つらな)” の例文
日本にほん化物ばけもの貧弱ひんじやくなのにたいして、支那しなるとまつたことなる、支那しなはあのとほ尨大ぼうだいくにであつて、西にしには崑崙雪山こんろんせつざん諸峰しよぼう際涯はてしなくつらな
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
越後の地勢は、西北は大海に対して陽気なり。東南は高山つらなりて陰気なり。ゆゑに西北の郡村は雪浅く、東南の諸邑しょゆうは雪深し。……
語呂の論理 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
肴屋さかなや、酒屋、雑貨店、その向うに寺の門やら裏店うらだなの長屋やらがつらなって、久堅町ひさかたまちの低い地には数多あまたの工場の煙筒えんとつが黒い煙をみなぎらしていた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
放蕩と死とはつらなる鎖に候。何時も変りなき余がをお笑ひ下され度く候。余は昨夜一夜いちやをこの娼帰しやうふと共に、「しかばねの屍に添ひてよこたはる」
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
遠くには、町の家根やねが見えた。その彼方には、高い国境くにざかいの山々がつらなって見えた。淋しい細い道は無限に何処いずこへともなく走っている。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
島々の数を尽してそばだつものは天をゆびさし、伏すものは波にはらばう、あるは二重ふたえにかさなり三重みえにたたみて、左にわかれ、右につらなる。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
英夫は、一つの大きな星を中心につらなった八つの星を指さした——兄の謙一中尉がいつか教えてくれた星座を、英夫はおぼえていた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
かの大いなる座、即ちその上にはや置かるゝ冠の爲汝が目をとむる座には、汝の未だこの婚筵こんえんつらなりて食せざるさきに 一三三—一三五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今日けふはれにと裝飾よそほひて綺羅星きらほしの如くつらなりたる有樣、燦然さんぜんとしてまばゆばかり、さしも善美を盡せる虹梁鴛瓦こうりやうゑんぐわいしだゝみ影薄かげうすげにぞ見えし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
わざりて篠山さゝやまえきのプラツトホームを歩行あるくのさへ、重疊ちようでふつらなやまれば、くまおもひがした。酒顛童子しゆてんどうじ大江山おほえやま
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
目はその間も額縁がくぶちに入れた机の上の玉葱たまねぎだの、繃帯ほうたいをした少女の顔だの、芋畑いもばたけの向うにつらなった監獄かんごくの壁だのを眺めながら。……
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
らんとしてかがやくこと落日の赤き程度にして、周囲暗黒なるがために特に燦然たり、他の火は水平につらなりて蕩漾とうようするも、この火球は更に動かず。
地震なまず (新字新仮名) / 武者金吉(著)
一面に雪が降り積っておるので、何処どこもかも真白いが、その中に一筋長くつらなって黒いものがあるのは川であるというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あんな猥褻わいせつな席につらなッている……しかも一所に成ッて巫山戯ふざけている……平生の持論は何処へ遣ッた、何のめに学問をした
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その歩々ほほおとせし血は苧環をだまきの糸を曳きたるやうに長くつらなりて、畳より縁に、縁より庭に、庭より外に何処いづこまで、彼は重傷いたでを負ひて行くならん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おほきな藁草履わらざうりかためたやうに霜解しもどけどろがくつゝいて、それがぼた/\とあしはこびをさらにぶくしてる。せまつらなつてたて用水ようすゐほりがある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
きれいに皮をはいで正確の長方形につたかえでけやき材で、上べがほんのり処女の色をして底は冷たく死のやうに落付いた二枚の板のつらなりであつた。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
思ふ女をば奪はれ、そして其女の縁につらなる一族総体から、此の失恋漢、死んでしまへと攻立てられたといふのは、何と無く奇異な事態に思へる。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
西のほうの海岸にみるような赤ちゃけた地肌のあらわな花崗岩かこうがんの丘がぎざぎざにつらなり、うねうねと彎曲わんきょくして、かなり間遠く両岸を形づくっている。
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
凡そ拿破里ナポリの入江の諸市は、譬へば葡萄の蔓の梢より梢にわたりて相つらなれるが如く、一市を行き盡せば一市又前によこたはる。
かの日蓮上人が意気冲天ちゅうてん、他宗を罵倒し、北条氏を目して、小島の主らが云々と壮語せしに比べて、吉水一門の奇禍につらなり北国の隅に流されながら
愚禿親鸞 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
これらの物々しい空気の中にあつて、大坂城と京都御所を結んで、一脈清冽の気の相つらなつてゐるのを見る、われ/\日本人は如何に幸福であらうか。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
大雪山ここに一頓して忠別岳につらなり、その先に化雲岳のし、またその先に戸村牛岳つ。戸村牛岳の左に石狩岳樹を帯び、その右に硫黄岳煙を噴く。
層雲峡より大雪山へ (新字新仮名) / 大町桂月(著)
越後の地勢は、西北は大海にたいして陽気也。東南は高山かうざんつらなりて陰気也。ゆゑに西北の郡村ぐんそんは雪あさく、東南の諸邑しよいふは雪ふかし。是阴阳いんやう前後ぜんごしたるにたり。
ぐいぐいと遠退とおのいてゆく路傍の生垣などを眺めている時でさえ、馬車の外の夜の影は、いつの間にか馬車の内の夜の影のあのつらなりと一緒になるのだった。
遠くつらなれる高輪白金たかなわしろかねの高台には樹々のこずえすでにヤヽ黄を帯びて朝日に匂ひ、近く打ち続く後圃こうほの松林にはだ虫の声々残りてながら夜の宿ともひつべし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
台湾の北から南へかけて、まるで牛の背骨のように高く、長くつらなっている中央山脈の丁度まんなか辺りに、霧社という名前で呼ばれている有名な蕃社ばんしゃがある。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
「おいがつらなって泳いであげますけん、元気を出さんといきまっせんばい。今夜はしっかり休んでおきなさい」
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
巨木の幹は大伽藍だいがらんの円柱の様に立並び、その柱頭から柱頭を渡って、青葉のアーチがつらなり、足の下には、絨毯じゅうたんの代りに杉の落葉が分厚に散り敷いて居ります。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
中仙道は鵜沼うぬま駅を麓とした翠巒すいらんの層に続いて西へとつらなるのは多度たどの山脈である。鈴鹿すずかかすかに、伊吹いぶきは未だに吹きあげる風雲のいのしし色にそのいただきを吹き乱されている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そしてその自己は豹一につらなる自己であった。豹ぼんが可哀そうだと思いませんか御寮ごりょうさんが余りお人善しやからですと森田にいわれて、はっと眼が覚める想いだった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
朝飯のぜんが並んだ。これまでは御隠居と若い主人とがかみに据わる。自分は末座につらなって食べることになっていた。これは先代の主人が亡くなった年からの為来しきたりである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
一首は、北山につらなってたなびき居る雲の、青雲の中の(蒼き空の)星も移り、月も移って行く。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼女は、長羅を身辺に引き寄せる手段として、かぶとの上から人目を奪うくれない染衣しめごろもまとっていた。一団の殿しんがりには背に投げ槍と食糧とをにないつけられた数十疋の野牛の群がつらなった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
左に折れ曲った丘に沿うて白樺しらかばもみの林が荒涼としてつらなっていた。エルマはその林に近い灌木かんぼくの中へ往った。ベルセネフがもう追っついて来た。彼はむちを放さずに握っていた。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
亜細亜アジアの東に全く海に囲まれながら、長い帯でも引くようにつらなっている島国であります。西には日本海をたたえて大陸に対し、東や南には、果しもない太平洋の海原うなばらを控えます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
新憲法てえのを知らねえから分らないけど、藤原氏の末席ぐらゐにつらなつてゐるオクゲサマで和歌だか琴だか、みやびごとの家元かなんかに当る古風なお方であらせられるのです。
金銭無情 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
引ずられて三十四といふ年齡を見た時、そこにやがて五六七八の年はつらなつてゐる。死の力も生の力も衰へて奪略さるるのを待つといふ事は、なんといふ淺ましい醜いことであらう。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
ただ雜然として遠く廣く其の鉛色の手をひろげ、波をうねらせ、谿を埋め、丘につらな
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
之れより上越の国界こくかいなる山脈の頂上を経過けいくわす、みやくくる所太平原たいへいげんあり、はらきて一山脈あり、之れをすぐれば又大平野あり、之れ即ちしん尾瀬おせが原にして、笠科山かさしなやまと燧山の間につらな
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
西蔵チベット世界せかい屋根やねといはれてゐるほどで、くに全体ぜんたいたか山々やまやまつらなりだ。その山々やまやまなかでもぐんいてたかく、西蔵チベット屋根やねともいはれるのが、印度インドとの国境こくきやうまたがるヱヴェレストざんである。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
海岸には人家がつらなってしまったので、眺望ながめが自由でない。かつは風が甚だしく寒いので、更に品川の町にり、海寄りの小料理屋へあがって、午餐ひるめしいながら硝子戸がらすど越しに海を見た。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この間うちまでは重り合つた夕雲のかげになつて、それらの雲の一部か或は山かと怪しまれた西方の地平につらなる灰黒色な一列は、今見れば、何処か遠くの連山であることが確かになつた。
殊に三ノ沢岳から宝剣岳につらなる山稜は私を瞠目せしむるに充分であった。
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
彼は一身を以て朝廷、幕府、諸侯を連串れんせんするの鉄鎖となり、以て政権を三者に分配しつつも、なお幕府を以て中心点となし、上は朝廷に接し、下諸侯につらなり、以て調和一致の働きをなさんと欲せり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
台長の河内老博士も席につらなっていたが、このとき口を開き
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一等低小のが東に出て赤ノ岳につらなる峰。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
つらなりそばだつ島々しまじまなれば
横浜市歌 (新字新仮名) / 森林太郎(著)
が、女紅場の沐浴もくよくに、美しきはだを衆にき、解き揃えた黒髪は、夥間なかまの丈をおさえたけれども、一人かれは、住吉の式につらなる事をしなかった。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生活の楽しみを失った貧と苦、それはやがて死とつらなる。もののあわれはそこにもある。文芸の基調を為すものはこれである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)