此家このや)” の例文
「ありふれたとりかぶと、此家このやの庭にも、昨年の秋は紫の花を澤山咲かせてゐたが、あの花の根に猛毒のあることは誰でも知つて居る」
其後そののち旗野は此家このやすまひつ。先住のしつが自ら其身そのみを封じたる一室は、不開室ととなへて、開くことを許さず、はた覗くことをも禁じたりけり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この温泉をんせんはたして物質的ぶつしつてきぼく健康けんかう效能かうのうがあるかいか、そんなことわからないがなにしろ温泉をんせんわるくない。すくなくとも此處こゝの、此家このや温泉をんせんわるくない。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
桂次けいじいまをる此許こゝもと養家やうかゑんかれて伯父をぢ伯母をばといふあひだがらなり、はじめて此家このやたりしは十八のはる田舍縞いなかじま着物きものかたぬひあげをかしとわらはれ
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
起きて騒ぎ立てているのは、此家このやの百姓の家族ばかりだった。嬰児あかごの泣き声やら、老人のわめき声が、外の矢うなりにつつまれて、哀れに聞えた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藥指は此家このやの娘、身輕な小意氣なヅエルビイヌ、奧樣がたへは笹縁さゝべりのれいすも賣るが、殿御にこびは賣り申さぬ。
五本の指 (旧字旧仮名) / ルイ・ベルトラン(著)
もみもん丑滿うしみつの頃漸々にて糸切村に着し彼の茶見世を御用々々とたゝき起せば此家このやの亭主何事にやと起出おきいづるにまづ惣助亭主に向ひ廿二三年あとに澤の井樣より手紙を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
人なる蝋に印をす諸〻の天の力は、善く己がわざを爲せども彼家かのや此家このや差別けじめを立てず 一二七—一二九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
これ此家このや旦那だんな殿の寝所しんじよならめと腰障子をすこしつきやぶりて、是より入つて見れば夫婦枕をならべて、前後も知らず連れぶしいびきに、(中略)まづ内儀ないぎの顔をさしのぞいて見れば
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
主は家隷けらいを疑い、郎党は主を信ぜぬ今の世に対しての憤懣ふんまんと悲痛との慨歎がいたんである。此家このやの主人はかく云われて、全然意表外のことを聞かされ、へどもどするより外は無かった。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
... 其家へ行て此家このやにお紺と云う者は居無いかと問うのサ」谷間田は声を放ッて打笑い
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
茶を運んできた此家このやの美しい奥様は、耳朶みみたぶを染めながら嬉気に頬笑んだ。
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
で、第一日の夜、市勝が俯向うつむいて手紙を書いてゐると、鼻のさき障子しょうじが自然にすうと明いた。これ序開じょびらきとして種々いろいろの不思議がある。段々だんだん詮議すると、これは此家このやに年古く住むいたち仕業しわざだと云ふ。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
此家このやを遠巻きにして、わあッわあアと騒いでいる。——そして大した弓勢ゆんぜいではないが、旺んに、矢を送って来た。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竹原屋の御新造が、此家このやのお父さんにお願ひして、商賣物の仕入で急に入用になつた、十五兩の金を貸して頂き度いと、お手紙で頼んで來たので御座います。
父上ちゝうへなくならば親代おやがはりのれ、兄上あにうへさゝげてかまどかみまつぽん託宣たくせんこゝろならば、いかにもいかにも別戸べつこ御主人ごしゆじんりて、此家このやためにははたらかぬが勝手かつて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
腰元は驚き恐れつゝくだんの部屋を覗けば、内には暗く行灯あんどうともりて、お村ははぎあらはよこたはれるかたはらに、一人いちにんの男ありて正体も無く眠れるは、けだし此家このやの用人なるが、先刻さきに酒席に一座して
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
つぐるに長兵衞夫婦の者名殘なごりをしみ幸ひ大師河原へ參詣さんけいながら川崎宿迄送り申さんと己も支度したくをなし翌朝後藤は此家このやを立出るに新藤夫婦もわかれををしみ影見えぬまで見送々々みおくり/\後藤の方を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此家このやの召使たちへもはばかりがあろう。常磐はあわてて乳をふくませ、柴垣の根に身をかがませて待っていたが、そこの窓も他の戸も、盲のように開かなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八五郎はあの失敗以來、すつかり御無沙汰して、此家このやの敷居がまたぎ切れないやうな心持だつたのです。
かへれ、何處どこへでもかへれ、此家このやはぢするなとてちゝ奧深おくふか這入はいりて、かね石之助いしのすけ懷中ふところりぬ。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はじめお村をざんししお春は、素知らぬ顔にもてなしつゝ此家このやに勤め続けたり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
考へとつ追つ相談なし居たるに或日此家このや手代てだいきたり決して御催促をまをすわけには是なく候へども最早もはや暫時しばらくの御逗留ゆゑ御旅籠おはたご餘程よほどたまりしにより少々にても御拂ひ下さるべきや又は後藤樣の御歸りを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
我欲がよく目當めあてがあきらかにえねばわらひかけたくちもとまでむすんでせる現金げんきん樣子やうすまで、度〻たび/\經驗けいけん大方おほかた會得えとくのつきて、此家このやにあらんとにはかねづかひ奇麗きれいそんをかけず
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こもの十郎と、お稚児ちごの小六という者を、あなたのために斬り殺されたため、それを恨んで、あなたが一歩でも此家このやの軒下を出たら喧嘩をしかけようと、待ち構えておりまする。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
到頭嫁入の時を遲らせて、二十歳はたち島田の歎きを見たお勇が、近く此家このやから放り出されさうな良助の爲に、大事な繪圖面を隱して、一か八かの大論判を、父親と開くつもりだつたのでせう。
かげにまわりてはうち書生しよせいがと安々やす/\こなされて、御玄關番おげんくわんばん同樣どうやうにいはれること馬鹿ばからしさの頂上てうじようなれば、これのみにてもりつかれぬ價値ねうちはたしかなるに、しかも此家このやたちはなれにくゝ
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『いけません。てまえが、此家このやあるじでいる以上は、一足でも』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美尾みをわたしむすめなればわたしおもふやうにらぬことるまじ、なにもおまへさんの思案しあん一つと母親はゝおや美尾みを産前さんまへよりかけて、よろづの世話せわにと此家このやみつゝ、もすればらうめるに
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
をんなならぬお客樣きやくさま手前店てまへみせへおかけをねがひまするともふにかたからん、御方便ごはうべん商買しようばいがらを心得こゝろゑ口取くちと燒肴やきざかなとあつらへに田舍いなかものもあらざりき、おりきといふは此家このやの一まい看板かんばん
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たみ此家このやに十ねんあまり奉公ほうこうして主人しゆじんといへどいまかはらず、なにとぞ此人このひと立派りつぱあげてれも世間せけんほこりたきねがひより、やきもきとむほど何心なにごヽろなきおそのていのもどかしく
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其日一日物も仰せられず、一日おいてよりは箸の上げ下しに、此家このやの品は無代たゞでは出來ぬ、主の物とて粗末に思ふたら罰が當るぞえと明け暮れの談義、來る人毎に告げられて若き心には恥かしく
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其日そのひにちものおほせられず、一にちおいてよりははしおろしに、此家このやしな無代たゞでは出來できぬ、しゆうものとて粗末そまつおもふたらばちあたるぞえとれの談義だんぎくるひとごとげられてわかこゝろにははづかしく
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此家このやうち一人ひとりもなし老婆ばあさまも眉毛まゆげよまれるなと憎々にく/\しくはなつて見返みかへりもせずそれは御尤ごもつとも御立腹ごりつぷくながられまでのことつゆばかりもわたくしりてのことはなしおにくしみはさることなれど申譯まをしわけ一通ひととほりおあそばしてむかしとほりに思召おぼしめしてよと詫入わびいことばきもへずなんといふぞ父親てゝおやつみれは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)