“媚(なまめ)” の例文
妹は媚(なまめ)かしい派手づくりで、僕等の町でみる酌婦などよりは遥かに高等、おそらく何処かの芸妓であろうと想像されることであった。
水鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
紅(くれない)の括紐(くくりひも)、襷(たすき)か何ぞ、間に合わせに、ト風入れに掲げたのが、横に流れて、地(じ)が縮緬(ちりめん)の媚(なまめ)かしく、朧(おぼろ)に颯(さっ)と紅梅の友染を捌(さば)いたような。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
森槐南(もりかいなん)、依田学海(よだがっかい)というような顔振れも見えたが、大部分は若い女で、紅葉さん漣さんという媚(なまめ)かしい囁嚅(ささやき)が其処(そこ)にも此処(ここ)にも洩(も)れて
奥には媚(なまめ)いた女の声などが聞えていた。草双紙(くさぞうし)の絵にでもありそうな花園に灯影が青白く映って、夜風がしめやかに動いていた。
黴 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「あなたはいつでもそうね。わたしは柿はやっぱり柿の方がいいわ。食べられるんですもの」と言って母は媚(なまめ)かしく笑った。
闇の書 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
小藤次は、今朝結立ての御守殿髷の舞台香の匂、京白粉の媚(なまめ)いて匂う襟頸、薄紅に染まった耳朶に、血を熱くしながら、深雪を抱きしめようとした。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
プーンと洩れてくる酒の薫り、朱の塗膳、銀の銚子、衣桁(いこう)の乱れ衣(ぎぬ)、すべてが媚(なまめ)いて取り散らされている中に、御方は男と向い合って艶(あでや)かな笑顔を微酔に染めていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
留(とど)められたる袖(そで)思い切(きっ)て振払いしならばかくまでの切なる苦(くるしみ)とはなるまじき者をと、恋しを恨む恋の愚痴、吾(われ)から吾を弁(わきま)え難く、恍惚(うっとり)とする所へ著(あらわ)るゝお辰の姿、眉付(まゆつき)媚(なまめ)かしく生々(いきいき)として睛(ひとみ)
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この眼の前の媚(なまめ)かしい青年に対する感覚だけの快さとが心の中に触れ合うと、まるで神経が感電したようにじりりと震え痺(しび)れ、石灰の中へ投げ飛ばされたような、白く爛(ただ)れた自己嫌悪に陥った。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その明りの蔭に白い浴衣の女の姿が媚(なまめ)いた袖の靡(なび)きを見せて立つてゐた門(かど)もあつた。通りに出るといつも寂(さ)びれた塲末の町は夜店の灯と人混みの裾の縺(もつ)れの目眩しさとで新たな世界が動いてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
九州(きうしう)の猿(さる)が狙(ねら)ふやうな褄(つま)の媚(なまめ)かしい姿(すがた)をしても、下枝(したえだ)までも屆(とゞ)くまい。小鳥(ことり)の啄(ついば)んで落(おと)したのを通(とほ)りがかりに拾(ひろ)つて來(き)たものであらう。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
日に日に気懈(けだる)そうにみえて来るおゆうの媚(なまめ)いた姿や、良人に甘えるような素振が、母親には見ていられないほど腹立しくてならなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その媚(なまめ)いた口ぶりに門番も不審を打ったらしい。やがて行燈を持ち出して来て、窓のあいだから表の人の立ち姿を子細らしく照らして見た。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この媚(なまめ)かしい羽織が女のような眉山の顔と能(よ)く釣合(つりあ)って、影では蔭間(かげま)のようだと悪語(わるくち)をいうものもあったが、男の眼にも恍惚(うっとり)とするほど美くしかった。
さすがに辺鄙(ひな)でも媚(なまめ)き立つ年頃(としごろ)だけに紅(あか)いものや青いものが遠くからも見え渡る扮装(つくり)をして、小籃(こかご)を片手に、節こそ鄙(ひな)びてはおれど清らかな高い徹(とお)る声で、桑の嫩葉(わかば)を摘(つ)みながら歌を唄(うた)っていて
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
着つけは桃に薄霞(うすがすみ)、朱鷺色絹(ときいろぎぬ)に白い裏、膚(はだえ)の雪の紅(くれない)の襲(かさね)に透くよう媚(なまめ)かしく、白の紗(しゃ)の、その狩衣を装い澄まして、黒繻子(くろじゅす)の帯、箱文庫。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
訳の判らないようなことを媚(なまめ)かしい素振りで云い出したので、気の小さい弥三郎は顫えるほどに驚いて、一生懸命に振り切って逃げて帰った。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
髪の抜け替わろうとしている鬢際(びんぎわ)の地の薄くすけて見えるお銀のやや更(ふ)けたような顔は、前よりはいくらか落ち着いてもいたし、媚(なまめ)かしさも見えた。
黴 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
折々——というよりは煩(うる)さく、多分下宿屋の女中であったろう、十二階下とでもいいそうな真白(まっしろ)に塗り立てた女が現われて来て、茶を汲(く)んだり炭をついだりしながら媚(なまめ)かしい容子(ようす)をして
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
厭いて別れし仲ならず、子まで生(な)したる語らひなれば、流石男も心動くに、況して女は胸逼りて、語らんとするに言葉を知らず、巌(いは)に依りたる幽蘭の媚(なまめ)かねども離れ難く、たゞ露けくぞ見えたりける。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
咄嗟(とっさ)の間、世にも媚(なまめ)かしい雪のような女の顔を見たのであった、そうして愛吉がお夏を見たのは、それが最初(はじめて)だというのである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
商家の小僧が短夜(みじかよ)恨めしげに店の大戸がらがらと明(あく)れば、寝衣(ねまき)姿(すがた)媚(なまめ)きてしどけなき若き娘が今朝の早起を誇顔(ほこりがお)に
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今(いま)一つ招魂社(せうこんしや)の後(うしろ)の木立(こだち)のなかにも、媚(なまめ)かしい此物語(このものがたり)は迹(あと)つけられてあるが、其後(そのゝち)の関係(くわんけい)は一切(さい)解(わか)らぬ。今(いま)も此(こ)の恋(こひ)なかは続(つゞ)いてゐるか否(いな)か、其(それ)も判然(はんぜん)せぬ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
しかしこれを供えた白い手首は、野暮なレエスから出たらしい。勿論だ。意気なばかりが女でない。同時に芬(ぷん)と、媚(なまめ)かしい白粉(おしろい)の薫(かおり)がした。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
氷屋の簾(すだれ)、床屋の姿見、食物屋(たべものや)の窓の色硝子、幾個(いくつ)となく並んだ神燈の蔭からは、媚(なまめ)かしい女の姿などが見えて、湿った暗い砂利の道を、人や俥(くるま)が忙しく往来した。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
顔を包むためか、白い手拭を吹き流しにかぶって手に笠を持っていた。二人とも素足であった。女の白い脛(はぎ)に紅い襦袢がぬれてねばり着いているのは媚(なまめ)かしいというよりも痛々しかった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すると……其(そ)の婦人(をんな)の主人(あるじ)と云(い)ふのは……二階座敷(にかいざしき)の火(ひ)のない中(なか)を、媚(なまめ)かしい人(ひと)の周圍(まはり)を、ふら/\とまはり繞(めぐ)つた影法師(かげぼふし)とは違(ちが)ふらしい。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
奥では又もやお葉の笑い声が聞えた。が、恋しい人の媚(なまめ)かしい声も、熱したる彼の耳には既(も)う入らなかった。復讐の一念に前後を顧(かえり)みぬ重太郎は雪を蹴立てて手負猪(ておいじし)のように駈け出した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その媚(なまめ)かしさと申すものは、暖かに流れる蝋燭より前(さき)に、見るものの身が泥になって、熔(と)けるのでございます。忘れません。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここらに見馴れない彼女の媚(なまめ)いた艶(あで)すがたはいつか人の眼について、十吉の家にはこのごろ妙な泊まり客がいるようだと、村の若い衆たちの茶話(ちゃばなし)にものぼっていることを、お米からそっと知らされて
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
抜けるほど色の白い処へ、その姿だから、媚(なまめ)かしさは媚かし、美しさは美ししで、まるで画(え)に描いたように見えましたって。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と莞爾(にっこり)した流眄(ながしめ)の媚(なまめ)かしさ。熟(じっ)と見られて、青年は目を外らしたが、今は仕切の外に控えた、ボオイと硝子(がらす)越に顔の合ったのを、手招きして
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうでしょう、傘(からかさ)まで天井に干した、その下で、熟(じっ)と、此方(こっち)を、私を見たと思うと、撫肩(なでがた)をくねって、媚(なまめ)かしく、小菊の枝で一寸あやしながら
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
百合(ゆり)は、薔薇(ばら)は、撫子(なでしこ)は露(つゆ)も輝(かゞや)くばかりに見(み)えたが、それよりも其(そ)の唇(くちびる)は、此(こ)の時(とき)、鐵漿(かね)を含(ふく)んだか、と影(かげ)さして、言(い)はれぬ媚(なまめ)かしいものであつた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
何とも容子(ようす)のいい、何処かさみしいが、目鼻立(だち)のきりりとした、帯腰(おびごし)がしまっていて、そして媚(なまめ)かしい、なり恰好は女中らしいが、すてきな年増だ。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中形模様の媚(なまめ)かしいのに、藍(あい)の香が芬(ぷん)とする。突立って見ていると、夫人は中腰に膝を支(つ)いて、鉄瓶を掛けながら
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
途端(とたん)に又(また)指(ゆび)を立(た)てつゝ、足(あし)を一巾(ひとはゞ)、坊主(ばうず)が退(さが)つた。孰(いづれ)も首垂(うなだ)れた二人(ふたり)の中(なか)へ、草(くさ)に甲(かう)をつけて、あはれや、其(それ)でも媚(なまめ)かしい、優(やさ)しい腕(かひな)が仰向(あふむ)けに落(お)ちた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
然(そ)ういへば沢山(たんと)古い昔ではない、此の国の歴々(れきれき)が、此処(ここ)に鷹狩(たかがり)をして帰りがけ、秋草(あきぐさ)の中に立つて居た媚(なまめ)かしい婦人(おんな)の、あまりの美しさに、予(かね)ての色好(いろごの)み
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
百合 (人形を抱き、媚(なまめ)かしき風情にて戸を開き戸外(こがい)に出づ。)夜の長い事、長い事……何の夏が明易(あけやす)かろう。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内証ながら、山田の御師(おし)、何某(なにがし)にひかされて、成程、現に師匠をしている、が、それは、山田の廓、新道の、俗に螢小路と云う処に媚(なまめ)かしく、意気である。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さりとて用人(ようにん)の若御新姐(わかごしんぞ)、さして深窓(しんさう)のと云(い)ふではないから、隨分(ずゐぶん)臺所口(だいどころぐち)、庭前(にはさき)では、朝(あさ)に、夕(ゆふ)に、其(そ)の下(した)がひの褄(つま)の、媚(なまめ)かしいのさへ、ちら/\見(み)られる。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
空にふらふらとなり、しなしなとして、按摩の手の裡(うち)に糸の乱るるがごとく縺(もつ)れて、艶(えん)に媚(なまめ)かしい上掻(うわがい)、下掻(したがい)、ただ卍巴(まんじともえ)に降る雪の中を倒(さかし)に歩行(ある)く風情になる。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上を蔽(おお)うた黒布の下に、色が沈んで、際立って、ちょうど、間近な縁台の、美しい女(ひと)と向合(むきあわ)せに据えたので、雪なす面(おもて)に影を投げて、媚(なまめ)かしくも凄(すご)くも見える。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眉が意気で、口許に情が籠(こも)って、きりりとしながら、ちょっとお転婆に片褄(かたづま)の緋の紋縮緬(もんちりめん)の崩れた媚(なまめ)かしさは、田舎源氏の——名も通う——桂樹(かつらぎ)という風がある。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
色めいた媚(なまめ)かしさ、弱々と優しく、直ぐに男の腕へ入りそうに、怪しい翼を掻窘(かいすく)めて誘込むといった形。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
而已(のみ)ならず、乙姫様が囲われたか、玄人(くろうと)でなし、堅気(かたぎ)でなし、粋で自堕落(じだらく)の風のない、品がいいのに、媚(なまめ)かしく、澄ましたようで優容(おとなし)やか、お侠(きゃん)に見えて懐かしい。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一人がもう、空気草履の、媚(なまめ)かしい褄捌(つまさば)きで駆けて来る。目鼻は玉江。……もう一人は玉野であった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一人が最(も)う、空気草履(くうきぞうり)の、媚(なまめ)かしい褄捌(つまさば)きで駆けて来る、目鼻は玉江(たまえ)。……最(も)う一人は玉野(たまの)であつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
浦子の姿は、無事に厠(かわや)を背後(うしろ)にして、さし置いたその洋燈(ランプ)の前、廊下のはずれに、媚(なまめ)かしく露(あら)われた。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その右斜(みぎななめ)な二階の廊下に、欄干に白い手を掛けて立っていた、媚(なまめ)かしい女があります。切組の板で半身です、が、少し伸上るようにしたから、帯腰がすらりと見える。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)