彼是かれこれ)” の例文
私の乗つてゐたAが、横須賀へ入港してから、三日目の午後、彼是かれこれ三時頃でしたらう。勢よく例の上陸員整列の喇叭らつぱが鳴つたのです。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そこへ持って来て匡衡は、定基が妻を迎えたと彼是かれこれ同じ頃に矢張り妻を迎えたのである。いずれもまだ何年もたたぬ前のことである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ことに自分をよく知らぬものが、彼是かれこれ批評することは、当を得ないことが多いから、自分を知れる人にその判断を任すれば事は足る。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「上田君一度君に御馳走をしたいと思つてるんだが、君は文壇の名士だから、名妓を引合はしたいと思つて、彼是かれこれ銓衡中せんかうちゆうなんだ。」
待設まちまうけたりと云ひつゝ兩人ずつと立上り左仲を中に取圍とりかこみサア懷中の金を置てゆけもし彼是かれこれいふ時は是非に及ばず荒療治あられうぢだぞと兩人左仲が手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
S、Hだけは「彼是かれこれふべきものぢやない。羨望せんぼうすべきものぢやないか」とつたといふことを、二三或青年あるせいねんから、わたしかされてゐた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
おくみはお邸を下つた当座一度会ひに行つたのを、たつたこなひだのやうに思つてゐたけれど、もう彼是かれこれ四月から上になる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
いうかとおもうと、早くも上がってきた頬に刀傷のある目の険しい五十彼是かれこれの渡世人上がりの四谷杉大門の寄席の主へ
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
彼是かれこれ百人近くはあつたらう、尤も野次馬の一群も立交つて居たが、口々に歌つて居るのが乃ち斯く申す新田耕助先生新作の校友歌であつたのである。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
どういうものかその後誰も来てこの家の始末を付けるものがなかった。雨が漏ったり、風が壁板したみを破ったりして、彼是かれこれ一年余りもそのままになっていた。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうさん、あれこそ本當ほんたう小六ころく使つかつちまつたんですよ。小六ころく高等學校かうとうがくかう這入はいつてからでも、もう彼是かれこれ七百ゑんかつてゐるんですもの」とこたへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しみ/″\ぞんじてりますのは、まだ七歳なゝつ八歳やつ御親父樣ごしんぷさまも、御存命ごぞんめい時分じぶんでござりますから、彼是かれこれざつと二十ねん
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
權藏ごんざう最早もう彼是かれこれ六十です。けれどもづるまへきてぼつするまではたらくことはいまむかしかはりません。そして大島老人おほしまらうじんかれすくふたときいはうえつて
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
小刀ないふわれおとらじと働かせながらも様々の意見を持出し彼是かれこれと闘わすに、余も目科も藻西太郎を真実の罪人に非ずと云うだけ初より一致して今も猶お同じ事なり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
やがて、彼是かれこれ十人ばかりの一行は主任の先導で、休憩室に宛てられた事務所の二階へ歩を移した、其時に順になったので、役人の親玉と次席と其次位は判別できた。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
彼是かれこれを考うれば、生が苦心は水のあわにして、かえって君の名をはずかしむる不幸の決果を来さんかとも危まれ候……
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
其時そのとき俄盲目にはかめくら乞食こじきと見えまして、細竹ほそたけつゑいて年齢としころ彼是かれこれ五十四五でもあらうかといふ男、見る影もない襤褸すぼろ扮装なりで、うして負傷けがいたしましたか
如何に取扱が不平なりとてまさかに飯の事を彼是かれこれと口ぎたなく言ひ得べきにもあらねばそれももっともなり。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その敵も口で彼是かれこれやかましくうて罵詈ばりする位は何でもないが、ただ怖くてたまらぬのは襲撃暗殺の一事です。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
僕は、河野が放蕩を始めたからと云って、それを彼是かれこれ云おうとは思わない。いくら、遊蕩をしてもいゝが、創作の方面でもっと真剣であって呉れれば文句はないのだ。
神の如く弱し (新字新仮名) / 菊池寛(著)
苟しくも相撲を彼是かれこれと論ずる手合は、昂奮の青筋を額へ立てゝ論争したのも尤も千万であらう。
八百長くづれ (新字旧仮名) / 栗島山之助(著)
彼是かれこれするうちに、ちらちら白いものが落ちて来たので、さすがの私も、いささか閉口して、せめて小さな水車小屋でもよいから見つけたいものだと、空腹と疲労を物ともせず
狂女と犬 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
付けねばならず彼是かれこれの取まぎれに何處どこへも暇乞いとまごひには出ず廿五日出社の戻りに須藤南翠すどうなんすゐ氏に出會ぬさて羨やましき事よ我も來年は京阪漫遊と思ひ立ぬせめても心床こゝろゆかしにおんみの行を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
「差支ないんですって。兄さんは悉皆すっかり気に入っているものですから、『見ろ。黒子なんか彼是かれこれ言うのは迷信だ。何うもお前はお饒舌しゃべりでいけない』って、お小言を仰有おっしゃいました」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
鳶の者は受合旁故かた/″\ゆえ彼是かれこれ仕候内に、火勢強く左右より燃かかり候故、そりや釜のうちよといふやうな事にて釜へ入候處、釜は沸上わきあがり、けぶりは吹かけ、大釜故入るにはつばを足懸りに入候へ共
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
一人前の薬を三十分もかかって彼是かれこれと調合するのだね。僕らが詩や歌を作る時のように、コツコツとやっている。その事に遊びほれるのだ。色々の草や木の香いを嗅ぎ分けながらだよ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
彼是かれこれと目先の利に熱中し、山人に妨碍ぼうがいを与え、脅迫がましき言をろうする人もあれど、また大に厚意を寄せて援助せらる愛山者もあるに依り、心強く感じて赤裸にて微力を傾注するのである。
尾瀬沼の四季 (新字新仮名) / 平野長蔵(著)
彼是かれこれする間に、水光天色次第に金色に変じ、美しさ言うばかり無し。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
物故ぶつこしてから、もう彼是かれこれ五十年になるが、生前一時は今紀文いまきぶん綽号あだなされた事があるから、今でも名だけは聞いてゐる人があるかも知れない。
孤独地獄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
扨も越前守殿には暫時しばらくもくして居られしがやがて一同控へ居よといはれコリヤ彦三郎其方共に彼是かれこれ云込いひこめられ此越前一言もなし之に因て彦三郎へ褒美はうび
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それに売物の事だから彼是かれこれ言はうとも思はないが、一体何を標準めやすに一万円といふ売値をつけたのだと訊いてみると、亡くなつた岡倉覚三氏がその画を見て
それに私にしたところで、教育界に身を置いて彼是かれこれ三十年の間、自分の耳の聾だつたのかも知れないが、今迄つひぞ悪い噂一つ立てられた事がない積りです。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼是かれこれを思合せて考へると——確かに先輩は人の知らない覚期かくごを懐にして、の飯山へ来たらしいのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
うちつて彼是かれこれまぎれてゐるうちに、はや半月はんつきつたが、地方ちはうにゐる時分じぶんあんなににしてゐた家邸いへやしきことは、ついまだ叔父をぢさずにゐた。あるとき御米およね
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
草場くさつぱ夜露よつゆひどうございますで、旦那だんな、おはかますそれませう。つていらつしやいまし。ええ、んでござります、彼是かれこれうしてちますほどのこともござりますまい。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかるにお嬢様は此のお國を憎く思い、たがいにすれ/\になり、國々と呼び附けますると、お國は又お嬢様に呼捨よびすてにされるをいやに思い、お嬢様の事をあしざまに殿様に彼是かれこれ告口つげくちをするので
此二このふたつ悲劇ひげきをわつて彼是かれこれするうち大磯おほいそくと女中ぢよちゆうが三にんばかり老人夫婦としよりふうふ出迎でむかへて、その一人ひとりまどからわたしたつゝみ大事だいじさうに受取うけとつた。其中そのなかには空虚からつぽ折箱をりも三ツはひつてるのである。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
僕の銀座通りへ出た時には彼是かれこれ日の暮も近づいてゐた。僕は両側に並んだ店や目まぐるしい人通りに一層憂欝にならずにはゐられなかつた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ぬすみ出したる五十兩たくへ行れて彼是かれこれと其の事露顯ろけんに及びなば第一養父はかねての氣性きしやう如何成さわぎに成やら知れずと思へば是も我が身の難儀なんぎ屹度きつと思案を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
小六ころく藥取くすりとりからかへつてて、醫者いしやどほ服藥ふくやくましたのは、もう彼是かれこれ十二ちかくであつた。それから二十ぷんたないうちに、病人びやうにんはすや/\寐入ねいつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
父の存命中は毎月為替かはせで送つて居たが、今は其をる必要も無いかはり、帰省の当時大分つかつた為に斯金このかねが大切のものに成つて居る、彼是かれこれを考へると左様無暗には費はれない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
かうして一億弗をみ尽さうとするには先づ十年近くかゝり、も一つ進んで十億弗の銀貨になると、それを勘定するには毎日八時間働き通して、彼是かれこれ百年近くかゝる事になる。
それを彼是かれこれ荒立って見ると事柄が面倒になるから、わたしも許すから、しかしお前も預り物を紛失ふんじつしてさぞ心配であろうが、幸い此の紙入に二十両のこって有るから、お前にこれを進上するから
うへ好奇心かうきしんにもられたでせう。ぐにも草鞋わらぢはして、とおもつたけれども、彼是かれこれ晩方ばんがたつたから、宿やど主人あるじゐて、途中とちゆうまで案内者あんないしやけさせることにして、晩飯ばんめしすませました。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかも彼是かれこれ真夜中まよなかになると、その早桶のおのづからごろりと転げるといふに至つては、——明治時代の本所はたとひ草原には乏しかつたにもせよ
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
で、機械や小舎こや修繕ていれなどを見込むと、鼠一頭の純益が一年に彼是かれこれ三円はあるさうだ。
彼是かれこれ九つと思う時刻になると、読みかけた本を投げ棄て、風呂敷包みを持出しましたから、お町はあゝ又風呂敷包みが出たかと思うと、包をほどいてぜん申し上げた通り南蛮鍛えの鎖帷子
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
思ひ立つたのはあさであつたが、新聞を読んで愚図々々してゐるうちにひるになる。午飯ひるべたから、出掛様とすると、久し振に熊本の友人がる。漸くそれを帰したのは彼是かれこれ四時過ぎである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
斯う決心して、生徒に言つて聞かせる言葉、進退伺に書いて出す文句、其他種々いろ/\なことまでも想像して、一夜を人々と一緒に蓮太郎の遺骸なきがらの前で過したのであつた。彼是かれこれするうちに、鶏が鳴いた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
山路やまみち……彼是かれこれでございます。」
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)