ながもちなどのじょうをつくっていたのでありました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
蔵の二階でそのような音を立てるものは、そこに幾つも並んでいます長持ながもちほかにはありません。さては相手の女は長持の中に隠れているのではないかしら。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
雨戸が半ば明けられて、昨夜ゆふべ吊つたまゝの盆燈籠ぼんどうろその軒に下げてあるいへもあつた。雨戸の全く閉め切つてあるいへもあつた。箪笥たんす葛籠つゞら長持ながもち、机などが見えた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
キュヴィエーが飼った猩々は椅子を持ち歩いてその上に立ち、思うままに懸け金をはずした。レンゲルはある猴はてこの用を心得て長持ながもちふたを棒でこじあけたというた。
土蔵くらの縁の下にコロコロしていて、長持ながもちの中は、合紙あいがみがわりに、信州から来る真綿まわたがまるめて、ギッシリ押込んであり、おなじような柄の大島がすりが、巻いたままで
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
が、もし茲に野心があり覇気のある快男子があるとすれば、一時的のけんの力よりも、永久的の筆の力で、英雄ヒーローになつた方が長持ながもちがする。新聞は其方面の代表的事業である。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
旧家の刀箪笥だんすや書画入れの長持ながもちには、よくこの樟板くすいたを底へいれておくものですが、今、老人が手に取ったそれには、黒光りの板の片面に、何やら細密な絵図がひいてある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つひにはなが一間以上いつけんいじようもある、おほきな長持ながもちのようなかたちをしたものがつくられるようになりました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
ふゆひくうてしづんだ。舊暦きうれきくれちかつて婚姻こんいんおほおこなはれる季節きせつた。まち建具師たてぐし店先みせさきゑられた簟笥たんす長持ながもちから疎末そまつ金具かなぐひかるのをるやうにつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
黒棚くろだな御廚子みずし三棚みつだなうずたかきは、われら町家ちょうか雛壇ひなだんには打上うちあがり過ぎるであろう。箪笥たんす長持ながもち挟箱はさみばこ金高蒔絵きんたかまきえ銀金具ぎんかなぐ。小指ぐらいな抽斗ひきだしを開けると、中があかいのも美しい。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気がけば急くほど身が自由にならないので、これではいけないと、荷物の上へおどり上がり、箪笥たんす長持ながもちを踏み越え踏み越え、やっと、雷門の脇の大神宮だいじんぐう様の脇をくぐり抜けて
若者はもういちどとうにおりていきました。そして、どうしたらいいかちゃんとこころえていましたので、そのとおりにやって、黄金こがねのいっぱいつまっている長持ながもちをはこびだしました。
すると、おかあさんの長持ながもちのふたがけっぱなしになっているではありませんか。
その支配人の弥惣が、けさ小僧の定吉が土蔵を開けてみると、思いも寄らぬ長持ながもちの奥——、かつてそんな物があるとも知らなかった石の唐櫃からびつの蓋に首を挟まれて、虫のように死んでいたのです。
箪笥たんす長持ながもちはもとよりるべきいゑならねど、長火鉢ながひばちのかげもく、今戸燒いまどやきの四かくなるをおななりはこれて、これがそも/\此家このいへ道具だうぐらしきものけば米櫃こめびつきよし、さりとはかなしきなりゆき
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
試みに明暦めいれき三年江戸大火の惨状を記述したる『武蔵鐙むさしあぶみ』を見よ。一市人酔中すいちゅう火災に長持ながもちなかに入れられて難をのがれ路傍に放棄せらる。盗賊来つて長持を破るにそのうちに人あるを見て驚いて逃ぐ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その歴史上のめでたい記念に建てられたのがこの石像の由来である。後世奈破翁ナポレオン始め幾多の君主がこの噴水をうて裸の幼王に捧げた衣裳が日本で云へば長持ながもちに一杯と云ふ程今も保存されて居るさうである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
三軒が皆とおしのようになっていて、その中央なかの家の、立腐たちぐされになってる畳の上に、木のちた、如何いかにも怪し気な長持ながもちが二つ置いてある、ふたは開けたなりなので、気味なかのぞいて見ると
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
中には箪笥たんす長持ながもちの中にある衣類が切断されておることがある。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
泣きくたぶれて長持ながもち
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
たいまつをつけた人がさきつと、長持ながもちのうしろには神主かんぬしがつきって、はたほこてて、山の上のおやしろをさして行きました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
祖母おばあさんがおよめにときふる長持ながもちから、お前達まへたち祖父おぢいさんのあつめた澤山たくさん本箱ほんばこまで、そのくらの二かいにしまつてりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
五百らは路用の金がきた。江戸を発する時、多く金を携えて行くのは危険だといって、金銭を長持ながもち五十余りの底にかせて舟廻ふなまわしにしたからである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私は仔細しさいあってただ一度、この一件書類を読んで見たことがあるが、今はすでにあの偉大なる人間苦の記録も、どこかの長持ながもちの底でむしばみ朽ちつつあるであろう。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
付其外帳面ちやうめん書留かきとめるに米千八百五俵むぎ五百三十俵並に箪笥たんす長持ながもちさを村役人立合たちあひにて改め相濟あひすみ其夜寅半刻なゝつはんどき事濟に相成山駕籠やまかごちやうを申付て是へ文藏夫婦に下男吉平を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
壁に接して塗箪笥ぬりだんすだとか長持ながもちだとか大小様々の道具をれた木箱だとかが、ゴチャゴチャと積み並べてあるらしく、うるしや金具があちこちに薄ぼんやりと光って見えた。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
噺家はなしか、たいこもち、金に糸目をつけぬ、一流の人たちがおもな役柄に扮し、お徒歩かち駕籠かごのもの、仲間ちゅうげん長持ながもちかつぎの人足にんそくにいたるまで、そつのないものが適当に割当てられ
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
気がついたときには、うちの中にひとりっきりでした。もう小人の姿すがたはどこにも見えません。長持ながもちのふたはちゃんとしまっています。虫とりあみまどぎわのいつものところにかかっています。
土蔵の二階は暗かった、番札をった長持ながもち唐櫃からびつや、小道具を入れる用箪笥ようだんすなどが、南の片明りを受けて並んでいる。お美津は北側の隅へ正吉をれて行って、溜塗ためぬり大葛籠おおつづらの蔭をのぞきこんだ。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
名香は、六尺の長持ながもちに秘せられてある。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中には幾つかの唐櫃からびつ長持ながもち
そこは板敷きになった階上で、おまんの古い長持ながもちや、お民が妻籠から持って来た長持なぞの中央に置き並べてあるところだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
長持ながもちの中のしっぺい太郎たろうは、この物音ものおとくと、くんくんはなをならして、ひくこえでうなりながら、いまにもびつこうというがまえをしました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
四辻のあたりに敵の遺棄した品々を拾ひ集めたのが、百目筒ひやくめづゝ三挺さんちやう車台付しやだいつき木筒きづゝ二挺にちやう内一挺車台付、小筒こづゝ三挺、其外やり、旗、太鼓、火薬葛籠つゞら具足櫃ぐそくびつ長持ながもち等であつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
格太郎は見つかり相になると、もう少しじらしてやれという気で、押入れの中にあった古い長持ながもちふたをそっと開いて、その中へ忍び、元の通り蓋をして、息をこらした。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
油単はもと行燈あんどんなどの下に敷く敷物、のちには箪笥たんす長持ながもちの覆いに掛けて置く布の袋のことで、それを平たくまた四角にして、べつの用に使うから平油単なのであろうが
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
拜見はいけん願ひたしと申さる依て伊賀亮は天一坊にむかひ御城代相摸守より御證據ごしようこ拜見はいけんの願ひあり如何いかゞつかまつらんと云に天一坊は願のおもむ聞屆きゝとゞけたり拜見致させよとの事なりすなはち赤川大膳御長持ながもち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
長持ながもちの中——
やしろくと、みんなは長持ながもちを、くらなほこらの中に、こわごわいて、あとをもずに、かえってしまいました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
この通行が三日も続いたあとには、妻籠つまごの本陣からその同じ街道を通って、新しい夜具のぎっしり詰まった長持ながもちなぞが吉左衛門の家へかつぎ込まれて来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ほどなく光徳の店の手代てだいが来た。五百いお箪笥たんす長持ながもちから二百数十枚の衣類寝具を出して見せて、金を借らんことを求めた。手代は一枚一両の平均を以て貸そうといった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)