あま)” の例文
「海行かばづくかばね、もとよりわが聯合艦隊は全滅を覚悟して戦います。あまつ神、国つ神よ、ねがわくはこの皇国すめくにを守らせたまえ。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
夏山 夏野 夏木立なつこだち 青嵐 五月雨さみだれ 雲の峰 秋風 野分のわき 霧 稲妻 あまがわ 星月夜 刈田 こがらし 冬枯ふゆがれ 冬木立 枯野 雪 時雨しぐれ くじら
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これ昔天孫降下ましましし時、衢神ちまたのかみ猿田彦大神長さ七あたの高鼻をひこつかせてあま八達之衢やちまたに立ち、八十万やそよろずの神皆目勝まかって相問を得ず。
あま浮橋うきはしの上にて、山の神千二百生れたまふ也。この山の御神の母御名を一神いちがみきみと申す。此神産をして、三日までうぶ腹をあたためず。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あまがわが大分まわり大熊星おおぐまぼしがチカチカまたたき、それから東の山脈の上の空はぼおっと古めかしい黄金きんいろに明るくなりました。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「そして、(富士の高嶺たかねかすかになり、あま御空みそらの霞にまぎれ、)という処じゃ、小父さんの身体からだが、橋がかりの松の上へすっと上ったよ。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あまとぶかり小夜さよの枕におとづるるを聞けば、都にや行くらんとなつかしく、あかつきの千鳥の洲崎すさきにさわぐも、心をくだくたねとなる。
恐と望とに狂ひ歡ぶ無數の眼が髣髴として乳色の光を放ち天の一方にたなびいてゐる。多くの魂はこの眞珠の光を散らしてあまがはを登つて行く。
さしあげた腕 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
さて竜伏いしずゑは其月の生気の方より右旋みぎめぐりに次第据ゑ行き五星を祭り、てうな初めの大礼には鍛冶の道をば創められしあま一箇ひとつみこと
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それが、見えなくなった後も、喪心そうしんした人間のごとく、じっと立ちつくしている。夜虹よにじのようなあまの川と秋風のささやきがその上にあった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この歌の側に、「印南野は行き過ぎぬらしあまづたふ日笠ひがさの浦に波たてり見ゆ」(巻七・一一七八)というのがあるが、これも佳い歌である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
感謝の声のあまのぼり 琴の調しらべに入らん時 歌にこもれる人の子が 地上の罪の響きなば く手とどめて天津乙女あまつをとめ 耻かしの 色や浮ぶらめ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
今から一万二、三千年の子孫の世には北極はとんでもないあまがわのはずれを向いて、七夕の星が春見えるような事になる。
歳時記新註 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼等の枕に響いたのは、ちょうどこの国の川のように、清いあまがわ瀬音せおとでした。支那の黄河こうが揚子江ようすこうに似た、銀河ぎんがの浪音ではなかったのです。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あまわたる梶の葉に思ふこと書く頃も過ぎ、何時いつしか秋風の哀れを送る夕まぐれ、露を命の蟲の音の葉末にすだく聲悲し。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「指してゆくかさぎの山を出でしよりあまが下にはかくれ家もなし」この和歌は、昔から尊王主義者の敬誦する和歌である。
は、降りなむ裝束よそひせしほどに、子れましつ。名は天邇岐志國邇岐志あめにぎしくににぎしあま日高日子番ひこひこほ邇邇藝ににぎの命、この子を降すべし」
そらあおぎますとあまがわが、下界げかいのことをらぬかおに、むかしながらのままで、ほのぼのとしろながれているのでありました。
子供と馬の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
三人の画家に下絵を画かせた日本三景の三枚襲ねで、一番上は黒地に厳嶋いつくしま、二枚目は紅地に松嶋、三枚目は白地にあま橋立はしだてが描いてあるのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
半七も物干ものほしへあがって、今夜からもう流れているらしいあまの河をながめていると、下から女房のお仙が声をかけた。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
きっとさっきの白いとりたちがぬいで行ったものにちがいない。するとあの八にん少女おとめたちは天女てんにょで、これこそむかしからいうあま羽衣はごろもというものにちがいない。
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
よるやみである。すごえたそらへぞつくりとつたとなりもりこずゑにくつゝいてあまがはひく西にしかたぶきつゝながれてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
殊更ことさらいまより可愛かわゆものさへ出來いでこんに二人ふたりなか萬々歳ばん/\ざいあまはらふみとゞろかし鳴神なるがみかと高々たか/″\とゞまれば、はゝ眼下がんか視下みおろして、はなれぬもの一人ひとりさだめぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わずか一瞬間の事であったが、子供の眼には仰ぎ見る馬上の姿が、あまかけるようにそびえて高く見えたのである。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
益田にあるあま石勝いはかつ神社といふやうな古祠そのものがすでに、この地方のことを語つてゐるやうにも見える。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そのうち九月も末になって、毎晩あまがわが濃く見えるあるよいの事、空から降ったように安之助がやって来た。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あまがわ澄渡すみわたった空にしげった木立をそびやかしている今戸八幡いまどはちまんの前まで来ると、蘿月はもなく並んだ軒燈の間に常磐津文字豊ときわずもじとよ勘亭流かんていりゅうで書いた妹の家のを認めた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「我が国家開闢かいびやくより以来このかた、君臣の分定まりぬ。臣を以て君とることいまらざるなり。あまツ日嗣は必ず皇緒を立てよ。無道の人は宜しく早く掃除はらひのぞくべし。」
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
その前に蹲った「あま照る神ひるめの神……」それだけきり俺には聞き取れなかったが、非常に長たらしい訳の分らないことを、声には出さずに口の中で唱えだした。
神棚 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この山陽山陰の二道を合せて、昔から「中国」と呼びました。背をなす山脈には大山だいせんのような名峰もそびえます。山陽は宮島で山陰はあま橋立はしだてでその風光を誇ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
行方ゆくえも分かぬ、虚空こくう彼方かなたにぎらぎらと放散しているんだ。定かならぬ浮雲のごとくあまはら浮游ふゆうしているんだ。天雲あまぐもの行きのまにまに、ただ飄々ひょうひょうとただよっている……
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
すべて木の葉の中で、あまが下の王妃の君ともたたふべき公孫樹いてふの葉、——新山堂の境内の天聳あまそゝ母樹はゝぎの枝から、星の降る夜の夜心に、ひらり/\と舞ひ離れて來たものであらう。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
その扉には、薄彫うすぼりの彫刻がしてあって、神武天皇御東征の群像が彫りつけてあった。これは、今大宇宙をあまがけりいく、われら日本民族の噴行艇群にうってつけの彫刻だった。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「全く、俺たちのやうなものは」あまが下に住むところなしだなと苦笑するのだつた。
ボルネオ ダイヤ (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
「腹をたててあなたがあまの岩戸の中へはいってしまえばそれが最もいいのですよ」
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
市役所の役人に反抗したあま邪鬼じゃくは、年をとっても、おかみ嫌いの、「いつもの癖」になってはいたけれども、それが、思いもかけぬ、突発的とはいえ、自分の顔をふりまわす傲慢さで
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
丁度あまがはの向うまであの日はお使ひに参つたところでございましたので、私が帰るのが遅いと、御主人様は大そう心配していらつしやいましたが、私が帰つて詳しくお話を致しますと
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
「菊川に公卿衆泊りけりあまがは」(蕪村ぶそん)の光景は、川の面を冷いやりと吹きわたる無惨の秋風が、骨身に沁みるのをおぼえようではあるまいか、更にそのむかし、平家の公達きんだち重衡しげひら朝臣あそん
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
あまつ日の光もわすれ現身うつしみの色に溺れて、さかみづきたづきも知らず、酔ひ疲れ帰りし我を、酒のまばいただくがほど、悲しくもそこなはぬほど、酔うたらば早うやすめと、かき抱き枕あてがひ
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「アハハハ。これあ愉快だ。裸一貫のお酌はあま岩戸いわと以来初めてだろう」
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私はあま橋立はしだてというところへ行ったが、遊覧客の主要な目的はミヤジマの遊びであったし、伊勢大神宮いせだいじんぐう参拝の講中がねらっているのも遊び場で、伊勢の遊び場は日本に於て最も淫靡いんびな遊び場である。
デカダン文学論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
近年枯枝が目だってふえ、手足なら胴体なら、皮はたるみ肉は落ちて、ゴツゴツと節くれ立ち、あまつ緑の黒髪さえ心ぼそく色あせてはきたものの、なァに、まだまだこれで、気だけは若いつもりだ。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
おきなめようとあがくのをひめしづかにおさへて、形見かたみふみいておきなわたし、またみかどにさしげるべつ手紙てがみいて、それにつき人々ひと/″\つて不死ふしくすり一壺ひとつぼへて勅使ちよくしわたし、あま羽衣はごろも
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
常世島とこよしま国なし建てて、到り住み聞き見る人は、万世よろずよ寿いのちを延べつ、故事ふることに言ひつぎ来る、澄江すみのえの淵に釣せし、きみの民浦島の子が、あまに釣られ来りて、紫の雲たなびきて、時のまにゐて飛び行きて
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
天上のあまがわがすっかり凍って、その凍った流れが滝になって、この世界の地上のいちばん高いところから、どうっと氷の大洪水が地上いっぱいに十重とえ二十重はたえも取りまいて、人畜は言わでものこと
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あきの ほがら/\と、あまはらつきかげに、かりわた
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
あまつ日のめぐみに動きふふみたる君がおもわしいめに見えつも
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
秋風に夜のふけゆけばひさかたのあまの河原に月かたぶきぬ
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
あまきらふ鈍色雲にびいろくもに入日さし、かがよう海のはてし知らずも
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
そしてあまがけり、青い空をゆき、御身等おんみらのうへに
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)