もう)” の例文
この型を以て未来にのぞむのは、天の展開する未来の内容を、人の頭でこしらえたうつわ盛終もりおおせようと、あらかじめ待ちもうけると一般である。
イズムの功過 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それは感心かんしんですね。このあいだの教員会議きょういんかいぎのときに、この学校がっこうにも託児所たくじしょもうけたらという、先生せんせいがたのご意見いけんたのですよ。」
汽車は走る (新字新仮名) / 小川未明(著)
何か教師の言いだすことを待ちもうけている恰好はしていたが、じつのところそれは何年かの学校生活で養われた一つの習慣であった。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
文部省でこしらえたり、美術院でやったりする展覧会に、特別室をもうける必要があり、その特別室へも陳列ちんれつを許さない作品もある。
国民性の問題 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今日こんにちからかえってかんがえると、このうみ修行場しゅぎょうばわたくしめに神界しんかいとくもうけてくだすったおさらいの場所ばしょともいうべきものなのでございました。
法医学界の一権威宗像隆一郎むなかたりゅういちろう博士が、丸の内のビルディングに宗像研究室をもうけ、犯罪事件の研究と探偵の事業を始めてからもう数年になる。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところが結婚の日の朝、思いもうけぬ月のものが、突然まいりましたのには、さすがに戦慄を禁ずることが出来ませんでした。
秘密の相似 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
其他そのたには、だい一のあなにもあるごとく、周圍しうゐ中央ちうわうとに、はゞ四五すんみぞ穿うがつてあるが、ごど床壇ゆかだんもうけてい。
それと似た仕掛けを、例の装置の中にもうけてさえ置くと、興奮の種類を分けることが出来るばかりか、さまざまの興奮の強さを知ることが出来る。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
第六十九条 クヘカラサル予算ノ不足ヲおぎなためニ又ハ予算ノほかしょうシタル必要ノ費用ニツルためニ予備費ヲもうクヘシ
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
なかに一ところ湖神こしんもうけの休憩所きうけいしよ——応接間おうせつまともおもふのをた。村雨むらさめまたしきりはら/\と、つゆしげき下草したぐさけつゝ辿たどると、むやうな湿潤しつじゆんみぎはがある。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
むしろ彼らの便利を標準とすれば簡便かんべんなる裏門をもうけ、面倒めんどうな礼をはぶくのが相互の便利とするのではあるまいか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
アンドレイ、エヒミチは知識ちしき廉直れんちょくとをすこぶこのみかつあいしていたのであるが、さてかれ自分じぶん周囲まわりにはそう生活せいかつもうけることは到底とうてい出来できぬのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
京都、奈良、伊勢、出来ることなら須磨明石舞子をかけて、永久日本の美的博物館たらしむ可きで、其処そこに煙突の一本も能う可くばもうけたくないものである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
住居ぢうきよの大小は家族かぞくの多少に因る事勿論もちろんなれど塲合ばあひに由つては一個いつこの大部屋をもうくる代りに數個すうこの小部屋を作る事も有りしと思はる。瓢形ひやうかた竪穴たてあなの如き即ち其例なり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
当もなく待っているのも随分辛くもあり、長くもあったが、当があって今か今かと待ちもうけるのはそれ以上に長く辛かった。一分が十分にも三十分にも思えるのだった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「行動がいかにも規則正しい、まるで予定の行動のようだ。塀の切り戸から死骸の出るのを、待ちもうけていて運んで行ったようだ。彼らはいったい何者なのであろう?」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
城内には施薬院せやくいんのやうなものをもうけて、領内のあらゆる名医がそこに詰めあひ、いかなる身分の者でも勿論もちろん無料で診察して取らせる、投薬もしてるといふのであるから
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ゆえにこれらの花は自分の花粉を自分の柱頭ちゅうとうに伝うることができず、是非ぜひともそれを持ってきてくれる何者かに依頼いらいせねばならないように、自然がそう鉄則てっそくもうけている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
余輩よはい常に思うに、今の諸華族が様々の仕組をもうけて様々のことに財を費し、様々のうれいうれえて様々の奇策きさく妙計みょうけいめぐらさんよりも、むしろその財のいまむなしく消散しょうさんせざるにあたり
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
源太郎は気がつくと直ぐに、手を上げてやぶ彼方あなたを指すのであった。思いもうけぬ不覚である。
同じく祭りのためのもうけとは知られながら、いと長き竿を鉾立に立てて、それを心にして四辺に棒を取り回し枠の如くにしたるを、白布もて総て包めるものありて、何とも悟り得ず。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
文化のたくは此の島村しまむらにも及んで、粗末ながら小学校のもうけがある。お光八つにもなると路が遠いにつれもないからよせと父母ふたおやの拒むも聞かないで、往来ゆきもどり一里の路を日々弁当さげて通う。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
てい上部艇首じやうぶていしゆかたくらゐして、一個いつこ橢圓形だゑんけい觀外塔くわんぐわいたふもうけられて、塔上たふじやうには、一本いつぽん信號檣しんがうマストほかには何物なにものく、その一端いつたんには自動開閉じどうかいへい鐵扉てつぴもうけられて、ていまさ海底かいていしづまんとするや
その「もういちど故郷を見る機会」がやって来るとは思いもうけなかった。
故郷 (新字新仮名) / 太宰治(著)
正月の十五日には小字中こあざじゅうの人々この家に集まりたりてこれを祭る。またオシラサマという神あり。この神の像もまた同じようにして造りもうけ、これも正月の十五日に里人さとびと集まりてこれを祭る。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
待ちもうけたよりももっと早く——園は少し恥らいながら三和土の片隅に脱ぎ捨ててある紅緒べにお草履ぞうりから素早く眼を転ぜねばならなかった——しめやかながらいそいそ近づく足どりが入口の障子を
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
露國ロコク政治上せいぢぜうたち世界せかい雄視ゆうしすといへどもその版圖はんと彊大きようだいにして軍備ぐんび充實じゆうじつせるだけに、民人みんじん幸福こうふくゆたかならず、貴族きぞく小民せうみんとのあいだ鐵柵てつさくもうけらるゝありて、おのづからに平等びようどう苦叫くけうする平民へいみんこゑおこ
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
両替屋阿波屋三郎兵衛の寄進で、本堂の再建が出来れば、春徳寺も昔の姿を取戻すわけで、その日のもうけは、三日も前からの大騒動、住職の春厳和尚、子供のように喜んだのも無理のないことです。
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
これもっ九天邪きゅうてんじゃるの使つかいもうけ、十悪を罰するのつらね、魑魅魍魎ちみもうりょうをして以て其奸そのかんるる無く、夜叉羅刹やしゃらせつをして其暴そのぼうほしいままにするを得ざらしむ。いわんや清平せいへいの世坦蕩たんとうのときにおいてをや。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おはりにのぞくまに就て一言すべし、熊の巣穴は山中に無数あるにもかかはらず、藤原村に於て年々得る所のくまは数頭のみ、之れ猟師の勇気いうき胆力たんりよくと甚少きを以てなり、即ち陥穽かんせいもうけて熊をりやうするあり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
冷気れいきのこもったうすぐらい拝殿はいでんに、二つの円座えんざもうけられた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人世じんせい風波ふうはは思いもうけぬ方面より起る。小山の妻君熱心に
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この地獄には吸入室とか罨法室あんほうしつとかのもうけもある。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
待ちもうけた老女はそのあとからも現われる様子をいっこう見せないので、お延はいつもの予期から出てくる自然の調子をまずはずさせられた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
パノラマ国の旅人は、様々の奇怪な景色の後で、この思いももうけぬ眺望に、又しても一驚をきっしなければなりません。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人間にんげんのみずからもうけた禁猟区きんりょうくにいて、こちらの安全あんぜんをはかるということは、なんと賢明けんめいなやりかたではないか。
がん (新字新仮名) / 小川未明(著)
近づいてみると、それは町のつじもうけられた篝火かがりびです。青年団員やボーイスカウトの勇しい姿も見えます。——警官の一隊がバラバラと駈けて来ました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
昇降口しようこうぐちの高さは少くとも三尺位は有るべし。おそらくは木製もくせい梯子はしご或はだいもうけ有りしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
それは千枝太郎が待ちもうけているところであったので、彼は是非お目通りが願いたいと頼むと、家来の一人は奥へ立って行ったが、やがて一人の侍女らしい女を連れて来て
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
待ちもうけても今更人の心魂をおどろかす大砲の音が、家をも我等の全身をもうごかして響いた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
たって私達わたくしたちにんめに特別とくべつもうけてくれたとしかおもえない恰好かっこうなのでございます。
その子分として用いた者が多くは無学の熊公くまこう八公はちこうるいであったから、かくのごとき紋切形コンヴェンションもうけ、これによりて統御とうぎょ便べんはかったのも、あるいは止むを得なかったことであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
今度はなんというだろうかな? 代官松はヒヤヒヤしながら、お粂の返辞を待ちもうけた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まったく世界にほこるべき花であるがゆえに、どこか適当な地を選んで一大花ショウブ園を設計し、少なくも十万平方メートルぐらいある園をもうけて、各種類を網羅もうらするハナショウブを
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
牡蠣船のある方の岸は車の立場たてばになっていて柳の下へは車を並べ、その傍には小さな車夫しゃふたまりもうけてあった。車夫小屋と並んで活動写真の客を当て込んでしいの実などを売っている露店ろてんなどもあった。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
縁側へ席をもうけさして、平次は煙草入を抜きます。
「殿、——しばらく、ただいまお支度したくもうけます」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紋三は色々言葉をもうけて明智の判断を聞こうとしたけれど、明智は紋三が自動車を降りて、彼の下宿の方へ別れて行く時まで、ほとんど沈黙を続けていた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
灯火管制の用意に黒色こくしょく電灯カバーを作ったり、押入おしいれを改造して、防毒室を設けたり、配電所に特別のスイッチをもうけたりして、骨身をおしまないのは、感心にたえなかった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)