ゆき)” の例文
自分はゆきがかりじょう一応岡田に当って見る必要があった。うちへ電報を打つという三沢をちょっと待たして、ふらりと病院の門を出た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たつと共に手を携え肩をならべ優々と雲の上にゆきあとには白薔薇ホワイトローズにおいくんじて吉兵衛きちべえを初め一村の老幼芽出度めでたしとさゞめく声は天鼓を撃つごと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
室内は流石さすがに詩人の神経質な用意がゆき渡つて、筆一つでもゆがんで置かれない程整然として居た。小さな卓に菊の花がけてあつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
何の顏さげて人にいはれん然れば其時ぬるより外に方便てだても無き身なればおそかれ早かれ死ぬ此身とても死ぬなら今日只今長庵方へ押掛ゆきいのち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
知らないで、ウツカリ買つちまつたんです。モウ決してこんな事しませんネイ、かあさま、モウおもちや屋なんかゆきませんよ。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
又この間のやうに風引かうぞと呼立てられるに、はい今ゆきますと大きく言ひて、その声信如に聞えしをはづかしく、胸はわくわくと上気して
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「品川ア——……品川ア……山の手線、新宿……方面ゆき乗換えエ……品川ア——……品川ア——……お早く願いまアす……」
それを楽しみにして特に助手を志願して出る学生も出て来て、大抵いつも十勝ゆきに人手が足らなくて困るということはない。
森「そうじゃアねえ、亥太郎あにいと此の旦那と見附前で喧嘩をして、牢ゆきになったから気の毒だって、とっさんお前の所へ此の旦那が見舞みめえに来たのだ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
元日にある人のもとゆきければ、くいつみをいだし、ことぶきをのべてのち、これを題にして、めでたく歌よめとはべりければ
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大音だいおんあげ、追掛おひかけしがたちまちにくもおこり、真闇まつくらになり、大雨たいう降出ふりいだし、稲光いなびかりはげしく、大風おほかぜくがごとくなるおとして座頭ざとうはいづくにゆきしやらむ——とふのである。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「……お前のようなものに、勝手な真似まねをされたんじゃ、商人はとても立ってゆきっこはありゃしないんだからね」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
日本全國にほんぜんこく津々浦々つゝうら/\までもゆきわたつてはず文明ぶんめい恩澤おんたくぼく故郷くにには其微光そのびくわうすらみとなかつたのです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
東京から地方へのがれ出るには、関西方面ゆきの汽車は箱根のトンネルがこわれてつうじないので、東京湾から船で清水港しみずみなとへわたり、そこから汽車に乗るのです。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
街道筋からそれて、森の中、たにの間、くまもなく探し廻ったのです。河野も私も、ゆきがかり上じっとしている訳には行きません。手を分って捜索隊に加わりました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
広子ひろこ京都きょうとの停車場から東京ゆきの急行列車に乗った。それは結婚後二年ぶりに母親の機嫌きげんうかがうためもあれば、母かたの祖父の金婚式へ顔をつらねるためもあった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
誰にも相手にされない男が、たまに他人から真面目に扱われたと考え得た喜びが、彼を駆って、おでんやゆきなどという・彼としては破天荒な挙に出させたのであろう。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この前亜米利加に行く時にはひそか木村摂津守きむらせっつのかみに懇願して、その従僕と云うことにして連れていっもらったが、今度は幕府に雇われて居て欧羅巴ゆきを命ぜられたのであるから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
雲根志うんこんし灵異れいいの部に曰、隣家となり壮勇さうゆうの者あり儀兵衛といふ。或時田上谷たがみだにといふ山中にゆき夜更よふけかへるに、むかうなる山の澗底たにそこより青く光りにじの如くのぼりてすゑはそらまじはる。
相模より見る人はいうかくなりと、駿河の人は甲斐の人にむかって汝の富士は偽りの富士なりというべけんや、もしみずから甲斐にゆきてこれを望めば甲州人の言無理ならざるを知るべし
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
年代の威厳が作り出す色づけと輪廓づけを、神さびた境内の空気にゆきわたらせている。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「おうよ、こゝにたよ、何處どこへもゆきやしねえよ」勘次かんじそのたびみゝくちあてていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
文一郎は七年ぜんの文久元年に二十一歳で、本所二つ目の鉄物問屋かなものどいや平野屋のむすめ柳をめとって、男子なんしを一人もうけていたが、弘前ゆきの事がまると、柳は江戸を離れることを欲せぬので
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのさま/″\の奇觀きくわんをもほどながめたれば、これよりなつかしき日本ふるさとかへらんと、當夜そのよ十一はん拔錨ばつべう弦月丸げんげつまるとて、東洋とうようゆき滊船きせん乘組のりくまんがため、くに名港めいかうネープルスまでたのは
手帳紙入は懐中に入れ又「フ失敬な—フ小癪な—フ生意気な」と続け乍ら長官荻沢警部の控所にゆきたり長官に向い谷間田は(無論愛嬌顔で)先ほど大鞆に語りし如く傷の様々なる所より博奕場の事を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
日本にゆきて政府のために尽力じんりょくしたしと真面目まじめに語りたることあり。
京女のその人はゆき届いた言葉で今度の礼を畑尾に云つて居た。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ここの谷地やちえはなはだしは起きて月夜すがらに雲のゆき見ゆ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
きみこふる夢のたましひゆきかへり、夢路ゆめぢをだにもわれに教へよ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
程すぎて帰らぬ君と夕占ゆうけとひまつらむ妹にとくゆきて逢へ
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
大根を三本食ってしまうと彼はすでに城内ゆきを決行した。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ぎ、もどれば戻過もとりすぎ、ゆきもどりつ、もどりつきつ
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
君を思ふて岡のゆきつ遊ぶ
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
辞して遂に我家へ戻りゆきぬ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あさ陰路かげみちゆきずりに
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
堪忍かんにんして堪忍してと繰返し繰返し、さながら目の前の何やらに向つてわびるやうに言ふかと思へば、今ゆきまする、今行まする
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ですから僕は、あの悪魔をらして貴女を救い出し、同時に僕の外国ゆきの旅費を作ろうと決心してしまったのです。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
在来の如何いかゞはしい日本通とちがつて大分だいぶに精細な所まで研究がゆき届いてるらしく、貞奴さだやつこの語がヱレン氏の口から出ると「彼女あのをんなは俳優でない、芸者である」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
……周囲まわりの人が承知しませず、……この桑名の島屋とは、ゆきかいはせぬ遠い中でも、姉さんの縁続きでござんすから、預けるつもりで寄越よこされましたの。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
持ち長兵衞方へゆき五百兩かりて歸りけるがお常は此金このきんいりしより又々はなすがをしくなりし事まことに白子屋滅亡めつばうもとゐとこそは知られけれさて何をがな又七が落度おちど
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
比較的いたしもせきゆきの急行の窓によりかかって、独り旅の気軽さをたのしみながら、今頃は伯父が手紙を見てどんなに喜んでいるかなどと、ぼんやり考えて見た。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
十四五けんひだりの方へ濠際ほりぎは目標めあてたら、漸く停留所ていりうじよの柱が見付みつかつた。神さんは其所そこで、神田橋の方へいて乗つた。代助はたつた一人ひとり反対の赤坂ゆきへ這入つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
左様さようなら一寸ちょっと革嚢カバンさげてゆきかゝれば亭主ていしゅ案内するを堅く無用と止めながら御免なされと唐襖からかみ開きて初対面の挨拶あいさつおわりお辰素性のあらまし岩沼子爵の昔今を語り
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お救い下さいまして有難う存じます、只今貴所方あなたがたより此の船は新潟ゆきと承わって、びっくりするほど喜びました、此の上の御親切にうか私を新潟までお連れ下さいまし
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
雲根志うんこんし灵異れいいの部に曰、隣家となり壮勇さうゆうの者あり儀兵衛といふ。或時田上谷たがみだにといふ山中にゆき夜更よふけかへるに、むかうなる山の澗底たにそこより青く光りにじの如くのぼりてすゑはそらまじはる。
ゆきもどりつして躊躇ためらっていらっしゃるうちに遂々とうとう奥方にと御所望ごしょもうなさったんだそうです。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
第六、上士族は大抵たいてい婢僕ひぼくを使用す。たといこれなきも、主人は勿論もちろん、子弟たりとも、みずから町にゆきて物を買う者なし。町の銭湯せんとうる者なし。戸外にいずればはかまけて双刀をたいす。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
もとより貧しき身なれども、母の好みにまかせ、朝夕あさゆふの食事をととのへすすむといへ共このたけのこはこまりはてけるが、(中略)蓑笠みのかさひきかづき、二三丁ほどあるところの、藪を心当こころあてゆきける。
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
(豆腐あぢはひ尤よし。他雑肴ざつかう箸をくだすべからず。)樹陰清涼大に佳なり。此日祭神日の前一日なり。しかれども甚雑喧ならず。八坂にゆき塔下を経て三年坂を上る。坂側はんそくみな窯戸えうこなり。烟影紛褭ふんでうせり。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ここの谷地やちえはなはだしは起きて月夜すがらに雲のゆき見ゆ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)