差向さしむか)” の例文
婦人ふじん驚駭きやうがいけださつするにあまりある。たくへだてて差向さしむかひにでもことか、椅子いすならべて、かたはせてるのであるから、股栗不能聲こりつしてこゑするあたはず
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
風雨の容易に止みそうもないのをもどかしがっている兵馬には、この女と差向さしむかいのように坐っていることが気がとがめるようでなりません。
みなことわり其宵ば部屋に差向さしむかひ伯父長庵が惡巧わるだくみ何と御わびの仕樣もなく私しまでさぞにくしと思すらん然はさりながらゆめにだも知らぬ此身の事なればたゞ堪忍かんにん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
臺所だいどころからきよて、らした皿小鉢さらこばち食卓しよくたくごといてつたあとで、御米およねちやへるために、つぎつたから、兄弟きやうだい差向さしむかひになつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私は舅姑しゅうと郷里きょうりにおりましたから此方こちらでは夫婦差向さしむかいでございましたが二十日ばかり過ぎるとある時良人やどが家の近所で車から落ちて右の腕を怪我けがしました。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
邪魔なおじさん達を先へ寝かして仕舞しまって、あんたとあたしと差向さしむかいで、ゆっくり夜明しをしましょうよ。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
衣食住の安心は勿論もちろん、随分金持かねもちになる事も出来るから止まれとねんごろに説いたのは、決して尋常の戯れでない。チャント一間ひとまの中に差向さしむかいで真面目まじめになって話したのである。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と国貞は鶴屋の主人あるじ差向さしむかってしきりに杯を取交とりかわしていた時、行きちが一艘いっそうの屋根船の中から
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし兄は、長い間のはげしい恋をしてやっと獲ることの出来たいわば恋女房と、これからは差向さしむかいで暮すわけなのですから私は唯もう兄の弱気をわらって独逸へ出発いたしました。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
十六にちあさぼらけ昨日きのふ掃除そうぢのあときよき、納戸なんどめきたる六でうに、置炬燵おきごたつして旦那だんなさまおくさま差向さしむかひ、今朝けさ新聞しんぶんおしひらきつゝ、政界せいくわいこと文界ぶんくわいことかたるにこたへもつきなからず
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お嬢様は御大家ごたいけ婿取むことり前のひとり娘、わしゃいやしい身の上、たとえいやらしい事はないといっても、男女なんにょ七歳にして席を同じゅうせず、今差向さしむかいで話をしてれば、世間で可笑おかしく思います
「え、どうぞ、親分と差向さしむかひなら」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
後の烏、此の時、三羽みっつとも無言にて近づき、手伝ふさまにて、二脚のズツク製、おなじ組立ての床几しょうぎ卓子テエブル差向さしむかひに置く。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
差向さしむかいで色々の話をした。しかしそれは特色のないただの談話だから、今ではまるで忘れてしまった。そのうちでたった一つ私の耳に留まったものがある。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
竜之助は横になったまま、郁太郎いくたろうに乳をのませている差向さしむかいの炬燵越しにお浜を見て
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かけながら入來りしに長八夫婦が巨燵こたつの中に差向さしむかひ何かむつまじき咄しの樣子ゆゑ長兵衞は見て是はしたり相惚あひぼれの夫婦はまた格別かくべつたのしみな物私は此年になつても隨分ずゐぶん浦山うらやましいと放氣おどけまじりに贅口むだぐち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私も怪談を探り出す端緒いちぐちに困ったが、更にあらぬていで、「しかしお前さん達は夫婦差向さしむかいで、こんな広い別荘に十何年も住んでいて、寂しいとか怖いとか思うような事はありませんかね」
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
仲働なかばたらきのお兼が気をきかし、其の場をはずして梯子はしごを降りる、跡には若い同士の差向さしむかい、心には一杯云いたい事はあるが、おぼこの口に出し兼ね、もじ/\して居ましたがなに思いましたか
引き移った当日、階下したから茶の案内があったので、降りて行って見ると、家族は誰もいない。北向の小さい食堂に、自分は主婦とたった二人差向さしむかいに坐った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夫人ふじんは、さてたゞ一人ひとりかべせた塗棚ぬりだな据置すゑおいた、かごなかなる、雪衣せつい鸚鵡あうむと、差向さしむかひにるのである。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やはらげられ越前天一坊儀とあれば伊豆守もうけたまはらねばならぬ事なりとてやがて公用人をも退しりぞけられ今はまつたく二人差向さしむかひに成れける此時このとき越前守申さるゝ樣はわたくし先達てより天一坊の身分再吟味さいぎんみの役を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
前祝いに一杯やろうと夫婦差向さしむかいでたがい打解うちと酌交くみかわし、う今に八ツになる頃だからというので、女房は戸棚へ這入はいり、伴藏一人酒を飲んで待っているうちに、八ツの鐘が忍ヶ岡に響いて聞えますと
「えゝべます」と小六ころく返事へんじながして、ついとちやつてつた。兄弟きやうだいまた差向さしむかひになつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
夫人は、さてただ一人、壁に寄せた塗棚ぬりだな据置すえおいた、かごの中なる、雪衣せつい鸚鵡おうむと、差向さしむかひに居るのである。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と云いながら出てきますと、あとは両人が差向さしむかいで
うへはて引上ひきあげくも此方こなたをさしてたゝまつてるやうで、老爺ぢゞい差向さしむかつた中空なかぞらあつさがす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私はそのうち先生の留守に行って、奥さんと二人差向さしむかいで話をする機会に出合った。先生はその日横浜よこはま出帆しゅっぱんする汽船に乗って外国へ行くべき友人を新橋しんばしへ送りに行って留守であった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……ぢきその飛石とびいしわたつた小流こながれから、おまへさん、苫船とまぶね屋根船やねぶね炬燵こたつれて、うつくしいのと差向さしむかひで、湯豆府ゆどうふみながら、うたいで、あの川裾かはすそから、玄武洞げんぶどう對居山つゐやままで
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そうして若い女とただ差向さしむかいで坐っているのが不安なのだとばかりは思えませんでした。私は何だかそわそわし出すのです。自分で自分を裏切るような不自然な態度が私を苦しめるのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まど筋斜すぢかひ上下うへした差向さしむかつて二階にかいから、一度いちど東京とうきやう博文館はくぶんくわんみせはたらいてたことのある、山田やまだなにがしといふ名代なだい臆病おくびやうものが、あてもなく、おい/\としづんだこゑでいつた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
三四日前さんよつかぜんかれ御米およね差向さしむかひで、夕飯ゆふはんぜんいて、はなしながらはしつてゐるさいに、うした拍子ひやうしか、前齒まへばぎやくにぎりゝとんでから、それがきふいたした。ゆびうごかすと、がぐら/\する。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
土手どてかすみれんとして、さくらあかるきめぐりあたり、あたらしき五大力ごだいりきふなばたたかくすぐれたるに、衣紋えもんおび差向さしむかへる、二人ふたりをんなありけり、一人ひとり高尚かうしやう圓髷まげゆひ、一人ひとり島田しまだつやゝかなり
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
高調子たかぢょうしで門を入ったのが、此処ここ差向さしむかったこの、平吉のへいさんであった。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
床店とこみせ筋向すじむこうが、やはりその荒物店あらものみせでありますところ戸外おもてへは水を打って、のき提灯ちょうちんにはまだ火をともさぬ、溝石みぞいしから往来へ縁台えんだいまたがせて、差向さしむかいに将棊しょうぎっています。はし附木つけぎ、おさだまりの奴で。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)