時候じこう)” の例文
時候じこうかはといふものは、めう心細こゝろぼそいやうな氣のするものですね、これはあながち不自由ふじいうくらしてゐるばかりではないでせうよ。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
時候じこうと、ときと、光線くわうせんの、微妙びめう配合はいがふによつて、しかも、品行ひんかう方正はうせいなるものにのみあらはるゝ幻影まぼろしだと、宿やど風呂番ふろばんの(しんさん)がつた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
蘿月らげつは若い時分じぶんしたい放題はうだい身を持崩もちくづした道楽だうらく名残なごりとて時候じこう変目かはりめといへば今だに骨の節々ふし/″\が痛むので、いつも人よりさきに秋の立つのを知るのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
おくの一間へ呼入れ時候じこう挨拶あいさつをはり扨云やう今日其方をまねきしは別儀にも非ず此兩三年はお屋敷やしきの御用も殊の外鬧敷いそがしく相成ど店の者無人むにんにて何時も御用の間を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
くらゐだからへんあかかほもして餘計よけい不愛想ぶあいさうにもえるのであつたが、のちには相應さうおう時候じこう挨拶あいさつもいへるやうにつたとおしな勘次かんじかたつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
獨樂こまひながら行燈あんどう周圍まはりまはるはすなは地球ちきう公轉こうてんふものにて、行燈あんどう一廻ひとまはりまはりてもと塲所ばしよかへあひだに、春夏秋冬しゆんかしうとう時候じこうへんじ、一年をすなり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
気色きしょくのはりもゆるみ、こしのはりもゆるんで、たばこ入れに手がでる。ようやく腰をかけて時候じこうの話もでる。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
〔譯〕自らつとめてまざる時候じこうは、心地しんち光光明明くわう/\めい/\にして、何の妄念ばうねん游思ゆうし有らん、何の嬰累えいるゐ罣想けさう有らん。
いまは、ふゆはるこゝろうへまよはずにゐられない時分じぶんである。こゝろではいつとも時候じこう區別くべつがつかないのに、るものは、すでにすくなくとも、ひとつだけははるらしいしるしをしめしてゐる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
わたし此春先このはるさき——こと花見頃はなみごろ時候じこうになると、左右とかくのうわるくするのが毎年まいねんのお定例きまりだ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
學士がくしまゆしはめてれはこまつたもの、全体ぜんたい健康じようぶといふたちでなければ時候じこうかはなどはことさら注意ちういせねばるし、おたみどの不養生ふやうじようをさせ給ふな、さてとれもきう白羽しらはちて
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
新聞の記事が、心にかゝりながら、時候じこうの力が、自分を勇気付けて呉れて居た。
マスク (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それはこの本多ほんだ御婆おばあさんがをつとこゑであつた。門口かどぐちなどふと、丁寧ていねい時候じこう挨拶あいさつをして、ちと御話おはなしらつしやいとふが、つひつたこともなければ、むかふからもためしがない。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それもほんのしばらくのあいだだ。わたしたちはこの時候じこうの悪い二、三か月だけもわかれているほうがいいのだ。カピのほかみんないなくなってしまった一座いちざでは、パリにいてもなにができよう
菖蒲しょうぶで名高い堀切ほりきりも、今は時候じこうはずれ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
宗匠そうしやう景色けしきを見ると時候じこうはちがふけれど酒なくてなんおのれがさくらかなと急に一杯かたむけたくなつたのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
卯平うへい段々だん/\時候じこうあたゝかくるにれて身體からだものんびりとしてあんじて病氣びやうきなやみもすこしづつうすらいだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
罷違まかりちがふて旧道きうだうみな歩行あるいてもしうはあるまい、ういふ時候じこうぢや、おほかみしゆんでもなく、魑魅魍魎ちみまうりやうしほさきでもない、まゝよ、とおもふて、見送みおくると親切しんせつ百姓ひやくしやう姿すがたえぬ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二日ばかり休んで歌など作ってるうちに、よくなったからこの日さっそく大木を訪問したのである。大木は時候じこうの変化する際であるから、じゅうぶんに気をつけないといけないと注意した。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
案内せられ老母らうぼの居間へ來らる越前守殿正榮尼に初ての對面より時候じこう挨拶あいさつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
みぎごと大陽暦たいやうれき日輪にちりん地球ちきうとをてらあはせて其互そのたがひ釣合つりあところもつて一年の日數ひかずさだめたるものゆへ、春夏秋冬しゆんかしうとう寒暖かんだん毎年まいとしことなることなく何月何日なんぐわつなんにちといへば丁度ちやうど去年きよねん其日そのひおな時候じこうにて
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
仕舞しまひには時候じこう挨拶あいさつますと、すぐかへりたくなることもあつた。かうときには三十ぷんすわつて世間話せけんばなし時間じかんつなぐのにさへほねれた。むかふでもなんだかけて窮屈きゆうくつだとふうえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
時候じこうはよし、あたたかい、いい天気であった。だから青天井あおてんじょうの下にねむることはさしてむずかしいことではなかった。ただこのへんに悪いおおかみでもいるようなら、それをさけるようにすればよかった。
手一てひとツの女世帯をんなじよたいに追はれてゐる身は空が青く晴れて日が窓に射込さしこみ、斜向すぢむかうの「宮戸川みやとがは」と鰻屋うなぎや門口かどぐちやなぎが緑色の芽をふくのにやつと時候じこう変遷へんせんを知るばかり。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しほ時々とき/″\かはるのであらうが、まつりは、思出おもひだしても、何年なんねんにも、いつもくらいやうにおもはれる。時候じこうちやう梅雨つゆにかゝるから、あめらないとしの、つきあるころでも、くもるのであらう。
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ある日曜にちえうひる宗助そうすけひさりに、四日目よつかめあかながすため横町よこちやう洗湯せんたうつたら、五十ばかりあたまつたをとこと、三十だい商人あきんどらしいをとこが、やうやはるらしくなつたとつて、時候じこう挨拶あいさつはしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なし實は九郎兵衞より時候じこう見舞としていさゝ到來たうらいせしと申ければ大岡殿其は何程もらひしと云に理左衞門金十五兩貰ひたりと申せば大岡殿ナニ金十五兩とやコレ理左衞門時候見舞とあらば魚鳥ぎよてうの類か他國の産物さんぶつならば格別かくべつ役柄やくがら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大分だいぶ以前いぜんには以前いぜんだが……やつぱり今頃いまごろ時候じこう川筋かはすぢをぶらついたことがある。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)