山吹やまぶき)” の例文
ひかりが十ぶんたり、それに、ほどこした肥料ひりょうがよくきいたとみえて、山吹やまぶきは、なつのはじめに、黄金色こがねいろはなを三つばかりつけました。
親木と若木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの早稲田の学生であって、子規や僕らの俳友の藤野古白こはくは姿見橋——太田道灌どうかん山吹やまぶきの里の近所の——あたりの素人しろうと屋にいた。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その頃いつも八重さくらがさかりで、兄はその爛熳らんまんたる花に山吹やまぶき二枝ふたえだほどぜてかめにさして供へた。伯母おばその日は屹度きつとたけのこ土産みやげに持つて来た。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
三月になって、六条院の庭のふじ山吹やまぶきがきれいに夕映ゆうばえの前に咲いているのを見ても、まずすぐれた玉鬘の容姿が忍ばれた。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「お召とあらば、見てまいりましょう。近頃、山吹やまぶきのお茶屋の手入れにかかっております故、あの附近に居るかと存じます」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この共同湯きようどうゆむかがはは、ふちのやうにまたみづあをい。對岸たいがん湯宿ゆやど石垣いしがきいた、えだたわゝ山吹やまぶきが、ほのかにかげよどまして、あめほそつてる。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
書斎の前の蘭は自ら土手より掘り来りて植ゑしもの。かわやのうしろには山吹やまぶき石蕗つわぶきと相向へり。踏石の根にカタバミの咲きたるも心にとまりたり。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
鹿児島かごしま津和野つわの、高知、名古屋、金沢、秋田、それに仙台せんだい——数えて来ると、同門の藩士もふえて来たね。山吹やまぶき苗木なえぎなぞは言うまでもなしさ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
八月の藤の花は年代記ものである。そればかりではない。後架こうかの窓から裏庭を見ると、八重やへ山吹やまぶきも花をつけてゐる。
同巻十一の「山吹やまぶきのにほへる妹が唐棣花色はねずいろの、赤裳あかものすがたいめに見えつつ」、同巻十二の「唐棣花色はねずいろの移ろひ易きこころあれば、年をぞ来経きふことは絶えずて」
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「水はいもんじゃなあ、麹町わしうちがけに、山吹やまぶきう咲いているが、下に水があるとえのじゃが——」
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
狭い路の両側にはすすきや野菊のたぐいが見果てもなく繁り合って、長く長く続いています。ここらの山吹やまぶきは一重が多いと見えて、みんな黒い実を着けていました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ふぢ山吹やまぶきの花早くも散りて、新樹のかげ忽ち小暗をぐらく、さかり久しき躑躅つゝじの花の色も稍うつろひ行く時、松のみどりの長くのびて、金色こんじきの花粉風きたれば烟の如く飛びまがふ。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その中から現はれたのは、山吹やまぶき色の美しい小判の山と思ひきや、こと/″\青錆あをさびに錆びた穴あき錢ばかり。
ふりかえると、年よりは茶店の横の日だまりにちりをよけてまっていた。日あたりのよい生垣いけがきの一か所につぼみをつけた山吹やまぶきがむらがり、細い枝はつぼみの重さでしなっている。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
自分は便利のためにこれをここに引用する必要を感ずる——武蔵野は俗にいうかん八州の平野でもない。また道灌どうかんかさの代りに山吹やまぶきの花を貰ったという歴史的の原でもない。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
山吹やまぶきのにほへるいも唐棣花色はねずいろ赤裳あかものすがたいめに見えつつ 〔巻十一・二七八六〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そうして山吹やまぶきの花の咲いているかきのところにしゃがみ、かなりの血をお吐きになりました。
饗応夫人 (新字新仮名) / 太宰治(著)
義仲は信濃を出る時からずっと都まで、ともえ山吹やまぶきという二人の美女をつれていた。山吹は病のため都に留まった。巴は色白く、黒髪豊かに長く、容貌もまことにすぐれた美女であった。
子猫はとうとう降り始めたが、脚をすべらせて、山吹やまぶきの茂みの中へおち込んだ。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
薄暗くなりかけの崖の道を下りかけていると、晩鶯ばんおうが鳴き、山吹やまぶきがほろほろと散った。復一はまたしてもこどもの時真佐子の浴せた顎の裏の桜の花びらを想い起し、思わずそこへ舌の尖をやった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
このがけは急でとても下りられない。下にりよう。松林だ。みちらしくまれたところもある。下りて行こう。やぶだ。日陰ひかげだ。山吹やまぶきの青いえだや何かもじゃもじゃしている。さきに行くのは大内おおうちだ。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
窩人の頭領杉右衛門の娘の今年十九の山吹やまぶきは家の一間で泣いていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
前の「山吹やまぶきや」の句も、同様にその芭蕉幽玄体の一つである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
ざく、ざく、ざく、と山吹やまぶき色の音。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
過れば木曾川に沿ふての崖道にて景色いふばかりなくよしともゑ御前山吹やまぶき御前の墓あり巴は越中ゑつちうにて終りしとも和田合戰ののち木曾へ引籠りしとも傳へて沒所さだかならず思ふにこゝは位牌所なるべし宮の腰に八幡宮あり義仲此の廣前ひろまへにて元服せしといふ宮の腰とは
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
山吹やまぶき
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
のやうにおぼしめして御苦勞ごくらうなき御苦勞ごくらうやら我身わがみ新參しんざん勝手かつてらずおもとようのみつとめれば出入でいりのおひとおほくも見知みしらず想像さうぞうには此人このひとかとゆるもけれどこのみはひと心々こゝろ/″\なにがおそみしやらはでおもふは山吹やまぶきしたゆくみづのわきかへりてむねぐるしさもさぞなるべしおつゝしぶかさは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「おかあさん、そんなら、このちいさい、いじけたのがおやなんですか。」と、勇二ゆうじは、いまさらのごとくおどろいて、山吹やまぶきけてたずねました。
親木と若木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
飯田に、山吹やまぶきに、伴野とものに、阿島あじまに、市田に、座光寺に、その他にも熱心な篤胤の使徒を数えることができる。この谷だ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
島にはつつじ、山吹やまぶき連翹れんぎょう糸桜いとざくら、春の万花まんげがらんまんと咲いて、一面なる矮生わいせい植物と落葉松からまつのあいだを色どっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さくら山吹やまぶき寺内じないはちすはなころらない。そこでかはづき、時鳥ほとゝぎす度胸どきようもない。暗夜やみよ可恐おそろしく、月夜つきよものすごい。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
池がことに自然にできていて、近い植え込みの所には、五葉ごよう、紅梅、桜、ふじ山吹やまぶき岩躑躅いわつつじなどを主にして、その中に秋の草木がむらむらに混ぜてある。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
下人は、くびをちぢめながら、山吹やまぶき汗袗かざみに重ねた、紺のあおの肩を高くして門のまわりを見まわした。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
昔ハりトきトハ通用シテ山吹やまぶき山振やまぶりト云ヒ古事記ニりてト云フトコロヲ手をふきてトアル
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
山吹やまぶきちよそひたる山清水やましみづみにかめどみちらなく 〔巻二・一五八〕 高市皇子
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
白堊はくあの家はつらなり、大理石はいみじき光りに、琅玕ろうかんのように輝いている。その前通りの岸には、椰子やしの並木が茂り、山吹やまぶきのような、金雀児エニシダのようなミモザが、黄金色の花を一ぱいにつけている。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
山吹やまぶきかさに挿すべき枝のなり
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
こうちゃんのいえ垣根かきねのところに、山吹やまぶきがしげっていました。ふさふさとして、えだはたわんで黄金色こがねいろはなをつけていました。
親木と若木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
伸上のびあが背戸せどに、やなぎかすんで、こゝにも細流せゝらぎ山吹やまぶきかげうつるのが、いたほたるひかりまぼろしるやうでありました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
派手はでな色でない山吹やまぶき色、黒みのある紅、深い紫、青鈍あおにびなどに喪服を着かえさせ、薄紫、青朽葉くちばなどのを目だたせず用いさせた女房たちが大将の給仕をした。
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
御坂峠みさかとうげ風越峠かざこしとうげなぞの恵那えな山脈一帯の地勢を隔てた伊那の谷の方には、飯田いいだにも、大川原にも、山吹やまぶきにも、座光寺にも平田同門の熱心な先輩を数えることができる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
法師野ほうしのにいる呂宋兵衛るそんべえのところへかけつけようとしたが、ふと気がつくと、いまの格闘かくとうで、さっき蛾次郎がじろうからせしめた小判こばんが、あたりに山吹やまぶき落花らっかとなっているので
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かはづ甘南備河かむなびがはにかげえていまくらむ山吹やまぶきはな 〔巻八・一四三五〕 厚見王
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
何処どこにか、雪消ゆきげの匂いを残しながら、梅も、桜も、桃も、山吹やまぶきさえも咲き出して、かわずの声もきこえてくれば、一足外へ出れば、野では雉子きじもケンケンと叫び、雲雀ひばりはせわしなくかけ廻っているという
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
山吹やまぶき井手いでを流るる鉋屑かんなくず
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
あたか切立きつたて崖上がけうへで、えん小庭こにはに、飛石とびいしつ。躑躅つゝじ——おどろくな——山吹やまぶきなどをかるくあしらつた、角座敷かどざしき
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「どれ、どれ、わたしせてください。」と、いって、おじいさんは、山吹やまぶきはないているにわさきへまわって、金魚きんぎょのはいっているおおきなはちをのぞきました。
金魚売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
真赤まっかな衣服に山吹やまぶきの花の色の細長は同じ所の西の対の姫君の着料に決められた。見ぬようにしながら、夫人にはひそかにうなずかれるところがあるのである。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その時になって見ると、片桐春一かたぎりしゅんいちらの山吹やまぶき社中を中心にする篤胤研究はにわかに活気を帯びて来る。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)