あま)” の例文
可愛相かあいさうにねえ貴方あなたその書面しよめんによると亞尼アンニーは、弦月丸げんげつまる沈沒ちんぼついて、私共わたくしどもまぬとあまになつたのですよ。その事柄ことがら一塲いちじやう悲劇トラジデーです。
貞柳ていりうと云ひしが此者通仙と入魂じゆこんなりし故妻子の難儀を見兼ねて世話をなしける處あまさきの藩中に小野田幸之進をのだかうのしんと云人有りしが勘定頭かんぢやうがしら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その時静かに襖が開いてあまが一人はいって来た。黒い法衣に白い被衣かつぎ。キリスト様とマリヤ様に仕えるそれは年寄りの尼であった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ときに、先客せんきやく一人ひとりありましてみぎました。氣高けだかいばかりひんのいゝとしとつたあまさんです。失禮しつれいながら、先客せんきやく邪魔じやまでした。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お医者さんはかくしに安いお菓子かしをいつも入れているし、看護婦かんごふあまさんたちがそれはやさしく話をしてくれるよ。こう言うんだ。
もっと、今の感激をつきつめて、髪をおろし、袖ももすそも、ちきって、清楚なあまのすがたになりきってしまいたい念だけがあった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
在所の者は誰も相手にせぬし、便たよかたも無いので、少しでも口をす為にあますヽめに従つて、長男と二男を大原おほはら真言寺しんごんでら小僧こぞうつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
千代能ちよのうというあまさんは江戸期のはじめ頃に京都にいた人だが、この人が悟りを開いたときにんだという有名な和歌がある。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
富木どきどのの御物おんものがたり候は、このはわ(母)のなげきのなかに、りんずう(臨終りんじう)のよくをはせしと、あまがよくあたり、かんびやうせしことのうれしさ
間もなくお富は若い有髮うはつあまとして隱居し、座敷牢から出された彌太郎は、何んの不都合もなく鳴海屋の主人としてやつて行くことになりました。
学者がくしゃは、しばらくたたずんで、むかし、このてらうつくしいあまさんが、夜々よるよるそらあおいで、つきひかりに、くも姿すがたに、物思ものおもいにしずんだ姿すがた想像そうぞうしたのであります。
三つのかぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
このうたつくりかへて、べつかはつた領分りようぶんひらいたものがあります。それは明治めいじになつてんだ京都きようと蓮月れんげつといふあまさく
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
然し墨染すみぞめの夕に咲いて、あまの様に冷たく澄んだ色の黄、そのも幽に冷たくて、夏の夕にふさわしい。花弁はなびらの一つずつほぐれてぱっと開く音も聴くに面白い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あまさきから、あすこへ軍兵の押し寄せてくるのが見えるかしら」私は尼ヶ崎の段を思いだしながら言った。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして、しなへつくとすぐに、こっそり、まずファティマというあまさんをたずねて行きました。そして、上着とベールとを、むりやりにかしてもらいました。
そこに秀蓮尼しゅうれんにというあまさんがんでいるから、その人にわけを言ってかくまってもらうといいわ。分って?
鍵から抜け出した女 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いまだからそんなくちもきけるんだ。あまつちよめ!……貴樣きさまはなだつた時分じぶんときたらな……どうだい、あの吝嗇けちくせえちつぽけな、えてなくなりさうなはながさ。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
小倉で発心ほっしんしてあまになり、小さな庵をもつことになったとは聞いていたが、こうやってじかにその姿を見るまでは、そのことを切実に考えていなかったといって好い。
女はたよりのないのを歎いてあまになってしまったと云うような、そゝっかしい話などもある。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのあまがまた、少し耳が遠いと来ているものでございますから、一つ話を何度となく、云い直したり聞き直したりするので、こっちはもう泣き出したいほど、気がじれます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしわかあまさんは、眼鏡めがねをかけたかお真剣しんけん表情ひょうじょうをうかべて、「いいえ、自分じぶんからだかして、爆弾ばくだんとなってしまうかねですから、どうしても供養くようをしてやりとうござんす。」
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
拠無よんどころなく夕方から徒歩で大坂おおさかまで出掛でかける途中、西にしみやあまさきあいだで非常に草臥くたびれ、辻堂つじどう椽側えんがわに腰をかけて休息していると、脇の細道の方から戛々かつかつと音をさせて何か来る者がある
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
先ずあれにするには西京さいきょう真葛まくずはらの豆が一番上等です。大阪のあまさき辺の一寸豆いっすんまめもようございます。上州沼田辺の豆も大きいそうですが新豆のしたのなら一昼夜水へ漬けます。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
世間から隔離していなければならないのだから、女の独身者はあまと同じようで、社会に活動することも出来ない。これを亜米利加アメリカの婦人運動などの有様ありさまに比較してみると大変な相違だ。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ことに女の旅は厳重をきわめたもので、髪の長いものはもとより、そうでないものもあま比丘尼びくに髪切かみきり少女おとめなどと通行者の風俗を区別し、乳まで探って真偽を確かめたほどの時代だ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『カトリック』教の国にはあまになる人ありといへど、ここ新教のザックセンにてはそれもえならず。そよや、かの羅馬教ローマきょうの寺にひとしく、礼知りてなさけ知らぬ宮の内こそわが冢穴つかあななれ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
がんこな人たちがどうしても太子たいしのおさとしにしたがおうとしないで、おてらいたり、仏像ぶつぞうをこわしたり、ぼうさんやあまさんをぶちたたいてひどいめにあわせたり、いろいろな乱暴らんぼうをはたらきました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
黒いかつぎをしたカトリック風のあまさんが、まん円な緑のひとみを、じっとまっすぐに落して、まだ何かことばか声かが、そっちから伝わって来るのを、つつしんで聞いているというように見えました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
有王 姫君さまはこの世をはかなみ奈良の法華寺ほっけじにてあまになって、母上や若君の菩提ぼだいをとむろうていられましたが、去年の秋の暮れふとおゆくえがわからなくなり、手をわけて捜しましたところ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
つま九七にんはてぬ此の春、かりそめのやまひに死し給ひしかば、便なき身とはなり侍る。都の乳母めのとあまになりて、行方ゆくへなき修行しゆぎやうに出でしと聞けば、九八彼方かなたも又しらぬ国とはなりぬるをあはれみ給へ。
ぼたん桜ここだくてりあまたちがひもかけ渡し白衣びやくえすかも
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
そうして忽ち「あま」の一篇が出来上った。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
つぎなるはろうしぬる清きあま三味線しやみせんける。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
こまつちやくれたあまつちよめ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
そのは、やがてあまごろも
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
トラピストのあま
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
あまさん。
歌時計:童謡集 (旧字旧仮名) / 水谷まさる(著)
ひとが、かつ修學旅行しうがくりよかうをしたとき奈良なら尼寺あまでらあまさんに三體さんたいさづけられたとふ。なかから一體いつたいわたしけられた阿羅漢あらかんざうがある。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
俗服を着てはいるが、円いつむりには頭巾をかぶり、年もはや七十頃であろう、どことなく上品で小がらなあまさんなのだった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫、順三郎の死後は、有髮うはつあまさながらの身持で、世間は申す迄もなく、屋敷の尊敬を集めて居る有樣です。
「だけれども、それはお前の心から出た願いでないということを、私はよーっく知っているのだよ。それはあまさんの風をしている、悪者のまほう使が言わせたのだろう。」
男を見れば女を見る。今富木どのに見參げざんつかまつれば、あまごぜんをみたてまつるとをばう。
でもセン・ヴェンサン・ド・ポールのあまさんがするように、親切にしかも規則きそく正しく看護かんごしてくれて、けっしてかんしゃく一つ起こさないし、なに一つ手落ちなしにしてくれた。
或日のひるさがり、あま瀬町せまち光照寺くわうせうじといふ寺へ、身装みなりの正しい若者が一人訪れて来た。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
嘗てその道をはゞんでいた浮世の義理やおきてなどは、今となっては全く除かれていたであろうし、ましてあまとなった母は、西坂本の敦忠の山荘のほとりにいおりを結んで暮らしていたので
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「このかたは、おしでございます。そして、今夜こんやうちに、あのやまのいただきのおてらまでおつれもうしますので。けるとあまさんにおなりなさるのだそうでございます……。」と、馬子まご
生きた人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
追拂おひはらはれ京都に住居すまひの時留守宅るすたくへ忍び入衣類をうばひ取大津おほつ立越たちこえ賭博をうち佐七平四郎と兄弟分になり上方かみがたより東海道とうかいだうかせぎ折々をり/\は江戸へも立出候處あまさき家中の侍士さふらひ金用にて出立と馬士まごの咄を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もうあまの心に成つて居ますと云つて泣き伏したが、もう朗然和上と夫婦との間に縁談がきまつて居つたあとだから、親の心に従つてつひに其年の十一月、娘は十五荷ので岡崎御坊へ嫁入よめいつて来た。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
いつからっていたのか、せいの高い、黒いかつぎをしたカトリックふうのあまさんが、まんまるなみどりひとみを、じっとまっすぐにとして、まだ何かことばか声かが、そっちからつたわって来るのを
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
が、そこは年のちがいでございましょう。間もなく、娘が、綾と絹とを小脇こわきにかかえて、息を切らしながら、塔の戸口をこっそり、忍び出た時には、あまはもう、口もきかないようになって居りました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)