這入はひ)” の例文
大手町で電車を降り、停留場前のバラック仮建築の内務省の門衛に訊き、砂利を踏んで這入はひつて、玄関で竹草履にきかへてゐると
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
そこで本町橋の東詰ひがしづめまで引き上げて、二にんたもとを分ち、堀は石川と米倉とを借りて、西町奉行所へ連れて帰り、跡部は城へ這入はひつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ハヾトフは其間そのあひだ何故なにゆゑもくしたまゝ、さツさと六號室がうしつ這入はひつてつたが、ニキタはれいとほ雜具がらくたつかうへから起上おきあがつて、彼等かれられいをする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
小売店で、高野山一覧を買ひ、直接にさばを焼くにほひをぎながら、裏通にまはつて、山下といふ小料理店にも這入はひつて見た。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
やがて彼等かれらいた藁屑わらくづ土間どまきおろしてそれから交代かうたい風呂ふろ這入はひつた。おしなはそれをながらだまつてつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「この箱には一疋の犬が這入はひつてゐる。これはお前が天の羽衣をわたしに贈つてくれたお礼です。侍女から、よくその養ひ方を教はつて行きなさい。」
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
「人がましくも、殿方がつむりを下げての御依頼おんたのみとあるからは、そりや随分火の中へも這入はひりませう、してお名前は」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
皇太子はお玉母娘おやこを先立てゝやがて此家このうち這入はひりまして眼の前の不思議に感心をしました、左様さうしてこの娘が大きくなつたらば自分のきさきに貰ひたいと望みました。
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
しかしもう少し低い見地に立つて、もつと手近な所を眺めると、この戦争の当然将来にもたらすべき結果は、いくらでも吾々の視線のうち這入はひつて来なければならない。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
中学校に這入はひるために私が、再び東京の家へ戻つて来た頃に、姉は木村の義兄と結婚したのだつた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
覚束おぼつかない、極めて不調法の手附きで、しかも滑稽こつけいほど真面目まじめな顔附をしてカチヤン/\と使ひつけないナイフを動かしてゐると、どうしたはずみにか余計な力がその手に這入はひつて
(新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
重苦しい趣味が幾分支那に似て居ると自分は感じた。大通おほどほりから少し横へ這入はひればの家も四方を庭園でめぐらし、つたなどを窓や壁にはせた家もすくなく無いのは仏蘭西フランスことなつて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
人目にはかなりにやつて行けるらしく見えたが、中へ這入はひつて見ればいろ/\あれがあつて、おかみさんは、月末になると、よく浮かない顔をして、ペンと帳面を手に持つたまゝ
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
全然の責任を負つて呉れて僕とおせいの一族との中に這入はひつてくれてる中村氏を駒込こまごめに夜遅く訪ねたのだが、奥さんだけにお目にかゝり、それとなく事情の切迫してゐることを訴へ
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
思ひ我が亡跡なきあととふらくれよ此外に頼み置事おくことなし汝にひしも因縁いんえんならん疾々とく/\見付られぬうち歸るべし/\我はいま仕殘しのこしたる事ありと云ひつゝまた引窓ひきまどよりずる/\と這入はひ質物しちもつ二十餘品を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
話のかずもガラン訳の四倍あり其の他のものの三倍はあるが、手の届かぬ所が無いでもない。しかしかく好訳であるが、私版を五百部刊行しただけで、遂に稀覯書きこうしようち這入はひつてしまつた。
いつも産をして五日目位から筆を執るのがわたしの習慣になつて居たが、今度は病院へ這入はひらねばならぬ程の容体であつたから後の疲労も甚しい。其れに心臓も悪い。熱も少しは出て居る。
産褥の記 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
これ餘計よけいものへば内地ないちからきんく、外國ぐわいこく餘計よけいものれば外國ぐわいこくからきん這入はひつて日本にほん通貨つうくわえる、さうして景氣けいき恢復くわいふくする、ふことはすなは金本位きんほんゐ當然たうぜん結果けつくわである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
その水松樹いちゐの垣に囲まれた、暗い庭さきにみんな這入はひって行きました。
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
……南無三寶なむさんぼう、ほんにまア眠込ねこんでござることぢゃ! でも是非ぜひおこさにゃならぬ。……ぢゃうさまぢゃうさま/\! そのとこなかへあのわか這入はひらしゃってもよいかや? そしたら飛起とびおきさっしゃらうがな。
まぶしくなつたら、日蔭に這入はひ
あとに残つた人々は土佐堀川とさぼりがはから西横堀川にしよこぼりがは這入はひつて、新築地しんつきぢに上陸した。平八郎、格之助、瀬田、渡辺、庄司、白井、杉山の七人である。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
『八十吉のけつの穴さ煙管が五本も六本もずぼずぼ這入はひつたどつす。ほして、煙草のけむが口からもうもう出るまで吹いたどつす』
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
そつとけて這入はひつてると、自分じぶんうちながらおつぎはひやりとした。とやにはとりくらなか凝然ぢつとしてながらくゝうとほそながめうこゑした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
其処そこの篠田さんナ、彼様あんな不用心な家見たことがいぜ、暗いうちに牛乳ちゝを配るにナ、表の戸を開けてなかへ置くのだ、あれでく泥棒が這入はひらねエものだ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
処が丁度この玉が七つになつた年の春の事で御座いました、何処どこから飛んで来たものか一匹のかひこの蛾が這入はひつて来ましてあばの隅の柱にとまつて卵を沢山に生み付けてきました。
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
おくみはそこへ女中代りに這入はひつて、閑々ひま/\にさういふものを教へて貰ふ女になつた。養母は間もなく、考へどほりに、青山の方の或伯爵家へお針女に這入つて今にそこに勤めてゐる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
午前四時頃シナイざんらしい山を右舷に望んだその日の夕暮に蘇西スエズの運河へ這入はひつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
おれたち二人が中へ這入はひると、帳場の前の獅噛しがみ火鉢へ噛りついてゐた番頭が、まだ「御濯おすすぎを」とも云は無え内に、意地のきたねえやうだけれど、飯の匂と汁の匂とが、湯気や火つ気と一つになつて
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さて千太郎は何所どこを何うか我が家へ歸りくやし涙にかきくれながら二階の小座敷こざしきそつ這入はひり心中に思ふやう如何にしても口惜きは長庵なり眼前がんぜん渡して其金を知らぬといふさへおそろしきにおのれが惡事を覆はんため此我を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私はけおとされて、その家には這入はひり切れずに通り過ぎた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
レストオランに這入はひるのだ——
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
今夜なんか這入はひられては
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
戸があくとすぐに、衣の上に鼠色ねずみいろ木綿合羽もめんかつぱをはおつた僧侶が二人つと這入はひつて、低い声に力を入れて、早くその戸をめろと指図した。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いまやつてゐる僕の脳髄病理の為事しごとも、前途まだまだ遠いやうな気がする。まだ序論にも這入はひらないやうな気がする。
接吻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
おつたはしめつた手拭てぬぐひいくつかにつてつかんだまゝくりそばいた洋傘かうもりつぼめてゆつくりとうち這入はひつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そりヤ課長、無理ですよ、初め僕が同胞社に這入はひり込んだ頃、僕は報告したぢやありませんか、外で考へると、内で見るとは全く事情が違つて、篠田と云ふ男
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
繞石ぜうせき君に逢はうとは思ひけなかつたので、を開けて這入はひつて来たのも、少時しばらく話したあとくねつた梯子段を寒い夜更よふけに降りてつたのも芝居の人物の出入りの様な気がしてならなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
のみこみ私しことは此家このや盜賊たうぞく這入はひらん爲に只今屋根へのぼりしなり見遁みのがしたまへと申ければ彼男は微笑ほゝゑみナニ盜賊に這入らんとする者が其樣にふるへては所詮しよせんぬすむ事出來ずさてひんせまりし出來心のしんまい盜人どろばうかと云ふに喜八仰せのとほり何を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
勇んで茶店に這入はひりはすれど
まつた不思議ふしぎことでございました。やまからとらつてかへつてまゐられたのでございます。そしてそのまゝ廊下らうか這入はひつて、とらぎんじてあるかれました。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
そして独逸語で頭を痛めてゐるときに、是等これらの言葉はすらすらと私の心に這入はひつて来た、のみならず翁の持つ一つの語気が少年以来の私に或る親しみを持たせるのであつた。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
陽は雲の中に這入はひつてゐる
いちじくの葉 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
儒學じゆがくつても、道教だうけうつても、佛法ぶつぱふつても基督教クリストけうつてもおなことである。かうひとふか這入はひむと日々ひゞつとめすなはみちそのものになつてしまふ。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
その仁兵衛が或る夜上等の魚を土産に持つて帰途に著くと、すつかり狐にだまされてしまふところを父はよく話した。どろどろの深田に仁兵衛が這入はひつて酒風呂さかぶろのつもりでゐる。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
壁の中へ這入はひつてしまつた。
川は道をやや東の方に取つて、Deggendorfデツゲンドルフ の近くに来てドナウに這入はひる。Tölzテルツ からもつと水上みなかみLenggriesレンググリース といふ一小邑せういふがあり、ながめのいい城がある。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
こゝは湯気ゆげが一ぱいもつてゐて、にはか這入はひつてると、しかともの見定みさだめることも出來できくらゐである。その灰色はひいろなかおほきいかまどが三つあつて、どれにものこつたまき眞赤まつかえてゐる。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
里親の萬屋和助なんぞも、維新前の金持の番附には幕の内に這入はひつてゐました。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
そこへ御一新ごいつしんが来、開化のこゑがかういふ山の中にも這入はひつて来るやうになつた。三島みしま県令が赴任するとたうとう小山の中腹を鑿開きりひらいて山形から上山を経て米沢よねざはの方へ通ずる大街道が出来た。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)