“芋(いも)” の例文
と是(これ)から釣堀(つりぼり)へまゐりますと、男女(なんによ)の二人連(ふたりづれ)ゆゑ先方(せんぱう)でも気(き)を利(き)かして小間(こま)へ通(とほ)して、蜆(しゞみ)のお汁(つけ)、お芋(いも)の煑転(につころ)がしで一猪口(いつちよこ)出ました。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし、男(おとこ)は、もう芋(いも)に肥料(こえ)をやることなどは、まったく忘(わす)れてしまったように、てんで目(め)は田圃(たんぼ)の上(うえ)などに止(とど)まりませんでした。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「たしか昨夜も、今朝もジャガ芋(いも)ばかり喰っていたかな。——道理で胸の具合が変挺(へんてこ)で、酒の利(き)き目が奇天烈(きてれつ)になったのかしら?」
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
取り残した芋(いも)の葉に雨は終日降頻(ふりしき)って、八百屋(やおや)の店には松茸(まつたけ)が並べられた。垣の虫の声は露に衰えて、庭の桐(きり)の葉も脆(もろ)くも落ちた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
夜(よる)になると方々(ほう/″\)を歩(ある)き廻(まは)つて、筍(たけのこ)、松茸(まつたけ)、芋(いも)、稻(いね)、大豆等(だいずなど)の農作物(のうさくぶつ)をあらしたり、木(き)の實(み)を食(く)ひ、野鼠(のねずみ)、兎(うさぎ)なども捕(とら)へて餌食(ゑじき)にします。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
これから川に沿って登りになるんだから、気をつけるが好いと云う注意を受けた。自分は今芋(いも)を食ったばかりだから、もう空腹じゃない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
本當ですよ親分。川波勝彌(かはなみかつや)つて年は若いが、恐ろしくヤツトウのうまいのが、神樂坂で芋(いも)のやうに刺されてゐるんですぜ。側には川波勝彌を
世を避けながらも猶かつ養生することを忘れずに芋(いも)を食って一切の病気を治(なお)したというあの「つれづれ草」の中にある坊さんのことを思い
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たとえばです、今われわれが食べたあのジャガタラ芋(いも)、あれも海外から来たものですが、ようやく日本のものになりそうです。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おつぎは勘次(かんじ)が吩咐(いひつ)けて行(い)つた通(とほ)り桶(をけ)へ入(い)れてある米(こめ)と麥(むぎ)との交(ま)ぜたのを飯(めし)に炊(た)いて、芋(いも)と大根(だいこ)の汁(しる)を拵(こしら)へる外(ほか)どうといふ仕事(しごと)もなかつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「お汝(こと)等、よい若人どもも、まさか草深い配所に、芋(いも)粟(あわ)を喰ろうて、生涯流人の給仕をするために、佐殿に付いておるわけでもあるまいが」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芋(いも)を食べながら、猫間障子(ねこましやうじ)の硝子越しに狭い庭を見てゐると、汚れた躑躅(つゝじ)の植込みに、小さい痩(や)せた三毛猫がじいつと何かをうかがつてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
そのはずだよ、ねエ、昔は薩摩(さつま)でお芋(いも)を掘ってたンだもの。わたしゃもうこんな家(うち)にいるのが、しみじみいやになッちゃった
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ところが壱岐(いき)の島に行くと芋(いも)と穀類の粉とを釜(かま)の中で練ったものをデェハといっている(方言集)。二語は関係があるらしいが語原が知れない。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
兵十が、白いかみしもをつけて、位牌(いはい)をささげています。いつもは、赤いさつま芋(いも)みたいな元気のいい顔が、きょうは何だかしおれていました。
ごん狐 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
それから長火鉢の前に獨り坐つて一時間も灰を掻きならし乍らぽかんとして考へるとも無く考へた末、又お芋(いも)でも買つて來て食べようかと思ふ。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
もりにかけとは限(かぎ)らない。たとへば、小栗(をぐり)があたり芋(いも)をすゝり、柳川(やながは)がはしらを撮(つま)み、徳田(とくだ)があんかけを食(た)べる。お酌(しやく)なきが故(ゆゑ)に、敢(あへ)て世間(せけん)は怨(うら)まない。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
母は母で、近所の家のお裁縫(さいほう)をしてやったので、そのお礼に大根や芋(いも)やその他の野菜ものが始終持ち込まれて食うだけの保証はまずこれで安心であった。
米や芋(いも)は、一年に一度きりできません。このままでは、貧しい人達は、ほんとに食べものがなくなるでしょう。
長彦と丸彦 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そういっているとき、ゴンドラはまた大きくごとんと揺れ、とたんに彼の手はゴンドラの縁(ふち)からはずれ、彼は芋(いも)のようにゴンドラの底をごろごろと転った。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大きな酒瓶(さけびん)のような物を並べた店も、野菜を並べた店も、乾(ほ)して蛇とも魚とも判らない物や、また芋(いも)とも木の根とも判らない物などを並べた店も眼に注(つ)いた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その芋(いも)も存外味は好(よ)いぞ。名前か? 名前は琉球芋(りゅうきゅういも)じゃ。梶王(かじおう)などは飯の代りに、毎日その芋を食うている。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
熊手の代りに笹(ささ)枝に芋(いも)を貫いたのと切山椒(きりざんしょう)を買って美佐子のお土産にし、熊手は鷲神社でそれぞれが買った。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
やがて芋(いも)が煮えたというので、姉もおとよさんといっしょに降りてくる。おおぜい輪を作って芋をたべる。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
弟(おとうと)の方(ほう)は大(たい)そう気立(きだ)てがやさしくて、にいさん思(おも)いでしたから、山へ行(い)ってお芋(いも)を取(と)って来(く)ると、きっといちばんおいしそうなところを、にいさんに食(た)べさせて
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
物を食うにも鮭(さけ)でも鰌(どじょう)でもよい、沢庵(たくあん)でも菜葉(なっぱ)でもよく、また味噌汁(みそしる)の実にしても芋(いも)でも大根でもよい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その日は初夏の太陽がまぶしい光をジャガ芋(いも)と麦の畑にふりそそいでいた。私は空壕の下に小ヂンマリとよく耕やされた畑を見ているうちに笑いがこみあげてきた。
安吾史譚:01 天草四郎 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
男爵はぼんやり、これら訪問客たちのために、台所でごはんをたき、わびしげに芋(いも)の皮をむいていた。
花燭 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あれ三ちやんで有(あ)つたか、さても好(よ)い處(ところ)でと伴(とも)なはれて行(ゆ)くに、酒(さか)やと芋(いも)やの奧深(おくふか)く、溝板(どぶいた)がた/\と薄(うす)くらき裏(うら)に入(い)れば、三之(の)助(すけ)は先(さき)へ驅(か)けて、父(とゝ)さん、母(かゝ)さん
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
百姓(せう)のお上(かみ)さんが河端(かわばた)で芋(いも)を洗(あら)つてをりました。そこを通(とほ)りかけた乞食(こじき)のやうな坊(ぼう)さんがその芋(いも)をみて
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
或時(あるとき)はデレリ茫然(ばうぜん)としてお芋(いも)の煮(に)えたも御存(ごぞん)じなきお目出(めで)たき者は当世(たうせう)の文学者(ぶんがくしや)を置(お)いて誰(た)ぞや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵、三文字屋金平(著)
そして蝸牛の需要(じゅよう)は秋から冬にかけてであるため、その頃になると蝸牛は土の中にもぐってしまうから、養殖者は丁度(ちょうど)芋(いも)を掘るように木の棒で掘り出さなければならない。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼はそうした散歩のお蔭で、そこいらの山の中の小径(こみち)という小径を一本残らず記憶(おぼ)え込んでしまっていた。どこにはアケビの蔓(つる)があって、どこには山の芋(いも)が埋まっている。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「例えてみればそんなものなんで、理想に従がえば芋(いも)ばかし喰(く)っていなきゃアならない。ことによると馬鈴薯(いも)も喰えないことになる。諸君は牛肉と馬鈴薯(いも)とどっちが可(い)い?」
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
片町といふ所の八百屋(やおや)の新芋(いも)のあかきがみえしかば土産にせんとて少しかふ、道をいそげばしとど汗に成りて目にも口にもながれいるをはんけちもておしぬぐひ/\して——
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
路地の入り口で牛蒡(ごぼう)、蓮根(れんこん)、芋(いも)、三ツ葉、蒟蒻(こんにゃく)、紅生姜(べにしょうが)、鯣(するめ)、鰯など一銭天婦羅(てんぷら)を揚(あ)げて商っている種吉(たねきち)は借金取の姿が見えると、下向いてにわかに饂飩粉(うどんこ)をこねる真似(まね)した。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それ故に直接塩(しお)をふくんだ潮風を受けるために多少の風害はあるとしても、農民達は撓(たゆ)まざる努力に依って、年々、大根、芋(いも)、葱(ねぎ)などの野菜類はもとより、無花果(いちじく)、枇杷(びわ)、梨(なし)
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そして骨のない野菜と果実とチョコレートと芋(いも)と豆腐と牛豚に好意を持つ次第である。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
稲田や芋(いも)畑のあいだを縫いながら、雨後のぬかるみを右へ幾曲がりして登ってゆくと、その間には紅い彼岸花(ひがんばな)がおびただしく咲いていた。墓は思うにもまして哀れなものであった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あるじがもてなしとて、芋(いも)と蕪菜(かぶな)を味噌汁にしたるなかにいぶかしきものあり、案内がさし心えていふやう、そは秋山の名物の豆腐(とうふ)也といふ。豆を挽(ひく)事はせしが糟(かす)を灑(こさ)ざるゆゑ味(あぢ)なし。
三時になると、みんなは草っ原に腰(こし)をおろして、お茶をのみ、ふかし芋(いも)を食った。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
僅(わず)かに少量の干うどんとさつま芋(いも)とが手に入ったきりであった。たとい焼けないにしても、当分は芋粥(いもがゆ)にして食いのばさねばならぬ。がそれも長くは続かない。そのあとには飢餓(きが)が来る。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
豆腐屋が売れ残りの豆腐を焼いたと見えてやっぱり虫が交っている。オヤ蒲鉾(かまぼこ)が遣(や)って来た。蒲鉾というと魚の身で拵えたようだがこの蒲鉾は魚三分(ぶ)に芋(いも)七分、これも去年到来の古物(ふるもの)だね。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ある地方にて元日に芋(いも)の頭(かしら)を食するは、人の頭になるを祝する意である。また、他の地方にて除夜に菊の茎または茄子(なす)の茎を焼くのは、吉(よ)きこときく、または善きことをなすの祝意である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
さうなれば僕も山の芋(いも)を二三日(にさんにち)埋(い)けて置(お)いて竹葉(ちくえう)神田川(かんだがは)へ却売(おろしう)りをする。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
唐(とう)の芋(いも)は下げなくっても、黄金餅は買って来なくっても、それによって
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
桶(おけ)の中の芋(いも)の様に混乱して、息も絶え絶えに合唱を続け、人津浪(ひとつなみ)は、或は右へ或は左へと、打寄せ揉み返す、その真只中(まっただなか)に、あらゆる感覚を失った二人の客が、死骸の様に漂っているのでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
藤八何(どう)だ村の衆(しう)膽(きも)が芋(いも)にも化(ばけ)さうなもので御座らうサア/\茲が肝腎(かんじん)だ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
食うものいとおかしく、山中なるに魚のなますは蕈のためしもあれば懼(おそ)れて手もつけず、椀(わん)の中のどじょうの五分切りもかたはら痛きに、とうふのかたさは芋(いも)よりとはあまりになさけなかりければ
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
山の芋(いも)、珈琲(コーヒー)、蝮酒(まむしざけ)、六神丸(しんがん)と、戦闘的食餌(しょくじ)を供給するものだから、ナポレオンはたちまちのぼせあがって両眼血走り、全身の血管は脈々と浮きあがり、その鼻息はもっぱら壊れたオルガンのごとく