ほり)” の例文
どうかして電車がしばらく来ない時には、河岸かし砂利置場じゃりおきばへはいっておほりの水をながめたり呉服橋ごふくばしを通る電車の倒影を見送ったりする。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ほりという堀には水がいっぱいで、堀ばたにはフキの花がひらき、石壁いしかべの上にえている草のしげみは、つやつやとして褐色かっしょくになっています。
いちばん若いおたつは満州帰りだといい、私がほりでスケッチをしているときに話しかけてから、顔を見れば挨拶あいさつをするようになっていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
先刻さつき土手どてときほりとこすべつたんですが、ときかうえによごしたんでせうよ」とおつぎはどろつたこしのあたりへてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
新見付しんみつけると、むかふからたり、此方こつちからつたりする電車がになりしたので、ほり横切よこぎつて、招魂社のよこから番町へた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「え。川向うのほりから出ています。これもみんな、お蔦姉さんのためですわ。姉さんのこしらえた不義理な借金の穴埋めに」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてこの御陵ごりようのごときは、二重ふたへほりをめぐらし、その周圍しゆういには陪塚ばいちようといつて臣下しんかひとだちのはかがたくさんならんでをります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
そこで、むすめはひざまずいて、神さまのみをよび、おいのりをしました。すると、とつぜん、天使てんしがあらわれて、おほり水門すいもんをとじてくれました。
むかしの東海道の日坂にっさか宿しゅくは、今日では鉄道の停車場ていしゃじょうになつてゐない。今日のくだり列車は金谷かなやほりうち掛川かけがわの各停車場を過ぎて、浜松へ向つてゆく。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
吾々は今日の新橋しんばしに「ほり小万こまん」や「柳橋やなぎばし小悦こえつ」のやうな姿を見る事が出来ないとすれば、其れと同じやうに、二代目の左団次さだんじと六代目の菊五郎きくごらうに向つて
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
たとえば後醍醐天皇が一時行在所あんざいしょにおてになった穴生あのうほり氏のやかたなど、昔のままの建物の一部が現存するばかりでなく、子孫が今にその家に住んでいると云う。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
魚沼郡の内宇賀地うがちきやうほりの内の鎮守ちんじゆ宇賀地の神社じんじやは本社八幡宮也、上古より立せ給ふとぞ。縁起文えんぎぶんおほければこゝにはぶく。霊験れいげんあらたなる事はあまねく世にしる処なり。
ときどき、そりは、はねあがりましたが、それはほり生垣いけがきをとびこしているようでした。カイは、こわくてたまらなくなって、「主の祈り」をとなえようとしました。
おちたるもおちたるもした敷石しきいし模樣もやうがへのところありて、ほりおこしてみたてたる切角きりかど頭腦づのうしたゝかちつけたれば甲斐かひなし、あはれ四十二の前厄まへやく人々ひと/″\のちおそろしがりぬ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
右は土手上の松籟しょうらいも怪鳥の夜鳴きではないかと怪しまれるようなおほりを控えての寂しい通り——。
「そうか。そりゃ失敬した。だが残念だね。昨日ほりや何かは行って見たんだって。——」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
爆沈させるだけの話だ。監督将校のほり大尉も、さつき船橋ブリツヂで船長にさう言つてゐた。
怪艦ウルフ号 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
『ミストル・ヘーガ』。日本人にほんじん給仕きふじきかせて『芳賀はがさん』となほす。『ミストル・ホーライ』。これはほりだ。『ミストル・アイカイ』。これ猪飼ゐかひだ。『ミストル・キャツダ』。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
或はほりの柳のかげに BANKO(椽臺)を持ち出しては盛んに花火を揚げる。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
足下あしもとには、広いしろ玩具おもちゃのように小さくなって、一足ひとあしまたげそうでした。にわもり城壁じょうへきほりなどが、一目ひとめに見て取れて、練兵場れんぺいじょう兵士へいしたちが、あり行列ぎょうれつくらいにしか思われませんでした。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
弁公はほりを埋める組、親父おやじは下水用の土管を埋めるための深いみぞを掘る組。
窮死 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
思い出の深い常磐橋ときわばしの下の方まで続いて行っているほりの水は彼の目にある。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つゆすくないのを、百間堀ひやくけんぼりあられふ。田螺たにしおもつたら目球めだまだと、おなかくなり。百間堀ひやくけんぼりしろほりにて、意氣いき不意氣ぶいきも、身投みなげおほき、ひるさびしきところなりしが、埋立うめたてたればいまはなし。電車でんしやとほる。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
組與力くみよりきほり十左衞門片岡逸平の兩人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
室町むろまちから東京駅行きのバスに乗ったら、いつものように呉服橋ごふくばしを渡らずにほりばたに沿うて東京駅東口のほうへぶらりぶらりと運転して行く。
破片 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ほりあめあとみづあつめてさら/\ときしひたしてく。あをしげつてかたむいて川楊かはやなぎえだが一つみづについて、ながちからかるうごかされてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
斧四郎旦那は、お喜代だの、露八だの、この前の時の顔に、ほりの芸妓たちを連れて、浜中屋の裏の桟橋さんばし屋形船やかたを着けた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほりの洋品雑貨店「みその」の息子が嫁をもらった。息子の名は五郎、年は二十四、町の人たちはごろさんと呼んでいた。嫁はゆい子といい、年は二十一歳。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さて埴輪はにわ筒形つゝがたのものは、はかをかのまはり、ときにはほり外側そとがは土手どてにも、一重ひとへ二重ふたへあるひは三重みへにも、めぐらされたのであり、またつか頂上ちようじようには家形いへがた
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「その幽霊ゆうれいは、どうしてほりをわたってきたのだ。してまた、ナシを食べてから、どこへいったのだ。」
宗助そうすけにはそのすないてむかふのほりはうすゝんでかげが、なゝめにかれるあめあしやう判然はつきりえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お日さまは、朝になると、また出てきて、ほりの中へすべりこむやり方を、きっと、おまえに教えてくれるよ。おや、もうすぐ、天気がかわるぞ。わしは、左の後足でそれがわかるんだ。
この橋たもとに、総格子そうこうし六間の間口を構えて、大奥御用呉服所と染めぬいた六間通しののれんが、ほりから吹きつける風にはたはたとはためきながら、見るからにいかめしい造りでした。
そこで、「ほりを泳いでわたったことしかありません。」と、つづけて言いました。
文化ぶんくわとか開明かいめいとかの餘光よくわう何事なにごとからからほりかへして百ねんねんむかしのひとこヽろなかまで解剖かいばうするに、これを職掌しよくしよう醫道いだうめうにも天授てんじゆよはひはうもならず、學士がくし札幌さつぽろおもむきしとしあき
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
六月が來た、くちなはがほりをはしる。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
▲白縮はほりの内町ざいの村々
いつか城山のずっとすそのおほりに臨んだ暗い茂みにはいったら、一株の大きな常山木じょうざんぼくがあって桃色がかった花がこずえを一面におおうていた。
花物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ほりそばへはぐんぢやねえぞ、衣物きものよごすとかねえぞ」おつぎがいふのをみゝへもれないで小笊こざるにしてはしつてく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
芳爺よしじいさんの住居に近い三本松、消防小屋、堀南から中堀橋を渡り、ほりに沿った堤の左側に、養魚場の広い池をながめながら、東の海水浴場へもいってみた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのおほきいものになりますと、周圍しゆうい十町以上じつちよういじようのものもあり、外側そとがはに、たいていほりをめぐらしてあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
でも、そのなかへはいっていくことはできません。なぜって、お庭のまわりにはほりがありますもの。
ほりのお喜代の隣家となりは、炭屋だった。炭屋の二階に、このごろ、お喜代の世話で、坊主頭の大男が間借りして、がらにも似あわない「荻江露八おぎえろはち」という小さな看板を打ちつけていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中で一番大きいのが、ちょうどほり塀際へいぎわから斜めに門の上へ長い枝を差し出しているので、よそにはそれが家と調子を取るために、わざとそこへ移されたように体裁ていさいが好かった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夜の大江戸を徐々にあとへ残して、青梅街道口おうめかいどうぐちへさしかかったのが、春の東雲しののめ——、西へ西へと一路街道を急がせて、ほりうちにかかったのが、目にまぶしやかな青葉の朝の五ツ下がり。
ほりの水がなげくよ
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
まるうちの街路の鈴懸すずかけの樹のこの惨状を実見したあとで帝劇へ行って二階の休憩室の窓からおほりの向こう側の石崖いしがけの上に並んだ黒松をながめてびっくりした。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「だんなえ? ね、だんなえったら! こっちへ来たんじゃ、ちっとばかり方角が違うように思いやすが、まさかにこの百両は、ほりうちのお祖師さまへお賽銭さいせんにあげるっていうんじゃござんすまいね」
突然すぐ前のみぞの中から呼びかけるものがある。見ると川のほうから一そうの荷船がいつのまにかはいって来ている。市中のほりなどでよく見かけるような、船を家として渡って行く家族の一つである。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ほり丹羽守たんばのかみ様ア——」