あい)” の例文
中央には富嶽のうるわしい姿を中心に山脈があい連り、幾多の河川や湖沼がその間を縫い、下には模様のように平野の裳裾もすそが広がります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
○物理の要するところ、人と教とは人間の幸福において互にあい連結するをもって、これを担当すべき人の督理とくりに多少相従わざるを得ず。
日本における教育を昔と今とに区別してあい比較するに、昔の教育は、一種の理想を立て、その理想を是非実現しようとする教育である。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
互いにへだてられたるふたりの恋人は、そのあいまみえない間を多くの空想によって紛らす。しかもその空想は彼らにとっては現実である。
徳もなく不徳もなき有様なれども、のちにここに配偶を生じ、男女二人ににんあいとものうて同居するに至り、始めて道徳の要用を見出したり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ただ一つ、気になるといえば気になるのは、前からあいも変らず、同じ場所にポツンと止まっている黒い大きい蠅が一匹であった。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
すなわち剣をひっさげて、衆に先だちて敵に入り、左右奮撃す。剣鋒けんぽう折れ欠けて、つにえざるに至る。瞿能くのうあいう。ほとんど能の為に及ばる。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
つくづく見ていると、この紙片に魂がはいって、ほんとうに二匹の獅子が遊び戯れあい角逐かくちくしまた跳躍しているような幻覚をひき起こさせた。
錯覚数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
毎夜頬冠ほおかむりして吉原よしわら河岸通かしどおりをぞめいて歩くその連中と同じような身なりの男があいも変らずその辺をぶらりぶらり歩いていたが
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
長男義一ぎいちは十六才になって、いよいよ学問はだめだときまりがついた。北海道に走って牧夫ぼくふをしている。三里塚りづかの両親もあいついで世をった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
たずさえて、急使の役、仰せつけられる。御用済みの上もお沙汰あるまで、出先大石殿の手にいて在役の事。よろしいか、数右衛門、あい分ったか
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっともよき敵はもっともよき友である、他山の石はあい砥礪しれいして珠になるのだ。千三があるために光一が進み、光一があるために千三が進む。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
……この絵巻物の一巻は、今までの間に多くの人々を狂乱させ、迷動させ、互いにあい殺傷させ合いつつ知らん顔をして来た。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
先生の親友しんゆう高橋順益たかはしじゅんえきという医師いしあり。いたっ莫逆ばくげきにして管鮑かんぽうただならず。いつも二人あいともないて予が家に来り、たがいあい調謔ちょうぎゃくして旁人ぼうじんを笑わしめたり。
シリア人は、ラファン体に歩く馬を賞美し、右の前足と右の後足と、しかして左の前足と左の後足をあいつないで、稽古せしむ。
含水炭素と脂肪とはたがいあい融通するものにて含水炭素体中に不足すれば脂肪来りてその役目を助け、脂肪不足すれば含水炭素きて脂肪に化す。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
また「孔子世家」によれば、有若の状孔子に似たるをもって、弟子あいともに立てて師となし、孔子に仕えたように仕えた。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
あい後見の田村右京は温厚だけの人だし、周防にしても、主膳にしても、大条はむろんのこと、一ノ関を抑えることはできまい、大学はこう思った。
で、あい共に死のうとした二人の人物のうちで、どちらが他人の同情をひいたかといえば、それは自動車の運転手であった倉持陸助くらもちりくすけという青年であった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かくのごとくいきおい強き恐ろしき歌はまたと有之間敷これあるまじく、八大竜王を叱咤しったするところ竜王も懾伏しょうふく致すべき勢あい現れもうし候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
司令部の門を出ると、佐山君とあい前後して戸塚特務曹長とくむそうちょうが出て行った。特務曹長とも平素から懇意にしているので、佐山君は一緒にあるきながら又訊いた。
火薬庫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小使こづかいのニキタはあいかわらず、雑具がらくたつかうえころがっていたのであるが、院長いんちょうはいってたのに吃驚びっくりして跳起はねおきた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
君の実父の奥村源造は外から、君は邸内にって、あい呼応し、着々として復讐事業を進めて行ったのです。……
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
れが實際問題じつさいもんだいになると、土地とち状態じやうたい風土ふうど關係くわんけい住者ぢうしや身分みぶん境遇きやうぐう趣味しゆみ性癖せいへき資産しさん家族かぞく職業しよくげふその種々雜多しゆ/″\ざつた素因そいん混亂こんらんしてたがひあい交渉かうせうするので
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
是等諸種の摸樣は通例つうれい彼此ひがあいこんじて施され居るなり。彩色には總塗そうぬり、畫紋有り、兩種を合算するも其數甚少し。色は何れも赤なれど其内に四五種の別有り。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
これをかの活動写真が、実に涙の流れている実況までも、大映しにして見せる丁寧な写実主義と比較すれば、東西地球のあいへだたること、正に煙外三万里の感がある。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
我らにとって熊や猪は、仲のよい友達でございます。その仲のよい友達同士が、あいあいたわむれる光景は必ず馬鹿者の下界人にも、興味あることでございましょう。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
誰も知った通り、この三丁目、中橋なかばしなどは、とおりの中でもあい宿しゅくで、電車の出入ではいりが余り混雑せぬ。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうもまことにあいすみません。実はこの旦那だんなの気味悪がるのがおもしろかったものですから、つい調子に乗って悪戯いたずらをしたのです。どうか旦那も堪忍かんにんしてください。」
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あいかはらず父樣とゝさま御機嫌ごきげんはゝをはかりて、我身わがみをないものにして上杉家うへすぎけ安隱あんおんをはかりぬれど。
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
元日が最もはげしく、暮れたばかりの夜空に、さながら幾千百の銀蛇ぎんだが尾をひくように絢爛と流星りゅうせいが乱れ散り、約四半時はんどきの間、光芒こうぼうあいえいじてすさまじいほどの光景だった。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この開展かいてんせる瑩白色花蓋えいはくしょくかがいへんの中央に、鮮黄色せんおうしょくを呈せる皿状花冕さらじょうかべんえ、花より放つ佳香かこうあいまって、その花の品位ひんいきわめて高尚こうしょうであることに、われらは讃辞さんじしまない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
船と船とが、すれ違いになったとき、方船は黒船の舷側げんそくにぴったりと吸付いてしまった。いや、吸付いたとみたのは、しおのために、舷々げんげんあいしたのだ。方船の生残者たちは
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
節供は本来はこの食事を意味する語であった。供とは共同食事、神や祖霊とともにすべての家族があい饗することであり、節はすなわち折目、改まった日ということであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
他人と共ならでは立ち得ざる人は独立には非らざるなり、独立どくりつのぞむものはひとりで立つべきなり、而して独立どくりつひとあいあつまりて始めて独立どくりつ教会けふくわいもあり、独立どくりつ国家こくかもあるなり
時事雑評二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
上面および底面上にて対角線によって結び付けられた頂点に位置を占むる趣味はあい対立する一対を示す。もとより何と何とを一対として考えるかは絶対的には決定されていない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
酔払った連中は、二つ返事で銘々めいめい美女をあいようし、威勢いせいよくシャムパングラスを左手にささげ立ったところを、ポッカアンとマグネシュウムがはじけて一同、写真に撮られてしまいました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
山々のふもとには村あり、村々の奥には墓あり、墓はこの時め、人はこの時眠り、夢の世界にて故人あいまみえ泣きつ笑いつす。影のごとき人今しも広辻を横ぎりて小橋の上をゆけり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
右のごとく長州の騒動そうどうに対して痛痒つうようあいかんせざりしに反し、官軍の東下に引続ひきつづき奥羽の戦争せんそうに付き横浜外人中に一方ならぬ恐惶きょうこうを起したるその次第しだいは、中国辺にいかなる騒乱そうらんあるも
がこの点についても今後両性があい類似するときは同等となり、一方が一方を保護する必要がなくなりそうであるが、おそらくはそれは空想にとどまり、動物の例により推測すいそくするに
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
大空より天降アモる神が、目的メドと定めた木に憑りゐるのが、たゝるである。即、示現して居られるのである。神のタヽり木・タヽりのニハは、人あい戒めて、近づいて神の咎めを蒙るのを避けた。
幣束から旗さし物へ (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
と、見ているうちに、二つの影はあいようして、その蘆荻の中へ没入してしまいました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
食国をすくにとほ御朝廷みかどに、汝等いましらまかりなば、平らけく吾は遊ばむ、手抱たうだきて我は御在いまさむ、天皇すめらがうづの御手みてもち、掻撫かきなでぞぎたまふ、うち撫でぞぎたまふ、かへり来む日あいまむ
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
こうして魯侯の心をとろかし定公と孔子との間を離間りかんしようとしたのだ。ところで、更に古代支那式なのは、この幼稚な策が、魯国内反孔子派の策動とあいって、余りにも速く効を奏したことである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「一円ばかしでは——、この暑いに——」と仲間あい顧みて
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
未だ知らずいずれの日にか更にあいあつまらん
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「まことにあいすみません。」
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
虹の橋渡りかわしてあい見舞ひ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
それともあいか。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
帝室ていしつをば政治社外の高処こうしょあおたてまつりて一様いちようにその恩徳おんとくよくしながら、下界げかいおっあいあらそう者あるときは敵味方の区別なきを得ず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)