ふえ)” の例文
「このふえは、極楽ごくらくまでこえるだろうか。くまさんは、どうしたろう……。」などといって、子供こどもたちは、ふえいたのでありました。
熊さんの笛 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「その竹童のからだをさがしに、だんだんうすぐらい檜谷ひのきだにりてゆくと、ピューッと、ひよどりでもいたような、ふえがしたんです」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一つの室では五六人寄って、そのうちの一人がふえを吹くのを聞いていた。幕を開けて首を出したら、ぱたりと笛をめてしまった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんと、飴屋あめやさんの上手じやうずふえくこと。飴屋あめやさんはぼうさききつけたあめとうさんにもつてれまして、それからひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ですから、もうふえを吹くのをやめて、灰色ネズミたちがどこへいこうとかってにさせておいても、すこしも危険きけんはないわけです。
ふえいたらをどれ、なんでも舶來はくらいもののなへならべること、尖端モダン新語辭典しんごじてんのやうになつたのは最近さいきんで、いつか雜曲ざつきよくみだれてた。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
次にふえ彦七ひこしちと云ふものと、坂東彦三郎とのコンプリマンを取り次いでゐる。彦七はその何人なるを考へることが出來ない。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
すきとおった硝子ガラスのようなふえが鳴って汽車はしずかに動きだし、カムパネルラもさびしそうに星めぐりの口笛くちぶえきました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おもって、っていました。そのうちふえはだんだんちかくなって、いろしろい、きれいな稚児ちごあるいてました。弁慶べんけい
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
つぎにかえってたのは、少年しょうねん角兵ヱかくべえでありました。角兵ヱかくべえは、ふえきながらたので、まだやぶこうで姿すがたえないうちから、わかりました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
幼年学校生は、それをねだり取って、ウドの太いくきを折ると、それでふえけずりあげ、ぴゅうぴゅうき出した。オセロもやはり、ちょっと吹いてみた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「変なふえの音がしたもんですから、念の為に見廻ったのですが、お嬢さまの部屋が何だか妙でございますよ」
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
髪長彦かみながひこは、大そうふえが上手でしたから、山へ木をりに行く時でも、仕事の合い間合い間には、腰にさしている笛を出して、独りでそのを楽しんでいました。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その他にやや遠くから実験したものにはふえ太鼓たいこはやしの音があり、また喬木きょうぼくこずえの燈の影などもあって、じつはその作者を天狗とする根拠は確実でないのですが
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
諸君しよくんにしてし、月夜げつやふえいて、諸君しよくんこゝろすこしにても『永遠エターニテー』のおもかげうつるならば、こひしんぜよ。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
牧場まきばの中には、美しい調子ちょうしふえのようながまのなく声が聞えていた。蟋蟀こおろぎするどふるえ声は、星のきらめきにこたえてるかのようだった。かぜしずかにはんえだをそよがしていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
大路おほぢゆく辻占つぢうらうりのこゑ、汽車のふえの遠くひゞきたるも、なにとはなしにたましひあくがるゝ心地こゝちす。
月の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「あの時は、まだ誰方どなたもお元気で、ふえ琵琶びわなど持ち出して、興じたものでございました」
太鼓たいこおとまじつて、ひゆう/\とふえらしいものも、だん/\間近まぢかきこえてた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ヒツジ飼いは、橋の下のすなのなかに、雪のように白いほねがひとつあるのを見つけて、これはいいふえの口になるぞ、と思いました。そこで、ヒツジ飼いはおりていって、その骨をひろいました。
その時、向こうの方に、かすかに按摩あんまふえが聞こえました。
現場の写真 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
心しづめて部屋にし居ればちまたより神の祭りのふえきこゆ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ふえふかず太鼓たいこたゝかずしゝまひの後足あとあしとなるむねのやすさよ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
伽羅きやらまじり消えする黒蒸汽くろじようきふえうめける。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かすかなるふえありて
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
「おふえどの、こちらへ」
嫁取り二代記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ふえなげきのをいたみ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
ふえながながとひびかせて
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ふえはたんぼの
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
くらばんに、ゆきこおった、細道ほそみちあるいてゆくと、あちらからふえいて、とぼとぼとあるいてくるとしとった盲目めくら女按摩おんなあんまあいました。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
港屋の二階に灯が一つついて、汽車のふえがヒューと鳴るとき、おれの乗っていた舟はいその砂へざぐりと、へさきをつき込んで動かなくなった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けてたびをしてある飴屋あめやさんは、何處どことほいところからかついでかたけて、ふえき/\出掛でかけました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ところが、灰色ネズミたちが小麦こむぎを一つぶのみこんだかのみこまないうちに、中庭なかにわのほうから、するどふえが、かすかにひびいてきました。
いまや、その裾野すそのの一角にあって、咲耶子さくやこがふったただ一本のふえの先から、震天動地しんてんどうちの雲はゆるぎだした。閃々せんせんたる稲妻いなずまはきらめきだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しとみげると、格子戸かうしどうへつた……それるか、せうふえごとかたちしたまどのやうな隙間すきまがあつて、電光いなびかりてらされる。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ああ。さわがしいやつらであったぞ。月のおもしろさはこれからじゃ。またふえでもいて聞かせい」こう言って、甘利は若衆のひざまくらにして横になった。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ひょろひょろしたふえの音も入っていたし、大喇叭おおらっぱのどなり声もきこえた。ぼくにはみんなわかって来たのだよ。
黄いろのトマト (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
月のいいなつばんでした。牛若うしわか腹巻はらまきをして、その上にしろ直垂ひたたれました。そして黄金こがねづくりのかたなをはいて、ふえきながら、五条ごじょうはしほうあるいて行きました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
いつもは森の中で、歌をうたったりふえをふいたりして、小鳥やけものと遊んでいましたが、ときどき人のすんでいる村へ出てきて、すきな子どもたちと遊ぶのでした。
子どものすきな神さま (新字新仮名) / 新美南吉(著)
あたりは庭木のそよぎの中に、かすかな草のらせている。一度ずっと遠い空に汽船のふえの響いたぎり、今はもう人音ひとおとも何もしない。あの汽船はとうに去ったであろう。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
アア、あのふえの音色! 曲の調子! どうして忘れることが出来よう。得二郎氏の殺された時にも、妙子や一郎が傷けられた時にも、これと全く同じ、物悲しげな笛の音が聞えたではないか。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ひとりでに歌をうたうなんて、まったくもって、ふしぎなふえだなあ。」
さては按摩あんまふえいぬこゑ小路こうぢひとへだてゝとほきこゆるが猶更なほさらさび
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ふえのねとりもすずろかに、ひろ家内やぬち
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ふるあをきふえいて
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
ふえおとして
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
白鳥はくちょうは、注意深ちゅういぶかくその広場ひろばりたのであります。そして、そこに、一人ひとり少年しょうねんくさうえにすわって、ふえいているのをました。
港に着いた黒んぼ (新字新仮名) / 小川未明(著)
フランメアとバタキーの想像そうぞうしていたことは、ほんとうでした。たしかに、ネズミたちは、ふえにすっかり心をうばわれてしまいました。
すると、どこでするのか、だれのすさびか、秋にふさわしいふえがする。そのたえ音色ねいろは、ふと伊那丸の心のそこへまでみとおってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほそふえで、やがて木賃宿きちんやど行燈あんどうなかえるのであらうと、合點がつてんして、坂上さかがみやゝものひがおだやかにつたのである。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)