ぎん)” の例文
と小声にぎんじながら、かさを力に、岨路そばみちを登り詰めると、急に折れた胸突坂むなつきざかが、下から来る人を天にいざな風情ふぜいで帽にせまって立っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かたがた、彼には、この姫路へ移されて来たという姉のおぎんが、どこに幽閉されているか、それを探るのも、目的のひとつであった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おりたつ後姿うしろすがた見送みおくものはお八重やへのみならず優子いうこ部屋へや障子しようじ細目ほそめけてはれぬ心〻こゝろ/\を三らう一人ひとりすゞしげに行々ゆく/\ぎんずるからうたきゝたし
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
高き若葉といふのは若葉の木が高いのか、あるいは土地が高みにあるので若葉まで高く見えるといふ意味か明瞭でない。鳴雪選者ぎんのうちに
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
つまりは百韻三十六ぎんの連続の中に、一句も俳諧の無い句があってはならぬという松永貞徳まつながていとくなどの意見を、認めるか否かがわかであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
山嶺さんれいゆきなほふかけれども、白妙しろたへくれなゐや、うつくしきかなたまはる松籟しようらいときとしてなみぎんずるのみ、いておどろかすかねもなし。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おりおり詩歌しかなどぎんずるを聞くに皆なまれり。おもうにヰルヘルム、ハウフが文に見えたる物学びしさるはかくこそありけめ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
泉鏡花氏の書いたものによると、「正月はどうこまで、からから山のしいたまで……」という童謡を「故郷のらは皆師走しわすに入って、なかば頃からぎんずる」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
短冊をぎんじのみ込めぬ思入あり、入り来る松王を見て刀をふりかぶり、刀投げ出すを見、なほ疑解けぬ様子にて坐り、白刃持つ手を膝の上に置く。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
しかし、法師は、寺男のことばをききいれるどころか、ますます一心いっしんに、ますます高らかな声で、ぎんじつづけています。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
嗚呼彼の楓の下の雪白まっしろの布をおおうた食卓、其処そこに朝々サモヷルが来りむ人を待ってぎんじ、其下の砂は白くて踏むにやわらかなあの食卓! 先生は読み
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ミルトンのたからかにぎんじたところ饑渇きかつなか々にしがたくカントの哲学てつがくおもひひそめたとて厳冬げんとう単衣たんいつひしのぎがたし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
ぎんじたところで誰も迷惑しない。何となれば、『やかましい! 黙れ』の一かつで問題が片付く。しかし相応の地位になると否応なく聴かせる。声の遊芸を
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
などいう一首の意味も、吾人ごじんの立場の高低によってどうとも取れる。なおさら修養が積んだならもう一段のぼりて王陽明おうようめいとともにかくぎんずるの日も来たらん。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
えいじける故流石さすが公家くげ侍士さふらひ感心しこし墨斗やたてを取出し今一度ぎんじ聞せよと云に女は恥らひし體にて口籠くちごもるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
果ては、自分はきように堪へかねて、常々暗誦あんしようして居る長恨歌ちやうごんかを極めて声低くぎんじ始めた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
なぞとぎんじたる風流の故事を思浮おもいうかべたのであった。この事は晋子しんしが俳文集『類柑子るいこうじ』のうち北の窓と題された一章に書かれてある。『類柑子』は私の愛読する書物の中の一冊である。
されば人も三四月にいたらざれば梅花を不見みず、翁が句に 春もやゝ景色けしきとゝのふ月と梅、とぎんぜしは大都会たいとくわいの正月十五日なり。また「山里は万歳おそし梅の花」とは辺鄙へんひの三月なるべし。
雑然たる騒音の中から、獣のような声を出して、詩をぎんじ始めた。誰の声か判らない。文句も節もはっきりしないままに、吉良兵曹長は軍刀を抜き放った。拍手が三つ四つ起って、すぐ止んだ。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
「もっと声を大きくして漢文は朗々ろうろうとしてぎんずべきものだ、語尾をはっきりせんのは心がおくしているからだ、聖賢の書を読むになんのやましいところがある、この家がこわれるような声で読め」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
いま數年すうねんむかしきみ御記臆ごきをくですか、滊船きせん甲板かんぱんで、わたくし奇妙きめうなるぎんじ、また、歐洲をうしう列國れつこく海軍力かいぐんりよく増加ぞうかと、我國わがくに現况げんけうとを比較ひかくして、とみより、機械學きかいがく進歩上しんぽじやうより、我國わがくに今日こんにちごと
発熱の為にしんぎんしていたのだから、是非もない。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
若い女同士の——お通とおぎんとが——お互いの薄命でも語らい合っていたのか、けたあかりの下に涙をぬぐい合っている所へであった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歌は残って、関の址と云う程の址はなく、松風まつかぜばかり颯々さっさつぎんじて居る。人の世の千年は実に造作ぞうさもなく過ぎて了う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
まつた不思議ふしぎことでございました。やまからとらつてかへつてまゐられたのでございます。そしてそのまゝ廊下らうか這入はひつて、とらぎんじてあるかれました。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
むかし、しもに(それにつけてもかねしさよ)とぎんずれば、前句まへくはどんなでもぴつたりつく。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二度ぎんじて見るととんでもない句だから、それを見捨てて、再び前の森ぞい小道に立ち戻った。
句合の月 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
まとまった詩だの歌だのを面白そうにぎんずるような手緩てぬるい事はできないのです。ただ野蛮人のごとくにわめくのです。ある時私は突然彼の襟頸えりくびを後ろからぐいとつかみました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
されば人も三四月にいたらざれば梅花を不見みず、翁が句に 春もやゝ景色けしきとゝのふ月と梅、とぎんぜしは大都会たいとくわいの正月十五日なり。また「山里は万歳おそし梅の花」とは辺鄙へんひの三月なるべし。
違えずまはるが肝要かんえうなり今も云通り爰の處の川柳點にて「日々の時計とけいになるや小商人こあきんど」とぎんじられしと云ば長八は感心して成程よく會得わかりしとて長兵衞のはなしの通り翌日あすの朝も刻限こくげんきめて籠を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
するとこれはまた意外いがいのことに、法師がただひとり、安徳天皇あんとくてんのうのみささぎの前にたんして、われを忘れたように、一心いっしんふらんに、びわをだんじ、だんうら合戦かっせんきょくぎんじているのでありました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
笑い声がする。詩をぎんずる声が二つ重なったと思うと、起承きしょうも怪しいまま、転々と続いて行くらしい。軍刀をかざしたまま、吉良兵曹長の上体はぐらぐらと前後に揺れた。眼をかっと見ひらいた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
もつと自由じゆうに、もつと快活くわいくわつに、ぎんずるもある、けんはすもある。
と長谷川さんがぎんじ出した時、私は涙がこぼれた。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼の声は、鶏のようにシャれてしまった。おぎんは、どこにも見えないのだった。姉をよぶ声が次第に絶望的になってきた。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人は「帰るかい」と云った。武右衛門君は悄然しょうぜんとして薩摩下駄を引きずって門を出た。可愛想かわいそうに。打ちゃって置くと巌頭がんとうぎんでも書いて華厳滝けごんのたきから飛び込むかも知れない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たいぎんずることのすきひとで、うら僧院そうゐんでも、よるになるとぎんぜられました。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかして國沴こくてん一偈いちげつくなんぢ流水りうすゐかへるをおくるべしとて、よつぎんじてふ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と安斉先生がぎんじた。むずかしいじいさんだ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
でも、姉のおぎんのほかに血縁といえば、その叔母ぐらいな者しかないので、きのうこの京都へ足を入れると、ふと思い出して訪ねてみたのである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
趣味の何物たるをも心得ぬ下司下郎げすげろうの、わがいやしき心根に比較していやしむに至っては許しがたい。昔し巌頭がんとうぎんのこして、五十丈の飛瀑ひばくを直下して急湍きゅうたんおもむいた青年がある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とらうそぶくとよりは、りうぎんずるがごとき、凄烈せいれつ悲壯ひそうこゑであります。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
筆をおくと、彼は椅子いすに返って、片手に杯を持ち、片手の指で木琴もっきんを叩くように卓をはじき、小声でそれをぎんじてみた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、茶会を思い立って、利休りきゅうの娘で、鵙屋もずやの妻となっていたおぎんを召しよせて、趣好を相談した。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何かの打合せをすまして、おぎんが西の丸から退がって来ると、淀君付のつぼねが待っていて
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
便りもそこへ来ているとあるから、おぎん様に会えば、恋う人の消息もきっと知れよう。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「父の詩ですか。父の仁斎は、まだかつて、人のために寿詩じゅしを作ったことがないのに、十内どのには、よくよく歓びを共にしたものとみえまする。わたくしが、ぎんじてみましょうか」
光春はそのうなじを抱えながら、あなたの唐崎の松をながめて、ふとこうぎんじた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵の姉のおぎんは、ばばがまだこういう気持にならない前には、彼女を呼び出すために嘘をいって、佐用村の附近にいるようなことをいったが、事実は、武蔵が出奔後、播磨はりまの縁類へ一時身を寄せ
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おぎん様のいらっしゃる、郷士のお宅とかは?」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)