谷間たにま)” の例文
こう言って、三人を或谷間たにまへつれていき、そこにえている、薬になる草や木を一々おしえておいて、ふたたび湖水へかえりました。
湖水の女 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
縛られているのもある、一目ひとめ見たが、それだけで、遠くの方は、小さくなって、かすかになって、ただ顔ばかり谷間たにま白百合しろゆりの咲いたよう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう加減かげんあるいてつて、たにがお仕舞しまひになつたかとおも時分じぶんには、またむかふのはう谷間たにま板屋根いたやねからけむりのぼるのがえました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
うっかりしようものなら、つめたかぜが、ちいさなからだをさらって、もうくらくなった谷間たにまへたたきとそうとしたのであります。
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と身をかゞめてすかして見ますと、谷間たにまに繁茂致してる樹木にからんで居ます藤蔓は、井戸綱ぐらいもある太い奴が幾つも八重になってからんで居ます
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その翌九日また同じような枯れたさびしい山中を東南に進んで行くこと六里半にしてある山をえて谷間たにまに着きました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
もうになつたころだ。ふか谷間たにまそこ天幕テントつた回々教フイフイけう旅行者りよかうしやが二三にん篝火かがりびかこんでがやがやはなしてゐた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
谷間たにまはひっそりとしていて、まだお日さまはのぼっていませんでした。ニールスが二あし三あしいくかいかないうちに、なんだかきれいなものが目にはいりました。
それは私に彼の妻たることを要求することだ、私に對して、向うの谷間たにまへと流れる小川を足下に泡立たせてゐる、あの恐ろしい巨人のやうな岩よりも、夫らしくはない彼が。
むこうのみねまではわたりきれずに、千じんのふかさを思わす小太郎山こたろうざん谷間たにまへとさがっていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此處こゝ谷間たにまる一小村せうそん急斜面きふしやめん茅屋くさやだんつくつてむらがつてるらしい、くるまないからくはわからないが漁村ぎよそんせうなるもの蜜柑みかんやま産物さんぶつらしい。人車じんしや軌道きだうむら上端じやうたんよこぎつてる。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
自分は谷間たにまのやうな處を歩いてゐるやうになツた。それと氣が付くと
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
山ぎりのかゝる谷間たにまを夢のごとほの青くして咲ける紫陽花
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
摩耶まや谷間たにまにほろほろと
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
谷間たにまうた
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
見捨みすてゝじやうなしがおまへきかあはれといへば深山みやまがくれのはなこゝろさぞかしとさつしられるにもられずひとにもられずさきるが本意ほんいであらうかおなあらしさそはれてもおもひと宿やどきておもひとおもはれたらるともうらみはるまいもの谷間たにまみづ便たよりがなくは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
十五、六ちょういった谷間たにまに、一つの清水しみずがありました。それが、この旱魃ひでりにもきず、滾々こんこんとしてわきていました。これはいい清水しみずつけたものだ。
神は弱いものを助けた (新字新仮名) / 小川未明(著)
これはしたり! 祭礼まつり谷間たにまの里からかけて、此処ここがそのとまりらしい。見たところで、薄くなって段々に下へ灯影ひかげが濃くなって次第ににぎやかになっています。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とうさんがあそまはつた谷間たにまと、谷間たにまむかふのはやしも、そのへんからよくえました。やまやまかさなりつたむかふのはうには、祖父おぢいさんのきな惠那山ゑなざんが一ばんたかところえました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「それよりきさまも谷間たにまりて、なぜご一同と一しょにはたらかないか、なまけ者めが」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、せまい谷間たにまに落ちこみ、そこの岩にあたって、しぶきをあげて飛びちっています。たきの下の、水がものすごくうずいてあわをたてているところに、岩が二つ三つきでています。
この農夫は谷間たにまに田を作っておりました。ある日農夫は、その田で働いている人たちのたべ物を、うしに負わせて運んで行きますと、その谷間で、天日矛あめのひほこという、この国の王子に出会いました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
あちらのはやしやすみ、こちらのもりにおりて、そのほうんでいくうちに、れかかるまえに、谷間たにまからしろ湯気ゆげのぼる、温泉おんせんつけたのでした。
温泉へ出かけたすずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
永昌寺えいしやうじのあるやま中途ちうとには、村中むらぢうのおはかがありました。こんもりとしげつたすぎはやしあひだからは、いしせたむら板屋根いたやねや、かきや、竹籔たけやぶや、くぼ谷間たにまはたけまで、一えました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「おお、ひえびえとしてきた。二子山ふたごやまに見えた月が、もうあんなに遠い谷間たにまにある。……あまりおそうなっては、さだめし、民部みんぶさまや小文治こぶんじさまがおあんじなされているかもしれぬ……」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あのあたりへ、夕暮ゆふぐれかねひゞいたら、姿すがたちかもどるのだらう、——とふともなく自分じぶん安心あんしんして、益々ます/\以前もとかんがへふけつてると、ほだくか、すみくか、谷間たにまに、彼方此方かなたこなた、ひら/\
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この村は谷間たにまにあって、ぐるりの山々は、けわしいけれど美しい形をしていました。一つの川が細長いたきになって、おかにそってながちていました。山のふもとには大きな工場こうばがいくつもありました。
すずめさん、おうたがいは無理むりもありません。しかしこれには子細しさいのあることです。あなたはあの日輪にちりんが、ふか谷間たにましずんでいたときのことをおりですか。
紅すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
あたかもおおいなるひきがえるの、明けく海から掻窘かいすくんで、谷間たにまひそ風情ふぜいである。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黄葉もみぢの影に啼く鹿の谷間たにまの水にあへぐごと
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
かれはかかるけわしい谷間たにまかたすみにも、こうしたなやみとあらそいがあるのかといたましくかんじました。
谷間のしじゅうから (新字新仮名) / 小川未明(著)
あたりは蝙蝠傘かうもりがさかついで、やごゑけて、卍巴まんじともえを、薙立なぎた薙立なぎた驅出かけだした。三里さんり山道やまみち谷間たにまたゞ破家やぶれや屋根やねのみ、わし片翼かたつばさ折伏をれふしたさまなのをたばかり、ひとらしいもののかげもなかつたのである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
谷間たにまの笹の葉を分けて
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
よるとなく、ひるとなく、ふか谷底たにそこからわきこるきりころがるように、たか山脈さんみゃく谷間たにまからはなれて、ふもとの高原こうげんを、あるときは、ゆるゆると、あるときは、あしで、なめつくしてゆくのでした。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はるのころ、一この谷間たにまおとずれたことのあるしじゅうからは、やがて涼風すずかぜのたとうとする今日きょう谷川たにがわきしにあったおないしうえりて、なつかしそうに、あたりの景色けしきをながめていたのであります。
谷間のしじゅうから (新字新仮名) / 小川未明(著)